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なろうでは初めての投稿になります。


近いうちに挿絵も用意する予定です。

拙い作品ではありますが、完結まで努めてまいります。


気長によろしくお願いします。


魔法みたいなものが存在する世界のおはなしですが、バンバン魔法使う感じではないのであまり気にしなくても大丈夫です。





「……さむいっ」


――普段口数の少ないアンジェの鈴を鳴らしたかのような小さい声は、真冬手前の寒空の下とは不相応な王都の城下町の活気と喧騒にかき消された。


フォールデント大陸の中心地にある発展が進んだ首都国アストレリア王国。それは広大なフォールデント大陸のとある領土を奪い合う戦争が長年繰り広げられていたが、ここしばらくはお互いの兵の消耗や過度な疲弊により休戦状態になっている。


アストレリア王国と隣国ガレンディア王国との小競り合いは、民からすると双方に「もういいじゃないか」と言いたい程に不毛だった。


呆れの眼差し混じりにも民から愛されているアストレリア王国の城下町の比較的新たに建て直された大きな教会に住むアンジェは、小さな体に不相応の大きな紙袋を両手いっぱいに大事そうに抱え込む。


「……ありがとうございます。ジョンさん」

「いやいや、その林檎は一昨日の残りだから気にすんな。ちっこい体でよくそんなでかい袋を抱えられるな、逞しいお嬢ちゃんだこった」


ジョンは気さくに朗らかに笑いながらそう言い、ゴツゴツとした大きな手をアンジェのシスター用の黒いベール越しに少し雑目に頭を撫でる。


褒められて頭を撫でられれば誰だって嬉しいもので、人見知りのアンジェも見知った相手だからか、宝石のような翡翠の瞳を少し細めて嬉しそうに素直に受け入れる。


「っ……。いえ、これくらい慣れているので。……ではシスター達が待っているので失礼します」

「あぁ、また頼むよ!マザー・シスターにもよろしくな」


行きつけの青果店の店主である筋肉質な体型が魅力的の中年男性のジョンは、小くて小柄なアンジェに購入した品物とおまけに付けた林檎を詰め込んだ紙袋を容赦なくドサリと手渡すと、表情のない彼女の顔に少しだけ苦の表情に変わり小さいうめき声を出した。


大人の男ですら少し重いと感じる物に、顔には出ているものの文句ひとつ言わず、ジョンへ軽く会釈をしてバランスを保ちつつよろめきながらゆっくりと歩みを進めて立ち去る。


フォールデント大陸は、他の大陸に比べると四季の移り変わりがある事で有名で、それを目的に移り住んでくる人間も少なくはない。そして、この辺りに住む者にしかわからない冬の恒例の極寒期(ごっかんき)という物がある。


極寒期とは冬から春へと移り変わる際に起こる異常気候で、フォールデント大陸ではその時期になると、人々は数週間に渡り外に出ることもできず、外の市場は全て閉店する。そして、それぞれの蓄えのみでその時期を越すのだ。


それがもうそこまで来ている為、少しでも気を抜くとぶるりと体が震えて止まらなくなる。アンジェは、赤子の頃から両親がおらず、教会の孤児院に世話になっているにもかかわらず、寒さにある程度耐えられる冬用の上等なシスター専用のベールとローブを着用しており全体的に地味だがアンジェはこれがお気に入りだ。王都の教会に住む者だと、城下街の人間もひと目で分かるため優しく接してもらえる。


そんな彼女が生活する王都では、民以外にも観光客や、他国から商人までもが溢れるほど入国している。それほどまでに人々の暮らしが目に見てわかるほどに栄えていた。隣国と休戦状態など、誰が信じられるだろうかという程に。


そんな栄えたアストレリア王国の管轄(かんかつ)下である教会は、親の都合で捨てられたアンジェもシスター補佐としての役割を幼いながらも割り当てられ、今もこのとおり健やかに生活している。


――早く帰らなければマザー・シスターに叱られてしまうわ。


アンジェは、シスター達からは孤児達とは少し違い、手厚い扱われ方をしているため周りの子供達ですらアンジェに対してはどこか特別視している。しかし、それですら本人には自覚がないのだ。


何だかんだ何事もなく、すくすくと十歳まで生きる事が出来たのは、他ならぬ教会に孤児院を設立し、孤児への待遇を改めるために率先と民や貴族に掛け合い続けた先代アストレリア王国の女王と、彼女の面倒を見てくれるシスターや仲間の孤児の子供達のおかげなのだ。


