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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
聖域の中の母娘 編
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(12) 休暇の終わりに(後編)

「待たせてしまってすまなかったね。これが、例の許可書と身分証だ」


 国王カレイドの執務室に通された昊斗そらとたちは、カレイドから上質な紙の束と”六枚”のカードを受け取っていた。

「この身分証・・・随分手の込んだつくりですね・・・偽造防止かな?」

 昊斗そらとからそれぞれの身分証を手渡され、冬華とうかたちが興味深げに観察している。

 大きさは、昊斗そらとたちが持っている”国内用”の身分証と同じだが、カード表面に施された細工は、比べ物にならないほど精巧である。

 ソファーに座ったドラグレアが、自慢げに鼻を鳴らす。

「オレが持ち込んだ技術が使われているからな。おいそれと偽造は出来ないぞ?・・・・というか、するなよ?」

 

 昊斗そらとたちがカレイドたちの下を訪れたのは、前回の依頼達成の報酬として約束されていた海外渡航用の許可書と海外用の身分証の受け取るためだった。

 これで昊斗そらとたちは、自分たちの意思でルーン王国と同盟関係にある国へ、渡航することが出来るようになる。

 昊斗そらとたちが、許可書と身分証を創神器ディバイスに入れるのを確認し、ドラグレアが真剣な顔つきで昊斗そらとたちの方を見た。

「それで、お前たちは何処に行く予定なんだ?」

「とりあえず、友好国で風の神と地の神を信仰している国に行こうと思います。目撃情報が皆無である以上、あとは足で稼ぐしかないですし」


 国外へいけるようになり、昊斗そらとたちは残り三柱の代理神たちの行方を捜すため、ルーン王国を一時的に離れることを決めた。

 そのことをカレイドとドラグレアに話すと、特に反対されることは無かった。


「君たちの心配をするのは失礼だろうが、何かあればフェリシアが悲しむからね。無茶はしないでくれたまえ」

「分かってます。それに、定期的にここへ戻ってきますよ。それから、短期間とはいえ、ルーちゃんたちから目を離すわけにいかないので、二人は連れて行きますね」


 今回、調査と捜索が目的の為、他の代理神の気配を知るルールーとカグを連れて行くつもりでいた。それと、未だ再教育途中の二人を、王都に残しておくのは不安だというのも含まれている。ルールーはフェリシアの精霊ではあるが、彼女とのパスをさらに改良し、例え星の裏側でもフェリシアが呼べば、タイムラグなしでルールーを呼び出せるようになっており、さらには万が一、ルールーが傍にいなくても精霊術が使えるように対策は取っている。


