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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
騒乱 ルーン王国 編 
91/180

(2) 偽りの知らせ

「今頃、ソラトさんたちはロードの町に着いた頃かな」


 午前中で学校が終わり、フェリシアはいつものメンバーと共に、アルバート城のティールームで、お茶を楽しみながら、ポツリとそんなことを呟いた。

 王都からロードへは、いくつかの定期船に乗り換えていかなければならないが、朝一に出発し上手く乗り継げば一日でたどり着ける場所である。

 

「・・・そういえば、ロードでしたね。エメラーダさんのお父様の手がかりが、あるかもしれないというのは」

「お父様の〜手がかり〜・・・・見つかるといいですね〜」


 この場にいるのは、フェリシアにヴィルヘルミナ、アリエル、ミユ、ペトラ、フローラ、アイリス。そして・・・・・


「僕としては、ルドラが迷惑をかけていないかが心配ですよ」

 封印を解き、青年の姿となったカグがフェリシアの後ろに立っている。

 子供の姿では格好がつかないと、力を封印したまま姿だけ封印解除状態を維持できるようにし、服装も昊斗そらとたちの戦闘服を模した物を身に着けている。


 ここに居る全員が、木漏れ日の森での一件――聖剣強奪ではなく、ファルファッラ母娘の件の方――の顛末を昊斗そらとたちから聞いている。

 ファルファッラが、同族の男に殺されたこと、その男を昊斗そらとたちが倒したこと。


 話を聞くにつれ、全員が悲しみに暮れたのは言うまでもないが、ファルファッラが精神体で存在していることや、娘のエメラーダは無事だったことに、一様に安堵した。


 エメラーダが昊斗そらとたちのベースにいると知った面々は、毎日代わる代わる様子を見に訪れている。


 しかし、今日から数日間、エメラーダは父親ので手がかり探しで昊斗そらとたちと一緒に出掛けていないので、手持ち無沙汰にこうして集まっているのだ。

 

「・・・・ミユ、先ほどから何をしているのです?」

 そんな中、ミユが黙々と何かに精を出しているのに気が付いたヴィルヘルミナが、興味深げに彼女の手元を覗き込んだ。

 ヴィルヘルミナの言葉に作業の手を止め、ミユは作っているものをテーブルの上に出した。


「これはね、トウカお姉ちゃんにお願いして作らせてもらってる物なの。ファルさんの依り代となる、御符と・・・その入れ物を作ってるの」

 ミユが自慢げに見せるそれは、日本のお守り袋に酷似したものだった。

 それを、手縫いで一針一針丁寧に仕上げている。


 実は、ファルファッラから頼まれた依り代の製作を、当初は冬華とうかが作るつもりだったが、話を聞いたミユが製作を申し出たのだった。


「へぇ、意外と器用なんだ・・・ミユって」

 ミユの性格から、そのような細々とした作業は向かないと思っていたアイリスが、感嘆の声を上げる。

「アルターレ護国の巫女は、誰でも絶対に作れるように、小さな頃から訓練するの。ミユなんて、マダム直々だったから、それはもう・・・・・・」

 姫巫女シオン直々の”しごき”を思い出し、ミユの口から乾いた笑いが漏れ出す。


「あの方なら・・・・分かる気がする、かな?」

 彼の人となりを少なからず知っているフェリシアも、ミユの姿に苦笑してしまう。

「とにかく、エメちゃんが帰ってくるまでに作らないといけないからね。こうやって、毎日気持ちを込めて作ってるの」

 気を持ち直したミユが、可愛く力こぶしを作り作業に戻る。


 話が一段落したところで、ヴィルヘルミナの騎士であるフローラが、フェリシアの元にやってきた。

「・・・・フェリシア様。今日フレミー殿が学校を早退されていたのですが、もしかして何かご実家でご不幸ごとが?」

「そういえば、フレミー殿の姿が見えないな。私はてっきり、騎士団の方へ顔を出しているのだと思っていたが、違ったのか?」

 

 フレミーのクラスメイトであるフローラは、授業中に呼びにきた教師の言葉に、驚いた顔をしてフレミーがそのまま帰ったのを見ていた。

 担任に確認したが、「ご実家の都合で早退した」とだけしか教えてもらえなかったのだ。

 

