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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
聖域の中の母娘 編
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(17) 時間という枷

 エメラーダの視線の先には、王都に居るはずの昊斗そらと冬華とうかが立っていた。


 その後ろに浮かんでいる玉露ぎょくろ金糸雀カナリアも含めて、四人は恐ろしいほど無表情で、前を見据えている。


 目だけを動かし、広場に倒れるポンタや鞍馬くらまたちの姿を確認すると、冬華とうかが杖を一振りする。

 すると、ポンタたちを薄い光の膜が覆い、傷を回復し始めた。

 

 すぐに視線をパッツィーアの方へ戻し、冬華とうかが静かに口を開いた。

「その子から離れなさい」

 その熱の篭らない命令に、パッツィーアは一瞬たじろぐが、顔を顰めて構えに入る。


「聞こえなかったのか?離れろ」

「!?」

 目を離したつもりはなかったのだが、パッツィーアが瞬きした瞬間、昊斗そらとの姿が消え、一瞬で真横に立っていた。

 本能的に昊斗そらとの立つ側へ、張れるだけの防御壁を展開するパッツィーアだったが、昊斗そらとはお構いなしに防御壁を力任せに叩き割り、彼のわき腹に拳を叩き込んだ。


「ぐ・・・・ぎゃああ!!」

 身体中の骨が砕けたような音をさせて、絶叫しながら吹き飛ばされるパッツィーア。


 遥か遠くで倒れたパッツィーアを一瞥して、昊斗そらとがエメラーダの方へ向き直る。


 同時に、冬華とうかも瞬間移動のように、エメラーダの傍に現れ、膝を折る。


―お、おねえさん・・・・・・・お、お母さんが・・・・

 エメラーダの膝に頭を預け、赤黒く変色を始めた血で汚れていたが、まるで眠るように横たわるファルファッラを見て、昊斗そらとたちの表情が強張る。


「ファルさん!?・・・・・・・金糸雀カナリア!」

 冬華とうかの声に、金糸雀カナリアはファルファッラの身体をスキャンし、目を伏せた。


『・・・・・・・時間が経ちすぎてます・・・これでは、主でも』

 瞳を揺らし金糸雀カナリアは全員に見えるようにデータを表示する。それを見た冬華とうかは目を見開き、「間に合わなかった」と、唇をかみ締める。


「くっ・・・・・・」

 昊斗そらとも悔しげにギリギリと拳を握りしめ、玉露ぎょくろは悲しみを堪えるように目を閉じた。

 

 この世界に来て、幾度となく万能とも思える蘇生術を使っている冬華とうかだが、彼女の蘇生術には欠点があった。

 

 それは、時間制限だ。


 心臓停止、もしくはそれに類する状況になってから三分以内なら、どんな状況・状態でも蘇生させることができるのだが、例えコンマ一秒でも越えた瞬間、冬華とうかには蘇生不可能となってしまう。


 元々戦闘特化型である冬華とうかが蘇生術を使えること自体、傭兵の世界ではありえないことなのだが、彼女は気の遠くなるような修練の末、不完全ながらも会得することに成功した。


 それでも、今回の様などうにも出来ない状況に行き当たることは、これまでも幾度とあった・・・・


 冬華とうかは、目を閉じ「これだけでも」と、ファルファッラの全身に刻まれた傷を消し去り、ズタボロになった服も全て新品のように元の状態へと戻した。

 あくまで表面だけのことだが、同じ女性としてあのままは見ていて辛かった。


「ごめんなさい、今の私にはこれしか出来ません・・・・ごめんね、もっと早く来てあげられなくてっ」

 そう言って、エメラーダを抱きしめる冬華とうか


―おねえさん・・・・・・おねえさんたちは、悪くないです・・・何もわるく・・・・・


 エメラーダも、震える手で冬華とうかの身体を抱きしめ、そのまま泣き出してしまった。 



「くそ・・・・・・人間風情が、下等な人間ごときがこの私をよくも・・・・・・」

 昊斗そらとに殴られた場所を、回復薬を使って治そうとしたパッツィーアだが、思った以上にダメージが深かった為、痛みだけしか取れなかった。


「まだ動けるのか?呆れた身体だな、ハイエルフ」

 瀕死状態であるはずのパッツィーアが動いているのを、視界の端で見ていた昊斗そらとが、立ち上がったパッツィーアに近づき、睨みつける。


「!?・・・・・やはり人間など・・・・・貴様ら人間と出会わなければ、ファルファッラは道を踏み外すこともなく、あんな穢れた化け物(バンシィ)など産み落とさなかったのだ・・・貴様ら人間が居なければ、彼女が里を逃げ出すこともなく、私の物になったのに!!」

