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第0話:偶には安楽椅子探偵の真似事でも

舞台は現代のイギリスですが、作者はイギリスに行ったことはありません。

多少...かなり事実と異なること部分があると思われます。

なんちゃってなイギリスでも気にしない!という方のみご覧ください。


イギリス、ロンドンのウェストミンスター。

ニュー・スコットランドヤードから少し離れたところにその場所は存在する。


トントン


二回、扉を叩く。


「ギルー?」


オレは扉ごしに声を掛けた。


「鍵はあいているよ。」


__...ガチャ


オレは扉を開けて中に入る。


「やぁ、今日は遅かったね。」


声の主は椅子に腰掛け、本を読んでいた。


そう、今日オレはいつも来る時間より二時間程遅れていたのだ。


「あぁ、今日は委員会があったんです。遅れるって連絡しなかったのは悪かったと思ってます。でも担任の連絡ミスがあったんですよ。」


オレはできる限りの疲れた声を出す。


「確か君は学級委員長だったかな?エリザベス嬢と一緒だったよね。委員長か...実は僕もやってたからわかるよ、あれは以外と大変だ。あぁ、それと僕は別に怒っちゃいないよ。だから嘘はつかなくてもいい。」


少し笑いながら本を捲る手を止めずに彼は話しかけてくる。こちらには一切目を向けない。


「そうですよ、と言ってもクラスは違いますけどね。それに、委員会で遅れたのは本当です。それにしてもギルも委員長をやってたんですね。初耳です。」


あぁ、ちょっと話題の変え方がわざとらしかったかな。

まぁ、委員会で遅れたのは本当の事だ。

正確には「委員会が終わった後の会話」で遅れたのだが。

話題を替える為だったとしてもギルが委員長やってたのは本当に驚きだ、いやかなり。


「君が今考えている事を当ててあげよう。何故面倒な事が嫌いなギルが委員長なんかになったんだ、そんなクラス纏まるわけがない。もう一度言おう!あのギルが!何故!委員長なんかに!ってところだろう?ちなみに選んだ理由は仕事が話すことだけで楽そうだったからだ。残念ながらあてが外れたけどね。」


バレていた。


「とりあえず、委員会で何があったのか...話してくれるかい?あまり話したくなさそうだけど。」


...全部お見通しだった。

こえーよ、オレにプライベートは無いのか。


「いや、単に今のは君がわかりやすかっただけだろう。そんなもので助手が勤まるのか、僕はとても心配だよ。」


プライベートのプの字も無かった。


エスパーか、この人は。

いや、本当にオレがわかりやすかっただけなのかもしれないな...。

それとも単にこの人の推察能力の高さ故か。



彼ことギルバート・アルクインは探偵だ。


ちなみにここはギルの探偵事務所である。


探偵と言っても月に片手で足りるくらいの客しか来ないが...。


まぁ、そんなポンポン何かしら起こってもらっても困ると言えば困るのだが...。

何処ぞの日本の死神漫画でもあるまいに。

だが困った事に片手で足りるといっても、その中には厄介な事件が紛れていることもあるのだ。

まったく...面倒極まりない。


そして、このギルバートという男、意外と知り合いが多い。


どう見てもインドア派で目が死んでいるこの男の何処にそんなコネがあるのかほとほと疑問なのだが、警察や富豪、医者などその他諸々、様々な人物と交友がある。

実は、今の学校を紹介してくれたのもギルだったりする。


とりあえず聞きたい。


過 去 に な に が あ っ た


とてもそう聞きたい。

だってこの人、どう見ても20代前半だぜ?おかしいだろう、学生時代何があったんだよ。


まぁ、そのような人たちとの関わりも手伝って事件数が少なくともこの事務所はやっていけている。

と前に聞いた。

金の羽振りがいいらしい。

本当かどうかはわからないけど。


更に、オレはここで助手をやっている。

なぜ助手なんてやっているのか?

