第24話「ポケットの中の免許証」
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
▼教習所まで何マイル?
人は誰しも、タイミングを逃してしまう、そんな経験があるものだ。
神様のイタズラなのか?
はたまた、孔明の罠なのか?
まぁ、そのほとんどが自分の所為だったりするのだが、何かしら自分の所為では無い理由を付けてしまう。
今回の主人公、東儀和正も、そんなタイミングを逃し続けた一人だった。
運転免許、そもそも車にイマイチ興味の無かった和正は、高校3年の夏休み、大学入学前の春休みという人生で絶好の時期をスルーしてしまう。
「まぁ、いつかは身分証明の為に取るよ?」
そう言い続けて来たが、その『いつか』は、自ら踏み出さないと来ないもので、あれよあれよと時は過ぎ、大学も終わりを迎えようとしていた。
「まぁ、教習所行く金も無いしね」
しかし、就職も決まって、卒業旅行の為にバイトをしていた1997年、そんな和正の考えを覆してしまう事件が起こる。
「間違って、同じ巻を2冊買ってしまったから、これお前にやるよ」
そう言って、バイト先の先輩から渡された、たった一冊の漫画にドハマリしたのである。
86年製の旧車でありながら、最新のスポーツカーに走り勝つ、そんな漫画だった。
「スポーツカーって、素敵やん! まぁでも、働いてからでも、遅くはないだろう」
遅いのである、完全に遅いのである。
就職、転勤、結婚、育児、慌ただしく次々と人生のイベントをクリアして行き、気が付けば51歳。
もういいかと諦め掛けていた矢先、真冬の寒空の下、娘を自転車でゲームセンターに送るというミッションが発生し、改めて車の必要性を感じて、今此処、教習所の前に立っているのである。
▼瞳の奥に映るもの
「内輪差とは、カーブを曲がる際に、前輪と後輪が描く円弧の半径に生じる差のことですが、車の速度を上げた場合、この内輪差は、どうなるでしょうか? はい、そこの貴方」
突然の教官の問い掛けにも、和正は冷静に答えを導き出す。
速度を上げる
↓
タイヤが滑る(゜∀゜;)
↓
ドリフトする!( ・`ω・´)キリッ
「差は、広がります」
自信を持って出した答えが、軽々と否定された。
「いいえ、違います。差は、どんだけスピード出しても同じなのです」
和正は、へぇ~というような表情を浮かべながら着席するも、
お前とは、走り方が違うからな!( ̄口 ̄ #)
心の中では、激しい抵抗を見せていた。
※交通ルールを守って安全運転を心がけましょう。
▼坂道の果てには?
「はい、タイヤ半分くらい下がりましたね、東儀さん、アウトーッ!」
まるでこの後、尻を叩かれる罰ゲームが待っているかのようなコールを受けた。
「東儀さーん、オートマ限定だったら良かったのに、今から変えます?」
2025年現在、ATの方がMTよりもアドバンテージが有るとまで言われるようになったこの時代、幾らATが進化しているとはいえ、ATを馬鹿にする者も未だに多く、この教官もまた、その一人のようだった。
うっせー!
誰が、ATなんかにするかーッ!凸( ̄皿 ̄ #)
そもそも和正は、ATを差別する人間ではない。
寧ろ、買うならATの方が良いとさえ思っていたくらいだった。
しかし、欲しい車がMTしかない場合に困ると思い、MTで受講しているのだった。
▼クランクを通ってS字を抜けて
「今、なんで外に振ったの?」
あぁ、つい昔の癖が出てしまったか……。
昔の癖とは、勿論、免許もないのに車を運転していた訳では無く、ゲームセンターでの話である。
あの頃は、幾つもの峠を攻めたなぁ~。
それにしても、教官のクセに、アウトインアウトも知らんのか?┐(´~`)┌
しかし、教官の心証を悪くしてはイケナイ!
「なんとなくその方が、曲がり易いかなぁ~って……」
「今後、やらないように注意して下さいね!」
チッ!(・д・)
俺のドラテクに、嫉妬したのかコイツ!
