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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
騒乱 ルーン王国 編 
97/180

(7) 祭事巫女の裏の役目

「ふふふ・・・・・これで最後っと」


 建物の壁に、紋章の書かれた紙を貼り付け、外套を纏った女が笑みをこぼしながら、フードを取った。


 フードの下から現れたのは、ユーリの仲間である巫女のレーアだった。


 彼女は、マギハたちより先んじて王都へ侵入し、下準備を進めていた。


 今回の計画において、彼女の役割はかなり重要な位置を占めていた。


「さぁ、後はこの呪符を発動させれば、学生区内の生徒たちはウチの言い成り・・・・・ふふふ」


 彼女の貼り付けていたのは、フレミーに使った洗脳術を発動させるための呪符であり、今回はその呪符を大量に用いて学生区内に巨大な”結界”を構築、学生区内にいる全員を丸々洗脳しようとしていた。


 普通なら、大規模な術を行使する場合、大量の霊力を必要とするが、彼女が使っている呪符には元々霊力が込められており、それを決められた配置によって呪符同士の共振を発生させ、大規模洗脳術を発動させる出力を確保する仕組みをとっていた。

 レーア自身は、基点となる呪符にほんの少し霊力を注いでやるだけでいいので、さして力は必要ないのだ。


 今回の計画でユーリは、反国王派や話に飛びついてきた貴族たちの協力を取り付けているが、彼がルーン王国を自分のものにした際、親国王派の貴族たちの反発が考えられた。


 そこで、敵となりそうな反対勢力の子供たちを洗脳措置して、彼らを盾にユーリの王国を認めさせようと企てたのだ。


「これだけの大規模な物・・・ウチだから出来るのよね。見ていなさい、アルターレ護国の石頭ども・・・・」


 彼女の脳裏に、自分を馬鹿にしてきた巫女たちの顔が浮かび、そして自分を褒めてくれるユーリの顔が思い浮かんだ。


 レーアは、妖艶な笑みを浮かべて術を起動させようとした時だった。


「ねぇ、お姉さん。何してるの?」

「!?」


 突然、後ろから声を掛けられ、レーアは勢いよく振り返った。


 そこに立っていたのは、中等部の制服を着た少し小柄で、頭には”狐のお面”を乗っけている変わった少女だった。


 呪符を貼り付けるため、なるべく人目のつきにくい場所を選んでいたつもりだったレーアだが、まさか騎士団ではなく、生徒に見つかるとは思いもよらず、どうするべきか頭をフル回転させ始める。

 

「どうしたの?」


 不思議そうに自分を見つめる少女に、レーアは「下手に騒がれると拙い」と、取り繕うように咳払いした。


「ごめんなさい。急に声を掛けられたからお姉さん、驚いちゃった」

「そっか。ごめんね、お姉さん」


 屈託の無い可愛らしい笑顔を見せる少女に、レーアは何故か目の前の少女が”危険”だと思った。

 巫女としての勘なく、母国を出て十年近く、汚れ仕事もやってきた彼女の経験則からそう思ったのだ。


――すぐに目の前の少女を如何にかしないと。

 とレーアは周りに目を配る。


 レーアたちの居る場所は、洗脳術が発動する”結界”の外の為、今発動させても目の前の少女は影響を受けない。


 少女には個別に術を使わないといけない。

 そう考えたレーアは、残っていた洗脳術の呪符を外套の下の左手で握り、笑みを浮かべた。


「ごめんなさいね。お姉さん、ちょっと急いでるの。じゃーね。お嬢さんも、早く帰りなさい」

 すれ違いざまに、頭を撫でると見せかけ、右手で少女の額を触り、術を発動させようとしたときだ。


――あーあ、やっちゃった。

 

 そう、少女の口が動いた気がした。

 何を意味するのか、レーアが理解する前に異変が起きた。


「ぎっ!!」

 少女を触ろうとしたレーアの右手側から、突然雷の様な音が鳴り響き、形容しがたい激痛が走り、レーアは声にならない悲鳴を上げた。


 慌てて少女から右手を離し、レーアはよろよろと右手を庇いながら後ずさる


 掌を見ると、まるで火傷を負ったように赤く爛れていた。


「駄目だよ、お姉さん。ミユが着てるこの制服は、トウカお姉ちゃんとギョクロお姉ちゃんが、あらゆるじしょう?から護る為の力を篭めている物なの。だから、お姉さんが使った呪術が失敗して、その反動がお姉さんに跳ね返ってきたんだよ」