強いて言えば恩返しになるんだろう。

まぁ、人生色々あるものだ、とだけ言っておく。


そんなことを考えている間に、ギルは本をパタリと閉じ、今日初めてオレの方に目を向けた。


「で、委員会で一体何があったんだい?アレン。」


アレン。


アレン・フォレスター

それがオレの名前だ。


「いや、別にギルには関係ないことですよ...。」


そう言ってオレはギルから目を逸らす。


「アレン。」


あぁ、クソ。

もう逃げられないだろうなぁ...。


「大方、謎を解いてエリザベスにいい所でも見せたかったんだろう?」


あぁ、やっぱり今日来なければよかったなぁ...。


「う...。いや、ギルに頼るほどのことじゃないと思ってたんですけど....。」


「見栄は張るものじゃないよ。君は頭はいいが、頭がいいのと謎を解くのではまったく別物なんだよ。それにきっとその話は...あぁ、うん、十中八九君じゃ解けないだろうね。」


少なからずムッとするものがあったが、まぁ手を持て余してたのは事実なので仕方が無い。


それにしても、面倒なことには首を突っ込まない主義のギルが何故ここまで執拗に聞いてくるのかがわからない。


そこで少し違和感を感じた。

まてよ...さっきの言い方だとまるで...。


「話さないのかい?」


声をかけられ無理矢理思考を中断させられた。


あぁ、もう!


仕方なくオレは話し出す。


「あ、いやちょっと待ってください...。何から話したものか...。ちなみに委員会自体に問題があったわけじゃないんですよ。委員会が終わった後に聞いた話しというか....。」


そう言ったところでギルが反応した。


「聞いた話し...?あっ、もしかして妹から聞いたのかい?」


「おぉ、よくわかりましたね。」


「いや、君の交友関係なんて高が知れているだろう?」


とニヤニヤしながらギルは応えてくる。


なんだろう、今日はやけに突っかかってくるな...、うざい方向に。


「別にオレは友達がいないわけじゃないですからね!?」


「まぁ、いいさ。ところで妹君は元気かい?」


「元気だよ...。ったく...ついこの間三人でご飯食べたばかりじゃないですか。そう、ライザから聞いたんですけどね...。」


といった瞬間


ガチャ


扉が開いた。


そこから入ってきたのは...


「やぁ、エリザベスじゃないか。元気にしてたかい?」


笑いながらギルは答える。

オレはその様子に呆れてしまった。


「...えぇ、元気よ。ここの扉を蹴破って入ってくるか悩む程度にはね。」


エリザベスだった。


なんか今、すごい不機嫌だな...。

学校で別れるまではすごい楽しそうに話していたのに。


「是非ともそれはやめて頂きたいな。君なら本気でやりかねない...。」


ギルは本気で嫌そうな顔をする。


「あら、だから私は実行にうつしていないわ。そんなことより!!もう、アレンったら!!用事があるからって先に帰ったと思ったらやっぱりここにいたのね!先生にさえ捕まらなければ引きとめられたのに!!あー!もうっ!ムカつく!!」


