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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
聖域の中の母娘 編
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(11) 休暇の終わりに(前編)

 木漏れ日の森での休暇はあっという間に過ぎ、昊斗そらとたちが王都へと帰る日となった。


 フェリシアたち学生は一足先に王都へと帰っており、ドラグレアの庵には見送りのためにポンタや、今回の休暇で知り合ったファルファッラとエメラーダも駆けつけていた。


「ではな、娘よ!妾の眷属たちのこと、よろしく頼むぞ!」


―はい!水の神様も、また、精霊さんたちに会いに来てくださいです。火の神様も!


「うん。ルドラと一緒に、また来るよ」

 すっかり仲良しになったルールーたちとエメラーダが、和気藹々と挨拶を交わす中、隣では・・・


「もうちょっと居ようよ〜!寂しくなるじゃない〜!!」


 と、ファルファッラが、駄々っ子のように号泣しながら昊斗そらと冬華とうかにすがり付いていた。


 マッタク、ナニヲ、コドモミタイナコト、イッテイルノ!モウスコシ、オトナラシイ、フルマイガ、デキナイノカシラ?アナタハ・・・・・・

 情けない、とファルファッラを昊斗そらとたちから引き剥がし、ポンタが珍しくため息をつく。


「だって!あんなに愉しくおしゃべりしたの、久しぶりだったんですよ?!それなのに・・・・」


―お、お母さん。皆さんと、もう会えないって訳じゃないんだから、ね?もう、泣き止むです


 十二歳の娘に慰められ、ファルファッラは「うん」と涙を拭う。


――本当、どっちが親なんだか・・・・・


 この数日で、幾度とそう思わされた昊斗そらとたちだったが、今となってはいい思い出だ、と笑みがこぼれる。


「ファルさん。私たちなら、いつでもここに来れますから、心配しないでください」

 大の大人に向かって、冬華とうかは子供に言い聞かせるように言葉をかける。

「・・・・・本当?」

 とても一児の母とは思えない姿に、冬華とうかも努めて笑顔を作る。

「本当です」


―あの・・・・・お母さんじゃないですけど、わたしも・・・・皆さんとまたお話が・・・

 遠慮気味に希望を言うエメラーダの頭を、昊斗そらとが優しく撫でる。

「大丈夫だ。フェリシアはもちろん、ヴィルヘルミナやミユたちも連れてくる」

 頭を優しく撫でてくれる昊斗そらとの言葉に、エメラーダの顔が明るくなる。


 冬華とうかが杖を取り出し、空間転移の術式を展開し、昊斗そらとたちを光が包む。

「それじゃ、また」

「皆さん、お元気で!」

「今度は、もっと可愛い服持ってくるから」

「それから、おいしいお茶もね」

「すぐにまた、来るからの!」

「お元気で」

 昊斗そらとたちが別れを惜しむように手を振る中、ファルファッラたちも同じように手を振る。


 ファルファッラだけでなく、エメラーダの目にも涙が溢れている。

「絶対、また来てよ!待ってるから!!」

―待ってるです!

 

 カラダニ、キヲツケテ、ガンバリナサイ

 ポンタも、何処か寂しそうに手を振る。


 術が発動し、昊斗そらとたちの姿が一瞬にして消える。

 その後も少しの間、母娘と森の管理者は手を振り続けていたのだった。

 

***************


 さらに日にちが過ぎ、新学期を明日に控え、フェリシアたち学生は準備の為、バタバタと忙しく準備に追われていた。


「どうかな?トーカお姉ちゃん、ギョクロお姉ちゃん。似合ってる?」


 アルバート城にやってきた冬華とうか玉露ぎょくろを掴まえて、ミユは自慢げにアイディール学園”中等部”の制服を見せる。

 もちろん、トレードマークとなっている狐のお面もいつもの定位置にセットされていた。


「可愛いよ〜、ミユちゃん!ね、玉露ぎょくろちゃん!」

「えぇ、とっても・・・・・それにしても、ミユさんまで学校に通うなんて」


 木漏れ日の森から帰った後、国王カレイドからミユの勉強を見て欲しいと頼まれた昊斗そらとたち。


 勉強を見ている最中、様子を見にきたフェリシアから、ミユの義母である前任のマーナから、「祭事巫女の仕事に差し障りのない範囲で、ミユを学校に通わせて欲しい」と、カレイド宛に手紙が来たと聞かされた。


