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橋ノ上物語  作者: 六眼 李
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夜咄 第ニ話

もう少し話をしたい。最期なら尚更…そう思って、大胆な行動をとってしまった。恥ずかしくて悶絶しそう…それでも、アルフは聞こうとしなかった。そんな気遣いが本当に嬉しい。アイネイアスは目を細める。一呼吸置き、聞いて頂戴と呟いて、憂いを含んだ微笑を浮かべた。

「躊躇するはね…やっぱり…まぁ、どうせ聴いてくれる人はいないわけだし」

「僕がいるよ?」

「えぇ、そうね…だから話してあげるのよ!」ニヤリと微笑む。

「………………………偉そうに喋るよね…ほんと…変わらずじゃじゃ馬娘だな」

「え?何?」

「え?何かあったの?」ニコリとアルフは微笑む。今、アルフが何か言った様に思えたがきっと気のせいだろうか…いや、幻聴かな…最近寝てなかったし…

冷たい風のせいでアルフの言葉は伝わらなかったようだ。危機一髪でアルフは拳骨の刑罰を免れた。

「ね!お姉さんって恋人とかいないの?」身を乗り出して顔を覗かせる少年は意地悪く笑う。

「……突然、何よ」気味が悪いと言ったような視線を送る。

「いやぁ〜お姉さんあんまりそういうの無頓着そうだからあえて聞いてみたんだよ!」

「…残念だけど…いないわよ…あなたの言った通り興味がないの」はぁ…と溜息をつく。

「何で?」

「な…何でって聞かれても…それは…」実は初恋を引きづっているなんてそんな事言えない…そうして、おろおろとしているとアルフはまたニヤリと微笑んだ。

「実は初恋の人がいてそれを引きづってるとか?」

ーえ?……アイネイアスは目をぱちくりさせる。


ぎゃあああああああああ!?ばばば…バレた!?私の淑女の気格が丸潰れじゃないの!?

わなわなと身を震わせた。

「ななななな何馬鹿な事言ってるのよ!?」

「わ〜動揺してる〜」

最悪っ!!よりによって最期にこんな屈辱を味わされるなんて…キッとアルフを睨む。だが、少年は変わらず意地悪く笑っている。

「えーそうですよ!?初恋を引きづってます!十八にもなって幼くてすみませんね!?」仁王立ちをしてアルフを見下ろす。アイネイアスは開き直った様だ。また、睨んでやろうと思ったがアルフの表情を見て瞠目した。

ーアルフは悲しそうに微笑んでいたから。

「…………でも、僕はそういうの純粋で好きだけどね…」

ーえ?

私は更に戸惑った。ただ…風で揺れていた髪をぎゅっと握り締め、目をキョロキョロさせるだけだった。口を開くも何を言えばいいか分からない。

「何?照れてるの?」とアルフは意地の悪い表情に戻っていた。

「てっ照れてないわよっ!!!!!」

「あはは!……とっ!危ないっ‼何?」

「…………………んざけんじゃないわよ」

さっき…あたふたしていたのが馬鹿みたいじゃない!?咄嗟に振り落とした拳はまたもやかわされた。

「ねぇ…その話はしてくれないの?」

「え?」

「その昔話のついでに…苦しい話にはこういう思い出話も大切だよ…心を穏やかにしてくれるよ…きっと」

「何で…初恋が苦しい思い出になっていないと思うの?」

「苦しくたって…ずっと想ってるって事はお姉さんにとって大事な思い出だと思うよ!」朗らかに少年は少し微笑む。途端、“あの少年”と重なって視えた。胸が苦しくなる。彼とは違うのに…どうして重なって見えるのだろう。

「良いわ…長くなるけどいい?」

「もちろん!」



▶▷▶▷▶▷




私はこの国の南東側の都市に住んでいた。

豊かな土地で、機械工場の多い街である。また、軍事基地があり父親はそこで軍師として働いていた。私は多分、それが誇らしかった。今は複雑だけれども。

厳格な父ではあったが、時折…お菓子を手土産に帰って来る父は少しはにかんだ様子で渡してくれる。そんな日々が当たり前で幸せとも不幸せだとも何とも思わなかった。今振り返って考えると、幸福な日々だったんだなと思う。



十歳になって数カ月ー。

家にいた使用人の息子が居候すると言う話を小耳に聞いた。どうもその少年は身体が弱く、その使用人の家では面倒が見れなくなったのだろうという事だそうだ。その他云々は幼い私には理解出来なかった。

それで良かったのだろうと思う…多分悪口だろうから。

ずっと一人で家に閉じ籠りきりだった私はとても喜んだ。舞い上がり過ぎて熱を出したとか…多分、母の冗談だろう。いや、冗談であって欲しい。


ーそして、その少年が来る日となった。

私は手の掛かるお転婆娘だったので案の定、寝坊し、ほぼ寝起き姿で挨拶をする嵌めとなった。

「こんに…ちわ…ふぁ…私の名前はアイネイアスと申します」

父の視線が痛い。怒ってるわね…父様。

「こんにちわ!僕の名前はキアランと申します…お世話になります」少年はニコリと微笑んだ。

美少年だわ…

ぱっちりとした瞳と長い睫毛はまるでお人形の様だった。だが、顔に左右されないアイネイアスは客観的に少年の容貌を見た。

「ネイアス、屋敷を案内してあげなさい」父様は踵を返す間に囁いた。

「はい!」返事をして私はすかさず少年の手を握る。少年の表情は変わらず朗らか表情のままだった。

その少年の顔を見て私は何だかもやっとした気持ちになり、首をひねる。

何だったんだろう…この違和感…

アイネイアスは不思議そうにその少年の表情を見た。だが、変わらず温和な表情だった。



過去話が長引くと思うのでここで一旦中断です。

次も過去話が続きます。

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