「お前なぁ、引きとめられてもオレが困るだけだよ...。だから何も言わずに来たっていうのに、はぁ。」


オレは苦笑いする。

すると唐突にギルが話しだす。


「君たちは本当に仲がいいなぁ。長年連れそった夫婦のようだ。」


そういってギルは笑う。

まて、アンタ全然目が笑ってないぞオイ。


「いや何言ってんだよ...。確かに長年連れそってはいるけどさ...。」


といって苦笑いをしながら後ろを振り返ると...。


何故か目を輝かせて笑っているエリザベスの姿が目に入った。


「や、やだぁ!!私とアレンが夫婦!?も、もぉ...!!!何言ってるのよぉ!!」


と満更ではなさそうにしていた。


「ちょっ!!何照れてんだよ!?まず、オレたちは....」


言い終わる前にギルが口を開いた。


「うん、お似合いだ。まぁ、そんなことよりさっきの話しを続けてくれるかな?」


自分から振っておいてなんなんだよ!!と思ったがその言葉にエリザベスが反応する。


「さっきの話しって何よ?」


エリザベスの目が鋭くなっている。

きっと自分だけが話を理解していないこの状況が嫌なんだろう。


...元がつり目なだけに威力が半端ない。

視線がいたいのなんのって。


オレはこの状況に耐え兼ねて、ギル達に仕方なく説明をしはじめた。


話が逸れたことで逃げれるかと思ったんだけどな...。


「あ〜。あの話だよ。ライザが話してくれた例の『トイレのハナコ』の話だよ。」


そう話した途端にエリザベスの顔が変わった。


「そう!その話なのよ!!私が先生に呼び止められた理由もアレンとその話をしてるところを見られてたからなのよ!アレンは用があるからって言って先に消えちゃったし!」


う...これはまずい...。


「悪かったって...。そう、その話なんだよ。」


そう言ってオレは早々に話を切り替える為、ギルの方に向き直る。


あー...睨まれてる気がするのはきっと気のせいだ。うん、そうに違いない。


「へぇ、トイレのハナコねぇ。で、どんな話なんだい?」


「はぁ...。私の方が詳しいわ。代わりに話しましょうか?」


仕方なさそうな顔をしながらエリザベスが訪ねてくる。


「ん、じゃあ頼む。」


確かにオレより詳しいだろう。

直前まで怒っていたというのに話してくれる。

そういう所が優しいんだよなぁ...。


「どこから話そうかなぁ。まずは日本のトイレのハナコさんっていう怪談があるのは知ってる?」


ギルは首肯する。


「あれだろう?"学校の校舎3階のトイレで、扉を3回ノックして『花子さんいらっしゃいますか?』と言い、一番手前の個室から奥まで3回ずつやると3番目の個室から『はい』と返事が返ってくる...が、その扉を開けると、赤いスカートのおかっぱ頭の女の子がいてトイレに引きずりこまれる"っていう何故そんな面倒なことをしようと思ったのかまったくもって理解ができないあの話だろう?」


と長台詞をはいた。ちなみにここまでノンブレスである。恐るべし。


「そうそのハナコ。よく知ってるわね?へぇ、三階に出るのね、初めて知ったわ。」


とエリザベスが言い


「伊達に本を読んじゃいないよ。知識だけなら無駄にあるさ。それと日本の地域によっては出現する場所や条件が色々異なるらしいよ。」


と、ギルが応えた。


「そうなの?ていうか日本に一体何人ハナコがいるのよ、ハナコだらけじゃない。それじゃあ両手に花コよ。」


あっ、ずれた。


「で、そのトイレのハナコさんがどうしたって言うんだい?」


すかさずギルが話を戻す。


「あっ、そうだったわね。といっても私たちの学校のトイレでハナコさんが出るっていう単純な噂よ。」


「単純な噂ねぇ...。ただの噂ならアレンが遅れてまで話を聞くとは思えないんだが...。」


「そうなのよ...。ついこの前まではただの噂で済んでたんだけど、この前出たのよ...本当に、ハナコさんが!!」


エリザベスは少し声を大きくして言い放った。


「へぇ...出るとはね...。その話、詳しく説明してくれないかい?」


「えぇ、勿論よ。...あっ、でもこの話は私が体験した話じゃないから又聞きした話になるけどいい?」


「あぁ、勿論構わない。が、知ってることは全部話してくれると助かる。...僕は安楽椅子探偵の真似事はあまり得意ではないんだけれどね。」


「わかったわ。まずはそうね、その子の事から話すわ。」




-------その子は私達と同じyear 12の子よ。

確かその日は9月26日だったはずだから...大体、新学年が始まってから2週間ちょっとってとこね。今が10月3日だから丁度1週間前になるのかしら。

その日彼女は委員会で...あー、委員会は放送委員よ。

そう、委員会で18時までもう一人の委員の子と放送室で残ってたらしいわ。勿論もう一人のその子も女の子、親友らしいわね。

何故そんな時間まで残ってたのか、なんだけど...よく帰宅を呼びかける放送ってあるじゃない?あの放送を17時40分に鳴らす為に残ってたそうなの。

新学年になると仕事を覚えてもらうために1ヶ月間は先生ではなく、放送委員がローテーションで流すことになっていたみたい。

そして17時40分に無事放送を終えた彼女はお手洗いに行くといって放送室を出たの。

一階にはトイレが2つあるんだけど、その子が行ったトイレは遠い方ね。まぁ、そこはあまり関係ないわよね。

放送室からトイレまでの距離は歩いて1分かかるかかからないかくらい、以外と遠いわ。ちなみに、もう一つの方は20秒で着くような距離にあるのよ。


トイレの中は個室が6つで洗面台が3つ。

左右に個室が3つずつのいたって普通のトイレね。

彼女は正面から見て右手の一番奥の個室に入ったそうよ。


で、ここからが本題なんだけれど...。


彼女が個室に入って用を足した後、個室を出ようとした時に...声が聞こえたらしいの。

最初は誰かがトイレに入って来た。

って彼女は思ったみたいなんだけど、どうも足音が全く聞こえなかったものだから、聞き間違いだと思いなおしたそうよ。


でもそれも束の間。

今度はハッキリと声が聞こえたそうなのよ。

その時点ではなんて言ってるかは聞き取れなかったみたいだけどね。


怖くなって彼女は鍵を開けようとしたの。その時に、聞き取っちゃったのよ...。個室に響き渡る声がなんて言っていたかを!


