(3) 手がかり
時間を少し遡り。
目的地である国境都市ロードに到着した昊斗たちは、その足である場所へと向かった。
【旧ロード国歴史博物館】
その名の通り、ロード国の興りからルーン王国の一都市となるまでの歴史を紹介する場所である。
国としてのロード国が消えて三十年近くが経ち、当時のことを調べるならここがいいだろうと、ルーン王国国王カレイドに教えてもらったのだ。
入り口で、入場券を購入し中へと入る一行。
歴史博物館と言うだけあって、当時の資料や使われていた道具、王家由来の品々が多数展示されていた。
到着した時間が、昼下がりの午後だった為か、はたまた”博物館”だからか、入館している客の姿は殆どなく、まさに貸切状態であった。
「マスター、これを」
一つずつ展示品を見てまわっていると、昊斗はある一角で足を止めていた玉露に呼ばれた。
彼女が指差す先にあったものを見て、昊斗は小さく肯いてみせた。
「ファルさんから預かってる手がかりのペンダントと同じものだな」
そこに展示されていたのは、昊斗がファルファッラから預かり、今はエメラーダの首に掛かるペンダントと同じものが複数並んでいた。
ペンダントの説明文には、当時国王が優秀な働きをした貴族に対して、勲章と共に与えていた記念のペンダント、と書かれていた。
表にロード国王家の紋章が彫られ、裏には叙勲を受けた貴族の紋章が彫られる、と説明が続いており、昊斗たちの予想が見事に的中した。
「昊斗君、こっちにきて」
今度は冬華から呼ばれ、昊斗と玉露が、ある展示の前に集まっていた冬華たちの元へと向かう。
「何々・・・・・”栄光ある王家と貴族二十六家の紋章”。そのレリーフか」
展示の中で一際大きなそれは、ロード国の王家の紋章を中心に、王家に仕えていた二十六もの貴族の紋章が彫られた巨大なレリーフだった。
下には、レリーフを説明する文と、そこから先には各貴族に縁の品々が家ごとに展示されていた。
「エメラーダよ。主の身につけておる”それ”と、同じ紋章があるかの?」
―ちょっと待ってです。えっと・・・・・
首にかけていたペンダントを取り出し、ルールーと二人で、裏側の紋章と同じ物を探すエメラーダ。
ー・・・・・・・・・あ、あれ
上から順に指差しながら探していると、エメラーダの手が止まる。
「ん?・・・あれか?他のものに比べて、随分ボロボロじゃな。掠れてよく見えん」
ルールーの言うとおり、エメラーダが指差した紋章のレリーフは、他のものに比べてかなり見えづらくなっている。
まるで、故意に削り取ろうとしたような印象を、昊斗たちは感じた。
「えっと、あの紋章は”マルカス家”の紋章だって・・・・・・・・・・・あれ?この家だけ、何の展示もない?」
各家の展示スペースには、貴族としての始まりから終わりまでの簡単な歴史に、初代当主の肖像画などの物品が多く展示されているのだが、マルカス家だけ何も展示がされておらず、ぽっかりと空白となっていた。
「どういうことだろ?」
首をかしげる冬華たち。
そんな中、昊斗は周りを見渡し、博物館のスタッフを探す。
すると、スタッフらしい女性が客の老夫婦に展示品を説明をしているのが、目に入った。
少し待っていると説明が終わったのか、老夫婦は女性に何度もお礼を言いながら別の展示品へと向かっていた。
女性が手隙になったのを確認して、昊斗は女性の下へ歩いていった。
「すみません」
「はい、どうされましたか?」
五十近いスタッフの女性は、声を掛けてきた昊斗に驚く素振りも見せず笑顔で応える。
「あそこにある、マルカス家の展示だけ何も飾れていないのは、どうしてですか?」
昊斗の質問に、女性の笑顔が突然固まる。
「あ・・・・それは、ですね」
先ほどの老夫婦にハキハキと説明している時とは打って変わり、歯切れの悪くなる女性。
その様子に、昊斗は何か言いづらい事情があるのでは、と思っていると、スタッフ専用の扉が開き、中から初老の男性が出てきた。
出てきた男性を見て、スタッフの女性は「丁度よかった!」と小さく声をこぼす。
「申し訳ありません、少々お待ちいただけますか?」
そういって、女性は昊斗を置いて男性の元へ掛けていき、何かを説明し始めた。
「何か分かった?」
戻ってくるのが遅いから、と冬華が様子を見にきた。
「いや。ちょっと待っててくださいと言われて、待ちぼうけをくってる」
冬華と話しをしていると、女性ではなく男性の方が昊斗たちのところへやってきた。
「お待たせしてしまいまして、申し訳ありません。私、当館の館長を務めておりますブラーム・スケールと申します。マルカス家についてお聞きしたいと?」