「まぁ、オレたちに預けられても、正直手に余るしな。その方が助かる」

 あまりルールーといい思い出のないドラグレアが、清々するといわんばかりにソファーに身体を預ける。


「では、出発の時に、また挨拶に来ます」

 昊斗そらとは一礼して執務室を後にする。


「必要なものの買出しと、プランを立てないといけませんね」

 玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが、必要な品物のリストアップを始める。

「その前に、フェリちゃんたちに少しの間、留守にすることを伝えないと」

「そうだな。先に、フェリシアの所に寄るか」


 外へと向けていた足を、昊斗そらとたちはフェリシアの部屋へ向けた。



「では、他の神を探しに他の国へ行くのですか?」

「まぁね」

 部屋を訪ねると、運良くフェリシアがいたので、昊斗そらとたちは残りの代理神たちを探す為、少しの間ルールーとカグを連れてルーン王国を離れると伝えた。

 予想に反して、フェリシアは取り乱すことなく、話を聞いていたことに昊斗そらとたちは驚いた。


「私も、もう成人です。いつまでも子供みたいに、駄々をこねる訳には参りませんから・・・でも、出来るだけ早く、戻って来てくださいね」

 強がっているものの、言葉に反してやはり寂しいようで、少し俯きフェリシアの表情が暗くなる。

「ご心配なく。いざとなったら、冬華とうかさんの力で一瞬で帰ってこれますよ」

「・・・・それをやっちゃ駄目って、ドラグレア様に言われたばかりだよ、玉露ぎょくろちゃん」

 出入国手続きの関係で、下手に転移術を使うのは具合が悪く、余程の緊急事態でない限り使うなと、ドラグレアに釘を刺されている。

「まぁ、まだ準備とかあるし、出発前は挨拶にまたこっちに顔を出すよ。黙っては行かないから安心しろ」

「ほ、本当ですか?」

「心配性だなフェリちゃんは。マーナさんの時の反応を知ってたら、黙って行くわけないでしょ?」

「!?」

 忘れたい過去ベスト3に入る出来事を持ち出され、フェリシアは恥ずかしさで顔を真っ赤にする。


 そのままフェリシアと話をしていると、明日の登校時間を確認しにきたフレミーや、学校には何を持っていく必要があるのか聞きにきたミユ。そして最近、一緒に行動しているルールーとカグが混ざり、話が大いに盛り上がってしまい、お開きになったのは、日が傾き空を赤く染めていた。


******************


 時間は戻り、昊斗そらとたちが出て行った後、少し間を空けて二人は脱力して息を吐いた。


「・・・・・・・・本当によかったのか?後で、文句を言われても知らないぞ、オレは」

 友人の判断を尊重しているドラグレアだったが、何も知らされなかった昊斗そらとたちが事情を知った時のことを考えると、心苦しく思った。


「彼らは、君を含む他の異世界人とは立場も事情も異なる。これ以上、こちらの都合に巻き込むわけにはいかないさ」

 カレイドも、昊斗そらとたちに協力を仰げば、より確実な結果が得られるとは分かっていた。しかし、昊斗そらとたちには、グラン・バースの行く末を左右する重要な役目を背負っていることを知っているため、これ以上の心配の種を増やすわけにはいかないと、カレイドは”あること”を昊斗そらとたちに伝えなかった。

 

 その一端が、先ほど昊斗そらとたちに渡した許可書と海外用身分証で、本当は夏期休暇に入る前に渡す予定だったが、思わぬところから邪魔が入ったことだった。


「まさか、あの大臣どもが言いがかりをつけてくるとはな」

 その時のことを思い出したのか、ドラグレアの顔が憤怒の色に染まっていく。

 

 カレイドを補佐する数人の大臣たちが、昊斗そらとたちへの渡航許可書などの発行を、思い留まるようカレイドに申し入れてきたのだ。

 様々な意見を言ってはいたが、集約して端的に言えば「他国が認める実力者たちなら、これ以上の自由を与えず、ルーン王国の人的資源として飼い殺しにするべきだ」というものだった。


 昊斗そらとたちは、こなしてきた依頼の中で友好国の要人たちを何人も救い、各国から感謝状が送られている。

 もし、これまで以上に自由を保障すれば、いつ他国へと寝返るか分からない。その前に手を打つべきだ、と勝手なこと言い出したのだ。

 まさか、自分が信頼する側近たちの口から、そのような発言が飛び出すとは思いもよらず、カレイドはその場で全員を叱りつけ、二度と口にするなと厳命した。

 そして、国の要職に就く者たちが、あまりに前時代的な考えを持っていたことにカレイドは戦慄した。

 

 なぜなら彼らの考え方は、友好国との協調路線を壊しかねないものだったからだ。


 異世界人が建国した国であるレヴォルティオン帝国の台頭により、各国で異世界人の待遇が見直され、昨今では帝国の働きかけで、国際的な枠組みで異世界人の人権を保障しよう、と動きが加速していた。


 ルーン王国も、その動きに初期の頃から同調していたが、数百年にも及ぶ慣習を変えることは難しく、ほんの

ニ〜三十年前までは、王国内においても貴族たちからの反発が強く、力を持った異世界人は奴隷扱い、そうでない者は排斥すべきだ、と声高に叫ばれていた。


 そんな国内の流れが、一気に変わる事件が起こった。


「二十数年前・・・・・当時の国王、つまりお前の父親は、異世界人擁護の立場を全面に打ち出し、新しい法律の制定を急いでいた。だが、一部の貴族がこれに猛反発。国内にいた異世界人たちを刺客を使って無差別に襲い始めた。もちろん、オレのところにも刺客が現れた。まぁ丁重にもてなしてやったが」