__...嘘つき。仲間だって言ったのに。


って。





「なるほど...。ありがとう、よくわかった。」


「で、解決したの?探偵さん。」


「いや、まだだね。十中八九犯人は相方の子だろうけど。」


「まって。なんでそうなるのよ?相方の子はずっと被害者と一緒にいてアリバイがあるじゃない。それに彼女達はとても仲がよかったのよ?」


「仲がよくったって人を殺さないとは限らない。今回は死んではいないけれどね。それにこの犯行は別に犯人が最初から現場にいなくても成り立つはずだ。その為にもトイレの状況をもう少し詳しく教えてくれるかい?」


「いいけど...。」


そう言ってエリザベスはまた話し出す。


「...まずは間取りだけどさっき言った通り、個室が6つ、左右に3つずつで洗面台が3つの普通のトイレよ。」


「窓はどこにあるんだい?」


「彼女が入った右の一番奥の個室の壁の上部に小さい奴があるわ。」


「やっぱりか。あとは...そうだな。君はさっき僕が三階のトイレが主流だと話した時疑問に思ったみたいだが...噂のあるトイレはどこだったんだ?」


「彼女が入った方の一階のトイレね。」


「何...?どういうことだ?僕の予想では近い方のトイレには、噂があったからこそ行かなかったんだと思ったんだが。」


おっと、珍しいことにギルは悩んでいた。


「よくわからないけど...彼女が噂のトイレに行った理由は『トイレがそっちの方が綺麗だったから』だと思うわよ。」


「...どういうことだい?」


「彼女潔癖症らしいの。だから噂がないけど近い古いトイレ、噂はあるけど遠い新しい綺麗なトイレ。の二択で後者を選んだのね。まぁ、彼女自身そこまで噂信じる人ではなかったっていう理由もあるんじゃないかしら。」


「そういうことか、なるほど。ちなみに被害者と相方はどれくらい仲がいいんだ?」


「もう12年くらいになるって言ってた気がするけど...違うかも...。ごめんなさい、そこまではちょっと覚えてないわ。でもそれくらい長かったはずよ。」


「いや、いい。それだけでも十分だ。全て繋がった。さぁ、どこから答え合わせがしたい?さっきから黙りを決め込んでいる助手くん?」


何故そこでオレに話を振るのか。


「...オレにはまったくもってさっぱりですね。どこからでもお好きにどーぞ。」


オレは投げやりに答えた。


助手役は今回エリザベスに譲るさ。

オレは今回黙りを決め込む。


「諦めるのが早いのは関心しないね。まぁいいさ。どこから知りたい?エリザベスは。」


「...私?私は動機から知りたいわね。」


「?...何を言っているんだい。動機?そんなもの僕がわかるわけないだろう。そもそも動機なんて興味がない。」


さっぱり理解できないという顔をしながらギルは言った。


「えっ?」


うわっ、流石ギル。

やっぱりギルはギルだった。

ちょ、エリザベスが呆然としてるんだけど。


「ちょっ、ちょっと待ってよ。動機、わかったんじゃないの?」


「そんなわけないだろう。今の話でわかったのはトリックだけだよ。動機を調べるのは僕の仕事じゃない。」


「...もういいわ。話したいように話していいわよ。」


諦めたようにエリザベスは言う。

うん、その気持ち痛いほどオレもよくわかる。

そして、ギルは話し出した。


「そうだな、何から話したものか。まずは犯人についてか。さっき僕は被害者の相方だと予想したけれど、最後まで話を聞いた結果...やはり相方の犯行の可能性が高いだろう。」


「根拠は?」


「まず第一条件に彼女がいつトイレに立つかわかる人物。第二に彼女が潔癖症だと知っている人物。第三に彼女が噂を信じる類の人間ではないと知っている人物...があげられる。第二、第三条件は彼女と親しい人物ならきっと知り得ることだろう。だがしかし第一条件だけは彼女を見張っていなければできない。つまりその条件に当てはまるのは相方の子だ。まぁ、被害者のことをストーカーしているような奴がいればまた話は別だけれど。もっとも、そんな奴がいればそっちの話こそ噂になりそうなものだしね。」


