(9) 火の神、覚醒
アルバート城へと向かう最中、フェリシアとカグは走り抜ける街中で、不思議な光景を目撃した。
学園を襲った骸骨の魔物―竜骨兵が逃げ遅れた市民に襲い掛かっている。
人々を救う為、アルバート騎士団が市民の盾となり戦っているが、群れを成した竜骨兵は、屈強な騎士や兵士もろと市民を押しつぶすかのごとく、襲う。
だが、魔物の凶刃が人々に届くことは無かった。
淡い光が騎士や兵士を始め、市民一人一人を包み込み、竜骨兵たちの攻撃から護っていたのだ。
数で負ける騎士団だが、敵の攻撃を受けない、と分かると防御をかなぐり捨て、全員が狂戦士のように竜骨兵を打ち倒していった。
その光景を目撃し、フェリシアは人々を包む光の正体が何なのか思い至っていた。
父親である、国王カレイドが所持する聖剣リライアンス・ブレイドの秘められた力。
所有者が、”仲間”と認識するもの全てに、絶対の防御を授け、その代わりに聖剣の所有者は一切の行動を行えない無防備な姿を敵前に晒すこととなる諸刃の力。
幾度と無く聞かされた聖剣の力を父が発動させたのだ、とフェリシアは心臓が押しつぶされるような感覚に陥った。
傍に、フェリシアの師匠であり母のマリアや、二人の友人であり異世界人最強といわれるドラグレアが居る。
万が一にも、間違ったことが起きるはずが無い、と頭で分かっていても、フェリシアの胸には言い知れぬ不安が渦巻いていた。
物語の中で語られる空想の存在、ドラゴン。
それが、我がもの顔でアルバート城の周りを飛び回っている。
ドラグレアが、一体また一体と退治しているが、そのそばから新たな個体が出現するという、完全に泥沼の様相を呈していた。
自分が行って何かが出来る訳ではないが、フェリシアは助けに行かなければ、と言う衝動を抑えられなかった。
しかも、友人たちが学園を護る為に、今も必死に戦っている。
今すぐにでも、騎士団に人員を差し向けるよう伝えたいが、団員たちは竜骨兵の対応や逃げ遅れた市民の避難誘導で手一杯の状態。
アルバート城に行く前に、騎士団本部に居るはずのフォルトに、学園のことを伝えに行くことを考えていた矢先だった。
「フェリシア姫、失礼!」
「え?きゃっ!」
突然、カグがフェリシアを抱えて道を逸れたのだ。
「カグ君、一体何処へ?!」
アルバート城や騎士団本部がある方向とは全く違う方へと走るカグに、フェリシアが抗議の眼差しを送る。
だが、カグはそんな眼差しを気にすることなく、後方へ視線を向けた。
「すみません。先ほどから僕たちの後をつけている者たちがいます・・・気のせいかと思いましたが、追ってきますね」
「え?!」
カグに抱えられた状態で、後ろを見ることが出来ないフェリシアが、手の中に水の鏡を作り覗き込むと、建物の屋根伝いに幾つもの陰が飛んでいるのが見えた。
「?!」
「ソラトさんたちや”ウィンティー”なら苦も無く逃げ切れるでしょうけど、やはり僕では」
狭い路地を抜けた先に、広い空間が広がる。
建物に囲まれ、空へ向かって伸びる空間。
反対側へと抜ける通路の入り口に、黒い外套を身に纏った者たちが五人、開けた天上から降り立った。
同じような背格好に、外套や腰に下げた剣まで同じデザイン、しかもフードで顔を隠しているので、まるで同じ装備でそろえた特殊部隊の様な印象を受ける。
カグは追跡者たちを警戒しつつ、フェリシアを下ろし、庇うように彼女を背中へ隠す。
真ん中にいた追跡者が一歩前へ出た。
「フェリシア・アルバーナ・ルーン殿下とお見受けする。申し訳ありませんが、我々と一緒に来ていただけますか?あるお方が、殿下をお待ちです」
一切名乗ることなく、ただ要件だけを告げる追跡者に、フェリシアが怒りを露にして顔を出した。
