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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
木漏れ日の森の出会い 編
8/180

(6) 魔獣使い、そして暗殺者

 木漏れ日の森。

 

 王家直轄の保養地であり、名前通り木々の間から陽射しが差し込む明るい森で、遊歩道等も整備され近隣の村や町の住民にも開放された憩いの場所である。


 しかし、そんな森でも野生動物やモンスターなどが住んでいる。森の奥へと続く獣道にも似た小道、関係者以外立ち入り禁止の看板が掲げられたその先は、彼らのテリトリーであるため、基本的には一般人の立ち入りを禁じている。

 

 そんな小道を、フェリシアを先頭に冬華とうか昊斗そらとの順に進んでいた。


「”表”と違って、この辺りは薄暗いな・・・・」

 周りを見渡しながら、一番後ろの昊斗そらとから声が漏れる。

 ”表”とは、ドラグレアの小屋を含む一般人に開放された場所をいい、昊斗そらとたちが立ち入っている場所は、”裏”と言われており、昊斗そらとがその言い方を知っているのはドラグレアの受け売りだったりする。


「この辺りは、ほとんど人の手が入っていません。何度か、開発の手を入れて、王立の公園化も検討されたそうですが、おじい様もお父様も却下したそうです。ここに住む生き物たちの住処を人間の勝手で奪うわけにはいかない、と言って」

「でも、ここには魔物とか魔獣と言った危険な生き物もいるんだよね?」

 冬華とうかの質問に、フェリシアは隠すことなくうなずく。

「もちろんいます。オオキレグマも分類では魔獣に入るんですよ。でも、ここに住んでいる固有の魔物たちや魔獣たちは、こちらから手を出さなければ、襲ってくることはありません。それに、ポンタさんが森の管理者になってからは、森の奥もかなり安全になったんですよ」


 かつては、森の中で食べ物が少なくなったりすると、野生動物や魔獣の類が人里に現れていたが、”彼女”が管理者となったことで、その数は一年を通しても数える程に減っていた。


「とはいえ、それでも襲ってくるものは少なからずいますけどね」

「「え?!」」


 サラッと怖いことを言うフェリシアに、後ろを歩く二人の表情が引き攣る。


「大丈夫ですよ!いざとなれば、これがあります!」

 フェリシアが見せたのは、色鮮やかな”糸”によって編まれた髪飾りだった。


「あれ、これってもしかして」

 冬華とうかは使われている”糸”の色に見覚えがあった。

「気が付きましたか?これは、ポンタさんの毛を編みこんで作った髪飾りなんです!」


 フェリシアによれば、ポンタの毛で作られた装飾品は、”裏”の木漏れ日の森を行き来するための通行証なのだと言う。

 これらの装飾品を身に着けていれば、野生動物や魔獣は、身に着けた人物からポンタの気配を感じる為近づかないのだ。

 

「・・・でも、さすがにここまで静かな森は初めてです」

 フェリシアは、ここ二か月間過ごしてきた森が普段と違う様子に、不安な顔をする。


 昊斗そらと冬華とうかは、初めて入る”裏”の森のどういった状態が普通なのか分からなかったが、野生動物が多く住んでいる森にしては、”声”がほとんど聞こえてこないことに、ある種の不気味さを感じていた。


「!あれって・・・・」


 小道の先の茂みから、黒い影が現れ倒れこむ。

 近づいてみるとそれは、体長二メートルほどのオオキレグマだった。しかも、全身血だらけで綺麗なパッチワーク柄の毛皮が所々裂け、血が流れている。


「フェリちゃん・・・・もしかして」

「はい、ポンタさんのお子さんです。いったい、どうしたの?!」

 

 オ・ヒ・メ・・・・・ 

 ポンタのようにうまく意思を伝えられないらしく、途切れ途切れに言葉が伝わってくる。


 ニ・ン・ゲ・・・・オソ・・・テ・キ・タ・・・。カ・ア・サ・・・ン、カ・ゾ・・ク、マ・モ・・ル・・・・タ・タカ・・・テ・ル


「え?!」

 ポンタの子供の言葉を聞いて、フェリシアは信じられないと驚く。


「フェリちゃん?」

「そいつ、何て言ったんだ?」

 

