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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
聖域の中の母娘 編
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(18) 母の願い 

『こっちの世界に来てすぐに、家族でちょっとした旅に出たの。その旅先で、緑色の小さなおじさんから、肉体を失った際に精神だけで存在し続ける方法っていうの教えてもらってたんだ。まぁ、その時は当分必要ないなって思ってたんだけど、この子が生まれた時に、もしもの時の為にって少しずつ準備してたんだよね。さっき死ぬ間際に、精神の切り離しは成功したのはいいんだけど、その後が中々大変でね!声と姿を出せるようになるまで時間掛かっちゃうし、やっとの思いで私、再登場!て思ったら、さっきの場面でしょ?さすがのファルさんも困ったわ〜』


 とても、先ほど死んだ人物とは思えないほど、あっけらかんと自分の状況を話すファルファッラ。


 彼女は、特殊な方法を用いて、死の淵にあった肉体から精神を切り離すことに成功し、所謂霊体に近い状態にあると、説明した。


 ハイエルフであるファルファッラの精神は、人間や他の種族以上に高い強度を持っていたためか、実体とまではいかないものの、物に触れることができ、眠っているエメラーダの髪を撫でながら、話をしていた。


 死んだはずのファルファッラが現れたことに、昊斗そらとたちと同様に、驚いていたポンタと鞍馬くらまだったが、管理スタッフが王都から緊急連絡が入っていると連絡を受け、この場を昊斗そらとたちに任せて事務所へと急いで戻っていった。


 意外に明るく振舞うファルファッラを見て、昊斗そらとたちは、さっきの涙を返せ、と言いたくなったが、一人だけ違っていた。


「ファルさん・・・・ごめんなさい。もう少し早く来られたら、ファルさんの事、助けることが・・・・ううん、生き返らせることも出来たかもしれないのに」


 自身が持つ蘇生術の欠陥によって、ファルファッラを生き返すことが出来なかったことに、申し訳なく思う冬華とうかが、頭を下げる。

 そんな冬華とうかに、ファルファッラは首を横に振った。


『・・・・・・・・・・いいんだよ、そんなこと気にしなくて。私はね、あの馬鹿がここに来た時点で、エメラーダを護る為に、あいつと刺し違える覚悟をしてたの・・・・死んだら死んだ時だ!ってね。でも、もしも私が失敗したら・・・と考えた時、自分を護る術を持たないこの子がどうなるか、それだけがずっと不安だった。そんな中、あんなにも早く助けが来てくれたこと自体、私にとっては奇跡だったの。特に王都に居るはずの君たちがここまで助けに来てくれるなんて、思っても居なかった・・・・・・だから、私にはそれだけで十分。ありがとう、助けに来てくれて。ありがとう、この子を護ってくれて。この子が助かったのは、ポンタさんや君たちのお陰だよ』


 エメラーダを撫でていた手を止め、ファルファッラが深々と頭を下げた。

「ファルさん・・・・・・」

 今まで、死んだ者から直接感謝を言われるなど、数える程しかなかった冬華とうかは、再び泣きそうになり、俯いてしまう。

『・・・・ああ!やっぱり、湿っぽいのは苦手!トーカちゃん、過ぎたことを悔やんでも仕方ない!でしょ?』

 死者に過ぎたことを悔やむな、と言われたことなど感謝以上に経験のない冬華とうかは、キョトンとしてファルファッラを見つめ、そしてゆっくり肯いた。

「・・はい」

 