「名乗りもしないで、随分と無礼な方ですね。悪いですが、このような非常事態の時に、無礼を働く方の誘いには乗りません。私に会いたいのなら、自ら出向くよう、あなた方の主人に伝えなさい!」
「・・・・・・・我らの主人が、ユーリ・ペンドラゴンであってもですか?」
追跡者の言葉に、フェリシアの顔から表情が消えた。
「・・・・・今、誰と言いましたか?」
在り得ない人物の名前を聞き、カグの服をつかんだまま、フェリシアの手が震える。
「ユーリ・ペンドラゴン様が、フレミリア様と共に殿下をお待ちです。・・・・・この意味がどういうことか、殿下ならお分かり頂けると思いますが?」
「!?フレミーが!?まさか、あの時の実家からの連絡は!」
まさかの事態に、フェリシアは目の前が真っ暗になり、足に力が入らなくなっていく。
「お返事をお聞かせ願いますか?」
畳み掛けるような追跡者の言葉。
フェリシアは、正常な思考が働かなくなっていた。
「・・・・わかりまっ!?カグ君?!」
付いて行く、と言おうとしたフェリシアを、カグが手で制した。
もう少しのところだったのを邪魔され、追跡者たちの視線がカグへと集中する。
「その方をこちらに引き渡してもらおう。我々の受けた命令は、フェリシア殿下をユーリ様の下へ送り届けること。素直に従えば、見逃そう」
追跡者の提案に、カグは口元に笑みを浮かべた。
「お断りします。僕は、フェリシア姫を護るという約束を、ある女と交わしている。それに、みすみす敵の手に姫を渡すつもりはありません」
カグの拒否の言葉を聞き、フェリシアは掴んでいたカグの服を思いっきり引っ張った。
「カグ君、何を言っているのです!フレミーが捕まってい「姫は、少し黙っていてください」」
「!?」
まさか、カグからそのような事を言われるとは思ってもいなかったフェリシアが、驚きのあまりに硬直してしまう。
フェリシアが黙ったのを確認し、カグは追跡者たちへと意識を戻した。
「どうせ、僕を見逃すつもりなど、最初からないのでしょう?なら・・・・」
そういって、カグはフェリシアから少し離れると、左に半身身体を開き、左手を腰に右手を前に差し出し、笑みを浮かべる。
その姿は、まるで一時期一世を風靡した、映画のワンシーンの様だった。
差し出した右手の手首を返し、親指以外の指を何度も曲げる。
まさに、挑発しているとしか思えない仕草。
「馬鹿な男だ。大人しく引き渡せば、楽に死ねたものを」
追跡者全員が腰の剣を引き抜き、カグへと一斉に切りかかった。
”姫、その場にしゃがんで、動かないでいて下さい”
頭の中がゴチャゴチャになり、殆ど思考停止していたフェリシアだったが、離れていく際に聞こえたカグの声が耳に届いた瞬間、何も考えることなく、その場にしゃがみ込んでいた。
フッと、フェリシアは違和感を感じた。
―あれ?カグ君って、人間相手に戦えた・・・・・?―
呆然と見つめるフェリシアに見守られ、カグは白刃を手に迫り来る敵たちを見ることなく目を瞑り、ある言葉を呟いた。
「僕なら・・・・出来る!」
四方八方から襲い掛かってくる刃を、カグは目を瞑ったまま全て”避けた”。
動線が交差し、攻撃を避けられた追跡者たちは、全員が情けなくよろける。
「な、何だ今のは?」
一人が手にした剣を呆然と見つめる、
斬る瞬間、相手の手が自分の手に添えられたかと思ったら、”攻撃が外れていた”。
他のメンバーを見ると、全員が一様に同じような表情をしている。
「どうされましたか?僕を殺すのでは?」
余裕の笑みを浮かべ再び敵を挑発するカグ。
先ほどまで、冷静だった追跡者たちに怒りの感情が湧き上がる。
「調子に乗るなよ、小僧!!」
息の合った一撃目に比べて、バラバラと攻撃を繰り出す追跡者たち。
