(4) 父の顔
「ここですね」
遅めの昼食を食べ終わり、昊斗たちは金糸雀の案内のもと、エメラーダの父親の写真があるかもしれない、といわれた写真館へと赴いていた。
「”立派な”建物だこと。さすがは当時唯一の写真館・・・随分と儲けていたようですね」
”ネーメト写真館”と書かれた看板を掲げる写真館を前に、玉露は何処か呆れたように感想を述べている。
それは昊斗たちも同じで、町の写真屋をイメージしていたので、もっと小ぢんまりとした佇まいかと思っていたが、そこに建っていたのは”屋敷”だった。
一見すれば、貴族屋敷に見間違えてしまいそうだが、入り口の左右にあるショーウインドウに飾られた何組もの家族写真が、ここが写真館だと主張している。
「でも、建物の手入れはあまりされてないね・・・・・」
冬華が建物を見渡しながら、亀裂の入った壁を触る。
冬華の言うとおり、とても立派な建物なのだが、建築から数十年と経った現在に至るまで、一度も補修らしい補修をしていないようで、壁の亀裂や欠落が目立っていた。
―写真も、色あせてます・・・・
エメラーダの見ているショーウインドウには、ロード国が存在していた頃からの写真が飾られているのか、経年劣化で色あせ、当時はどんな色をしていたのか今では窺い知ることが出来ない。
「ん?こっちは、綺麗なままじゃぞ?」
ルールーの見ていたショーウインドウは、入り口を挟んでエメラーダとは反対。彼女の言うとおりエメラーダ側と比べてかなり綺麗、と言うより最近撮られたばかりと思われる写真が飾られていた。
「これは、最近撮られた写真ですね・・・・でも、向こうの古い写真と雰囲気が違いますね」
二つを見比べる金糸雀の言葉に、他の面々が左と右の写真を見比べる。
「たしかに・・・・古い方は、いかにも貴族の威厳を収めたって固い印象で、新しい方は、撮られてる人たちがみんな一般人で、そして笑顔だな」
「時代が変われば、写真の中身も変わる、と言うところでしょうかね」
古い方の写真は、ほとんどが貴族個人を撮った写真かもしくは貴族の家族写真ばかりで、全員が緊張した面持ちに、椅子に座るか台座に肘をついて立っているかの二つの構図しかなかった。
対して、新しい方の写真は、今のロードを象徴するかのように、一般人の家族写真や観光できたであろう人々の写真が並び、どの写真も笑顔で溢れている。
「とりあえず、中に入ってみよう」
冬華を先頭に、全員が写真館の中へと入る、
「ごめんください・・・・・」
扉の呼び鈴が客の来訪を告げるために鳴る中、最初に昊斗たちの目に飛び込んできたのは、旧ロード国の王家が発行したと思われる、写真館第一号を証明する証書だった。
額縁に入ったそれは、建物や古い写真と同様に、日差しなどの影響で変色していた。
他にも、当時使われていたカメラや機材などが展示され、入り口だけ見ると、写真館と言うより写真博物館といった趣だ。
「はい!・・・・・・・・・・・・すみません、お待たせいたしました」
呼び鈴の音を聞きつけ、奥から出てきたのは、四十代と思われる丸縁メガネをかけた男性だった。
男性は、待っていた昊斗たちに一礼し、笑顔で応対する。
「ネーメト写真館へようこそいらっしゃいました。・・・初めての方ですね?私は、店主のエルヴィン・ネーメトと申します。今日はどういったご用件でしょうか?」
やってくる客の顔を覚えているのか、昊斗たちを一瞥し、店主のエルヴィンは受付のテーブルに置いてあった自身の名刺を取り、先頭に居た冬華に渡した。
「すみません。実は、写真を撮りにきたのではなくて、こちらにある方の写真が保管されているかもしれないと聞き、やってきたのですが・・・・・」
冬華は、エルヴィンに訪れた理由を事細かに説明した。
自分たちが、エメラーダの父親の行方を捜すため、手がかりを元に王都ディアグラムから来たこと。
歴史博物館館長で、元マルカス家執事のブラーム・スケールから、彼女の父親が、旧ロード国の貴族マルカス家の嫡男であるハーフェン・マルカスであることを告げられ、そしてその昔、マルカス家がこの写真館で家族写真を撮っていることを聞き、その写真かネガが残っていないか、調べに来たと、包み隠さず話した。