「フレミー?午前中に、ご実家から至急戻るよう連絡が入ったらしくて、帰っていますよ。彼女の実家は、少々遠いですから、慌てて準備して帰ったとフォルト団長が仰っていました」

 フェリシアも話を聞いて、フローラと同じことを考えたが、実家に帰ったのなら不用意に心配しないでおこうと、思っていた。



「前々から思っていたのだが、フレミー殿とは一体何者なのだ?あまり自身のことを語らない方だが、フェリシア姫の騎士としてお仕えしているということは、相応の家柄だと私は思うが」

 騎士として、国にしかも王族に仕える者が、一介の身分でないとは、帝国出のペトラでも理解している。

 だが、疑問を深く考えず口にするペトラに、フローラは額に手を当てる。

「ペトラ!そういう内々の事情を疑問に思っても、軽々しく口にしないの!申し訳ありません、フェリシア様」

 考えるよりも先に、口や手が出る同僚に恥ずかしさを覚え、フローラが深々と頭を下げる。


「構いませんよ、フローラさん・・・・・そうですね。フレミーの実家に関しては、秘密にしないといけないのですが、お友達であるお二人や、皆にもフレミーのことをもう少し知ってもらいたいですし・・・・少しお話ししましょうか」

 フェリシアはそういって、手にしたティーカップに口に付け、一呼吸置いた。


「彼女が名乗っているフレミーと言うのは愛称で、彼女の本名は”フレミリア・セレスティア・ルーン”。大公アストーア・ホロ・ルーン様の一人娘・・・・・つまり、私の従姉妹にあたる方です」

 フェリシアの言葉が上手く入ってこないのか、アリエルとカグを除く全員がポカンとする。


「え?」

 最初に誰が声をあげたのか分からないが、それが呼び水となる。

「「「「えぇーーーーー!!!!!!」」」」

 ティールームにうら若い乙女たちの声が響き渡る。


 予想通りの反応に、フェリシアは満足そうに肯く。


「と、まぁ驚いてみたが、やはりそうだったか」

 だが、驚いていたはずのペトラとフローラが、突然「やっぱりか」という表情に変わり、フェリシアは意表を突かれ、逆に驚きを露にする。


「あれ?!お二人とも、さっきまで驚かれてましたよね?」

「私たちは、彼女と接する時間が長かったですからね。同じ騎士クラスに在籍する貴族の方々とは違う、こうフェリシア様やアリエル様、そしてヴィルヘルミナ姫様のような、気品に満ちた雰囲気が、フレミー殿からも感じていましたから」

「ああいうのが、隠し切れない育ちのよさと言うのだろうな。私には無理だ!」

 そう言って、何故か胸を張るペトラ。

「ペトラ・・・・あなたの家も、歴史ある軍人の家系だった気がするんだけど?」

 騎士二人のやり取りを受け、アリエルも納得するように手を叩いた。

「私も〜、フェリシアさんとフレミーさんは〜よく似ていらっしゃるから〜・・・ご親戚だとは思ってましたが〜・・・やっぱり〜そうだったのですね」


 ただ似ているから親戚だと思った、というアリエルに全員が「さすがは・・・」と声を漏らす。


 フレミーの正体を知り、納得のいったフローラとペトラだったが、気がかりがあった。

「しかし、大公の娘・・・・・つまり、王族と言うことですよね・・・・・どうしよう私たち、フレミー殿にかなり失礼なことをしてるよね」

「うむ。自慢ではないが、確実に不敬罪に問われかねない事はやってきたな」

 知らなかった事はいえ、今までフレミーに対しての言動を振り返り、騎士二人が遠い目をする。


 そんな二人に、フェリシアは慌ててフォローを入れる。

「彼女が、自分の正体を明かさなかったのは、他言無用と言うこともありますが、友人であるお二人に変な気を使って欲しくなかったのだと思います。フレミーはいつも、「私は、姫様に仕える騎士であり、大公の娘としての私は実家においてきています」と言っていました。フレミーにとって、騎士を名乗る上で、”大公の娘”と言う肩書きは不要だったのでしょうね。ですから、お二人は、これからも変わること無く、フレミーと接してください」