『なんと言うか、死んでも明るい人ですね』

 呆れる玉露ぎょくろに、ファルファッラが左目を閉じて玉露ぎょくろを指差した。

『あら、死んだら性格を暗くしなきゃいけないって決まりがあるの?』


 死者からそんなことを言われ、昊斗そらとたち四人が顔を見合わせる。

『そんなことはないですけど・・・・・・凄いですね、相変わらず』

 死んだことに落ち込み、暗くなったファルファッラがイメージできず、昊斗そらとたちは、改めて彼女が凄い人だと

思い知らされたのだった。


 寝ているエメラーダを起こさないよう、ゆっくりと離れたファルファッラが、樹へと姿を変えた元知り合いを見上げる。


『それにしても、一部始終”見て”たけど、これがあの馬鹿の成れの果てとは・・・・・・哀れね』

 姿が見えなかったとはいえ、この場に存在していたファルファッラは、自分が死んでからのことをすべて見ていた。


 恐怖と絶望に悲鳴を上げながら、捕食樹プレデター・プラントに取り込まれるパッツィーアの姿に、彼女はざまあみろ、と呟いていた。

 哀れと口にしたが、そこに哀れみなど一切感じてはなかった。


「ファルさんやエメちゃんにした仕打ちを考えたら、こんなの当然ですよ!それに、ただ樹に変えたわけじゃないですよ」

『え?』

 知性を持った生き物が物言わぬ樹に変えられる。これだけでも、相当なことだが、冬華とうかの言葉に、他に意図があるのでは、と感じたファルファッラが首をかしげた。


「これ、実は品種改良した種類で、ある国に於いて死刑より重い刑罰として使われていたんです。原種は、知的生命体が周辺から居なくなるまで捕食し続け、捕食された者は完全に養分として吸収されます。でも、これは一度捕食したら二度と捕食は行わず、取り込んだ者の肉体を、その寿命が尽きるまで樹の中でゆっくり消化しながら縛り続けるんです。取り込まれた者は、樹の中で力を行使するどころか一切動くことも出来ず、死ぬまで意識が残りますから、牢獄に入れられるより苦痛ですよ。しかも・・・・・」

 冬華とうかは自分の目線の高さにあった小さな枝を握ると、そのまま無造作に枝をポキッと折る。


 すると、風も吹いていないのに、樹が枝葉をざわめかせ幹を揺らした。


『樹が動いた!?』

 まるで樹が、枝を折られたのが痛かったから動いたように見え、ファルファッラが声を上げる


「樹全体に取り込んだ者の神経・・・特に痛覚が再現されますから、枝を折られたり、幹を傷つけられると、激痛として取り込まれた者にフィードバックされるんですよ。もし、樹全体が虫に食われたりしたら・・・・・・・」

 微笑を浮かべたまま呟く冬華とうかの言葉に、ファルファッラの頭の中に虫に食われる樹が、そのままパッツィーアの姿へと構築し直され、彼女は鳥肌が立つような感覚に襲われた。


『思った以上にえげつない!トーカちゃん、実は怖い人?!』

 寒気を覚える身体(?)をさすりながら、ファルファッラが悲鳴を上げる。

 言われた冬華とうかは、少々不満だったらしく、ムッとした表情を作った。


「罪には相応の罰を持って当たるべし。これ、我が家の家訓です。それに、森にとってこの樹の恩恵は大きいんですよ?この樹になる実は、取り込まれた者の質によって栄養価が変わるんです。さらに、葉や樹液も他の樹に比べれば栄養が豊富ですから、ハイエルフを素にしたこの樹は、動物や昆虫にとってこの上ない栄養源となるはずです。今まで、ファルさんを始め、色んなものに迷惑を掛けてきたひとなんですよね?なら、少しでも世界に貢献させないと」


 見かけによらず、何て過激で怖いことをサラッと言うなの!と、恐る恐る昊斗そらとの方を見るファルファッラに、昊斗そらとが肩をすくめる。

「俺が口や手を出すより、効果あるんですよ。冬華とうかもそうですけど、うちの女性陣のやり方って」


 ふと、昊斗そらとをからかって遊んだ自分の行動を省み、ファルファッラは苦笑いを浮かべる。


『・・・・ホント、運が良いのか悪いのか・・・・心強い人たちを味方につけたわね、私』


―・・・・ん・・

 そんなやり取りをしていると、眠っていたエメラーダが寝返りを打ち、眠い目を擦りながら上体を起こした。


『あ、目を覚まされたようですよ』


 起きたエメラーダの周りに集まる昊斗そらとたち。


 まだ頭がハッキリしないのか、ボーっと昊斗そらとたちの顔を見回すエメラーダが、ファルファッラの顔を見てコクっと首をかしげる。 


―・・おかあさん?


 あれ?と言う顔をする娘に、ファルファッラはエメラーダの反応を見て笑みをこぼす。

『やっほ、エメ。おはよう』

 徐々に頭の中がハッキリし、目の前に居るのが死んだはずの母だと認識したエメラーダの顔が、一気に驚きに彩られる。

―!?お、お母さん!!え?なんでっ?

 目の前のファルファッラと、すぐ傍に横たわるファルファッラの遺体を交互に見比べ、困惑するエメラーダを見て、今度はファルファッラの方が首をかしげた。


『あれ?エメには話してなかったっけ?』

 伝え忘れてたっけ?と、先ほど昊斗そらとたちに話したことを、そっくりそのまま娘に話すファルファッラ。


 その話を聞き、エメラーダの目から涙が流れる。


―・・・・・・ごめんなさいです。わたしが化け物(バンシィ)だから・・・・・わたしが、お母さんの子供に産まれてこなければ・・・お母さんは死ななかったし、それにポンタさんたちも傷つかなかった・・・私は、生きてちゃいけない子なのです・・


 パッツィーアに言われたことを思い出し、自分のせいで母が死んだと、自らを責めるエメラーダを見て、ファルファッラはギリッとかみ締め、”初めて”娘を怒鳴り付けた。


『馬鹿なこと言わないで!!』


―?!