 レーアは、目の前の少女、ミユの言っていることが理解できなかった。


 確かに、洋服などに術を篭め、簡単な防御装備にする事はある。


 だが、あくまでそれは簡易的なものであり、専用に作られた物と比べ、気休め程度のものだった。


 だが、ミユの着ている制服は、”絶対に防ぐことが出来ない”レーアの洗脳術をいとも簡単に防いでしまった。

 制服でありながら、祭事用の巫女服や法衣と呼ばれる上級の対呪術防御が施された物など、専用品が霞んでしまうほど高性能な物だ。

 そんなものも作れる人間が、ルーン王国に複数居る?そして、自分が使ったのが呪術だと分かった、目の前の少女は何者なんだ?


 レーアは、背中に冷たいものを感じた。

「ボーっとして、どうしたの?お姉さん」


 声を掛けてきたミユが、クスクスを笑っているのを見て、レーアは小娘に馬鹿にされていると、怒りを露にし目つきが鋭くなる。

「あんた・・・・何者よ?」

 ドスの効いた声をさせ、ミユを威圧するレーア。


 だが、当のミユは怖がるどころか、笑顔を絶やすことはなかった。

「ミユ?ミユはね、アルターレ護国から派遣された祭事巫女。ミユ・ヤナカ・クロエだよ」


 ミユの自己紹介を聞き、レーアの頭の中が真っ白に漂白される。


 ルーン王国の祭事巫女が交代し、新しくきた祭事巫女が子供だ、と噂で聞いていた。

 別に珍しい話ではない。

 祭事巫女の最年少派遣年齢は、十六歳。

 周りからすれば、まだまだ子供だろう。


 だが、目の前の少女はどう見てもそれ以下。

 十三、四歳ぐらいにしか見えない。


――そんな子供を、母国は祭事巫女に選んだ?

 

「・・・・・・・・・ははは、あははははは!!」

 そう思い至り、レーアは笑いがこみ上げ、腹を抱えて笑い出した。


「あの国もヤキがまわったわね!噂には聞いてたけど、乗っ取り事件の影響で、多くの巫女を処分したって話だけど、そのツケで、お嬢ちゃんみたいなのを祭事巫女にするしかないだなんて・・・ふふふ」

 目じりに涙をためて、笑いを抑えるレーア。

 

 そんな彼女を見て、ミユがムッとした表情に変わる

「何が可笑しいの?」

 明らかに怒っているミユを見て、レーアも笑うのを止め、再びミユを睨みつけた。


「可笑しいに決まってるでしょ?”予知”に関してはそれなりのようね・・・・・・・いいこと思いついちゃった。ちょっと付き合ってもらうかしら?アンタに恨みは無いけど、お嬢ちゃんをズタボロにして、あんたを選んだ本国の奴らを後悔させてやるわ!!」


 レーアは、無事だった左手を外套の下から出すと、数枚の呪符を握っていた。

 洗脳術の呪符とは違う、緑の色紙の呪符。


「白虎!」

 短い言葉と共に、宙へ投げられた呪符が突然荒れ狂う風となり、大きな虎・・白虎の形となりミユを襲う。


 風の虎がミユに食いついた瞬間、白虎は荒れ狂う竜巻となり、その暴風の中にミユの姿が消える。

 竜巻と化した白虎を見つめながら、レーアは笑みを浮かべる。


「どう?生きながら全身を切り刻まれる感想は?痛いでしょ?怖いでしょ?予知を見て、ウチのこと止めに来たんでしょうけど、馬鹿正直にこんなところに来たのが、運の尽きよ!そして、祭事巫女じゃなかったら、こんな目に合わなかったのにね!」