館長のブラームと名乗る男性は、年齢を感じさせない動作で昊斗たちの前に立った。
その一つ一つの動きは、まさに訓練された執事を彷彿とさせるものだ。
「えぇ。我々はある人物を探していまして。その方がロード国に縁のあると分かり、こちらで手がかりがあるのでは、と探していましたら、どうやらマルカス家と関わりがある、と分かりまして・・・・」
「人探し、ですか?」
昊斗の説明に、ブラームはほんの少し驚いた表情を作った。
冬華は、エメラーダに手招きして呼び寄せ、彼女の両肩に手を置いた。
「エメちゃん・・・・・探しているのは、この子のお父さんなんです」
エメラーダは、母親由来の特徴のある耳を隠していないため、ひと目で亜人だと分かり、ブラームは怪訝な表情をした。
「はぁ・・・・・・?!そ、それは!!」
だが、エメラーダの胸の前で揺れるペンダントを見てブラームの表情が一変し、驚いて彼女に駆け寄った。
膝をつき、手を震わせながらペンダントを見つめるブラーム。その様子に、全員が呆気に取られた。
―あ、あの・・・・・・
どうしたらいいか判らず、”声”をかけるエメラーダ。
すると、ブラームは顔を上げ、エメラーダの顔も見つめた。
「お、お嬢さん。こ、これを、何処で?!」
―お、お母さんが昔、お父さんから貰ったものだと、言ってたです・・・・それを、わたしがお母さんから、預かって・・・
まだ幼いとはいえ、様々な経験をしてきたエメラーダは、とても子供とは思えない落ち着いた受け答えをする。
彼女の言葉に、ブラームは天を仰いだ。
「・・・・生きておられた。あの方が・・・・その宝石の様な緑の瞳。確かに、あなた様はマルカス家の血を引いておられる」
そして、目から大粒の涙を流しながらもう一度エメラーダの顔を見つめながら、彼女の手を取り頭をたれた。
「あの、ブラームさん?」
状況についていけず、困惑する昊斗たちに、ブラームはハッとして立ち上がり、ポケットからハンカチを取り出して、涙を拭った。
「!も、申し訳ありません。お見苦しいところを・・・・まさか、ここでマルカス家の血を引くお方にめぐり会えるとは思ってもいなかったもので。実は私、その昔マルカス家に執事として仕えておりました」
そう言って、ブラームはマルカス家について説明を始めた。
マルカス家は代々、国王に仕える名門貴族の一つで、歴代当主はその高い能力で国王たちの信頼を勝ち取り、ブラームが仕えた当主ファビオの頃には、国の財務を任されるほどにまでなっていた。
ファビオには妻と幼い息子が一人おり、家族には幸せな時間が流れていた。
だが、そんな幸せは長くは続かなかった。
突然ファビオに、宰相を始め、他の貴族たちから、横領の嫌疑が掛けられたのだ。
当時貴族たちが民に使われるべき金を、己の贅沢三昧のために使い込み国の財政を圧迫していた。貴族たちは己の贅沢を続けたいがためにその事実を伏せ、財務を担当するファビオ一人が使い込んだのだと、罪をなすりつけてきたのだった。
しかも、ファビオにとって運が悪かったのが、先代から王位を継いだ当時の国王が、歴代国王の中でも”役立たず”と国民から陰口を叩かれる無能王で、この件に関して全て宰相に一任してしまったことだ。
最後まで、無実を叫んだファビオに下された処分は即刻死刑。
残された家族も、財産没収・家名剥奪と言う厳しい処分が降され、妻と息子は人知れず国を去って行った。
だが、このような無茶苦茶が通る国がいつまでも存続できるはずもなく、ファビオが処刑されて数ヶ月と経たずに国は立ち行かなくなり、最終的にルーン王国へと併合されることとなったのだった。
「併合後、ファビオ様に横領した事実はないと判明し、この件に関わった貴族全員が処罰されました。しかし、それで過ぎ去った時間が戻るわけではありません。ですが、だんな様の罪が消えたことを国を去られた奥様たちにお伝えすべく、私たちマルカス家に仕えていた使用人たちは、奥様と坊ちゃまの行方を捜しました。しかし、分かった事は、国を出て程なくして奥様は自ら命を絶っていたこと。残された坊ちゃまの行方を、だれも知らない、と言うことだけでした」
ここで、ブラームは話を区切り、一呼吸置いた。
話が長くなり、ブラームとエメラーダ、それにルールーは通路に設置された休憩用の椅子に座り、昊斗たち傭兵はそのまま立って話を聞いている。
「あなた様がお持ちになっているペンダントは、旦那様が坊ちゃまにお渡しなったのものです。つまり、あなた様のお父様は私が仕えていたファビオ様のご子息である、ハーフェン様で間違いないと思われます」