そんな攻撃を、カグは見事なまでに避け、受け流し、襲撃者たちの攻撃を往なし続けた。
「カグ君・・・・・・凄い・・」
、カグが”生き物”に対して、攻撃が出来ない事を知っていたフェリシアにとって、目の前の光景は驚愕に一言に尽きた。
化勁。
中国拳法・・・・太極拳において、相手の攻撃を受け流し無力化する技術のことだ。名人ともなれば、相手の攻撃を”化”し、自ら攻撃することなく勝利を得るとまで言われている。
昊斗はカグが、いつまでも人間に、しかも自分より強い昊斗にさえ攻撃できない状況に対し、ある妙案を思いついた。
それが、日本の合気道や太極拳の守りの技など、自分から攻撃するのではなく、相手の力を利用し、最小限度の力で相手を制する戦い方をカグに示したのだ。
相手をただ攻撃し倒す事しか、戦う方法を知らなかったカグにとって、昊斗の示す戦い方は、ある意味でショックだった。
だが、物にすることが出来れば、例え乱戦となっても出来うる限り相手を傷つけない戦いが出来ると言われ、カグは寝ることを忘れ、只管に己を鍛えた。
そして、ごく短期間で、戦い方を物にしていたのだった。
「のらりくらりと避けやがって!!」
どう攻めても、カグに攻撃が届くことは無く、訓練されているはずの追跡者たちが肩で息をしている。
「こんなものですか?」
逆に、カグは呼吸一つ乱すことなく、涼しい顔をして静かに構えを取っている。
追跡者たちは思い知った。接近戦において、目の前の少年は、自分たちよりも遥かに強い、と。
だからこそ、全員が冷静になり、思い出した。
自分たちの目的、使命を。
追跡者たちの目つきが変わり、カグは目を細める。
「遊びは、ここまでだ」
彼らの後ろに、契約する精霊が姿を現す。
その全てが、火の精霊。
五人一斉に、ブツブツと”呪文”を唱え始める。
「いけない!カグ君、彼らは大規模精霊術を使おうとしています!」
端々から聞こえる呪文に心当たりがあったフェリシアが声を上げる。
冷静さを取り戻した彼らは、カグが自らの意思で、自分たちを攻撃してくることはないと気が付いていた。
なので、例え呪文を必要とする大規模精霊術を行使しようとしても、カグが攻撃してこないものと、踏んだ。
しかも、彼らが使おうとしている精霊術は、呪文が短い。
フェリシアが呪文を中断させようと、通常の精霊術で攻撃しても、ほぼ同時に発動できる。
そして、目標のフェリシアは市民たちと同じ、攻撃を受け付けない光に包まれ、カグがその光を”纏っていない”ことにも気が付いていた。
そう、ここで大規模精霊術を使っても、邪魔者だけを排除できると、彼らは考えたのだ。
『インフェルノ・バースト』
詠唱が終わり、力ある言葉が紡がれたが、何も起きなかった。
「ど、どいうことだ・・・・・?」
一帯を火の海に変える精霊術が不発に終わり、追跡者たちが呆然とする。
「すみません。僕一人なら受けても良かったんですけど、ここだと多くの方にご迷惑が掛かりそうだったので、”止めさせて”頂きました」
あまりに衝撃的なことを言われ、追跡者たち五人から動揺が伝わる。
「なっ!一体どうやって?!」
彼らが精霊術を発動させる前後、カグを始めフェリシアも精霊術を発動させる素振りを一切見せなかった。
だからこそ、カグの言葉の意味が彼らには理解できないでいる。
「簡単です、彼らにお願いしたんですよ。攻撃をやめろ、と」
カグが指差す方、自分たちの後ろを指していると気が付き振りかえると、信じられない光景を目の当たりにした。
訓練を受けた自分たち同様、契約する精霊たちも、感情などを一切表に出さないように訓練してあった。
にも拘らず、五人全員の精霊が、怯え子供のように泣いているのだ。
まるで親に叱られた子供の様にだ。