 マーナ自身、学校に通ったことが無かったそうで、祭事巫女としての職務も大切だが、自分には出来なかったことを、ミユには色々と体験させてあげたい、と書き添えられていたという。 


 手紙を読んだカレイド・マリア夫妻は心打たれ、即座に行動を起こし、ものの数日でミユのアイディール学園中等部への編入が決定したのだった。


 とはいえ、ミユ自身の学力がどの程度あるのか分からなかったので、フェリシアたちから、昊斗そらとらに定期考査でお世話になったと聞いていたカレイドは、彼らに白羽の矢を立てた。


 昊斗そらとたちがミユの学力を調べてみると、中等部クラスの学力はしっかりと身に着けていることが判明した。―ミユを始めとする巫女見習いたちは、巫女の修行と平行して社会に出ても恥ずかしくないように、勉学も勤しんでいるので、勉強が出来て当然だったりする。



 こうして、満を持して学校に通えることになったミユは、自分の制服が届いてからというもの、お城にやってきた知り合いに見せびらかしていたりする。


「ミユ、学校って所に行ったことないから、すっごく楽しみなんだ!」

 今から待ち遠しいのか、いつも以上にテンションの高いミユ。それはまるで、初めて小学校に通う子供のようだった。

「それじゃ、明日からはアイリスちゃんと一緒にお勉強するんだね」

 微笑ましい光景に、頬の緩む冬華とうか

「うん!さっき、ミーナとアイリスが来た時、アイリスが学校の中を案内してくれるって言ってくれたんだよ!」


 ちなみに、ミユが中等部に編入すると聞いたヴィルヘルミナは、友達二人が中等部で楽しく過ごすのだろうと想像し「わたくしも、中等部に再編入させてほしいです・・・・」と、飛び級して高等部に通っていることを、心底後悔しているようだった。


「しかし、国賓であるミユさんを”一般クラス”に入れて、本当に大丈夫なんでしょうかね?」

 休暇が続き、プライベートモードが長かった玉露ぎょくろは、気持ちを引き締めるために、ここ数日は仕事モードを貫いている。

 久々に、無表情の玉露ぎょくろを見て、さすがのミユも一瞬たじろぐ。


「う、うん。一般クラスにはアイリスもいるから・・・大丈夫だよ!」


 ヴィルヘルミナの侍女見習いをしているアイリスは、帝国において一番身分の高い臣民ではあるが、他国では貴族扱いではなく一般人扱いとなっている。

 逆に祭事巫女であるミユは、国賓待遇であるため、本来なら特別クラスが妥当なのだが、見知らぬ者たちに囲まれるより、見知ったものが居た方がいいだろう、と言うカレイドの判断で、学園側に打診したのだった。


「初めての学校だし、お友達が近くに居た方がいいよね」

「うん!」

 もちろん安全面に抜かりは無く、冬華とうか玉露ぎょくろが城を訪ねたのも、ミユとアイリスの中等部コンビの制服に加え、フェリシアたちを始めとする高等部に通う学生たちの制服に、外からは分からないように様々な防御術式を組み込むためだった。


 これにより、彼女たちの制服は歩く結界と言っていいほどの物へと変わり、騎士団で支給されている鎧など比較にならない性能を持つことになる。

 もう少し未来の世界で、この術式が組み込まれた制服が一般的になるのだが、この時は誰もそんな未来を想像していなかった。


「それじゃ、ちゃっちゃと終わらせよう!」


 ミユ以外の制服にも、術式を組み込まなければならないので、ミユに制服を脱ぐよう促し、受け取った冬華とうかたちが、早速作業に取り掛かった。


 いつもの緋袴と白衣を慣れた手つきで着なおし、作業を見守るミユ。


「そう言えば、ソラトお兄ちゃんとカナリアお姉ちゃんは一緒じゃないの?」

 先ほどから姿の見えない、とミユが昊斗そらとたちの名前を出す。

「あぁ、お二人でしたら今頃・・・・・・・」



*****************



「さて、これはどういうことか、説明してもらおうか?ローレンツ少尉?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 机の上に置かれ、無残なまでに真っ白なページが並ぶ宿題の山を前に、階級付きで呼ばれたペトラが、声にならないうめき声を上げ俯いて座っていた。