 そういってフェリシアは、不意にフレミーが自分の騎士として仕えることになった日の事を思い出した。


 伯父である大公アストーアが亡くなり、その娘であるフレミーがアルバート城にやってきたあの日。

 幼い頃に出会ったきり、殆ど顔も覚えていなかった従姉妹。

 自分に瓜二つのフレミーを見て、フェリシアは驚きを隠せなかった。


 しかも、そんな彼女が自分の騎士になる、というのだ。

 フェリシアには、何かの冗談としか思えなかった。


 だが、猛者ぞろいのアルバート騎士団との試合で彼女の実力を目にし、自身も精霊術士の見習いとして精進していたフェリシアには、フレミーが今までどれ程血反吐を吐きながら努力をしてきたのか、容易に想像できた。


 直向な彼女を見てフェリシアは、彼女が仕えるに相応しい主になろう、と決意した瞬間だった。

 

 そんなフレミーとの主従関係も気が付けば、一年以上が経っている。

 その間に数え切れないほどの出来事が起こり、一年程前が遥か多い過去のようにフェリシアは思えた。


「あ、あの・・・ふと思ったのですが、姉さま。何故フレミーさんが大公家の姫だと言うことが、周りに露見していないのでしょうか?」

 フレミーとの出会いを思い出し、ボーっとしていたフェリシアに、ヴィルヘルミナが恐る恐る声を掛ける。

「え?・・・・あぁ・・・そのこと?一応、フレミー・・・と言うよりフレミリアは父親と同様体が弱くて、今現在も屋敷で静かに暮らしてるって事になってるからね。誰もフレミーを見て、病弱な大公家の姫とは思わないでしょ?」

「どうして、そこまでお隠しになったのですか?」

「何でだろうね。私もそのあたりの事情は、お父様から教えてもらってないし、フレミー自身も教えてくれないから。前に一度だけ、「父様との約束だから」って言ってたけど・・・・あ、それより、皆を信用して話したけど、ここでの話は他言無用でお願いね」

 自分の独断でフレミーの話をしてしまったが、周りの漏れると大変拙い情報なので、改めて念押しするフェリシア。

「分かってますよ〜」

「心得ております、姉さま」

「我らが主の名において、決して他言いたしません」

「右に同じく!」

「ミユも、大丈夫だよ!」

「僕も、言いません」

 全員が、真剣な眼差しで肯く姿を見て、フェリシアは自分とフレミーが本当に人の縁に恵まれていると、実感するのだった。



***********************



 日が傾き、空が紅くなる頃。


 騎士服に身を包んだフレミーは、一年以上ぶりに実家である大公家の屋敷の前に立っていた。


「ここは、変わらないな・・・・・」

 一年そこらで変わるものではないが、早々戻るつもりの無かった場所が変わらずにいることに、フレミーは嬉しくなった。


「ただいま戻りました」

 大きな扉を開け、我が家である屋敷に入るフレミー。

 表同様、中も変わらず懐かしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 すると、侍従長を勤める初老の男性が慌てて駆けてきた。