「全員が火の精霊で助かりましたよ。これで他の精霊だったら、いくら僕でも言うことを聞いて貰えなかったでしょうしね」
目の前の少年が何者なのか、いよいよもって意味が分からなくなった。
追跡者の一人が身動ぎした瞬間、カグが視線を向けた。
「おや?一度も僕に当てることの出来なかった剣で、また斬りかかるのですか?」
「!?」
無意識に握っていた剣に力を込めたが、カグの言葉を聞き、驚いて剣を落とした。
「そちらの方は、そんなに泣いて嫌がる子に、まだ戦いを強要するのですか?」
「な・・・・・」
一瞬、精霊に意識を向けた一人が、カグの指摘に心臓が止まりそうになる。
まるで、追跡者たちの心を見透かすようなカグの言動。
生き物を傷つけたくない、という考え方のせいで、率先して戦うことのなかったカグだが、元々戦闘に関する能力に問題はなかった。
彼に合った戦い方を昊斗が導きだし、それを体得したカグは”変わった”。
いや、あるべき”姿”に戻ったのだ。
持てる力を十全に発揮できる”技術”を手に入れたカグに、少し前の気弱さは何処にもなかった。
追跡者たちも、ここまでくれば嫌でも分かる。
カグが、自分たちの手に余る相手だということを。
追跡者たちが、情けなくも撤退を考えた時だ。
「逃がしませんよ。あなた方を逃がせば、騎士フレミーに危害が及ぶ恐れがある。それから、僕が一切攻撃しなかったからと言って、攻撃できないと思うのは、些か早計ではないですか?」
その瞬間、カグの身体から炎が噴出した。
「それが・・・・・・・」
炎の中から現れたカグの姿を見て、フェリシアがうわ言のように呟く。
「えぇ、その通りです、フェリシア姫。これは炎却の衣です。これでも不完全ですけど」
炎で形作られた、胸当てに手甲。脚甲に羽衣のような襷、そして額当て。
その姿は、まるで武者のようであった。
本来、炎却の衣はカグを守る為の防具でしかなかった。
それを、創造神が自己防衛機能を持たせてしまったことにより、機能が暴走し、先の霊峰での姿となっていた。
衣の制御を手にしたカグは、昊斗たちの指導の元、少しずつではあるが炎脚の衣を使いこなしている。
そんなカグの姿を目の当たりにし、追跡者たちは身体の底から恐怖を感じた。
いや、恐怖など生温い・・・当てはまる言葉の無い、感覚が五人を襲っていた。
それが、契約する精霊からフィードバックされている感情だとも気が付かずに。
火の精霊たちにとって、カグは・・・・火の神カグツチは、自分たちを生み出した絶対的存在。”親”と呼べる存在である。契約者の命令で刃を向けてしまったのが、自分たちを生み出した絶対者だと知り、恐慌状態に陥り、炎却の衣を纏ったカグを見て、失神寸前まで追い込まれていた。
カグが一歩進み出た瞬間、精霊たちは限界を向かえ、それに引きずられる様に、追跡者たちも気絶してしまった。
全員が完全に伸びていることを確認したカグは、大きく息を吐き出し、炎却の衣を解除した。
「すみませんでした、フェリシア姫。お怪我は?」
しゃがみ込んだままのフェリシアの元へ歩み、手を差し出すカグ。
「大丈夫です・・・それにしても、さすがはルーちゃんと同じ神ですね・・・?!」
差し出された手を掴んだフェリシアは、カグの手が震えていることに気が付いた。
カグの顔を見つめるフェリシアに、彼は苦笑した。
「あれだけ訓練していても、人を攻撃することに恐怖を感じる・・・・・神であるのに、情けないですよね」
カグの言葉を聞き、フェリシアが必死に首を振った。
「そんなことはありません!カグ君は凄いです!アルターレ護国から来て、まだそう時間が経っていないのに、神である自分を変えようと、努力しているじゃないですか!私は、情けないなんて思いません!!」
”フェリシアの言う通りじゃ!”
