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仲間と三題噺

日暮れの闇

作者: kumasan93

「はぁ、今日も練習大変だった……でももうすぐ定期演奏会! 頑張らなきゃ。みんな来てね~!! 」

「県大会2回戦、接戦だったけどなんとか勝利。今年こそ甲子園に行く。今年は優秀なメンバーが多いからきっとできるはず。次の試合でも仲間たちを信じて投げる!」

俺の趣味は同級生のブログ観察。

とは言っても、別に好きなわけじゃない。

他にすることがないから見てるだけだ。

俺は小学校、中学といじめに遭い、高校には行っていないし、行きたいとも思わない。

どうせ高校にいっても、またいじめられるだけ。

スポーツもできない、頭も悪い、芸術の才能もない、明るく面白いわけでもない。

そんな取り柄のない弱者は、どこに行っても食い物にされる。

だから進学のための勉強もしていない。

そこで時間が有り余って、ネットをし、同級生のブログを見ている、というわけだ。


その日も、特にすることがなく、同級生の名前をサーチエンジンに入力した。


遠藤早紀。


俺をいじめていた主犯。

成績は悪かったが、明るく、垢ぬけていて、お洒落。流行にも敏感で、女子たちから一目置かれ、男子からの人気もあった。

しかし、その分、目立ちたい、ちやほやされたい、という思いが強かったのだろう。

俺は取り柄もないし、人と距離を縮めるのが苦手で、無口な上、誰に対しても淡泊だったので、それが気に障ったのかもしれない。


とにかく、彼女に気に入られなかった。


それからというもの、クラスの全員が敵になった。

教師はグループになじめない俺の方を悪者扱いした。

誰も助けてはくれなかった。

俺は学校にいくのを辞めた。


そんな事を思い出していると、遠藤早紀のブログがヒットした。

俺は早速ページを見る。

「今日は彼氏と海行ってきた―。ちょーたのしかった♡♡♡」

記事には短い文章と彼女が水着を着ている写真。

俺の中で何かが切れた。

俺だって普通の生活を送り、恋人を作りたかった。

好きで孤独な生活を送ってるわけじゃない。

何でアイツばかり幸せそうな日々を過ごしてるんだ。

許せない。

罪を償え。


その日から毎晩、俺はレンガをもって出かけた。

遠藤早紀の家は知っている。

僕は彼女の家と最寄り駅の中間にある公園で、彼女が来るのを待った。

その後も彼女のことを調べると、どうやら年上の男性と付き合っており、一緒に酒を飲んで遅く帰ることがあるらしい。

飲酒を通報して高校を辞めさせてもよかったが、それだけでは俺の気は収まらない。


その身を持って罪を償え。


そんな事を続けて4日目、ついに彼女が通りがかった。

終電だった。

彼女は千鳥足で、正気ではないのが見て取れた。

深夜で人の気配もない。

馬鹿な女だ。

俺は背後から回り込んで近づく。

彼女が気付く様子はない。

レンガを後頭部めがけて思い切り振りおろす。

鈍い音。

彼女は地面に倒れる。

血が流れる。

まだ足りない。

俺の恨みはこんなもんじゃない。

殴る。

殴る。

頭の形が変わっていく。

殴る。

殴る。

レンガが血で赤く染まる。

殴る。

殴る。

殴る。

……。

…………。


俺はレンガを公園の藪の中に放り投げ、彼女の脈がなくなったのを確認し、家に帰った。


犯人の捜索が行われた。

俺はどうでもよかった。

捕まっても。

どうせこの先生きててもなにもいいことはない。

中学でドロップアウトした人間に将来はない。

しかし俺をこんなふうにしたアイツにも、もう将来はない。

それで満足だった。


警察は来なかった。




僕は勉強を始めて、通信制の高校に通った。

人づき合いが苦手だったのは改善され、登校日には友人と話すまでになった。

勉強にも集中でき、嘘のように成績は上がった。

そして、仲間内で一番の大学に入った。

大学ではバドミントンのサークルに入り、そこで彼女もできた。

高田まゆか。

色白で、黒い髪は肩の下あたりまで伸び、活発で、どちらかと言えば暗い俺も彼女と居れば明るくなれた。

彼女の優しさは僕を癒し、辛いことを忘れさせた。

もう同級生のブログは見なくなった。

過去は過去、今を楽しめば良い……。


二人でいろいろな場所に行った。

プラネタリウム、遊園地、映画館、美術館……。

喫茶店でおしゃべりするだけでも楽しかった。

彼女は行く先々で携帯で写真を撮っていた。ブログに上げる予定らしい。

「二人の思い出を残したいんだ」

素敵だね、と僕は言った。


その日の夜は彼女と一緒にバーでお酒を飲んでいた。

彼女は実家暮らしなので、外泊は認められていなかった。

「大丈夫? 送ろうか? 」

「ううん、送ってもらうと、君が帰れなくなっちゃうよ! 大丈夫だから」

そう言って、彼女は帰ってしまった。僕に迷惑をかけたくないのだろう。

そんな気を使うところも、僕は好きだった……。





次の日のニュースで、彼女が死んだのを知った。


撲殺だった。


涙は流れなかった。


俺はタバコを吸った。



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― 新着の感想 ―
[一言] すごく読みやすく、すいすい文章が入ってきます。最後の展開には鳥肌がたつほど驚きました。
2016/06/03 09:03 退会済み
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