 聞こえていないと分かりながらも、竜巻の中のミユに声を掛けるレーア。


「こんな親離れ出来てなさそうな小娘を祭事巫女にして、ウチは、能力不足?・・・・ふざけんじゃないわよ!」

 レーアは、アルターレ護国から逃げ出す前のことを思い出し、怒りをぶちまける。


 すると、遠くから怒号や爆発音が聞こえ始めた。


「拙い・・・もう始まったの?急がないと・・・・」

 思っていた以上に早く計画が動き出したと、レーアは背中の壁に張ってある呪符へと振り向いた瞬間、背中の竜巻が”弾けた”。


「ねぇ、ミユ言ったよね?この制服は、あらゆる事象から着ている人を護ってくれるって。”攻撃”なら何でも防ぐんだよ。それからお姉さんのこと、予知したわけじゃないよ。ただ、凄く濁った巫女の気配を感じて、学校を抜け出して来ただけ」


 驚愕したまま振り向くと、全身切り刻まれるどころか制服に汚れ一つ付いていないミユが不満そうに立っていた。


「?!・・・・う、嘘でしょ?何なのよ、その服は!!」

 訳が分からず、年甲斐もなく叫ぶレーア。

 そして、青い呪符と赤い呪符を取り出した。


「青龍!朱雀!!」


 それぞれの呪符が、水の龍と炎の鳥となり、一斉にミユへと襲い掛かった。


「分からないかなぁ・・・・・」


 ミユに当たる直前、水の龍と炎の鳥が、”蒼い炎”に包まれ燃やし尽くされる。


 何が起きたのか、呆然とするレーア。

 蒼い炎の切れ目の奥にいたミユを見て、彼女に起きた変化を目の当たりにしたレーアが、「化け物」と呟いた。


 ミユの頭には狐の耳と、腰の辺りには九本の尻尾が姿を現し、頭に載せていたお面を被っていた。

 

 しかも、先ほどまで感じることのなかった威圧感が、少女の小さな身体から放たれている。


「ミユ、あんまり時間が無いの。だから、もう終わりにするね」

 そう言って、ミユが右手を上げる。


 全身から、危険信号が発せられ、レーアは壁に向かって走った。


「う、動くな!」

 痛みで顔色を真っ青にしながら、レーアが壁の呪符に右手を置いて、振り向く。

 レーアの言葉に、ミユは右手を上げたまま動きを止める。


「ちょっとでも動いてみなさいよ。学生区に張り巡らせた洗脳術を起動させる・・・そうなれば、あんたのお友達も全部、ウチの言いなり・・・・・嫌なら、ウチの言うことを聞きな!」

 

 レーアに脅迫され、少し間を置きミユがゆっくりと右手を下ろした。


「いい子ね・・・・なら次は、その奇妙な制服を脱いでもらいましょうか?」

 勝ち誇ったように笑みを浮かべるレーア。


 一瞬、ミユの手が止まるが、ためらい気味に制服の上着に手を掛けた。

 勝利を確信したレーアが、呪符からほんの少し手を離した瞬間、レーアの後ろで何かが砕ける音がした。


「?・・・何?」

 何の音かと思い振り向くと、壁についていた右手が、肘の先から”真下”を向いていた。


「あ・・・あぎゃあああああ!!」

 自分の右腕が折れていると認識した瞬間、激痛が起こりレーアが絶叫した。


 制服にかけた手を離し、ミユはゆっくりとレーアに近づく。


「お姉さんも、”一度”は祭事巫女を目指したんでしょ?なら知ってるよね?祭事巫女になるには、最低でも、”予知・透視・念力”が使えないといけないって。ミユの力がさっきの”狐火”だけだと思ってたの?馬鹿な”レーア”お姉さん」


 名前を呼ばれ、レーアが滝のように汗を流しながらミユを見つめる。

「ウ、ウチの名前・・・・?!何で知ってるの?!」

 自分から名乗った記憶の無いレーアは、腕の痛みと相まって混乱の極みにあった。

 

 思ったとおりの言葉が返ってきたので、ミユは嬉々として説明を始めた。

「うん、知ってるよ。レーア・カゼハナ・・・十年前に、祭事巫女選抜試練第一段階で脱落。その後、能力の虚偽申告が発覚して祭事巫女候補から外され、さらには禁止呪術習得による能力喪失が明らかになり、巫女の地位剥奪直前に、アルターレ護国から脱走。以降行方不明・・・・・ねぇ、知ってる?祭事巫女はね、お姉さんみたいな脱走巫女の名前と顔、そして特徴を全部覚えてるんだよ。何故だと思う?」