 ポンタの子供の”声”が聞こえない二人は、もどかしい思いをしながら、身を乗り出して聞いてくる。


「ポンタさんたち家族が、人間に襲われてるって・・・」

「えぇ!?」

「マ、マジか・・・・」


 三人の脳裏に、フェリシアの祖父とポンタの話が過る。

 もし本当なら、大変な事態だった。


 仮にも、ここは王家直轄の保養地だ。過去の出来事も踏まえ、十数年前にドラグレアを中心に、術者たちが大規模な結界を張っていた。

 その結界とは、悪意を持って森に入ろうとするものをはじき出すというものだった。

 それ以来、おかげで森にいる貴重な動植物が守られていた。


 だが、その結界が破られた。フェリシアにとって、信じていたものが踏みにじられたように感じ、嫌な気分になる。


 フェリシアは、回復の精霊術をポンタの子供にかける。

「・・・・・応急処置ですが、これで当面は大丈夫なはずです」


 大きく裂けた傷口が小さくなり、流れていた血が止まった。


「ドラグレア様に知らせないと・・・」


 庵に戻って、出かけているドラグレアに連絡を取ろうと来た道を見るフェリシア。


 オ・ヒ・メ・・・・カ・ア・・サ・・・・ン・・・タス・ケ・・・テ。


 だが、ポンタの子供から聞こえた悲痛な言葉に、フェリシアはギュッと目をつむる。


 オ・・ヒ・メ・・・ツ・ヨ・・イ。カ・・・ア・サ・・・ン、イ・・ッテタ。


 そして、フェリシアは静かにつむっていた目を開け、昊斗そらとたちを見る。


「・・・お二人は、庵まで戻ってドラグレア様にこのことを知らせてください」

「フェリちゃんは、どうするの?」


 何かを決意したような顔をするフェリシアに、冬華とうかは嫌な予感が頭をよぎる。


「私は、行きます」

「行くって・・・」

 あまりに淡々と答えるフェリシアに、昊斗そらとは驚きを隠せなかった。


「ここはおじい様の代から王家が守ってきた土地です。王家に名を連ねる者として、背を向けることはできません」


 その目を見て、昊斗そらとは彼女が自分とは違う人間なんだと、思い知らされる。同じぐらいの年齢だが、彼女はやはり王に連なる者なのだ。


 自身のすべきことを理解している。昊斗そらとは、そう思えた。

 

「・・・・なら、俺も一緒に」

 だからと言って、彼女を一人を行かせる、と言う選択肢は思い浮かばず、何か手伝えることを、と昊斗そらとは同行を申し出るが、フェリシアは首を横に振る。


「いいえ、ソラトさんはトーカさんと一緒に庵へ戻ってください。申し訳ありませんが、ソラトさんにお手伝いして頂くことはありません」

 力のない人は、足手まといです――と昊斗の申し出をばっさり切り捨て、自身が身に付けていたポンタの髪飾りを冬華とうかに渡すと、フェリシアは振り返ることなく森の奥へ走っていき、昊斗そらと冬華とうかは彼女を、ただ見送ることしかできなかった。


********


 小道を抜け、開けた場所に出たフェリシアが見たのは、目を背けたくなるような光景だった。


 森にすむ野生動物が至る所で、息絶えている。よく見れば、モリビトなど小型の魔物も交じっているのが見えた。


 地響きが起こり、フェリシアが視線を前へ向けると、ポンタが何かと戦っていた。


「ふっ・・・まさか、このわれがここまで手を煩わさせられるとは」


 声変わりしたばかりの男子特有の声が、辺りに響く。

 声の主を探すフェリシア。すると、ポンタが見上げる木の太い枝の上に、人が立っていた。


「だがこれなら、繋ぎとしては十分だ」

 そこにいたのは、十四~五歳の少年だった。黒髪や黒い瞳の色、顔の系統が昊斗そらとたちに似ており、格好もフェリシアなどが着ている町服より、昊斗そらとたちが着ていた洋服に近いデザインに見える。


「そこの貴方!!ここで、何をしているんですか!」

 フェリシアは、急いでポンタの下まで走り、フェリシアは木の上に居る少年に指を指して怒鳴った。

「女・・・・?おかしいな、ここには人は入ってこなかったんじゃないのか?」

 突然声をかけられた少年が、訝しげにフェリシアを見る。


「って!すっげ、美少女だ!さすがは異世界、もしかして何処かのお姫様とか・・・・!ふっ」

 フェリシアの顔をみて、少年ははしゃぐように枝の上で飛び跳ねていたかと思えば、突然取り繕うかのように静かになり、右手で顔を隠すように格好をつけた。


 オウジョサマ・・・ドウシテ、キタノ!