 その反対側には、戦闘中の顔つきと変わらない、険しい表情になっている昊斗そらとが、腕を組んでペトラを見下ろしている。

 

「フローラに聞いて、まさかと思って来てみれば・・・・・・・・・・・君は、俺との約束を忘れたというのか?」

「の、ノー!サー!!」

 勉強のことに関して、今まで会ってきたどの教官・上官よりも恐ろしい昊斗そらとのことを、ペトラは逆らってはマズい上官という立ち位置になっていた。


 昊斗そらとの言う約束とは、勉強に苦手な騎士クラスの面々に、夏期休暇の宿題は遅くとも新学期が始まる前に終わらせておく、というのもだった。


 フレミーとフローラは、淡い恋心を寄せる昊斗そらととの約束を守るため、必死になって宿題を終わらせ、昊斗そらとからお褒めの言葉を貰い、天にも昇る想いだった。


 しかしペトラは、「明日やる」「今度やる」と言う、宿題をサボる人間の常套句を言い続け、結局手付かずのまま、最終日を迎えていた。

 

「まぁ、この程度の量なら、明日学校に行くまで不眠不休でやれば終わるだろう」

 パラパラとページを捲りながら、さも当然と言わんばかりに昊斗そらとが言い放つ。

「ま、待ってくれないか?!さすがにそれは・・・・・・」

 言い訳をしようとしたペトラに、昊斗そらとの眼光が一層強まる。

「言い訳無用!!」

「サー!イエッサー!!」

 無意識に立ち上がり、帝国軍式の敬礼をするペトラ。


「今すぐ、始めろ。フローラ、彼女がサボるようなら、これで遠慮なくはたけ」

 そう言って、昊斗そらとはフローラに少々大振りなハリセンを手渡す。

 見たことのない物に、首をかしげるフローラだったが、昊斗そらとの説明で使い方を理解し、何度も肯いた。

「では、頼んだ」

「は、はい!」

 ペトラの監視をフローラに任せ、昊斗そらとは部屋を出て行く。


 外の廊下では、ヴィルヘルミナとアンナが話をしていた。


「あ、ソラトお兄様!どうでしたか?ペトラの宿題は終わりそうですか?」

「まぁ、それは彼女次第だろうな」

 部屋の中からは、ハリセンの軽快な音と、ペトラの悲鳴が何度も聞こえ、どう反応していいのか分からず、ヴィルヘルミナは努めて笑顔を見せるが、少し引きつらせる。 


「ソラトさん、いつもいつもペトラさんがご迷惑をかけして申し訳ありません」

 さすがのアンナも、申し訳なく思ったのか深々と頭を下げる。

「アンナさんも、ご苦労されてるようですね」

 アンナの表情を見ながら、彼女の苦労が偲ばれると、昊斗そらとは「挫けないでください」と、声を掛けた。


「・・・・・・・・あの、お兄様。これから何かご予定はありますか?もしお時間があるなら、ご一緒にお茶でも・・・・」

 ヴィルヘルミナからお茶に誘われ、昊斗そらとが近くにあった時計に目をやる。 


「この後、陛下と約束があるが・・・・・」

 昊斗そらとの言葉に、ヴィルヘルミナがシュンと肩を落とす。

「まだ、時間には余裕があるし、いいよ」

「!ほ、本当ですか?!では、すぐに準備しますね!」

 明るさを取り戻したヴィルヘルミナが、嬉しさのあまり台所のある方へと駆け出していく。

「姫様!廊下を走ってはいけませんよ!!」

 そんな注意を言いながらも、アンナは笑みを浮かべ、後を追って行ってしまった。


「あれ?昊斗そらとさん、どうされたんですか?ヴィルヘルミナ様が、嬉しそうに走っていかれましたけど」

 小さな包みを手に、ホクホク顔の金糸雀カナリアがヴィルヘルミナたちと入れ替わりでやってきた。

「ん?ヴィルヘルミナからお茶に誘われた。それより、何持ってるんだ?」