 だが、ミユの問いに答えられるほど、レーアの思考は働いていなかった。


 腕の痛みに震えるレーアを見て、ミユはため息をついた。


「分からないかな?答えはね、祭事巫女には派遣先の国の祭事を取り仕切るって役目のほかにもう一つ、裏の役目があるの。それが、脱走巫女を発見次第、処罰すること・・・僧兵でもない巫女が荒事なんて意外かな?でも、祭事巫女選抜の最終試練は、中型魔獣を無力化する、だったでしょ?あ!・・・・お姉さんは”あんな簡単な”第一段階で脱落してたんだっけ?ごめんね、それじゃ分からないよね?」


 自分より一回りも年下の少女に完全に見下され、レーアは唇を噛んだ。

「能力を誤魔化さないと選抜試練を受けられなかったんだから、元々素質がなかったんだね。禁止呪術にまで手を出して、国から追われるなんて・・・可哀想なお姉さん」


 ミユの言葉に、レーアの中で何かが”切れた”。


「こぉの・・・小娘が、馬鹿にするなぁああああ!!!」


 残った左手で、懐から黄色の呪符を取り出すレーアだったが、ミユがお面の下で一睨みすると、右腕と同様に見えない力でレーアの左手が「ぐしゃっ!」と潰された。


「!!?ひ、左手がああああああああああっ!!」


 両腕が使い物にならなくなり、レーアはそのまましゃがみ込みうずくまってしまった。


「もう、抵抗しないでほしいな。ミユ、まだあんまり手加減できないから、間違ってお姉さんの身体を潰しちゃうかもしれないよ?」


 痛みに震えるレーアに、ミユが恐ろしいことを軽々しく口にする。


――あんまり怒らせないでね?


 暗にそう言ってくるミユに、レーアは自分がとんでもない間違いを犯した、と気が付かされていた。



 あの時、ミユを洗脳するのではなく、洗脳術を発動させて、早々にこの場から逃げるべきだったのだ、と後悔が滲む。


 後悔、先に立たず。

 そんな言葉を、身をもって教えられたレーアだったが、ここにきて彼女の”悪い癖”が出てしまった。

 

「お、お願いよ・・・・今までの事は謝るから・・・許して頂戴・・・・・ウ、ウチ・・無理やり協力させられて・・・だからお願い、助けて」

 そう命乞いを始めたのだ。

 情けなく、地面に額をこすりつけて。


 今までも、危険な状況で幾度となく無様に命乞いし、相手を油断させ隙を見て殺してきた。

 両腕を折られるほどの目に遭っておきながら、ミユをまだ何処かで普通の子供だと思っているレーアは、ミユの良心に訴えるように懇願すれば、泣き落とせると考えていたのだ。


「もう二度と、馬鹿な事はしないから、許し・・・ひぃ!!」


 懇願するように上目遣いをしようと、頭を上げたレーアの目に飛び込んできた光景を見て、彼女は悲鳴を上げ絶句した。 


 目の前に立ちはだかるミユの周りに、道端に置かれていた角材が十数本、レーアに頭を向けられて浮かんでいたのだ。

 まるで、その角材でレーアを攻撃しようとするかのように。


「勘違いして無い?ミユの役目は、脱走巫女の処罰なんだよ?逃げ出した後、今までお姉さんが何をしてきたか知らないけど、アルターレ護国から逃げ出したことに、変わりはないよね?そんなお姉さんをここで逃がしたら、ミユが怒られちゃうよ」