 肩で息をするポンタが、少し強い調子でフェリシアに声をかける。

「あなたのお子さんが、知らせてくれました。怪我をしていたので応急処置をしてきました、心配はありません。ここに来たのは、私が国王の娘だからです。私には、王都に居る父に代わり、この地を守る義務がありますから」


 ソウ・・・アノコハ、ブジナノネ。

 やはり心配だったのだろう、ポンタから安心が伝わる。

「さっきから、誰かと話してるのか?」

 フェリシアが独り言を言っているように見えた少年が問うが、フェリシアは睨み返して答えた。

「あなたには、関係ありません。それより、あなたは何者で、ここで何をしているのです?事と次第によっては、私はあなたを許さない」

 そう問われ、少年は木の幹にもたれ掛り、前髪をワザとらしきかき上げた。


われの名は、ルシフェード・レイ・鞍馬くらま魔獣使い(ビースト・テイマー)だ・・・・ここへは、われに相応しい下僕を探しに。そして、そこの魔獣がわれの眼鏡に適ったのだ。光栄に思え」

 邪気眼系厨二病を患っているかのような大仰な言動をする少年。だが、厨二病という概念を知らないフェリシアには、自分が馬鹿にされているとしか思えなかった。


「分かりました・・・・ルーン王国第十九代国王カレイド・ノグ・ルーンの娘、第一王女フェリシア・アルバーナ・ルーンの名において、あなたに鉄槌を下します!!」

 霊力によって、フェリシアの髪がザワッと蠢く。

「ふん!娘よ・・・われに楯突くことがどれだけ愚かなことか・・・・」

 そこでルシフェード・レイ・鞍馬くらまと名乗る少年の言葉が途切れる。彼のもたれ掛かっていた幹に、三本の水の槍が刺さっていた。


「・・・・・」 

 鞍馬くらまから先ほどの余裕が消え去る。

「どうしたんですか?あなたに楯突いたら、どうなると?」

 フェリシアの周りに、バスケットボール大の水の球が無数に浮遊していた。


 ヤハリ・・・・コノコハ、トンデモナイ・・・


 フェリシアを横目で見ながら、ポンタは試練の時のことを思い出していた。


 元来、仮想契約で契約している親の精霊から得られる術の力は、さして強くはない。なので、術の威力を高めようとすると、必然的に術者は、通常より多くの力”霊力”を精霊の力に上乗せしなければいけない。

 実は、このおかげで術者は貯蔵できる霊力量や霊力の制御できる量を増やす訓練が出来る。だがフェリシアは、生まれ持つ霊力量が常人とは比べものにならないほど多く、器用さも手伝って制御の訓練を必要としなかったのだが、彼女は真面目に訓練を重ねた結果、王族の中でも歴代トップ3に入るほどの霊力量と運用量そして制御を獲得していた。


 そして、見習いである彼女の繰り出す精霊術は、騎士団所属の精霊術士と遜色のないものとなっていた。


 これで正式に精霊と契約すれば、どれほどの精霊術が行使できるようになるのか、ポンタには見当もつかない。


 彼女が、早々に合格を出したのは、それが理由だった。 

 

「・・ふふふ・・・な、なかなかやるな。娘よ」

 キャラを壊さないよう頑張っているのだろうが、鞍馬くらまの声は上ずり、顔色が蒼くなっている。


「ここで降伏するのであれば、騎士団には穏便にするよう・・・」

 鞍馬くらまの様子に、温情をかけるように鞍馬くらまを諭し始めたフェリシアだったが、不意に木々が揺れた。


――何をやっているんだ?言ったはずだぞ、時間をかけるな、と。おかげで”仲間”も来てしまったぞ――


 どこからともなく、声が響いた。

「!・・暗殺者(アサシン)!手も口も出すなと言ったはずだぞ!」


――黙れ小童。これ以上、時間はかけられん――


 そこで、暗殺者(アサシン)の言葉が切れる。


「フェリシア!」

「フェリちゃん!」


 フェリシアは、この場に来るはずのない人たちの声に、広場の入口の方を振り向いた。

「ど・・・・どうして来たんですか!!」


 そこには、庵へ行ったはずの昊斗そらと冬華とうかが立っており、彼女の下へと駆けだした。

「どうしても、フェリちゃんをほっとけなかったの!」

「それに、ドラグレアさんにどうやって連絡したらいいか、知らないし!フェリシア言ってなかっただろ!」

「あ・・・・・」 

 

 ドラグレアへの連絡方法を、昊斗そらとたちに伝えることを失念していたフェリシアは、少し呆けてしまう。


 そして、足手まといと言い切った自分を心配して来てくれた二人の心遣いが、とても嬉しかった。


 笑顔で二人を迎えるフェリシアだったが、その笑顔が凍りつく。


 「「!!!!」」


 突如飛来した物体が、昊斗そらと冬華とうかの身体を貫き、二人の身体が宙を舞う。


「・・・・ソラトさんっ!!トーカさん!!」


 受け身を取る事無く、地面に叩き付けられる二人に、フェリシアは叫ぶことしかできなかった。

8/19 一部内容を修正。

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