表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

その5!ハリボテ・エレジー

世に怒りに価することなどほとんど存在せず。

また、悪意に該当することさらに少なし。


〜ベン・ジョンソン〜

〜前回までの限界迷宮〜


「鉄骨渡りだと!片足がようやく乗る程度の幅しかないじゃないか!!

 ダム決壊前の俺達では渡る事は難しいぞ!おのれぇ……おのれぇ!!」


 舎弟さん、最後の何故二回言ったし。


「やめて!渡ってる途中にバランスを崩したら、鉄骨に流れている電流の効果でダムと精神が崩壊しちゃう!お願い、落ちないでバンダナの人!あんたが今ここで倒れたら、サングラスの人はどうなっちゃうの?ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、試練に打ち勝てるんだから!」


「じかい、バンダナの人、しす。らしいです」

「あいちゃん、そこは乗らなくていいからね」


「なんで俺が先方行って散るみたいな解説してんだよ!?」


 以上、前回までのあらすじでした。



♂♀



「おーーーーーーっほっほっほっほ!雑魚は散りなさいな!」


 何だ。悪い組織の女幹部みたいな、噛ませ特有の笑い声が聞こえるぞ。

 声のした方を見ると、そこには……。


「う、馬ぁ!?」


 長方形の土台の上に設置された、馬を模した乗り物に跨がるOLさんがいた。

 見た目は公園の遊具みたいで、OLさんが乗っているとシュールだ。

 馬は部屋の隅から、ゆっくりと鉄骨に向かって進んでいるようだ。

 よく見たら鉄骨からレールが伸びていて、あの乗り物に繋がっている。

 レールは一本道で、OLさんが乗っている馬の他に二台が縦に並び待機している。

 なるほど、鉄骨に微弱な電流が流れているのは、あの乗り物を動かすためか!


「おお!あんな便利な物が残り2台もあるならこの試練は簡単そうだなぁ」

「って人数分ないじゃん!!」


 丸之内さん、ノリつっこみ上手いなぁ、はははは!

 あれ?


やりやがったなクソババア!!!


「ざーんねん!これは一人乗りよ!大人しく残り2台を奪い合ってなさいな」

「汚ぇぞババアッ!」(←舎弟さん)

「なんとでも言いなさいな!」

「汚いババア!」←舎弟さん

「略して汚バア!」←丸之内さん

「汚い!流石汚バア汚いッ!!」←僕

「うんちょっと辞めて、精神性じゃなくて、本当に汚いみたいな言い方」


 それぞれが思い思いに罵った。

 しかし馬号(仮名)は我関せずと進む。

 そして鉄骨の半分、中間地点まで差し掛かった時、突然震えはじめた。


「やん!ちょっと何よこれ!」


 台座の上の馬は、ヘドバンするライブパフォーマーの如く前後に揺れる。

 乗馬マシンだったのか、アレ。


「や、だめ、これ、止めて!じゃないと、わ、わたッ、しぃ!」


 揺れ幅はどんどん大きくなっていく。

 あの状態は言うなれば膀胱への暴行。

 乗っているOLさんも流石に苦しそうだ。

 なんというか、自分勝手な人ではあったけど、正直可哀想になってきた。

 思い返してみれば彼女も根っからの悪人ではなく、協力的な姿勢を見せる時もあった。

 ここまでの仕打ちをされる程悪い人ではないはずだ!

 頑張れ!

 心の中でOLさんを応援する。

 卑劣で下劣な罠に負けるな!

 気がつけば、見守っていた他のメンバーも拳を強く握りしめている。

 そして僕と視線が合うと、舎弟さんと丸之内さんは強く頷いた。

 思いは同じ……か。

 だったらやることは一つ!

 応援するんだ!みんなで!!声に出してッ!!!


