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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
木漏れ日の森の出会い 編
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(7) 復活の傭兵たち(前編)

「ソラトさん!!トーカさん!!」


 昊斗そらとたちが攻撃を受けた、と頭が理解し、顔面蒼白になるフェリシアが二人へ駆け寄る。


 倒れこむ二人を見て、フェリシアは悲鳴を上げそうになり、両手で口を塞いだ。


 昊斗そらとは、右腕が肩から千切れ、その右腕は身体から離れた場所に落ちている。

 冬華とうかは、腹部に突き刺さった”矢”が背中まで貫通し、赤黒い血が流れ出ていた。

 二人を襲った物体。それは、通常の矢とは異なる材質を使い、先端の矢じりを殺傷能力を高めた螺旋状の形状に作られた矢だった。


 二人は、自身の血に濡れ赤黒く染まっていた。想像を絶する激痛だったのだろう、二人とも気を失っている。

 フェリシアは、回復の精霊術を使おうとするが、どこから手をつけたらいいか思考が止まってしまう。


暗殺者アサシン!手を出さない約束のはずだよ!」

 鞍馬くらまは、約束を破った仲間に声を荒げる。その口調は年齢通りの少年のものに戻っていた。


――貴様が時間をかけるからだ・・・・我らには時間の余裕は、ない――


 静かに、だがはっきりと判る殺気と共に、暗殺者(アサシン)と呼ばれた声が答える。


「・・・・・分かったよ。すぐに済ませるから」

 彼の殺気に気圧された鞍馬くらまが、ズボンのポケットから何かを取り出した。


 オウジョサマ!スグニ、カレラヲツレテ、ニゲナサイ!!


 ポンタが焦ったように、フェリシアへ”声”を上げる。

「・・・ポンタさん?」


 彼女が何を焦っているのか、フェリシアは昊斗そらとたちのことで混乱し、思考力が低下していた。


 鞍馬くらまの手には、二つの”笛”が握られている。


「魔笛一つで、終わらせたかったのに・・・・」

 二つの魔笛を口にくわえ、鞍馬くらまは大きく息を吸い笛へ空気を送り込んだ。

 だが、魔笛からは音は聞こえない。しかし、


 アアアア・・・・コ、コノ・・・オトハッ!


 頭を抱え、暴れ苦しみだしたポンタ。


「ポ、ポンタさん!」

 苦しみだしたポンタに、フェリシアは焦りを見せた。


 ニゲ・・・・ナサイ、ハヤク・・!

「しぶとい・・・・・」

 自分の支配下に入らないポンタに再び、魔笛を吹く鞍馬くらま


 アアアアアアア!!!!! 