辺りに力強い女性の声が響き渡る。
「?!この声って!」
声の人物をよく知るフェリシアは、辺りをキョロキョロと見渡す。
「少し前の主なら、絶対考えられぬ、見事な戦いじゃったぞ?もう少し、自信をもたぬか!」
カグたちがやってきた道から、何かを抱えた大人バージョンのルールーが現れた。
しかも、ソラトたちと同じデザインの戦闘服―玉露と同じタイトなロングスカートに大胆なスリットが入ったデザイン―を着ている。
「ルーちゃん?!」
突然現れたルールーに、彼女が近くにいたと分からなかったフェリシアは、色々な意味で驚いていた。
そんなフェリシアを尻目に、ルールーは抱えていた”荷物”をカグの前に放り投げた。
それは、カグが今しがた倒した追跡者たちと同じ格好をした女性だった。
じつは、追跡者は六人おり、一人は物陰に隠れて、もしもの時のために、動けるよう待機していたのだ。
そんな最後の追跡者は、生きているのが不思議なほど、ズタボロになっており、浅く呼吸を繰り返していた。
「それから、こやつが隠れていた事に気が付いておったのじゃろう?全く、余計な手間をかけさせよって」
腕を組んで、頬を膨らませて不満を漏らすルールーに、カグが笑みをこぼす。
「そっちは君が如何にかしてくれると思ったからね。だから、僕は目の前の敵に集中できたんだ。ありがとう、ルドラ」
「勝手な奴じゃな・・・・まぁ、格好良いところが見れたから、許してやるかの・・・・」
カグにお礼を言われ、腕を組んだまま、まんざらでもない表情をするルールーは、先ほどのカグの戦い思い出し、頬を赤くして小さな声で呟いた。
「え?何か言った?」
「な、何でもないのじゃ!」
首をかしげるカグに、ルールーは顔を真っ赤にして声を上げた。
「ルーちゃん、どうしてここに・・・?ソラトさんやトーカさんは!?エメちゃんのお父様の行方は!」
矢継ぎ早に質問するフェリシアに、ルールーは短く息を吐いた。
「ソラトたちなら、エメラーダを誰かに預けてから、各所に救援に向かうと言っておったぞ。それよりも、フェリシアよ・・・いくら切羽詰っておったからといって、妾を呼ばぬのは、あまりに酷くはないか?何処からでも駆けつけられるように、トウカたちが策を用意してくれておったのに」
帰りの船で起きた一件で、昊斗たちが、王都で大規模なクーデターが起きることを掴み、フェリシアから呼び戻される可能性を聞かされたルールーだったが、フェリシアから呼び戻されることはなかった。
フェリシアから伝わってくる焦りや動揺に、ルールーは居ても経っても居られなくなり、冬華に頼んで、一足先に王都へ帰ってきたのだった。
「で、ですが・・・ルーちゃんは、エメちゃんのお父様を探しに・・・」
それは言い訳でしかなかった。
ルールーのことを忘れていた訳ではなかったが、フェリシアの中でルールーを巻き込みたくない気持ちがあった。
そんな気持ちがフェリシアから伝わり、ルールーは真剣な眼差しで、フェリシアを見据えた。
「よいか、フェリシア。たしかに、エメラーダは妾の友達で、心配じゃから無理を言って付いて行った。じゃがな、妾にとっては、それ以上にフェリシアが心配なのじゃぞ?妾は、フェリシアと契約する”精霊”なのじゃ。主に何かあったら、妾はどうすればいい?」
「・・・・ごめんなさい」
頭を下げるフェリシアの頭を、ルールーが優しく撫でる。
「謝るでない・・・フェリシアは、少し頑張りすぎなのじゃ。あの時のフレミーのようにの」
ルールーに言われ、フェリシアはアルターレ護国へ向かう船でのことを思い出した。
あの時、フレミーは気張り過ぎた為に、倒れる一歩手前まで自分を追い詰めていた。
フェリシアは、そんなフレミーを心配し、昊斗たちにフレミーの説得をお願いをした。
そんな自分が、あの時のフレミーと同じ状態になっていたことに、気がつけずに居た。
――フレミーに、偉そうなこと言えないな――そう思うと、フェリシアの気持ちが軽くなり、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。