「もし残っているのなら、拝見させていただけませんか?」
頭を下げる冬華たちに、エルヴィンは困った顔をして頭を掻く。
「・・・・・・なるほど。あ、立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
そういって、エルヴィンは入り口の奥まったところに置いてある、テーブルへと昊斗たちを案内し、入り口に掛けてあった営業中の札を準備中に変えた。
「すまない、お客様六人分のお茶を持ってきておくれ」
その足で、エルヴィンは先ほど出てきた店の奥へと続く戸口に向かい、お茶を持ってくるよう指示を出す。
奥から女性の返事する声が聞こえ、エルヴィンは昊斗たちの所へと戻ってきた。
「お待たせしました。過去に撮られた写真のことについてですね。実は、皆さんの様な方は結構多いんですよ。お祖父さんが貴族だったと聞いてどんな姿だったのか知りたくて、という方や、当時の貴族文化を調べている、という方などが・・・・結論から言うと、あるにはあります」
エルヴィンの言葉に、旧ロード国の頃の写真が保管されていると分かり、ルールーとエメラーダが嬉しそうにはしゃぎだすが、昊斗たちは、エルヴィンの含みを持った言い方に眉をひそめた。
すると、奥からトレーにお茶の入ったカップを載せて女性が出てきた。
「どうぞ・・・・」
何処か疲れたような表情で、笑顔一つ見せずに、女性はカップを置いていく。
「あ、すみません」
カップを受け取った冬華に、目を合わすことなく女性は頭を下げて立ち去ろうとする。
「悪かったね」
エルヴィンが声を掛けると、軽く会釈をして女性は奥へと引っ込んでいった。
女性は、エルヴィンの奥さんで、少々気難しい性格をしているらしく、彼女の無愛想な対応に対して、エルヴィンは昊斗たちに「申し訳ない」と謝罪した。
「・・・・あるにはある、ですか?」
気を取り直して、昊斗は先ほどのエルヴィンの言葉の真意を、本人に質問する。
エルヴィンは、奥さんの入れたお茶に口をつけ、一呼吸置いてから話し始めた。
「はい・・・・・・私はここの二代目で、当時王族や貴族相手に写真を撮っていたのは、先代である私の父でした。父は朴訥な人で、仕事に対して誇りを持ち、今まで撮ってきた写真のネガを全て保管していました。お客様が、写真を無くしたり焼き増しを頼みに来るかもしれない、と言って・・・・・・ですが、その父が五年前に急死し、私がこの写真館を継いだのはいいのですが、父が撮ってきた写真のネガが保管された保管庫の暗証番号を、私は聞いていなかったんです。しかも、父はその暗証番号の控えを残しておらず、多くの鍵屋さんに頼みましたが、結局保管庫が開くことはありませんでした」
エルヴィンは、申し訳ないと頭を下げた。
「ですので、ここに写真はありますが、取り出すことが出来ないのです。申し訳ありません、折角ここまで足を運んでいただいたと言うのに」
―そ、そんな・・・・・・・・
すぐ近くに父の手がかりがあるのに、それが手に入らないと分かり、エメラーダは目に見えて落胆する。
「な、何とかならぬのか?もうその写真しか、エメラーダの父の顔を知る手がかりはないのじゃ」
「私としましても、お話を聞いて力になりたいと思うのですが、こればかりは・・・・・」
必死に食い下がるルールーに、エルヴィンは悲痛な顔で頭を下げる。
「ちょっと、いいでしょうか?」
すると、玉露がスッと手を挙げ、エルヴィンに声を掛ける。
「その保管庫、拝見させていただきたいのですが、よろしいですか?」
玉露の申し出に、エルヴィンは首をかしげる。
「?・・えぇ、それは構いませんよ。こちらです」
そう言って、エルヴィンは立ち上がり、撮影所と書かれた扉を開け、昊斗たちを中に招き入れた。
建物が大きいだけあって、撮影スペースが幾つも存在した。
だが、使われているのはニ〜三箇所だけらしく、使われていないスペースは完全に物置と化している。
そんな物置の一つまで歩き、エルヴィンは大きな”箱”の前で止まった。
「これが、父がネガを保管している保管庫です」