 絶叫に近い”声”が、響く。


 そして、苦しんでいたポンタが静かになり、のそっと立ち上がった。


「ポ、ポンタ・・・さん?」

 様子の違うポンタに、フェリシアは恐る恐る声をかける。


「ガアアアアアア!!」

 次の瞬間、ポンタが叫んだ。いつものテレパシーではなく、口から聞こえる音を伴う絶叫だった。


「意識制御・・・・・これで、その魔獣はわれのものだ」

 鞍馬くらまが、調子を取り戻し地面に飛び降りる。


――ほう・・・・今度は暴走させなかったか・・・、さすがは、と言ったところか?――

 暗殺者アサシンから伝わってくる気配が幾分和らぎ、鞍馬くらまは目に見えて安堵し、また髪をかき上げた。


「当然だ。われを誰だと思っている?魔王さえ操る者・・・・大魔王にして魔獣使い《ビースト・テイマー》の、ルシフェード・レイ・鞍馬くらまだぞ」

 完全に調子を取り戻し、鞍馬くらまは身体を不自然にねじり、ポーズを決める。


「この魔獣の調整を始める。文句はないだろう?」

――・・・・いいだろう。後で駄々をこねられても困るからな。だが、急げよ――


 その言葉を合図に、鞍馬くらまは不気味な笑みを浮かべる。

「娘よ!・・・この魔獣と顔見知りのようだが・・・先ほどの力、使えるかな?やれ!!」


 鞍馬くらまの命令の元、ポンタがフェリシアに向かって走り出した。

 咄嗟に避けようとするが、後ろにいる昊斗そらとたちを思い出し、フェリシアは一瞬で発動できる精霊術を構築する。


「ウェーブバインド!」

 拘束系の中でも、初級に位置する水の精霊術。だが、フェリシアは自身の持つ相当量の霊力を使い、ポンタの両足へ波うち際に打ち寄せる波のような拘束をかける。


 足を拘束され走る勢いのまま、地面に倒れるポンタ。フェリシアは、彼女ほどの巨体を短時間で完全に拘束できないと判断し足へ展開した。

「馬鹿にしないで・・・・」

 怒りを露わにしたフェリシアが、鞍馬くらまを睨みつけ、再びいくつもの精霊術を自身の内に構築し始めた。


*******


―よく、腕が切り落とされたり吹き飛んだりしたら痛みのあまりに、感覚が麻痺して痛みを感じないなんて聞くけど、半分ホントで半分ウソだったな・・・・―


 昊斗そらとは、飛んできた矢で右腕が千切れたとき、筆舌に堪えない痛みで意識が飛んだ。しかし、その痛みでまた意識が覚醒し、痛みでのた打ち回ったが、ちょっとすると感覚が無くなった。


―声も、もう出せないな・・・・―


 霞みだした視線の先でフェリシアが、何かと戦っていた。


―これじゃ、本当に足手まといだ―


 危険だと解っていたのに、それでも首を突っ込んだのは自分の意思だ。この状況は、間違いなく自業自得だと思う昊斗そらとだったが、やはり死ぬのは怖かった。


なつめさんは・・・・・―


 冬華とうかの方へ何とか、顔を動かすと、腹部に矢の刺さった姿が見え、彼女も昊斗そらとのことを見ていた。


―え・・・・・・・・?―


 彼女の唇が言葉を発するために動くが、声は聞こえなかった。しかし、昊斗そらとは彼女が何と言っているか分かった。


”くやしい”

 

 ただ一言。その一言に、昊斗そらとはうなずいた。

 死ぬのが悔しいのではない。

 突然、異世界に召喚され、困っていた自分たちに優しくしてくれた女の子を守るどころか、手伝うこともできない”無力さ”が、ただ悔しかった。


―何で、俺たちには力がないんだ。何て・・・・無力なんだ!―


 そんな声にならない叫びを繰り返していた時だ。


”何を言っているんです?”


 ”声”が聞こえた。


”あなたは、無力じゃない。それは、あなた自身がよく知っているはずですよ?”


 とても懐かしい、そう思える”声”だった。


”ほら・・・彼女は気が付きました” 

 

 言葉に促され、冬華とうかに焦点を合わせる。その手には、小さな箱が握られていた。


―そうだ・・・・あの”箱”・・・―


 昊斗は、残った左腕でズボンのポケットの中を探り、入っていたものを取り出す。

 手のひらの中には、血で汚れた手の中に収まるほどの小箱。

 それは、ドラグレアから渡された”希望の小箱”だった。


『言っておくが、それは一度っきりの”使い捨て”道具だからな。よく考えて使えよ?』

 小箱をくれた彼の言葉を思い出し、箱の縁に指を掛ける昊斗そらと


―今が使うところだよな、そうだろ?ドラグレアさん!―


 昊斗は最後の力を振り絞り箱を開けた。


”さあ、行きましょう。マイマスター!”


********


 操られたポンタは、試練の時とは桁違いに”速かった”。

 フェリシアは、何とか彼女を止めようと、拘束系や威力の低い初級の攻撃系精霊術を駆使したが、やはり小手先だけの方法では、ポンタを止めることはできなかった。

 やはり威力の高い精霊術しか、と中級の精霊術の構築に入るフェリシアだったが、ここで思わぬ出来事が起きた。


「え?」


 突然、精霊とのリンクが切れたのだ。

 仮想契約において、絶対遵守とされていることがある。それは精霊と契約者が、仮想契約した子供が精霊術を使いすぎ危険と判断する上限を超えた場合、子供と精霊とのリンクを強制的に解除する、というものだ。

 これは、事前に設けた上限を未熟な術者が気が付かず、超えてしまわないようにするものなのだが、まさかこんな緊急事態の最中でも強制解除されるとは思っていなかったフェリシアは、動きを止めてしまう。