「あの時、ドラグを襲った数人の暗殺者が、ただひたすらに泣き叫ぶ姿をみて、君が何をしたのか興味を持ったが、好奇心より恐怖が勝ったよ、私は」

 異世界人狩りと言われたこの事件により、多くの異世界人が怪我、もしくは命を落とし、異世界人にとってルーン王国は危険な国と異世界人から恐れられ、周辺国からは早急に解決を!と非難された。

 そんな中、召喚されたばかりのドラグレアは、幾度と無く襲撃者を撃退し、ついには自力で本丸まで攻め込む材料をかき集めてしまった。

「首謀者たちを突き止めて、集まっていた屋敷をお前やマリアたちと一緒に強襲。他の貴族たちが二度と同じ考えを起こさないように、見せしめとして徹底的にとっちめたんだったな」

「父上がドラグや私からの報告を聞いて、天を仰いだのを今でも覚えているよ」


 ドラグレアから報告を受けた当時の国王ジェラード王は、息子であるカレイドやドラグレアたちを怒るよりも、若者たちに自分の不始末の尻拭いをさせてしまったことを、酷く恥じた、と晩年カレイドに打ち明けていた。

 

「まぁ、あの当時はオレもお前も若かったからな。今にして思えば、お互い考えなしの行動だったよな」


 結局、首謀者たちは国家反逆罪により一族郎党処刑、その家名も永久に消されることなった。この事件をきっかけに、ジェラード王は異世界人に関する新しい法律の整備を加速させ、異世界人への待遇が改善されていった。

 そして、それ以後ルーン王国に召喚された異世界人たちの働きもあり、一般人はもちろんのこと、貴族たちも異世界人への偏見を捨てるようになっていった。


「・・・・・だが、一年前。この国に召喚された一人の少年によって、異世界人への対応を見直すべきだ、と意見が上がり始めた」

 カレイドは、その少年の顔を思い出し、苦々しく顔をしかめた。

「だったな・・・・・・。あいつは、自分が異世界人の中でも特別扱いされているのをいいことに、多くの人間の気持ちを踏みにじり、好き放題勝手をやってしまった。結局、国外追放という形で決着をつけたが、あれを契機に一部の貴族たちに異世界人への隷属化や排斥の意識が再び芽生えてしまったんだろうな」


 フレミーが異世界人への憎しみを持つ原因となった少年。


 彼は、特殊な力を持っていることで、ルーン王国に特別待遇を持って迎えられた。

 しかし、尊大な性格が災いし、多くの貴族たちの反感を買い、終いには国王カレイドの逆鱗に触れてしまった。普通なら処刑されてもおかしくない状況だが、一部の貴族から「我々には少年に助けられた恩がある。自分たちの全てを差し出しても構わない。少年に寛大な処置を」と上申してきたのだ。


 カレイドも、この上申を無視する訳にはいかず、二度とルーン王国の地を踏まないとドラグレアが用意した特別な誓約書に誓約を書かせ、国外へ追放したのだった。


「ドラグ、あれから誓約書に変化はないか?」

 カレイドに問われ、ドラグレアはまるでリモコンでも探すように、異次元へ繋がる不可視の穴に手を突っ込み、ごそごそと誓約書を探し、取り出した。


 不気味なオーラを纏う誓約書には、誓約文と誓約した者の名と血判が押されており、ドラグレアは変化が生じてないか、くまなく調べる。

「ないな。こいつはとびきり強力な呪いだ。何十人もの巫女が命がけで解かない限り、解除できないほどのな。心配しなくても、あいつはこの国に立ち入ることは出来んさ」


 だが、もしこの呪いを自分に気づかれずに解除できる者がいるのなら、かなり厄介なことになるとドラグレアの頭を過ぎったが、「考えすぎか」と、かぶりを振る。


「・・・そうだな。とにかく、これ以上事態が悪化する前に手を打たないと。この問題は、私の代で絶対に解決する。決して、フェリシアの代には引き継がせない!」

 カレイドは、そう言って部屋にある父の肖像画も見つめ、そして机の上に飾られた写真たてへ視線を移す。

 そこには、フェリシアやマリアなど家族で写る写真ともう一枚、若いカレイドが少し年上の男性と写る写真が飾られていた。

「そして、これが私に出来る、父上と私に王位を譲り想いを託してくれた”兄上”への恩返しだ」

 尊敬する二人に、誓いを新たにするカレイド。そんな友人を見て、ドラグレアに笑みがこぼれる。

「まぁ、オレは何があってもお前の味方だ」

「すまないな、ドラグ」

 