 今までファルファッラに怒鳴られたことのないエメラーダが、目を見開いて母の顔を見つめる。


『いい?あなたわね、私が生まれてから唯一愛した人との間に生まれた子なの!エメが産まれてきてくれたことに、私はいっぱい感謝してる。エメが産まれた時、初めて抱いたあなたに「私のところにきてくれて、ありがとう。私をお母さんにしてくれてありがとう」って何度も言ったわ・・・・・あの馬鹿に何か言われたかもしれないけど、そんなことは今すぐ忘れなさい!!誰が何と言おうと、エメは祝福されてこの世界に産まれたの!エメは、私の娘。それ以上でも以下でもないわ!』

 今まで、一度も娘に言わなかったことを、エメラーダへぶつけるように言葉にするファルファッラ。


『・・・・・もし、エメが化け物だっていうなら、どうしてポンタさんやソラト君たちが助けてくれたの?本当にあなたが化け物なら、助けてくれないんじゃない?』

 そう問われ、エメラーダが昊斗そらとたちの方へを視線を移す。


「悪いが、エメラーダを見て化け物とは思わないぞ。というより、何処をどう見ればそう言えるのか、逆に聞きたい」

「うん、もしエメちゃんを見て化け物だって言う人がいるなら、一回と言わず何度でも、そんな発言をしたことを後悔させてあげる」

『こんなに可愛い服の似合う子を化け物など・・・生きる価値などありません。殺しましょう』

『ですね!だから、自分を化け物だなんて言わないでください』


 自分のために、そんなことを言ってくれる人がこんなにもいると、俯いてエメラーダが肩を震わせる。

 そんな娘の姿を見て、ファルファッラは優しく抱きしめた。


『どう?これだけの人が、エメは化け物じゃないって言ってるのよ。エメは化け物なんかじゃない。あなたは私の可愛い娘よ』

 

―うん・・・・・お母さん・・・ごめんなさい


「ずっと気になってたんですけど、エメラーダやあの男も言ってた”バンシィ”って何なんですか?」

 聞くべきか迷っていた昊斗そらとだったが、思い切ってファルファッラに質問をぶつけた。


 一瞬、目を伏せたファルファッラだが、短く息を吐き、昊斗そらとたちのことを見つめた。

『そうだね・・・・・君たちには知っててもらった方がいいか・・・・・・・。バンシィって言うのは、私たちの種族に伝わる伝説の魔王のことよ』

『魔王ですか・・・・・・また随分と突飛な存在が出てきましたね』

 今までも様々な世界で見聞きし、そして対峙してきた存在だが、ここでもかと、玉露ぎょくろがウンザリと言ったニュアンスでため息をつく。

 そんな彼女を見て、苦笑しながらファルファッラがある”魔王”の話を始めた。


『かつて、今ほど私たちの種族の中で、純血を重んじることのなかった時代、ある村の娘が別の種族の男と恋に落ち、子供をもうけたの。生まれてきた子供は、両親には似て似つかない真っ黒な髪に浅黒い肌をしていたそうよ。村の者たちは初めて見る子供の姿に、黒き者”バンシィ”と呼んで、村中で煙たがるようなったの。日を追うごとに、家族に対する差別は酷くなり、そのせいで父親は自分の村へと逃げ帰り、夫に捨てられたと思った母親は自ら命を絶った。残された子供は、村中から今まで以上にひどい差別を受けるようになっていった。時は流れ、子供は大人となり、事件が起きた。母を死に追いやり、自分を差別し暴力を振るった村人を、圧倒的な力を持て一人残らず殺したのよ。その後、自分たちを捨てた父親の子孫が住む村を焼き払い、彼は自ら魔王”バンシィ”を名乗り、世界を支配したそうよ。まぁ、現れた勇者によってすぐに討伐されちゃったけどね。それ以降、一族では異種姦は禁忌とされ、黒髪や黒い肌を持って産まれてきた子供が第二の魔王になるのを防ぐ為に、産まれてすぐに殺す決まりが出来たのよ・・・・これが、この子が化け物(バンシィ)なんて言われる所以よ』

