七夕の小話
あぁ…あれはもう何年も前のことだったか。
誰でも聞いたことがあるだろう『織姫さまと彦星さま』の話だ。
私が初めてその話を聞いたのは母親からだったと思う。
初めて聞いた時、私は泣きじゃくっていたな…織姫さまと、彦星さまは、年に1度、七夕の日にだけ天の川を渡って逢える。それを「かわいそう」だと。
確か……あの時は、好きな子が居たような気がする。でも、引っ越してしまって、もう会うことは出来ないのだと言われて、だいぶショックだったな…。
そんな、自分にきっと『織姫さまと彦星さま』を重ねていたのだろう。
さんざん「かわいそう」と泣きじゃくっていた私に母親は、教えてくれた。
ー「『織姫さまと彦星さま』はね、お星さまなの。お星さまの寿命はね、とーっても長いの。だから、『織姫さまと彦星さま』には1年なんて、あっという間だったのよ」ー
「だからね、あの子ともすぐにまた逢えるわ」
「ほんと…ほんとに?」
「大丈夫、ほんとよ?すぐに逢える、だから大丈夫」
そう言って、頭を優しく撫でてくれたことも思い出した。
そういえば、彼は、今、どこに居るのだろうか。
「あ、もうこんな時間だ。学校行かなきゃ」
時刻は、7時27分。電車に乗ろうと思えばもうそろそろ家を出ないといけない時間だ。
「いってきまーす」
◇◆◇◆◇◆◇
余裕で学校に着いた私は、彼は、どんなヤツだったのか思い出すことにした。
…すごく、顔にもやがかかったままだな。全然思い出せん。本人の顔見れば思い出す気がするな。あ、でもそれだったら、思い出す前に成長した後の顔に更新されるか。ま、母親はああ言ったけど、結局もうずっと逢えてないや。
と、ぼーっとしてると担任が珍しくやって来て、クラス全体に呼び掛ける。
「はい、注目。えー、と?ウチのクラスに転入生が来ます、というか来てます。ほい、どうぞ」
入って来た、転入生は黒板に自分の名前を書き
「皆さん、初めまして。これからよろしくな!」
そう言って笑ったその表情は、私の知ってる彼だった。
彼を見ていると心臓が跳ねる。
「そっかぁ…」
私、まだ好きだったんだ…。
先生が指定した席に、向かって歩く彼。そこに行くには、私の隣を通らないといけない。
ま、でも、彼はたぶん覚えてないんだろうなぁ…私のこと。
彼は、私の隣で、立ち止まり
「よっ、久しぶり!元気だった?」
「…!……うん、元気だったよ」
ちゃんと覚えててくれたんだ…。
七夕の奇跡に私は…
恋心を思い出し、再び逢えたことに感謝して、また恋をする。