金属製の保管庫は、軽く衣装ダンス数棹分はありそうな大きさで、そこに鎮座している。
「失礼・・・・なるほど、オーソドックスなダイアル式。六つのダイアルの数字を組み合わせるものですか・・・一つのダイアルの数字がゼロから九十九まで。正攻法で攻めたら、相当な期間を要しますね。壊して中身を取り出そうとは思わなかったのですか?」
最もな意見に、エルヴィンは憎らしげに保管庫を見つめ手を添えた。
「この保管庫は、当時帝国でも定評のあった物らしく、無理にこじ開けようとすると、保管庫内に腐食ガスが噴出して中のものを全部駄目にしてしまう防犯装置が付いているそうです。それに、連続で十回ダイアルの番号を間違うと、完全にロックが掛かってしまい、製作した所に問い合わせないと、中のものが二度と取り出せなくなってしまうんです」
当時、嗜みとして貴族を中心に写真が流行り、数多くの写真が撮られた。そんな写真が悪用されないためにネガやフィルムの保管には相当神経を使ったらしく、かなり無理をして父親が購入したと、エルヴィンが説明した。
「では、この保管庫の製造元に問い合わせてみれば・・・」
金糸雀の問いに、エルヴィンは首を横に振った。
「これを作った会社は、もう二十年前に倒産しているそうで、しかも倒産のドサクサで保管庫に関する情報は殆ど残っていないらしく、帝国内では現在、この保管庫の使用は禁止されているそうです。ですが、この保管庫を中に入っている物ごと、おいそれと処分するわけにもいかないので」
そう言って、エルヴィンは俯いてしまった。
無表情で、考え込んでいた玉露が、静かに口を開いた。
「・・・・・もし宜しければ、この保管庫。私たちが開けてみてもよろしいですか?」
玉露の提案に、エルヴィンはガバッと顔を上げ、驚いた表情を作る。
「え!?」
「ご心配には及びません。こういうの結構得意なんですよ。この子が」
自分ではなく、金糸雀を前に押し出す玉露。
「あ、やっぱりわたしなんだ」
指名された金糸雀も、こうなるだろうと予想していたようで、反論することなく、只ため息を漏らすだけだった。
「・・・・・・まぁ、完全にロックされるまで、まだ余裕がありますし、一度だけなら」
今まで鍵の専門家でも開けることが出来なかった保管庫の鍵を、目の前の可憐な少女が開けることなど出来るはずが無いと思うエルヴィンだが、その一方では「もしかしたら」と思う気持ちが何故だか沸き起こっていた。
持ち主の許可も下りたことで、断れる状況でなくなった金糸雀は、もう一度ため息をつく。
「分かりました・・・・・・玉露ちゃん、手伝ってくれるんだよね?」
提案した人間が逃げないよね?と言わんばかりに、ジト目で玉露を見つめる金糸雀。
「仕方ありませんね・・・すみませんが、皆さんは少し離れていていただけますか?」
手伝わなかったら、あとで色々と言われそうだ、と玉露も諦めて、保管庫の前へと立つ。
「あのお二人は、鍵の専門家か何かなのですか?」
言われたとおり、保管庫から離れた昊斗たち。
徐に保管庫の周りを見回る二人を見て、エルヴィンはそんな疑問を昊斗に漏らしていた。
「いいえ、違います。ですが、”セキュリティなどの解除”は得意ですよ」
違うと言いながら、昊斗とその隣に居る冬華が自信ありげに二人を見守っていることに、エルヴィンは首をかしげる。
そうこうしていると、金糸雀と玉露が数度言葉を交わしたかと思うと、金糸雀が目にも止まらぬ速さで、ダイアルを回し始め、ものの数秒で六個全部を回し終えると、保管庫からカチャンと音が聞こえた。
「・・・・・・・開きました」
「は?!」
金糸雀の言葉に、エルヴィンは驚き保管庫へ駆け寄る。
「どうぞ」
金糸雀から場所を譲られ、エルヴィンは保管庫の開閉用ノブに手を掛け、下へと回す。
「!?・・・・ま、まさか、本当に・・・・」
今まで、ビクともしなかったノブが重い金属音を響かせてまわる。
そして、主であったエルヴィンの父が死んで五年間、一度も開くことのなかった扉が、ゆっくりと開いた。
エルヴィンは、どうやったのか?と問う様に金糸雀たちを見つめるが、二人は「企業秘密です」とやんわりと濁した。
―す、すごいです!