 お面で顔が隠れているが、レーアはミユが狐のお面の下で、恐ろしいまでの笑顔をしていると思った。


「それにね、ミユ。お姉さんのこと、許せないんだ・・・・・」


 レーアを見下ろすミユの威圧感が、一段と重くなる。


「ミユを祭事巫女に選んでくれたのは、ミユの大切な人なの。その人を馬鹿にしたお姉さんを、ミユは絶対許さない」


 ゆっくりと、ミユが右手を上げる。


「ま、待って・・・お願いよ・・・こ、殺さないで!」


 恐怖に顔を引きずらせ、レーアが情けなく地面を這って行く。


「バイバイ、お姉さん」


 無常に、ミユの手が振り下ろされ、角材たちがレーアへと殺到する。


「いやあああああああああああああああああああああああああああ!!」


 角材の突き刺さり土煙と轟音の上がる中、レーアの悲鳴が木霊する。


 音が止み、土煙が晴れると、そこにはレーアを避けるように角材が地面一面に突き刺さり、乱立していた。


「大事なことを忘れてるよ、お姉さん。巫女は人を殺しちゃいけないんだよ?」


 涙とよだれと鼻水を垂れ流し、完全に失神したレーアの傍にミユがしゃがみ込み、右手の人差し指を立てた。


 ポゥ、と淡い光が指先に点り、その指でレーアの額に何かを描き出すミユ。


 数分後、レーアの額に複雑な幾何学模様が少々歪に描かれ、ジュッと音を立てて模様が額に焼きつく。

 その瞬間、レーアの身体がビクッと一度跳ね、そのまま力なく地面に横たわった。


「これで、次に起きた時、お姉さんは”自分が何者で何処から来たのかさっぱり忘れてるよ”。良かったね、これで晴れて、”自由”だよ」

 ミユが、レーアの額に刻んだのは、記憶破壊の為の刻印である。


 これを刻まれた巫女は、記憶と共に巫女の力も全て失ってしまう。

 祭事巫女に就いた巫女のみに伝えられる秘法―もしくは外法とも言える―で、脱走巫女に対して祭事巫女が下す、最も重い罰でもある。


 そして、この刻印を刻まれ罰せられた巫女に対して、今後アルターレ護国は一切関知することは無くなるので、犯罪を犯した脱走巫女にとって、ある意味で自由になれたと言えなくもなかった。


 ミユは立ち上がって、レーアが貼り付けていた呪符を一睨みすると、呪符は青い炎に焼かれて灰と化した。


 これで、レーアの術は発動しないことを確認したミユは、耳と尻尾を仕舞い、顔につけたお面をいつもの定位置に戻した。


 その表情は、とても晴れ晴れとしたとは言い難い、複雑な表情をしている。

 スカートのポケットに手を入れ、中から折り畳まれた紙を取り出し、徐に広げるミユ。


 その紙には、「必見虎の巻!脱走巫女の上手な懲らしめ方!―初級編―」と達筆な文字で書かれていた。



「マダムの送ってくれた、この紙通りにやってみたけど、本当にこれでよかったのかな・・・?」


 表紙の紙をめくると、二枚目以降には「上手な挑発の仕方」とか、「力の行使を躊躇わない!」「悪人に慈悲などくれてやるな!」など、色々物騒な文言が書かれている。


 そして最後に、「これを読めば、大概の脱走巫女はあなたの前では無力!次は中級編、脱走巫女が仲間を連れていた時は!では、またお会いしましょう。 マダム・ヴァイオレット」


 と締めくくられていた。


 これは、マーナの手紙と共に送られてきたもので、シオンからの手紙にミユは喜んだが、内容を読んでがっくり肩を落としていた。


 脱走巫女の対処は、祭事巫女に一任されている為、巫女によって区々である。


 最年少で祭事巫女になったミユには、その指針が定まっていないと心配したシオンが、気を利かせて送ったのだ――ただ、昊斗そらとたちの影響を色濃く受けた感が否めない内容だが・・・・・・ 


「まぁ、マダムが書いてるんだから、間違いないよね?」

 大丈夫!と自分に言い聞かせ、ミユはレーアをその場に放置し、大通りへと出たが、出てきた路地裏へと振り返る。



 ”処罰が終わった脱走巫女に、必要以上関わらないこと”と、太い文字で書かれていたのでそのまま置いてきたが、ミユはやはり可哀想だと思って、近くに居た騎士団の団員に、あっちに人が倒れていました、と通報して学校へ駆け出した。



「すぐに戻らないと。フェリシア様やミーナたち・・・大丈夫かな?」


 ミユは、ルーン王国に来て”初めて見た予知”を思い出し、走る速度を速める。


 ”アイディール学園が武装した集団に襲われる”


 それが、ミユの見た予知だった。

 日にちまでは予知できなかったが、マーナの予知との関連を考えれば、今日起こるはず、とミユは確信していた。


 遠くでは、戦いの音が響き、通りに騒ぎを聞きつけ人が溢れかえり出している。


 

 人々はすぐに知ることとなる・・・・再び王都が戦場となることを。


次回更新は、6月8日(日)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご連絡します。

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