「・・・さぁ、フェリシア。どうするのじゃ?」
ルールーの問いに、フェリシアは顔を上げた。
「騎士団本部に向かいます。学園への救援依頼に!!」
それが、自分が今すべきことだと、フェリシアは確信した。
両親やドラグレアの事は心配だが、あの人たちを半人前の自分が心配するなどおこがましい、と気が付いた。
フレミーのことも心配だが、彼女が何処に囚われているか分からない以上、自分が闇雲に探しても時間の無駄だと思った。
だから、自分が出来る事は一刻も早く、学園の危機を騎士団本部に伝えることだと、導き出した。
自分が出来ない事は、きっとあの人たちがどうにかしてくれる、とフェリシアは兄や姉の様に慕っている四人の顔を思い浮かべる。
答えを出したフェリシアに、ルールーは笑顔を返す。
その横で、カグが自分たちが来た道を、見つめていた。
「では、フェリシア姫はルドラに任せて、僕は”彼女”の護衛に回りましょうか」
「え?」
誰の事を言っているのか分からず、フェリシアが首をかしげると、タイミングよく”彼女”はやってきた。
「あれ?姫様に、ルドラ様。それにカグツチ様も!こんなところで何してるの?」
現れたのは、学園へ向かっていたはずのミユだった。
「ミユ様?!どうしてこんなところに!?学園で姿が見えないと、ヴィーやアイリスちゃんが心配していたのですよ?!」
ミユの予知を聞き、学園内の生徒が避難する中、予知した本人の姿が見えないと、アイリスが血相を変えて探し回っていた。
まさか、学園の外に出ていたとは思いもよらず、フェリシアがミユに詰め寄る。
「え?!・・・えぇー・・と、その・・・・」
祭事巫女の裏の役目は、派遣先である国に知られてはならないと、きつく言われているミユは、どう説明したいいか、口篭ってしまう。
そんなミユに、カグが助け舟を出した。
「まぁ良いではないですか。こうして無事だったのですし・・・それで、巫女殿。何処へ行こうとしていたのですか?」
「あ、えっと、エメちゃんのところ!これを渡しに・・・・」
カグに問われ、スカートのポケットから取り出したのは、ミユがファルファッラのために作っていた”御守り”だった。
「・・・今からですか?」
御守りがどういったものか、フェリシアも知っていたが、王都全域が混乱する中、危険を冒してまで渡しに行くものだとは思えなかった。
だが、ミユの決意は固かった。
「今じゃないと、間に合わない気がするの・・・だからミユ・・」
一度は、学園へ戻ろうとしていたミユだが、突然御守りをエメラーダに渡さなければと、予知に似た強烈な思いが沸き起こり、同時にエメラーダの気配を遠くに感じ、そこへ向かっていたのだった。
ミユの思いを感じ取り、カグがゆっくり肯く。
「分かりました。巫女殿は、僕が送り届けます。それで宜しいですよね?フェリシア姫」
神であるカグに反論できるわけもなく、フェリシアは大きく息を吐いた。
「仕方ありません・・・・無理はしないでくださいね」
フェリシアから許可が下り、ミユが笑顔で頷く。
「うん!姫様たちも気をつけて!」
「妾が居るのじゃ、問題は無い!」
胸を張るルールーに、カグは彼女が倒した追跡者に一瞬目をやり、視線を戻した。
「あまりやり過ぎないようにね、ルドラ」
カグの言っていることがよく分からなかったルールーだったが、彼が見ていた方を見て、それがどういう意図の言葉か理解したルールーは、顔を赤くする。
「なっ!わかっておるわ!そ奴はちょっと手元が狂っただけじゃ!!」
うがー!と反論するルールーを、フェリシアが苦笑いしながら宥め、ルールーが落ち着いたところで、フェリシアたちはそれぞれが向かうべき場所へと走り出した。
遠くからは、激しい戦闘の音が聞こえ、未だ王都は混迷の中にあるのだった。
次回更新は、6月19日(木)PM11:00過ぎを予定しています。
変更の場合は、活動報告にてご連絡いたします。