 説明を終えたファルファッラは、俯くエメラーダを抱きしめ、何度も娘を撫でた。


「随分と、勝手な言い分ですね。どう考えても、村人たちが悪いし、殺されたのだって自業自得でしょう。魔王の行動も褒められたものではないですが、だからと言ってその後生まれた子たちが、魔王と同じ存在になるかもしれないから殺すって言うのも、あまりに短絡的な発想ですよね」

『そうでもしないと、プライドが許さなかったんじゃないですか?罷りなりにも高貴な(・・・)ハイエルフが、ハーフエルフに負けたって事実を認めたくなかっただけでしょう』

『まさか、其処まで愚かじゃないと・・・・思うけど』

「人間の中でも様々な理由で差別は起きてる。そういった意味で言えば、行き着くところは同じですね。人間もハイエルフも・・・・・」

 話を聞いた昊斗そらとたちの感想を聞き、ファルファッラは自分と娘の持つ、巡り合わせの”良さ”に心から嬉しく思った。


『私も、君たちと同じことを思ったわ・・・・・だから、この子を差別とは無縁な環境で育てたかったから、私は里を逃げ出したの。この子をこの子としてちゃんと見てくれる場所を見つけるためにね』


**********************


『・・・・・こんな状況で、いくつも頼みごとをするのは心苦しいんだけど・・・・本当にいいのかしら?』

「気にしないでください。乗りかかった船です、俺たちに出来ることなら何でも」


 ファルファッラたちの小屋跡で話をしていると、事務所に戻っていた鞍馬くらまがポンタからの伝言として、王都からの命令で聖域崩壊の原因を調査する為に大勢の騎士団がやってくる、と慌てて知らせに来た。


 聖域内にファルファッラたちが住んでいたことは、ポンタの判断で国王たちには伏せられていたため、話がややこしくなる前に、破壊された小屋の残骸を全て昊斗そらとたちの創神器ディバイスに格納し、その痕跡の一切を消し去ってからその場を離れた。


 その後、ベースへと戻り、今後の身の振り方を聞いた昊斗そらとたちに、答えと共にファルファッラはいくつかの頼みごとをした。


 一つは、ファルファッラの寄り代をとなる御符の製作依頼。二つ目は、ファルファッラの亡骸の処分。そして三つ目は・・・・・・


「エメラーダの父親の行方。必ず見つけます」


 エメラーダの父親の行方を捜すことだった。

 探す理由は、その男性にエメラーダを認知、もしくは引き取って欲しいとから言うわけでなく、娘に自分が愛した男の・・父親の顔を見せてやりたいと言う想いからだった。


 手がかりとなる”品”を握り締め約束を誓う昊斗そらとに、ファルファッラは安堵の表情を浮かべる。

『ありがとう』


 そして、ファルファッラの顔つきが厳しいものへと変わる。


「ファルさん、本当に行かれるのですか?」

「よかったら、私たちもお手伝いします!」

 冬華とうか金糸雀カナリアの申し出に、ファルファッラは短く息を吐き、首を振った。


『ううん、これは私自身が決着をつけるべきことだから。この子が、これから安心して生きていく為に、後顧の憂いは断っておかないといけない』

 

―お母さん・・・・・

 自分の為に、再び母が危険な目に遭ってしまう、とエメラーダは目に涙をためてファルファッラを見つめる。


『そんな顔しないで。ちゃんと、エメの元へ帰ってくるから。それまで、いい子で待ってて』

 ファルファッラは娘を抱きしめ、言い聞かせるように耳元で囁く。 


―はい、です・・・・


「ファルファッラさん。よかったら、これを」

 玉露ぎょくろの手の中に光が生まれ、ファルファッラに手渡す。

 光が自身の中に入り、中身を確認したファルファッラが、渋い顔をする。


『これは・・・・・・・マジ?』

「何かの役に立つはずです。交渉のカードとして持って行ってください」

 玉露ぎょくろの言うとおり、使い方によっては有利に”交渉”を進められる、とファルファッラはありがたくその”カード”を受け取った。


『・・・ありがとう。それじゃ、行くね。私が戻ってくるまでエメのこと、よろしく』

 冬華とうかの使う転移術式に似た光が、ファルファッラの身体を覆い始める。


「はい」

「お気をつけて」

「戦果を期待します」

「無理なさらないでくださいね」


―・・・お母さん、いってらっしゃい


『えぇ、それじゃ。行ってきます!!』


 力強い声援に送られ、ファルファッラは”最後”の戦いに赴いていった。



 次回更新は、5月3日(土)PM11:00過ぎを予定しています。


 変更の場合は、活動報告にてご連絡します。

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