 そんなチャンスを、鞍馬くらまは見逃さなかった。

「動きが止まった!やれ、我が下僕よ!」


 巨大なポンタの腕が、大槌のように振り下ろされる。一直線にフェリシアに迫る腕だったが、直前にフェリシアの前へと逸れる。

 

 フェリシアには、そこにポンタの意思を感じた気がした。


 直撃は免れたが、目の前で起きた衝撃に、フェリシアの身体が木の葉のように宙を舞う。

 精霊術が使えず、落下地点にクッションとなる水を出せないどころか、衝撃と一緒に跳んできた石などの破片で全身に痛みが走り、受け身をとろうにも身体を動かせずにいた。 


 地面に叩き付けられる恐怖に、痛みの走る身体を強張らせるフェリシア。


 だが、衝撃は思ったよりも軽かった。と言うより、とても優しく力強いモノに抱かれている感じがした。


「大丈夫か、フェリシア」

「え?」

 まさか、と目を開けたフェリシアの視界に映ったのは、血まみれで倒れているはずの昊斗そらとの顔だった。


 一体どうなっているのか、辺りを見渡し自分の置かれた状況を確認して、フェリシアの顔が真っ赤になる。

 なんと、フェリシアは昊斗そらとに”お姫様だっこ”されていたのだ。実際に、王女であるフェリシアだが、こんな恥ずかしいことをしてもらったことは生まれて一度もなかった。


「”冬華とうか”、フェリシアの手当を」


 そんなフェリシアを尻目に、昊斗そらとは倒れているはずの人間の名を呼ぶ。

「分かってる。金糸雀カナリア!」

『承りました、我が主』


 昊斗そらとの後ろから聞こえた冬華とうかの声と共に、フェリシアは光に包まれる。回復の精霊術に似ていたが、その回復速度はフェリシアが知るものとは比較にならないほど早かった。

 しかも、驚いたことに破れていたフェリシアの町服も、まるで新品のように綺麗に直っていたのだ。


 傷が治ったことを確認し、昊斗そらとがゆっくりとフェリシアを降ろす。


 地面に降りたフェリシアが振り返ると、そこには死の淵にいたはずの二人が立っていた。しかも、昊斗そらとは千切れ飛んでいた右腕が元通りにくっついており、冬華とうかも刺さっていた矢が消えていた。


 そして、復活した二人は先ほどとは違う格好をしていた。

 冬華とうかは、白いミニのプリーツスカートに黒のニーハイソックスとロングブーツ、スカートと同じ白のジャケットを着ており、その上から黒のロングコートを羽織っていた。腰より上の部分が外に広がるデザインのコートの為か、まるでマントを羽織った魔法使いにも見える。それを助長するかのように、左手には黒い装丁の”本”を抱え、右手には彼女の身長を超える長さの金属製の杖が握られていた。


 昊斗そらとの方は、収納ポケットが多く付いた黒のパンツに軍用のブーツ、冬華の着ている物と同じデザインの黒いジャケット。上からは、赤いロングコートを着ており、冬華の物と違い裾の広がらないデザインだった。左腕には奇怪な形をした腕輪をはめ、宝石の光とは違う光が明滅している。


『システムチェック終了。基本能力に関しては、動作不良等認められません』

 昊斗そらとの腕輪から、若い女性というより、少し幼さの残った女の子の声が聞こえた。


『回復術式、問題なく起動しました。続いて、攻撃術式のチェックを開始します』

 冬華とうかが持つ黒い”本”から、フェリシアと変わらないくらいの女の子の声が聞こえる。


玉露ぎょくろ、久しぶりの戦闘だ。感覚を取り戻すのに、ちょっと無茶するぞ」

『了解です、マスター。ただし、武装関係のチェックが終わっていませんので、使用しないで下さいよ?』

 無感情な言葉の端々に、嬉しそうな感情が見え隠れする昊斗そらとの相棒でる玉露ぎょくろ


「さぁ、いつもみたいに私たちは後方支援だよ。金糸雀カナリア、準備はいい?」

『もちろんです、我が主。貴女の御心のままに』

 なにも変わらない相棒、金糸雀カナリアの様子に、冬華とうかの顔がほころぶ。


「さぁ!反撃と行こうか!!」

 威風堂々と、昊斗そらと冬華とうかが”戦場”へと踏み出す。

8/19 一部内容を修正。

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