「!?フレミリア姫様・・・・よくぞお戻りに。お元気そうで何よりでございます!」

 フレミーの姿をみて、感激で涙を流す侍従長。

「あなたも、元気そうで何よりよ・・・それより、母様は?急ぎ戻るようにと連絡を貰ったのだけれど?」

 挨拶も程ほどに、フレミーは本題に入る。


 大公である父が亡くなり、その後を大公妃ある母が、大公代理として領地を管理している。


 家を出る際、母はフレミーに「あなたは、自分の務めだけを考えなさい。家の事は心配しなくていい」と言って送り出してくれた。

 そんな母が、至急帰ってきなさいと言うとは、思ってもいなかったフレミーは、慌てて帰ってきていた。


「・・・・・こちらです」

 同一人物かと思うほど、突然表情から人間味を失い、侍従長はフレミーを執務室へと案内する。

「・・・・・?」

 何処かおかしいと思いつつも、フレミーは早く母の顔が見たいと侍従長の後を付いていった。


 生前、父が使っていた執務室の前にたどり着き、フレミーは少し緊張した面持ちで扉をノックした。


『母様、フレミーです。ただいま戻りました。入りますよ・・・母様?」

 中へと入ったフレミーの目に飛び込んできたのは、母の姿ではなく見知らぬ男の姿だった。


「これはこれは、お久しゅうございます、フレミリア様。お美しくなられましたなぁ」

 なれなれしく声を掛けてきた男の顔を見て、フレミーは何処かで見覚えがあると思い、思考を全力で働かせる。


「あなたは・・・・・・たしか、父様の家臣だったラクロア伯爵?」

 幼い頃、この場所で何度か見た事のある父の部下だと思い出したフレミーは、別の意味で警戒心を高めた。


「わたくしの様な者の名を姫様に覚えていただけているとは、このクレマン、家臣冥利に尽きると言うものです」

 演技じみた言動に、さらに警戒心を高めるフレミー。


「・・・・母様は?」

 先ほどから姿の見えない母に、何かあったのでは、と危惧するフレミー。


「残念なことに、一足先にお逃げになられたようで・・・・私どものも困っているのですよ」

 クレマンの言葉を、フレミーは一瞬理解できなかった。


「な・・何を言っているの?」

「いえ、こちらの話ですよ。あなた様を利用する為の餌にしようと思っていたのですが・・・・女の細腕で大公嶺を治める女傑とその部下たち・・・・・侮っていました。仕方ないので、あなた様への連絡はお母上の名を騙らせていただきましたよ」

 目の前の男が、よからぬ事を企んでいると理解したフレミーはすぐ近くに飾ってあった二振りの剣を手に取る。


「お前は、何を企んでいる!!」

 使い慣れた剣ではないが、構えを取りいつでも”仕掛けられる”体勢に入るフレミー。

「企むなど滅相もない・・・ただ、ルーン王国をあるべき姿に戻す。それだけにございます。あなたと言う正当な女王を迎えてね」

 クレマンの視線が、フレミーから少しずれた方へと向けられる。


 その瞬間、その方向からフレミーに殺気が放たれた。

「?!・・・っ」

 ここ最近、荒事に事欠かなかったフレミーは、アルバート騎士団の騎士たちが舌を巻くような速度で、剣を振りぬく。それも殆ど勘である。


 振り抜いた剣が弾かれると同時に、反対に持った剣で追撃をかけるフレミーだったが、ニ撃目は剣を叩き折られて防がれてしまった。


 そのまま、切っ先を喉元に突きつけられるフレミー。

「動くな」


 切っ先を向ける相手の声と顔を見て、フレミーは体中の血が引いていく感覚に襲われ、手にしていた剣を落としてしまう。


「な・・・・・・・・・・なんで、貴様がここにいる・・・ユーリ・ペンドラゴン!!」


 一年前、フレミーの主であるフェリシアを”侮辱”し、国王とその友人であるドラグレアによって放逐されたはずの異世界人の少年が、目の前に立っている事実にフレミーは現実味を失っていた。


「そんなにおれがここに居るのが信じられないか?フレミー・・・」

 ユーリはいたぶる様に、手に持つ剣の切っ先でフレミーの首もとの皮膚を少し切り裂き、そこから血が滲む。


 首もとのから上がってくる痛みに、フレミーは否応なくこれは現実だと思い知らされ、表情を歪ませる。


「ありえない!!だって、貴様は陛下と交わした誓約によって、死ぬまでルーン王国には入ることはできないはず!」

 ドラグレアが用意した誓約書にユーリ自身がサインするところを、フェリシアと一緒に立ち会っていたフレミーが叫ぶが、ユーリは面白くなさげに彼女を睨みつける。


「あの男の力が、完璧だと信じ込んでいるとは、浅はかさだな」

「・・・勇者殿。少々出るのが早いのでは?」


 打ち合わせよりも早いユーリの登場に、クレマンが苦言を呈するが、ユーリは彼にも分かるように大きく舌打ちした。

「伯爵のやり方はまどろっこしい。これ以上時間を掛けるのも、無駄だろう?」


 確かに、少々芝居掛かったことをやっていたと自覚しているクレマンだったが、そのことをユーリに指摘され、少々眉間に皺を寄せたが、ここで彼と対立しても得はないと、クレマンが折れた。