「まぁ...そこまでは納得するけど...。彼女を見張っていないといけない理由は?」


「それはトリックの話をする時にわかるさ。じゃあ納得したなら次へ行こうか。」


「えぇ。」


「じゃあ、お待ちかねのトリックの話をしよう。」


そう言ってギルは話し出す。


「まず一つ目だ。彼女をトイレに誘導する方法。これはそろそろ君たちも気づいたんじゃないかい?」


「そう...ね。それは彼女が潔癖症で噂を信じない人物だったからでしょう...?」


「正解。僕は最初、被害者は"遠くても噂のないトイレ"に行ったのだと思った。普通、そのくらいの年齢のレディの心理としてはそんな噂は避けたいものだろう?でも実際はそうじゃなかった。だけれどそれが逆に犯人を断定する要素に繋がった。」


「さっき言った第二、第三条件を満たせる親しい人物...ってことね。」


「そう、そう言うことだ。被害者をよく知っていれば"遠い綺麗なトイレ"に誘導することは割と簡単にできるはずだ。この場合誘導したと言うより彼女が行くトイレを予想した、と言う方が正しいのかな?...さぁ、これで彼女を遠い方のトイレに向かわせることができた。」


「ちょっと待って...じゃあ声は?」


「次は謎の声についてか。声の演出なんて割と簡単にできるものだよ...機械を使えばね。」


「機械?」


「あっ...。立体音響ってことですか?」


しまった、無意識に声が口から滑り落ちてしまった。


「正解。そう、立体音響を使えば難なく個室で音を響かせられる。なにせ女子トイレだ。狭い個室、さぞや音が響いたことだろう。」


「まっ、まって頂戴。立体音響はいいとしてもどうやってそれを作り出したって言うのよ!」


「そこはアレンのが詳しいんじゃないかな。僕は機械音痴だからね。」


「そうだな...立体音響っていうのは複数のマイクで録音した物を、同じく複数のスピーカで鳴らすこと。限定された空間や場所において、擬似的に音を再現するものなんだ。」


オレの言葉にギルは続いた。


「つまり先に音源をとっておいて後はトイレの個室で流すだけだ。小型のスピーカーを個室の中にセットしておけば簡単に出来てしまうんだよ。」


「わかった、そこまではわかったわ。でもそのスピーカーはどこに隠すのよ。トイレの個室に隠す場所なんてないわよ?それに被害者がどこの個室を選ぶかなんてそれこそわかりっこないじゃない。」


「ではまずはどこに隠したのか。隠し場所、それがあるんだよ。大抵、学校のトイレの個室には置いてあるものだろう?香り袋なんていうものは。」


はっ、とエリザベスが息を飲むのがわかった。


「...ある。あったわ、香り袋!!!」


そう言えば...


「男子トイレの個室にもあるな...。」


「そう、その香り袋の中にそっと忍ばせておけばいい。それに、それが3つ4つ壁にかけられていたところで普通の人間ならそこまで気にも止めないだろう。」


「そう...ね。確かに香り袋が多いことに気づいたとしてもそのトイレはそんなものなんだ、で自己完結すると思うわ。」


「確かに...袋に小さい穴をいくつも開けておけば十分音は響くだろうな。」


オレは言った。

ギルはオレ達が納得したのを確認してから、また話だした。


「次に、犯人が何故右の奥の個室を犯行場所を決めたのか...だが、それは窓があったからだろう。」


!!...そうか。


「...なるほど。スイッチを入れる為ですか。」


「そう、トイレの中に入ったら足音でバレてしまうからね。窓の外から電源を入れる必要性があったんだ。だから被害者を監視している必要があった。すぐに外へ回り込めるようにね。」


「まって、スイッチを入れるにしても一度に全部のスピーカーの電源を入れることなんて可能なの?」


エリザベスが問う。


「可能だろうな...赤外線リモコンを使えば一つのリモコンで同時に電源を入れることはできるはず...。しかも個室だ、壁で反射もするだろうし電源も入りやすいはずだ。」