だからこそ、世話になっている人へのご機嫌取り以外にも感謝の感情をしっかり持っているし、生まれてきた事に後悔もしていない。悲観を何より嫌うアンジェは今日も城下街を楽しく歩く。しかし顔には出ない。


表情の表現が下手なのか、上手く出来ないらしく、感情が高ぶると自然と動くのだが、愛想で笑うことはなかなか難しいらしく、誤解されやすい。


ふと見上げ、雲行きの悪さと両手にのしかかる荷物の重さを緩和させる為に溜息混じりの吐息をふぅっと吐き出すと、冬の寒空の中アンジェの白い息は空中に舞い上がって、そして曇り空に混じって消えた。


それを見送って気を抜くと、現実を突きつけるかのような大きな荷物の重みを思い出して更に歩みの速度を速めた。


――そろそろ雪が降りそうね。早く帰らなきゃ…。




◇◇◇




「ただいま戻りました。マザー・シスター」


雪が降る前に慌てて教会の聖堂に入ると、主祭壇の前に膝をついて祈っている人物を見つけ、両手に荷物を持ったまま軽く膝を折って簡単に挨拶の礼をすると、声に気づいて祈りの手を離し、少しふくよかな体をよいしょと持ち上げて立ち上がり、こちらに振り返ればアンジェの姿を確認して慈愛に満ちた面持ちで「おかえりなさい」と言い側まで近寄り小さい背に合わせて屈んだ。


マザー・シスターと呼ばれたその人は、寒空に晒されて冷え切ったアンジェの体に手で触れ「神の御加護で、かの者に温かなご慈悲を」と小さく(まじな)いの言葉を唱えるとやんわりと体の芯辺りから体温が上がり、寒さで青白くなった頬に少し赤みを差す。


「ありがとうございます。マザー・シスター」

「こちらこそありがとう。アンジェ、今日のお使いはうまく出来ましたか?」

「はい、青果店のご主人がおまけにと古い林檎をおつけして頂きましたのでみんなで食べられるように何か作りたいと思います」


口数の少ない少女とは思えないハキハキとした物言いで、アンジェはマザー・シスターへと報告すると、うんうんと頷きながら、まるで孫を相手にしているかのように微笑んだ。


ここの施設には三十五人近くの子供達の面倒を見る為に、十五人ほどのシスターと慈善活動をする令嬢、そして事情が有ってみを寄せざるを得ない女性たちがボランティアとして手伝っている。


今回分けてもらった林檎を、この教会の人間全員に分けて食べるにはあまりに少なく、だからといって特定の一部に特別分け与えると争いになる可能性がある事を懸念し、格差が生じる事を避けるべく何か工夫するのが決まりだ。


この教会では、特別扱いは御法度なのだが、孤児でシスター見習いをしている一番特別な扱いを受けている本人の自覚がない。しかし、それが好都合なのか変に詮索されぬようにマザー・シスターも笑みを崩さないでただうんうんと頷いて聞く。


王都の近辺には、林檎農家が広範囲であり、大量に収穫できるため割と安価な食品となっていてそれがアストレリア王国の名産と言う事になっている。そのせいもあり、青果店のジョンも気軽に傷みかけの林檎を遅疑ちぎせず贈る事が出来たのだ。


大昔、最初の神が食べたという説や、神が林檎を落として沢山成ったからという説や、アストレリア王国の象徴の神が林檎が好きだから説もあり、林檎は大量生産されてはいるものの、その量以上に存在価値はそれなりに大きい。


アンジェも林檎が大好物で、苦労して持ち運んだ袋に入っている林檎を見て嬉しそうに気品の含んだ微笑する。その表情を見たマザー・シスターは、少し表情を崩して少し悲しげになると、それに気づいた少女は小さい頭を不思議そうに傾けた。


「……マザー・シスター?」


不安になり、原因もわからないまま謝罪の言葉を述べると、マザー・シスターは、はっと我に返り、また微笑みを浮かべて「何でもありませんよ」と言い小さい体に不相応な紙袋をようやく受け取り軽々と持ち上げた。


そして、屈んでいた膝を伸ばしてそのまま聖堂の横に繋がる孤児院施設へと向かう上司に、小さいシスター補佐も付いていった。



◇◇◇

2019/05/09済

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