※交通ルールを守って安全運転を心がけましょう。
▼嘘だといってよ、教官
なんとなく、薄々は気付いていた。
女の子と楽しく喋ってはいても、そこは自動車学校の教官なのだ、必要最低限の技術を持っていると認定し、判を押すのだと、そう思っていた。
仮免許の試験が来るまでは……。
「う~ん? イマイチだなぁ~。東儀さんは、パッケージで購入されてましたよね?」
パッケージとは、最初にまとめて支払う際に、実技試験の一回分を余計に支払うことによって、三回分までフォローされる売り方だった。
歳も歳だし、昔のようなキレは無いだろうと、パッケージを選んでいたのだった。
昔のようなキレ……勿論、ゲーセンで峠を攻めていた時の話である。
※交通ルールを守って安全運転を心がけましょう。
「仮免でキッチリ成果が出るように、ここをもう一回やっておきましょう!」
こうして和正は、此処(仮免)に来るまでに、四度も落とされていたのだった。
仮免許試験は、三人一組で、教官が助手席、残りの二人が後部座席に座って、受験者の運転を見守ることになっている。
最初に選ばれたのは、少し緊張が見られる大学生くらいの女の子だった。
極度に緊張していた為か、スタート地点でエンストを起こしてしまい、更に緊張を加速させているように見えた。
何とかギリギリの四度目で、車は動き出したものの、しかし、その車のベクトルは、失格の方に向いていた。
ウインカーの出し忘れは、まだ可愛い方だった。
坂道を勢いよく後ろへ下った時は、バックドロップタイプのジェットコースターのようで、なんとか、教官がブレーキを踏んで事無きを得たが、もし、居なかったらと思うとゾッとするアトラクションだった。
「終了です。点数無くなったから、スタート地点に戻って」
その一言で、女の子は頭が真っ白になってしまう。
教習所内のコースには、他にも試験をしている車が三台あるにも関わらず、左右確認などせずに、外周へ。
「危ないーッ!」
車内の全員が、声に出してしまうほど、あと数センチで事故だった。
なんで、このレベルが此の場(仮免試験)に居るんだよ!
甘い奴(教官)が居るから、世間の事故も多いんじゃないのか!
この日から和正は、歩いている時でさえ、車間距離を気にするようになるトラウマを植えつけられた。
▼ポケットの中の免許証
こうして、ようやく手にした免許証。
「雅の奴、喜ぶだろうな~」
お父さん、凄い、車の免許じゃない!
まぁ、父さんに掛かれば、こんなの朝飯前だよ。(4回落ちたのは内緒)
飛鳥、飛鳥! 凄いのよ父さんが!
わぁ~、ホントだぁ~、父さん車なににするの?
そうだなぁ~、昔、スポーツカーに乗っていたから、スポーツカーにも興味があるんだが、あれは乗れても四人だからな。
え? スポーツカーに乗ってたの?
まぁ、昔チョットな。(ゲーセンでというのは内緒)
え? 四人でいいじゃない、四人家族なんだから。
ほら、雅、友達が居るじゃないか、友達も送ってやらないと。
お父さん、素敵!
なぁ~んて、言われて、頬にチューとかされちゃったりするんじゃないの!
え? 紗奈ちゃんまで、チューしちゃ駄目じゃないか!
だって、おじ様、素敵なんですもん!
困ったなぁ~。
和正の妄想は、帰宅まで止まることを知らなかった。
そして、家に着いたとき、自分の家かと疑ってしまうほどの物が、そこに在った。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~ッ!!」
帰宅した和正が見た物は、自宅駐車場を塞ぐ、大きなプレハブだった。
読んでくれて、ありがとう。
もう気付いてる方も多いと思いますが、話の中の章は『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』のオマージュで、ハマッタ漫画というのは『頭文字D』です。
さらに、この教習所での話なんですが、実は……僕の実体験が元なんですよ。
いやー、ホント、あの時の仮免許試験は怖かった、事故ったとマジで思いましたよ。