「これですか?凄く珍しい茶葉を分けて頂いたんです!どんな香りと味なのか、今から楽しみですよ〜」

 包みを頬擦りしながら、花がほころぶような笑顔を浮かべる金糸雀カナリア


 何でも、そのお茶はルーン王国のごく一部でしか栽培されていない茶葉らしく、少し前から色々と手を尽くして探していた金糸雀カナリア。すると、臨時でヴィルヘルミナに仕えている、とある名家の夫人が持っていたらしく、話を聞きに行くと快く分けてもらった、と昊斗そらとは説明を受けた。


 金糸雀カナリアと話をしていると、ヴィルヘルミナが昊斗そらとを呼びに戻ってきた。


「お兄様、お待たせしました・・・あ、先生!宜しかったら、先生もいかがでしょうか?」

「私もご一緒して、よろしいのですか?」

 彼女が昊斗そらとを誘ったということは・・・・・・・と変な勘ぐりした金糸雀カナリアだったが、それは邪推だった。

「はい!先生にも、ご意見を聞きたいので、是非!」


 ヴィルヘルミナの真っ直ぐな言葉とキラキラと輝く眼差しに、金糸雀カナリアは「あぁ、私の心は汚れてしまったんだ」と少し胸が痛んだ。


 そんな金糸雀カナリアのことを、”先生”と呼ぶヴィルヘルミナを不思議そうに見つめる昊斗そらとに、何とか平静を保った金糸雀カナリアがそっと耳打ちする。


「実は、少し前からヴィルヘルミナ様に、お茶の淹れ方を教えていたんです。その流れで、いつの間にか先生と・・・・」

 あまり呼ばれ慣れない肩書きに改めて恥ずかしさを覚えたのか、金糸雀カナリアが顔を赤くする。


「・・・・分かりました。では、お邪魔いたします」


 案内された部屋で、昊斗そらと金糸雀カナリアは、ヴィルヘルミナの淹れた紅茶を飲みながら、彼女との談笑を楽しんだ。


 しかし、途中から金糸雀カナリアのお茶の素晴らしさを語る独壇場となり、昊斗そらとが何度か止めに入ったものの、アルバート城へ上がる時間ギリギリになっても終わる気配がなかった。

 

 仕方なく、昊斗そらとは少々強引な手に出た。


金糸雀カナリア、行くぞ」

「もうちょっと待ってくだっ・・へ!?」

 埒が明かないと、昊斗そらと金糸雀カナリアを抱きあげると、風通しのために開けていた窓へ向かい、欄干に足をかけた。

 その腰には、いつの間にか高周波ブレードが収められた愛用の鞘が掛かっている。


「すまないな、ヴィルヘルミナ。またゆっくり、お茶を飲みに来るよ」

「そ、昊斗そらとさん、下ろしてください!自分で行けますから!!」

 ジタバタと暴れる金糸雀カナリアを無視して、昊斗そらとは窓の外へと身体半分ほど乗り出す。

「お、お気をつけて、お兄様。またのお越しをお待ちしています」

 呆気に取られ、ヴィルヘルミナが何とか言葉を紡ぐ。

「じゃあな」「待って、昊斗そらとさん!そらとさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 

金糸雀カナリアの悲鳴が響く中、昊斗そらとは向かいの建物まで助走なしの一足飛びで跳躍し、着地した瞬間、再び別の建物へ跳んで行き、ヴィルヘルミナの視界からすぐに消えてしまった。


「・・・・さすがです、お兄様」 

 ヴィルヘルミナは、改めて奥苑昊斗おくぞのそらとと言う男が、常識を超えた規格外の存在であり、そんな男に自分は助けてもらったのだ、と嬉しくなりはにかむのだった。


次回更新は、4月14日(月)PM11:00過ぎを予定しています。


変更の場合は、活動報告にてご連絡します。

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