「諦めろぉーー!!(頑張れぇーー!!)」←舎弟さん

「落ちろぉーー!!(負けないでぇーー!!)」←丸之内さん

「漏らして消えろぉーー!!(挫けるなぁーー!!)」←僕

「あ、あの、みなさん、本音と建前が反対こです」


 あいちゃんが何か言っているが熱くなった僕達は止まらない。


「見苦しいぞぉ汚バアーー!!(ゴールは近いぞぉー!)」←舎弟さん

「化粧も香水もキツすぎーー!!(あと少しこらえてー!)」←丸之内さん

「どうせ独身なんだろーー!(どうせ独身ですよね)」←僕


「ちょっ誰がどっ、どっ、独身っ、んぎゃ」


 独身というワードに反応して振り返ろうとしたOLさんが体勢を崩す。

 そんな彼女を情け容赦の欠片もなく、馬号は振り落とした。


「きゃあああああああぁぁぁぁぁ ぁ ぁ  ぁ   ぁ」


 OLさんの声はどんどん遠くなっていく。

 そして闇底は馬号から落ちた彼女の姿を呑み込むように隠した。

 それを確認した僕は我慢できずに悲痛な叫び声をあげる。


「うっしゃ落ちやがったぜええぇぇ!(やった落ちたぞ!)」←僕

「ざまぁみやがれ!(ざまぁみやがれ!!)」←僕

「いやーメシウマですわー(滅びよ腐れババア)」←僕


 そんな僕を冷ややかな目で見つめる幼女がいた。

 天使か?いや、あいちゃんだ!


「……(……)」←僕

「……あ(……あ)」←僕

「いや、その(いや、その)」←僕

「畜生ッ!救えなかった!!(とでも言っておくか)」←僕


「「白々しいわ!!」」


 奥ゆかしい僕達は心の中で応援したが、それを表に出す事はなかった。

 そう、最後の最後まで。


 って事にならねーかなぁ。←僕



♂♀



 馬号だけが鉄骨の向こう側へゴールする。

 なんて無情な光景なんだ。馬号は罠だったのだ!!

 やはり、そんなウマい話しはなかったのか。馬だけに。


「土方ほどじゃないけど、これ作ったヤツは本当に性格悪いよね」

「うん待って、丸之内さん」


 僕は自分の心にちょっと素直だけど悪人じゃないよ。


「んでどーするよ、実際の話しもう歩いて渡るしかねぇだろコレ」

「うーん、逆に覚悟を決めて馬に乗るとか?」

「それこそ苦行だろ。どっちにしろ数が足りねぇし」

「あい、あれにふたりで乗るのは、むずかしいと思うの」


 僕を無視して作戦会議に突入する三人。

 誠に遺憾だが、このままではいかんと、声を出す。


「いや、数なら大丈夫だ!」


 僕だって、ただのピュア外道じゃない。

 しっかりとこの試練の対策を考えているのだ。

 みんなが幸せな未来を掴み取る、そのためには……。


「 僕 が あ い ち ゃ ん の 馬 に な る ! 」


 これで乗り物の台数は解決。

 僕は一番辛いポジションだけど、ここは自己犠牲の精神だ!

 ってあれ?なんだこの静寂は。


「やっぱ、あのメカ馬を使うのは無理くねーか?」

「そうなるよねぇ」

「うぅ、お馬さんこわいよぉ」


 再び始まる三人の作戦会議。

 この疎外感の中で、確かに感じる尿意のみが、僕の生きている証だった。



♂♀



 まあね、認めるよ。

 ちょっと自分の欲望に素直すぎたよね。

 そうだね、僕はややロリコンな側面もあるよ。

 それが僕の性癖の全てではないにしろ、そういう一面も合わせ持っているさ。

 なんのことはない。

 土方六乃助という人間のたった一角でしかない要素が、

 今回たまたまこの局面で露呈しただけのこと。

 むしろ新たな自分の発見に僕が一番驚いていると言ってもいい。

 これってトリビアになりませんかね?

 ならねーよ。

 嗚呼、失敗ちっぱい、おはようじょ。

 なーんつって、かっこわらい。


「うっし、男は度胸!俺は自分の足で鉄骨を渡るぜ!」

「誰かが渡りきったら、私も少し、勇気出せるかも」

「お兄さん、すごいです」


 とかくだらない事を考えている間に方針が決まったみたいだ。

 他に罠がないか確かめつつ舎弟さんが先陣をきる。

 その後は覚悟が決まった人から鉄骨を渡る。

 という流れのようだ。ん?


「ね、ねぇみんな。何か忘れてない?」


 僕は違和感を口にする。


「あれ、なんだろう。言われてみれば何か足りない気がするかも」

「?」


 丸之内さんも同じ違和感を感じているみたいだ。

 あいちゃんは何の事だろうと首を傾げている。


「ま、思い出せないって事は大した事じゃねーだろ」


 そう言って鉄骨に向かって歩を進める舎弟さん。

 いや、結構重大な事だった気がするような。

 うーん、このまま何も起きなければいいけれど。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