「さすがは、ギョクロとカナリアじゃな!」
開かないと言われていた保管庫が開いたことに、エメラーダとルールーが興奮している中、エルヴィンは中に保管されていた封筒を一つ取り、中からネガを取り出して、一枚一枚確認し始めた。
「間違いない・・・父の撮った物だ」
エルヴィンの父が撮った写真のネガは、全て保管庫になおしていたため、エルヴィンも父の作品を見るのは五年ぶりとなる。
少しは追いつけたかと思っていたエルヴィンだが、父のネガを見て、まだまだだと思い知らされた。
「あの、エルヴィンさん。マルカス家のネガは・・・」
自分の世界に入り込んでいたエルヴィンに、冬華は恐る恐る声を掛けた。
「あ!すみません・・・父の性格なら名前順に並べているはずです・・・・・ま、ま、ま・・・・?おかしい。マルカス家のがありません!」
声を掛けられ、我に返ったエルヴィンは、マルカス家のネガを探すが、何故か見当たらなかった。
もしかして、別の場所に入っているのでは、と必死に探し始めるエルヴィン。
だが、幾ら探しても、”マルカス家”と書かれた封筒は見当たらなかった。
「・・・・・・やっぱり無い。そんな馬鹿な・・・父はマルカス家のご当主だったファビオ様と身分を越えた友人だったと聞いています。そんな父が、マルカス家のネガを手放すなんて、ありえない!」
彼自身、当時の事は子供だったのでよく覚えていないのだが、成人してからよく父親がマルカス家のことを話していたので、父とマルカス家の当主に繋がりがあった事は知っていた。
だからこそ、父がマルカス家のネガをぞんざいに扱うとは思えなかったのだ。
「・・・!エルヴィンさん、そこ!隠し戸じゃないですか?」
項垂れるエルヴィンの横で、冬華が扉の陰になっている部分を指差す。
「えっ!?・・・こ、これは」
冬華の指差す先を丹念に調べると、蓋が上へとスライドし、中から他の封筒より小さめの封筒が出てきた。
その封筒の表には、丁寧な字で、こう書かれている。
”これが、マルカス家の血に連なる者の手に渡ることを祈って”
エルヴィンは、封筒を開け中を調べると、一枚のネガが入っていた。
「ネガだ・・・・・」
取り出されたネガを見て、エメラーダは呆然としていた。
―あった、です・・・・・
「うん・・・うん!あったのじゃ!!エメラーダよ、あったのじゃぞ!どうしたのじゃ、もっと喜ばぬか!」
そんなエメラーダに、ルールーは肩を持って揺さぶり、喜びを爆発させる。
―うん、ルールー・・・・・・あったよ・・・・
喜ぼうとするエメラーダだったが、そのまま泣き出してしまう。
そんな中、エルヴィンは、封筒の底にもう一つ何かが入っていることに気が付き、封筒を逆さまにする。
すると、封筒と同じ筆跡で”エルヴィンへ”と書かれた封書が出てきた。
「これは・・・・・父の手紙?」
エルヴィンは封を切り、中から便箋を取り出し、広げた。
「えっと、「これをお前が読んでいると言う事は、私はすでにこの世にいないと言うことだろう。この手紙と一緒に入っているネガは、贔屓にして頂いたマルカス家の家族写真のネガだ。ファビオ様が処刑され、私の手元にあった写真やネガは全て宰相たちに没収されてしまった。だが、この一枚だけを、何とかし死守し、保管庫の隠し戸の中に隠しておいた。今までお前に何一つ頼んだことはなかったが、唯一つだけ、息子であるお前にしか頼めないことを、頼む。いつか、マルカス家に・・・いや、ファビオ様の血に連なる方が写真を求めて訪ねられたら、お前の手で写真を渡して欲しい。そして、叶うなら、その方々の家族写真を、お前の手で撮ってくれ。以上」・・・・・・・相変わらずだな、父さん」
飾り気の無い文章に、エルヴィンは懐かしさがこみ上げてきた。
だが、彼はすぐに手紙を封筒の中へとなおし、エメラーダの方へと向く。
「エメラーダさん・・・・すぐに写真にしてきますので、待っていてください」
ネガを片手に、エルヴィンは現像の為、暗室へと入っていく。
―は、はい!お願いしますです!!
