数ヶ月前のこと
ある国の絢爛豪華な王宮の大広間。
そこでは、絶大な権力を持つ国王が盛大な舞踏会を開いていた。
国中の貴族が招かれた、大規模な舞踏会である。人々は上品に微笑みを交しながら、それぞれダンスや会話を楽しんでいた。
その一角に、人々が集まり一際にぎやかな場所がある。無邪気な顔で朗らかに微笑む一人の少女が、周りを囲まれているのであった。
彼女の名はエリザベス。親しい人たちからはリズ、またはベスと呼ばれていた。
彼女は愛らしく、また美しく、そして公爵家の一人娘という身分さえ持っていた。
だがしかし、彼女のその魅力に反して周りを囲む人々の中に男性は少ない。それはおそらく、彼女にすでに婚約者がいるからなのだろう。
身分の高い者は得てして幼い頃から婚約者がいるものなのだが、――年頃の中流貴族にとっては非常に残念なことに――それはリディーン公爵令嬢であるエリザベスも例外ではなかった。
彼女はその身分の高さゆえに比較的幼い頃から社交界に顔を出し、社交界の高貴な花と詠われていた。
エリザベスは今、十六歳となったばかりである。
貴族社会では十六歳ほどで結婚することはなんらおかしいことではない。寧ろ、ずっと前から婚約が決まっているにしては遅いほうとも言えた。
したがって貴族たちは皆、彼女の結婚は間近であろうと考えていたのである。