 身勝手な言葉を吐きながら、残っていた最後の”矢”を取り出し、昊斗そらとの心臓に突き立てるべく、襲い掛かるパッツィーア。


 しかし、矢は昊斗そらとの防御結界の表面で止まり、効力を使い果たして砕け散ってしまった。


『ほぅ、障壁の第一層(・・・)を抜くとは・・・・・随分特殊な素材を使った矢ですね?』

 鼬の最後っ屁と思っていた攻撃が、結界の表層を傷つけたことに玉露ぎょくろが驚いてみせる。


「ば、馬鹿な?!その防御壁は、ファルファッラが使っていたものと同種のはず!何故貫通しない!!」

 逆にパッツィーアは、昊斗そらとの結界の異常な固さに、自身の常識が崩れ去っていくのを感じた。

 人間が、自分たち一族を超える結界を使うなどありえないと、現実を受け入れることが出来ず放心する。


『はぁ・・・・・・貴方もファルファッラさんと同族なら、この障壁の固さは理解出来るはずですよ?それでも、外宇宙用大型戦闘艦の特殊装甲、一万八千枚分の強度を持つ第一層を破壊したのは褒めてあげますよ?まぁ、あと同じものが三千層程ありますし、常時自動修復されますから・・・・・その矢があと何千何万本とあっても、破壊するのは難しいでしょうね』


 玉露ぎょくろの言葉の意味を理解できぬまま、放心し続けるパッツィーアの胸倉をつかみ、そのまま持ち上げる昊斗そらと


「もういい、玉露ぎょくろ。お前の様な男の風上にも置けないクズは、どうせ口で言っても反省なんてしないだろう。だからと言って、素直に殺してやるつもりもないぞ」


 そう吐き捨てると、昊斗そらとは空いた手で、パッツィーアの左足を掴み、躊躇なくへし折った。


「ぐっぎゃあああああ!!あ、足がぁあああ!!!!」


 痛みで現実に引き戻されたパッツィーアが暴れ出すが、昊斗そらとは気にも留めず、右足も木の枝を折るようにへし折った。


 泣き叫ぶパッツィーアを、そのまま冬華とうかたちの方へと投げ捨てる。


「ぐげぇ!!」

 蛙がつぶれるような声をあげ、パッツィーアがヨロヨロと顔を上げる。


 足元に転がるパッツィーアを、まるで汚物を見るような目で見下す冬華とうか金糸雀カナリア


 先ほどまで泣いていたエメラーダはというと、精神的に限界が来ていたので、冬華とうかが眠らせて、ファルファッラの亡骸と共に、少し離れた場所にポンタたちと同じ光の膜で覆い、寝かせていた。


 小さな寝息を立て、とても穏やかな寝顔のエメラーダを見ながら、冬華とうか


「貴方の自分勝手な言動を見れば、どちらに非があるかなんて一目瞭然。ファルさんの性格を考えたら、貴方なんてひとは見向きもされなかったでしょうね。そのことに気が付きもしないで、身勝手にもあんなに仲のよかった母娘を、下らない理由で壊した貴方を、私は許さない・・・・・・・・・」

 

そう言って、冬華とうかが杖を掲げると、杖の先に禍々しいまでの光が発生する。

「な、何をするつもりだ・・・・?」


 直感的に、その光が危険なものと察したパッツィーアが、後ずさる。

「ファルさんとエメちゃんが感じた苦痛と恐怖を同じだけ・・・・ううん、その何千倍もの苦しみを、その身に一生味あわせてあげる」


 冬華とうかの瞳の奥に、怪しげな光を見た気がしたパッツィーアが悲鳴を上げる。


「や、やめろ・・・・・こっちに来るな!!」


 折れた足を無様に引きずり、腕の力だけで這いずり回るパッツィーアだが、その行き先には昊斗そらとが、行く手を遮るように立ちはだかり、その手には禍々しいまでのオーラを放つ、漆黒の魔剣が握られている。

 

「ファルさんやエメちゃんも、貴方に同じことを言ったはずよね?でも貴方はどうしたのかな?自分の言動を棚に上げて、よく恥ずかしげもなくそんなことが言えるね」


 難なく追いつき、折れた足を踏みつける冬華とうか

 声にならない悲鳴を上げ、痛みに震えながら、パッツィーアが冬華とうかを睨む。


「・・・許さないぞ、人間!・・・こ、このことが里の者に知られれば、貴様たちも唯ではすまないぞ!!貴様たちも、あの化け物も!残らず殺されればいい!!」


 脅しにもならないパッツィーアの虚勢に、冬華とうかが微笑む。


「心配しなくていいよ。もしエメちゃんを殺そうと、貴方の里の人が襲ってきたら・・・・皆、貴方の傍に植えて(・・・)あげるから・・・・・ねェ貴方、捕食樹プレデター・プラントって知ってる?ある世界で爆発的に繁殖した、特級危険植物に指定されてる樹木でね。高い知能を持った生き物だけを捕食する、変わった樹木なの」


 冬華とうかがそう言うと、彼女の足元の地面から小さな木の芽が生え、見る見るうちに冬華とうかの腰ほどの高さまで成長した。


「最初はね、このぐらいの大きさまでしか成長しなくて、森の中で他の木々の陰で、ひっそりと隠れて獲物を待つの。で、この樹に獲物である知的生命体が近付くと、捕食するために活動が活発になるんだよ。特に、知能が高くて生命力にあふれる・・・・・そう、ハイエルフみたいな高位の種族なんかが大好物で、人間なんか見向きもしないで、真っ先に襲うの・・・・」