 しかし、カレイドたちが思っていた以上に、状況は最悪な方へと転がり出そうとしていた。


****************


 木漏れ日の森から程近い町にある宿屋の一室に、その場所にいるはずのない人物がいた。


「ご苦労だった、お前たち。特に、マギハは大儀だったな」

 尊大な言葉使いをする十代後半ほどの少年が、出迎えた仲間たちに労いの言葉をかける。


 少年の目の前には、魔法使いのような格好をした青年を始め、扇情的な格好をした巫女の女性、身体中に戦いで負ったであろう多くの傷が残る目つきの鋭い狼人族という獣人の男。そして、巫女の女性とは対照的に、神々しいまでの神聖さを纏い、一切の素肌を晒さない神官服を着た女性に、顔を隠す為か室内でも外套を脱ぐことのない長身の男が立っている。


 マギハと呼ばれた、魔法使いのような格好の青年が、明らかに年下の少年に仰々しく頭をたれる。

「いえいえ、貴方在っての勇者パーティですから。貴方の為ならどのような労力も惜しみませんよ。それが希少な魔法具を多く失うことになってもです」

 先日、小国連合の男から仕事を請け負い手付金として手に入れた魔法具を、マギハは惜しみなくつぎ込み、少年をルーン王国へと”入国”させる事に成功した。


「ちょっと〜、ウチには何も無いの?ユーリがこの国に入れたのは、ウチのお陰でもあるんだから」

 扇情的な巫女装束を纏った巫女の女性が、胸元を強調するように少年にしな垂れる。

「レーアさん!なんて破廉恥な!」

 巫女の女性、レーアの行動に神官服の女性が声を上げる。

「相変わらず、固いわね。そんなんだから、男にモテないのよアルトリア」

「なっ!」 

 レーアに言われたことを気にしていたのか、アルトリアと呼ばれた女性は憤慨して顔を赤くする。


「お二人とも、勇者様の御前ですよ?もう少し、恥じらいを持ってください」

 マギハはため息をつきながら、二人に苦言を呈する。


「そんなことよりよ!いつになったら、戦いになるんだよ!?このままじゃ、拳が鈍っちまうぜ!!」

 獣人の男が、苛立つようにシャドーボクシングをするように拳を繰り出す。その一打一打が、必殺の一打であると、発せられる音で分かる。


 いつもの事ながら・・・・とマギハは、作り笑いを崩さないように獣人へと顔を向ける。

「ディアゴさん、もう少し待ってください。さて皆さん、前々からお話していましたが、いよいよ聖域に封印されている秘宝を取りに行きます。そして今回、貴方の力が大変重要なので、お願いしますね?」

 マギハに声を掛けられ、外套の男が無言で肯く。


「それから、これは別件で受けた依頼ですが、同じ聖域に住んでいるという亜人の捕獲もありますので、お忘れなく」

 マギハの言葉に、アルトリアが怪訝な顔をする。

「亜人?そのような存在がいるというのですか?」

「えぇ、私の得ていた情報には無かったのですがね。ですが、捕獲に成功すれば当面の資金には困らない額が手に入る依頼ですので、手を抜かないでください」

 生きていく上でお金は切っても切り離せない。そのことを全員が承知しているので、マギハの言葉を受け肯く中、少年だけが興味なさげにしていた。


「お前たちの好きにしろ。おれの目的は・・・・」

 少年は、立ち上がり横においていた剣を手に取り、鞘から引き抜く。


「勇者であるこのユーリ・ペンドラゴンに相応しい聖剣を、手に入れることだ!」

 

 ”勇者ユーリ”は宣言共に、座っていた椅子を一刀の下に切り裂き、部屋を出て行った。そして仲間の全員が荷物を持ち、部屋を出て行く。


 ユーリ・ペンドラゴン。かつて、ルーン王国に波紋を起こし放逐された少年が、ルーン王国史上、最悪の事件を引き起こす為の引き金を引くこととなるのだった。






次回更新は、4月18日(金)PM11:00過ぎを予定しています。


変更のある場合は、活動報告にてご連絡いたします。

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