―ハーフェン・・・それが、お父さんの名前・・・
ここに来てやっと父親の名前を知ったエメラーダ。
実のところ、母親であるファルファッラも父親である男の名前を知らなかった。
『名前なんて知らなくたって、私もあの人も関係なかった。私たちの間では名前を知らないなんて、瑣末な問題だったのよ』
と、言ってのけたファルファッラに、昊斗たちは呆れるしかなかった。
とにかく、父親の名前が判明したことで一歩前進した昊斗たち。
だが、それだけではまだまだ不十分なのは明白だった。
「ブラームさん。そのハーフェンさんの肖像画か何か残ってはいませんか?幼い頃の顔が分かれば、今の顔が予想できるのですけど」
そう、現在の顔が分からない以上、子供の頃の顔から逆算するしか方法がないのだ。
だが、ブラームは目を伏せ首を横に振った。
「先ほども申しましたが、マルカス家に関する品は殆ど没収・処分となっており、特にご家族の肖像関係は優先的に処分されてしまい、何も・・・・・・・・・・」
「そうですか・・・・・・・」
分かってはいたが、そう世の中上手くは行かない。
この後どうするかを、昊斗たちが考え始めた時だった。
何かを思い出したかのように、ブラームが「あっ」と声を漏らした。
「・・・・・・・・・待って下さい。もしかしたら・・・・ご家族で撮られた写真が残っているかもしれません!」
記憶を辿るように、言葉を紡ぐブラームに冬華がズイッと詰め寄る。
「写真!本当ですか!?」
「はい。当時、国境を接する帝国からキャメラが持ち込まれ、国に唯一の写真館が出来ました。その記念で、貴族の方々がご家族で写真を撮られたのです。もしかすれば、その時の写真が写真館に保管されている可能性が」
その写真が残っていれば父親探しは大きく前進する。
エメラーダとルールーも昊斗や冬華の様子から、有力な情報が手に入ったのだと分かり、お互いに顔を見合わせ笑顔を浮かべる。
「あの、その写真館って何処に?」
逸る気持ちを抑えながら、チーム内でマッピング担当の金糸雀が、ブラームから詳しい場所を教えてもらう。
「お忙しい中、時間を割いていただきありがとうございます、ブラームさん」
博物館での用事を済ませ、建物を出た昊斗たち。
ブラームは、そこまで見送らせて欲しいと、一緒に出てきた。
「いいえ。こちらの方こそ、ハーフェン様のご息女にお会いでき、さらにほんの少しですがお助けできたこと、とても光栄でした」
行方が分からず、どうなっていたか分からない、主人の息子が、少なくともマルカス家の血を残していたことに、ブラームはここ数十年で一番、喜ぶべきことと歓喜していた。
―ブラームさん。ありがとうございますです
エメラーダが、深々とお辞儀をするのを見て、ブラームは最上級の敬意を表すため、表にも拘らず、その場に跪いた。
「お父様にお会いできるようこのブラーム、お祈りいたしております。お体に気をつけて」
―ブラームさんも、お元気で。お父さんに出会えたら、また来るです
跪いたブラームの膝に置いた手をとり、エメラーダがにっこりと笑みを浮かべる。
その姿が、エメラーダの父であるハーフェンに、そしてその父でありブラームの主であったファビオの姿とダブって見えた。
「!御心使い、痛み入ります・・・・お嬢様」
昊斗たちと共に、去っていくエメラーダの後姿を、ブラームは滲む視界で見つめ続けるのだった。
****************
「さて、それじゃどうする?少し休憩していくか?」
博物館から少し歩き、昊斗は歩きながら全員に問いかける。
なんだかんだで、二時間以上博物館に居た昊斗たちは、まだ昼食を取っていなかった。それ程空腹を感じていない昊斗だったが、休憩を挟んだ方がいいと思い、提案したのだ。
「お腹すいた・・・・・妾は、お腹がすいたのじゃ・・・・・・」
冬華と手を繋いだルールーが、とても子供のそれとは思えないほどの・・・まるで魔獣のうなり声の様な音をさせてお腹が鳴る。
「ルーちゃん・・・・・・」
アルターレ護国での一件以来、下手にルールーを断食させると大変なことになるのを、身をもって教えられた昊斗らは、少し顔を引きつらせる。
―あの・・・・わたしも、お腹・・・・・すいたです
ルールーとは冬華を挟んで反対側で、冬華と手を繋いでいたエメラーダも、恥ずかしそうに手を上げる。
そのお腹からは、可愛らしい腹の虫の鳴き声がなっていた。
「ま、お昼を大分過ぎちゃってるけど、船で少し食べただけだしね。何処かでご飯食べよっか、ね?」
笑顔でルールーとエメラーダを交互に見て聞く冬華。