 すると、若木の根元から何本もの根が現れ、逃げようとするパッツィーアを捕まえると、手足を拘束して天高く持ち上げる。


「ひ、ひぃ!!離せ・・・・・くそっ、この程度の植物など!・・・なっ?!」

 手足に絡みつく根を、結界を展開して切ろうとするが、パッツィーアの身体には結界を張るための力が一欠片も無くなっていた。

 ファルファッラとの戦闘でかなりの量の魔力を使ったが、枯渇する様な下手な使い方はしていなかったパッツィーアは、何が起きたのか分からず、頭の中が真っ白になる。


「あぁ、お前を殴った時に、魔力の発生器官を含めて魔力回路を、二度と再生できないように破壊しておいた。仮にここから脱げ遂せて助かったとしても、もう二度と力は使えないぞ」


 昊斗そらとの言葉に、パッツィーアは眼下にいる者たちが人の姿をした何か別物ではないか、と思い至り背筋が凍りつく。


――私は、一体何を敵に回したんだ?


 混乱する思考が一周して、妙な冷静さ取り戻したパッツィーアが、そんなことを思った。


 しかし、彼にはすでに、自らの行動を振り返る時間も、後悔する時間も残っていなかった。


 根の絡みつく速度が一気に早まり、身体の自由をほとんど奪われる。


「いっ!!」

 すると根から棘が伸び、暴れるパッツィーアの身体中に刺さると、棘からまるで熔けた鉄のような熱い液体が身体の中に注ぎ込まれる。そしてその熱で身体が内側から溶かされるような感覚がパッツィーアの全身に広がっていく。


「か、からだが・・・!い、嫌だ・・・・助けて!たすけてくれーーーーー!!」


 絶叫の中、顔にまで根が絡みつき、パッツィーアの視界を奪っていく。根で口をふさがれ、呻く彼が最後に見たのは、天使の様な笑顔を浮かべて、自分を見つめる冬華とうかの姿だった。


 バ・イ・バ・イ


 彼女の口がそう動いたように見え、根によって眼前を覆われたパッツィーアは、絶望の底へと沈んでいった。



 根がパッツィーアを覆い尽くし、繭玉となった根の塊が急激に萎むと、パッツィーアの全てを根から栄養として吸収し、若木は一気に大きな樹へと成長した。


 手にした魔剣を創神器ディバイスに格納し、昊斗そらと冬華とうかの前に立つと、彼女は俯いて昊斗そらとの肩に頭を乗せた。

 

「守れなかった・・・フェリちゃんたちと約束したのに・・・・・二人を助けるって約束したのに・・・・・」

 そのまま昊斗そらとの服を掴むと胸に顔をうずめ、肩を震わせ泣き出した冬華とうか


「・・・・・冬華とうか

 昊斗そらとは、冬華とうかの身体をそっと抱きしめ、受け止める。


 傭兵を始めて、今まで助けられなかった命は数多くある。その中には知り合いだった人たちも、数え切れないほど沢山含まれている。


 別れを経験するたびに、昊斗そらとたちは後悔と自責の念にとらわれた。


 そして、二度と同じ過ちを繰り返さない、と彼らは自らを鍛え続け、気が付けば傭兵の中でもトップを行く存在にまで駆け上がっていた。

 冬華とうかの蘇生術も、一人でも多くの命を助けたいと言う一心で、彼女が傭兵としての力の大部分を失うかもしれないというリスクを冒し、相当な無理をして手に入れたものだった。

 

 それでも、彼らの目の前で失われる命はゼロにはならない。

 

 ”いつかは慣れる。”


 多くの先輩たちから何度も言われた言葉だが、やりきれない気持ちは、いつまで経っても慣れることはなく、後悔と自責の念だけを昊斗そらとたちに残し続けた。


冬華とうかさん・・・』

冬華とうか・・・・』

 

 冬華とうか一人の責任ではない、と全員が抱きしめる。


 悲しんでも失われた命は戻らない。そう解っていても、全員が泣かずにはいられなかった。



”悲しみに暮れる美男美女たちが抱き合う姿って、絵になるのね〜・・・・不謹慎だけど”


 そんな後悔の只中、突然場違いな明るい声が辺りに響き、抱き合っていた昊斗そらと冬華とうかは慌てて離れ、四人は警戒を強めた。


”ありゃりゃ・・・声を掛けるタイミング、間違っちゃったかな?もうちょっと見てたかったんだけど・・・・・・”


 言葉と共に、何処からともなく現れた人物を見て、昊斗そらとたちから声が漏れた。


『やっほ、数週間ぶり。元気してた?』


 そこには、死んだはずのファルファッラが、いつもの悪戯っぽい小悪魔な笑みを浮かべて、ヒラヒラと手を振っていた。




 


連続更新最終日!

お付き合い頂きありがとうございます。次回から通常営業となります。


次回更新は、4月29日(火)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にて連絡します。

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