そんな背中をに、エメラーダは期待を込めて一礼するのだった。
「お待たせしました・・・・・・これが、マルカス家最後の当主、ファビオ様とそのご家族の写真です」
暗室から出てきたエルヴィンの手には、立派な額に入った写真が握られていた。
それを受け取ったエメラーダは、写真の中の人物をマジマジと見つめる。
―これが・・・・お父さんと、こっちがお祖父ちゃんとお祖母ちゃん
幼いとはいえ初めて見る父の顔と、若い祖父母の顔に、エメラーダはどう反応していいのか分からないのか、困ったように写真を見ていた。
「他の貴族たちと違って、幸せそうな写真だな」
そんなエメラーダの横から写真を見ていた昊斗たちは、写真に写るマルカス家の人々が他の貴族たちとは違い、笑みを湛えて写っていることに気が付いた。
まるでその時、本当に幸せな時間が流れていたのだ、と証明するかのように。
「うん、そうだね・・・?あれ、このハーフェンさんとお母さんとの間が開いてるの、何でだろう?」
冬華は、椅子に座っているハーフェン少年と母親の間に、不自然な隙間が開いているのを疑問に思った。そこにハーフェンより小さな子が座るために空けているかのようにも、見えたからだ。
―あの、エルヴィンさん・・ありがとうございますです
気持ちに区切りをつけたエメラーダが、写真の入った額を胸に抱き、エルヴィンにお礼を言って頭を下げる。
そんなエメラーダに、エルヴィンは首を振った。
「いいえ、私の方こそお礼を言わせてください。ずっと開ける事の出来なかった保管庫を開けていただき、ありがとうございます。これで、エメラーダさんのように、ご家族の写真を待たれている方々に送ることが出来ます」
今まで、写真を取りに来て渡せなかった人々に、やっと送ることが出来ると、エルヴィンは何度も感謝の言葉を口にした。
エルヴィンに見送られ、写真館を後にした昊斗たちはその後、今日泊まる宿を探し、町でも対応がいいと評判の宿に泊まることにした。
部屋について早々、一日に色々とあったせいか、エメラーダとルールーはすぐに寝入ってしまった。
明日以降の行動を決めようと、話を始めようとした昊斗に、玉露と金糸雀が精神空間での会話を申し出てきた。
首をかしげる昊斗と冬華だったが、二人の様子が何処か変だと気が付き、承諾した。
「で?どうしたんだ、二人とも」
精神空間に移動しても、一向に話し出さない玉露たちに、昊斗が声を掛ける。
「・・・・・・・・・まぁ、このまま黙っているわけにも行きません、ね」
大きく息を吐き出し、玉露が先ほど写真館で貰ったマルカス家の家族写真の画像を映し出した。
「金糸雀と二人で、このハーフェンさんの現在の顔をシミュレートしました・・・・・」
一緒にシミュレートした金糸雀は、なぜが一言も発することなく、終始俯いている。
「これが、現在のハーフェンさんの顔の予測データです」
そう言って、玉露が幼いハーフェンの顔の画像を見ると、画像の中の顔が成長し始める。
ものの十数秒で予測されるハーフェンの現在の顔へと変わり、その顔を見て昊斗と冬華は絶句した。
「そ、そんな・・・・・」
そう、その顔は彼らがよく知る人物そのままだったのだ。
「一応、記録していた”あの方”の画像から骨格データを取り出して検証しましたが、九十七.八ニ%の確率で、本人に間違いありません」
玉露たちの演算能力に疑いを持っていない昊斗たちは、その答えが間違いようない事実であると分かり、頭を抱えた。
「フォルトさんが・・・・・・エメちゃんのお父さん?」
彼らの前に映し出された画像に映る人物。
それは、ルーン王国アルバート騎士団団長のフォルト・レーヴェ、その人だった。
玉露たちが言い淀んでいた理由が分かり、昊斗はどうすべきか・・・エメラーダにどう伝えるべきか、頭を抱える。
「・・・・・ファルさんには、父親の正体や行方が分かったらエメラーダに伝えて欲しいって言われてるけど・・・・これはな」
ファルファッラには、相手が所帯を持っていても、それは仕方の無いことだと割り切っていた節があったが、娘のエメラーダはそうは行かないだろうと、昊斗は考えた。
父親に別の家族がいると判ったら、もしかすると、母と自分を棄てて別の女性に走ったと考えてしまうかもしれない、と昊斗は悪い方へ思考が転がっていく。
「私は、包み隠さず説明するべきだと考えます。あの子ならちゃんと理解してくれると思いますよ」
だが、玉露は昊斗とは違う意見を持っていた。
彼女の考えを聞き、冬華と金糸雀も賛成するように、肯いた。
「・・・・うん。私も、玉露ちゃんと同じ考えだよ。エメちゃん、最初は困惑するだろうけど、あの子なら大丈夫。だって、エメちゃんは強いもん」
「私も二人と同意見です。彼女は、きちんと受け止めるだけの強さがありますよ」
女性陣の意見を受け、昊斗はエメラーダの過去のことや子供だからといって、彼女を腫れ物の様に扱っているのでは、と思い至り、その考えた自分が恥ずかしくなった。
もし、エメラーダが普通の子供なら、すでに何処かで精神的に潰れていただろう。
だが、彼女は母の死を目の当たりにしても、前を向いて歩いている。
確かに、それはエメラーダの”強さ”と言えるものだった。
「もしもの時は、俺たちが支えればいいか・・・・・」
「うん。それに、今のエメちゃんには心配してくれる人たちが、沢山居るもの。大丈夫だよ」
こうして全員の意見が纏まり、昊斗たちは、明日エメラーダに父親の行方を教えることに決めたのだった。
次回更新は、5月23日(金)PM11:00過ぎを予定しています。
変更の場合、活動報告にてご連絡したします。