二人も、笑顔で何度も肯く。
「だな。玉露、何処かいい店あるか?」
「そうですね・・・・・・評判のいい店が何軒かありますが、どうします?地元の方に評判の店か、それとも観光客に評判の店か」
ロードの町に着いて、玉露はさも当然のように”人ごみの聞き手”を発動し、情報収集を行っていた。
今回は、長期滞在も覚悟していた為、宿屋や食事どころの情報を中心に”聞き耳”を立てていたのだ。
「ここは、地元の味を堪能するのがいいんじゃない?」
旅の醍醐味は、地元の料理。
冬華の提案に、昊斗は肯く。
「それで行くか」
昊斗の言葉を受け、玉露が素早く情報を纏める。
「分かりました。金糸雀、このお店です。案内よろしく」
ピックアップした店の情報を、金糸雀に転送する。
「・・・ここだね、了解。それじゃ、皆さん付いてきてください」
玉露から情報を受け取った金糸雀は、マッピングして製作したロードの地図に、その情報を入れて場所を確かめ、まるでバスガイドのように、全員を案内し始めた。
玉露が見つけた店は、地元の人間に定評のある食事処だった。
店の外観は、時代を感じさせる大衆食堂といった感じだが、中は何故かファミレスを思わせる小奇麗な内装で、少々外観に似つかわしくないものだった。
とはいえ、昼時を過ぎていると言うのに、それなりに人が入っているところを見ると、やはり人気はあるのだろうと、昊斗たちは思った。
テーブル席に案内され――店員は、何故か女性はメイド服で、男性は執事服――渡されたメニュ表を見ながら、昊斗たちは食べるものを決めていると、ルールーとエメラーダが、何かを見つめて驚いているのが目に入った。
「どうしたの?ルーちゃんも、エメちゃんも、決めないとご飯食べられないよ?」
冬華に声を掛けられた二人は、見つめていたものを指差した。
「トーカ!ひ、人が・・・人が小さな箱に入っておるぞ!!」
―あ、あんな狭いところに入って、狭くないのかな?
そう、彼女たちが指差す先にあったのは、昊斗たちにとっても少々懐かしい”ブラウン管テレビ”だった。
「あぁ、あれはね・・・・・・・」
そういって、驚く二人に冬華がテレビの説明を始める。
昊斗と玉露、そして金糸雀はテレビではなく、映っている映像に関して興味が出ていた。
「王都・・・・・というかルーン王国自体にテレビは無かったからな。あれは帝国のテレビ番組ってことだろうな」
「でしょうね。出来ることなら、バラエティ番組ではなく、ニュース番組にして欲しいところです。少しは、帝国側の情報が入るでしょうし」
「うん。帝国に関しては、ヴィルヘルミナ様やアンナ様、それから騎士お二人からの情報しかないもんね」
そんな話を聞いてか、店員がテレビのチャンネルを切り替え、テレビの映像がニュース番組に変わる。
『・・・・先日、帝国南西部で起きた、試験飛行中の戦闘機の墜落事故を受けて、帝国航空技術研究所の所長が辞意を表明しました。、今年に入って四十件に及ぶ飛行試験の事故の原因も判明しないまま、航空機開発のトップが辞任するという・・・・・・・・・・』
テレビ画面を見ていると、店員がオーダーを聞きにきたので、冬華たちから順に注文を言い、順番が周ってきた玉露は、メニュー表のランチセットを指差しながら、少し声のボリュームを下げる。
「イエーガーが作れるほどの技術を持っていながら、飛行機開発が遅れているというのは、なんともアンバランスですね」
金糸雀は「ランチセットをお願いします」と注文し、頬杖をつく。
「ん〜・・・・映像を見る限りじゃ、完成度は高いと思うけどな」
一瞬映った飛行機の残骸から、性能を割り出す玉露と金糸雀。
オーダーを聞き終えた店員が、オーダーを通す為厨房へと消える。
「まぁ、その辺りは、フローラたちにでも聞けば分かるだろうさ」
その後のニュースは、動物園で生まれた動物たちの子供の映像やら、帝国皇室の公務の映像などが流れた。
そうこうしていると、料理が運ばれてきて、あっという間にテーブルの上が皿で埋めつくされる。
その半分以上が、ルールーが注文した料理なのは言うまでもない。
「それじゃ頂きま〜す!」
冬華の号令で、少し遅めの昼食を食べ始める昊斗たち。
もちろん、この後ルールーが昼食以上のデザートを食べたのは、やはり言うまでもない。
次回更新は、5月19日(月)PM11:00過ぎを予定してます。
変更の場合は、活動報告にてご報告します。
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5/16 誤字・脱字 修正