オレは答えた。


同じメーカーのテレビ2台をリモコン一つで操作する、とかよくやる人いるよな。

あとは片方のテレビを点けようとしたら誤作動で二台同時に点いてしまったりとか。


それと同じ原理である。


「だそうだ。あとは犯人が被害者よりも先に何もなかったように戻るだけさ。これで声の謎も解けた。チェック、次でラストだ。」


「じ、じゃあどうやってそこの個室に誘導したって言うのよ。」


「それは女子トイレを普段から活用する君なら割と簡単にわかると思うんだけどね。」


「なによそれ...。」


「じゃあヒント。君がトイレの個室に入れないと思う理由はなんだい?」


「そんなの汚れてたり...あっ、もしかして彼女が潔癖症だから全部のトイレを汚しておいたとか?」


「惜しい。まぁ、それだとトイレに入れないと言うより入りたくないって言うのが正しくなる。それに、それだと確実じゃないな。被害者が汚れてるのを綺麗にしたくなったり、そもそもそのトイレに入るのをやめてしまうこともあり得るからね。もっと簡単な作業でより確実にそこのトイレに入らせるには...どうする?」


「入りたくないじゃなく、入れない...。」


「更にヒント、なくてはならないものだ。」


「...私が他にトイレに入るのをやめる理由...汚れてる以外に...なければならない...。あっ、紙...もしかして、トイレットペーパー?」


「正解。トイレットペーパーをそこ以外抜いておけばいい。普通なら紙がなければ他の個室を見て回るものだ。それこそ自分のポケットティッシュで代用、なんていうのは最終手段だろう。紙があるなら十中八九そこに入るはずだ。これで被害者を誘導することが出来た...チェックメイトだよ。」


「そんな...でも...根本的な問題があるわ!!被害者がトイレに行くのなんてそれこそ予想しようがないじゃない...。」


「そこだよ。僕が強く親友の相方が犯人だと思った理由は。僕はそこに犯人の人間性を見たんだ。トイレに行かなければそれでもいい、行ったら行ったでそれでいい。っていうね。」


「はぁ?どう言うことよ。」


「行けばやった。行かなければやらなかったんじゃないかと思ってね。ほら、声はこう言ったんだろう?"嘘つき、仲間だって言ったのに"って。きっと被害者は行かないこと選択し続けていればこんなことになることはなかった。僕はそう思うよ。親友だったからこそ許せなかった。だけれど親友だからこそやりたくなかった。きっとそう言うことなんだ。」


「意味がわからないんだけど...?」


「もしかして、怒りが鎮まれば一生やることはなかった...そう言うことですか?」


「多分ね。怒りが鎮まらないうちにトイレに行くことを選択してしまったからこそ被害にあったんだ。いかにも人間的な理由だろう?」


「もうっ、その人間的な理由ってだからなんなのよ!」


「だから言っただろ、ギルは動機には興味ないって。知りたければ自分で真相を掴めってことさ。」


「ご名答。流石アレン!少しは進歩したんじゃないかい?」


「...お褒めいただき光栄ですよ名探偵ギルバート・アルクイン。」


「名探偵ねぇ...まぁ、案外痴情のもつれだったりするんじゃないかな。で、他に何か質問は?なければ今日は帰っていいよ。説明する時間がなさそうだ。」


ん?説明?