「・・・・仕方ない。後は任せますぞ?」

 元々、フレミーの”処置”はユーリとその仲間に任せていたクレマンは、二人を残して執務室を出て行く。

「任せておけ」


 彼と入れ替わりに、ユーリの仲間であるマギハ、レーア、アルトリア、ディエゴが執務室へと入ってくる。


 まさか、ユーリに付き従う者が居るとは思ってもいなかったフレミーは、マギハたちを侮蔑の目で睨みつける。

「・・・・・・私が、このまま貴様たちの言うことを聞くと思うのか?その前に舌を噛み切って、自害してやる」

 誰もが脅しと思うかもしれないが、フレミーは利用されフェリシアや国王たちに迷惑をかけるくらいなら、と迷うことなく舌を噛み切ろうとした。


 だが、なぜかそうしようと幾ら頭で考えても、舌を噛み切れなかった。


「無駄だ。この屋敷に踏み入れた時点で、お前はこちらの術中にはまっている。レーア・・・・・始めろ」

 混乱するフレミーを余所に、レーアがフレミーの元へと歩み寄り、マジマジとフレミーの顔を見つめる。

「はいはーい・・・・・・ふ〜ん、ユーリ様がご執心だった娘ってこれ?思ったほどじゃないわね、ウチの方が美人じゃない!」


 他の面々は、「お前じゃ逆立ちしたって勝てないよ」と思うが、誰一人口にするものはいない。


「レーアさん。無駄なお喋りはそこまでですよ、勇者様がお待ちです」

 先に進まない、とレーアをせかすマギハ。


 やはり面白くないのか、レーアはブスっとした表情を浮かべる。

「分かってるわよ」


 そう言って、レーアは懐から一枚の紙を取り出した。

 その紙には複雑な紋様が隙間なく書き込まれており、その紙を見てフレミーは、それが危険なものだとすぐに理解した。


「何をするつもり?」

 ろくな答えが返ってくるとは思っていないが、それでもフレミーは聞かずに入られなかった。

「何って、アンタを洗脳するの。これ、ウチの先輩が教えてくれた方法なんだけどねぇ」


 紙をヒラヒラとフレミーの目の前にちらつかせるレーアの表情は、これから行われることを想像してか、狂気にも似た笑みに彩られていた。


「?!まさか、アルターレ護国の!」

 レーアが着ている服が、アルターレ護国の巫女装束を改造しているモノだと思ったフレミーの脳裏に、ある出来事が甦る。


 そう、先任の祭事巫女マーナ・クロエを母国のアルターレ護国へ送り届け、新しい祭事巫女を連れてくるという、フェリシアが成人して初めての単独の海外公務。

 アルターレ護国中枢で起きていた事件に巻き込まれたフェリシアたちだったが、護衛として同行していた昊斗そらと冬華とうかたちの活躍で事なきを得、無事ルーン王国へと戻ってきたのだった。

 その際、アルターレ護国を事実上乗っ取っていた者たちが、フェリシアを洗脳しようと企てていたことを聞かされていたフレミーは、目の前の巫女が同じ方法を使おうとしているのでは、と思い至った。


「へぇ、知ってるんだ。さすがはフェリシア姫の騎士って訳か。だけど、これはウチが独自に手を加えた改良型。そうそう逃れられないわよ」


 レーアが持つ紙が、ゆっくりとフレミーに近づく。

 この時、フレミーは自分のある行動を激しく後悔していた。


 それは服を着替えたことだ。


 学園を早退し、騎士団隊舎の自分の部屋へ戻ったフレミーは、家へ戻る服装に迷っていた。

 着替える時間を惜しんで、学園の制服のままで帰るか、それとも騎士として騎士団の制服で帰るか・・・・・


 結局、フェリシアの騎士として胸を張って帰ろうと思い、学園の制服から騎士団の制服へと着替えてしまった。


 だが、フレミーの着る学園の制服には、フェリシアたちの制服同様に数多くの防御術式を内包した”着る結界”と呼ばれる機能が備わっていた。

 

 もし、あの制服を着ていれば、このような失態は犯さなかった、とフレミーは悔しさで唇を噛む。

「これで、お前はおれのものだ、フレミー」

 

――ソラトさん!・・・・・・・・


 ユーリの言葉を聞き、目の前が真っ暗になるフレミーは、そんな声を掻き消そうと昊斗そらとの顔を思い出しながら、必死に彼の名を呼ぶのだった。




次回更新は、5月15日(木)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご連絡したします。

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