...まぁ、いいか。


「というか十中八九オレには解けないって言ったのって...。」


「ん?あぁ、女子トイレの状況を男の君がわかるわけないと思ったんだ。むしろ知っていたら怖いだろう。だから解けないと言ったんだ。」


じゃあアンタはなんで知ってんだよ。


「昔やんちゃしてたからね。」


...やっぱエスパーだろこの人。


「君がわかりやすいだけさ。というか、アレン...君は最近トイレに縁があるね。」


もう何もつっこまないぞ。


「あぁ...この間の殺人事件ですか。確かにあれもトイレでの犯行でしたね...。」


少し前に巻き込まれたレストランでの殺人事件の話だだ。

そう考えると今回は殺人でなかっただけマシだと思う。

いや、自分の学校で殺人なんて冗談じゃないけど。

...うーん、最近人が死ぬことに慣すぎている気がする。


「それじゃあ、お疲れ様。悩むのは結構だけど後は自分でなんとかしなよ。」


そう言ってギルはまた読書に勤しんだ。




...__余談と言うか後日談。


結論から言えば犯人は相方の女子生徒だった。


トリックは全てギルの予想した通り。

あの人、安楽椅子探偵の真似事は苦手だと言っていたけど、案外イケるんじゃないかと思う。

それほどまでに完璧な推理だった。


ちなみに問題の犯行の動機はこれまたギルの予想した通り痴情のもつれってやつだ。

...やっぱりあの人絶対エスパーだと思う。


犯人は被害者に好きな人のことを相談していた。

被害者はそれを応援すると言っていたが、実は被害者もそいつのことが好きだった。


...なんと言う嬉しくないバッティング。


そしてその意中の男は被害者に告白、見事付き合うことに。


そして被害者は犯人から恨みを買った。


だからこその「嘘つき」発言だろう。


犯人曰く「トイレに行かないなら行かないでもよかったのよ、怒りが収まるまで行かないでくれたら私はあんなことはしなかったはずだわ。...だって今でも私はあの子のこと大好きだもの。」

だそうだ。


それを聞いた被害者は、犯人と殴り合いの喧嘩をした末に仲直りをしていた。


被害者は「私がどれだけ怖かったと思ってるのよ!!!!トイレの中で死んだらどうしようって凄い泣きそうになったんだから!!!」


と言っていた。

ぶっちゃけトイレの中で死んだ人を知っているから笑えなかった。

しかし、それを聞いた犯人の女子生徒は大爆笑をしていた。


そしてまた殴り合いの喧嘩をしていた。


それを見た意中の男子が被害者に別れを切り出していた。


流石のオレも笑った。


犯人の女子は「あら、私の親友を振るなんて...案外私も見る目なかったわね。」


なんて言いながら被害者を元気づけていた。

彼女達は笑っていた。

恋愛より友情をとったわけだ。

まぁ、破局の理由は彼女のせいだったわけだけれど。


そんなこんなで「トイレのハナコ」事件は大団円とは行かないまでも、ハッピーエンドで幕を閉じた。



そして、今オレは一人でギルの事務所に向かっている所だ。

少しギルに聞きたいことがあったのだ。




トントン


俺はいつも通り扉を叩いた。


「どうぞ。」


オレは扉を開ける。


「なんだ、今日は早かったじゃないか。」


ギルは今日も本を読んでいた。

前回と違うところは、すぐに本を閉じでオレに向き直ったこと。


「はい、早く話したいことがあったもので。」


そもそも最初から違和感はあったんだ。


...よくよく考えてみればこの学校はギルからの紹介で入ったんじゃないか。


人脈タウンページ並みのギルのことだ、学校の噂くらい教師たちを介して簡単に手に入れられるって訳だ。


しかもエリザベスは教師に呼び止められている。

ここまでくればもうお察しってものだ。


最初に感じた違和感はこれだった。


"はじめからギルはオレ達が噂で悩んでいることを知っていた"


あぁ、もう...本当!!


「...やられた。」


「気がついたみたいだね。」


「はぁ...まんまと掌で躍らされてたわけですね。」


「それは失礼だね。僕はただ君らの問題をさっさと解決してあげようと思っただけだよ。まぁ、見事に君がカッコいいところをエリザベスに見せる機会は失われたわけだが。」


「あっ、そうですよ!ギル。昨日のあの発言はなんですか。夫婦て...ライザとオレは兄妹ですよ、やめてくださいよ本当。しかも元気かって話しをした後に本人にも聞くし...流石にあれは呆れましたよ。」


エリザベス・フォレスター


愛称ライザ


正真正銘オレの双子の妹である。


「はっはっはっ。いやぁ、エリザベスをからかうのは面白くてね。あんなに夫婦と言われて喜ぶんだ。兄としても嬉しいだろう?」


「...はぁ。」


嬉しくないわけがない。

...あれから二人で生きてきたんだ。


まぁ今はそんなことはどうでもいい。


「そう怒らないでくれ。安楽椅子探偵の真似事をしたのにはもう一つ理由があるんだ。ほら、助手が使えなければ仕事にならないからね。」


「...ということは。」


「そう、依頼だ。」


ギルは一言そう言った。


雑な登場人物紹介


ギルバート・アルクイン

目が死んでる探偵。

物語のホームズ役。

彼曰く昔はやんちゃしていたらしい。


アレン・フォレスター

ギルバートの助手。

物語のワトソン役兼語り部。

極度の寒がりな女顔。

現在はエリザベスと二人暮らし。


エリザベス・フォレスター

アレンの双子の妹。

顔はそこまで似ておらず吊り目。

ブラコンの気がしなくもない。


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