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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
聖域の中の母娘 編
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(10) 困惑する火の神

 王家の別荘へと向かう最中、昊斗そらとたちの少し前を見知った背中が三つ歩いていた。


「あれ?フレミー!」

 フェリシアに呼び止められ、フレミーと一つの小さな背中が振り返った。


「どうしたの?こんなところで」

「姫様。いえ、実は先ほど木漏れ日の森の管理事務所を通じて、ポンタさんから連絡がありまして、昨日からルドラ様とカグツチ様をポンタさんが保護していたそうで、そろそろ迎えに来て欲しいと連絡があり、私がお二人をお迎えに・・・・・・」


 フレミーの説明を聞き、全員の視線が幼い姿の神たちへと向かう。


「えっとですね・・・・・・・・・あの後、色々在りまして・・・・・・・森の管理者殿のところで、厄介になっていました」

 めずらしく妙に歯切れの悪い言い方をするカグ。その表情は、何処か説明に困っているように見えた。


 ルールーの方はと言うと、終始顔を赤くし、時折何かを思い出すようにボーっとしては、すぐに「きゃ〜♪」と嬉しさと恥ずかしさをない混ぜにしたような表情をして、声を上げていた。


 対照的な二人の反応を見て、昊斗そらとたちは「何があったんだ?」と首をかしげる。


「でも、そっか。ルーちゃんたち、あれから姿が見えないと思っていたらポンタさんの所にいたんだ。てっきりフェリちゃんの所にいるものと思ってたよ、私たち」

 実のところ冬華とうかたちは、昊斗そらとのことで手一杯だったため、薄情なことにルールーたちの事を今朝まで忘れていた。

 フェリシアなら知っているだろうと思い、聞こうと思っていたのが、突如やってきたファルファッラ母娘のお陰で聞けずにいたのだ。


「そうだったのですか?私は、ルーちゃんから「森の管理者の下にいる」と連絡を頂いていましたから、トーカさんたちもご存知だと思ってました」


 日付の変わる頃、ベッドに入ったフェリシアへ、ルールーから興奮した感じで「心配するな!」とパスを通じて連絡が入っていた。


 何故、ポンタのところにルールーたちが居るかは疑問に思ったが、さすがのフェリシアも睡魔には勝てず、そのまま寝てしまっていたのだった。 


 道の真ん中で立ち話をしていると往来の邪魔になると、移動を再開する面々。


 そんな中、カグがスーッと昊斗そらとの横に付く。


「ソラトさん・・・・大丈夫ですか?」

 昨日、自分以上に”危険”な場所にいた昊斗そらとが心配だったカグが、声を掛けてきた。


 昊斗そらとは、カグの頭を少々乱暴に撫でて、笑みをこぼす。

「見ての通り、ピンピンしている。それより、お前の方は大丈夫だったのか?」


 乱暴に撫でられ、ぐしゃぐしゃになった髪を直しながら、カグはやはり困ったような表情を浮かべる。


「それが・・・・・ルドラに湖まで連れて行かれて、それからはされるがままだったんですけど、途中で記憶が飛んで・・・気が付いたら僕もルドラも、先ほど言った通り、森の管理者殿に助けられていました」

「じゃ、ルールーがあんな状態なのも・・・・・」

「すみません、分からないんです。なんて言うか、あんなルドラを見るのは初めてで、色々怖くて聞けないんです」

 カグがルールーの方へと視線を向けると、ちょうど彼女もカグの方を見ていたらしく、視線がぶつかると・・・・・


「!?」

 ルールーは、顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまった。


「僕が気が付いてから、ずっとあの調子で・・・・・」

「へぇ、神様でも困ることってあるのね」

 後ろにいたファルファッラが、声を掛けてくる。

 庵を訪れた際に纏っていた外装で、顔をすっぽり隠していたので、カグも気が付いていなかったようで、驚いて目を見開く。


「昨日の!・・・・・気が付かなかった。ということは、そっちは・・・」


―こんにちは、火の神様・・・・・


 同じく、外装を纏ったエメラーダが、遠慮がちに挨拶する。


 二人が纏う外装は、ファルファッラが一族由来の結界術式を組み込んだ物で、彼女自身は簡易結界程度の性能しかない間に合わせ品と言ってはいたが、その完成度は出す場所に出せば、高度な霊装として取引されてもおかしくない出来であった。


 その為、一般人程度では視認はおろか、その場にいることさえ認識出来ないほど強力なものであり、それなりの”力”を持った者が、辛うじて”何かが居る”と認識できる程度だ。


 さすがに、昊斗そらとたちレベルが相手になると、効かず意味を成さないが、日常生活において正体を隠す必要のある母娘には十分な装備といえる。


「それにしても、神様に惚れるなんてあの子、年齢の割りに凄い子ね。というか、私同様、見た目どおりの年齢じゃないのかしら?」

 冬華とうかたちの言葉にも上の空で返事するルールーを見ながら、彼女の正体を知らないながらもファルファッラは、ルールーがカグに恋心を持っていることへ感心するように声を上げる。

「そりゃ、あの子も神ですからね」

「はい?」

 サラッと言ってのけた昊斗そらとの言葉に、ファルファッラは自身の耳がおかしくなったのか、とかぶりを振る。

「彼女は正真正銘、水の神ルドラですよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・冗談よね?」

 ルールーとカグを何度も見比べながら、ファルファッラがどうにか言葉を搾り出す。

「神様がウソを付くとでも?」

 普段から、昊斗そらと冬華とうかに「神様がウソをついたら駄目」と言われているカグは、ウソをつかない。

 そして、人間の中にある「神様はウソをつかない」という固定概念は、ハイエルフの中にもあるらしく、昊斗そらとの言葉に、母娘は「まぁ、神様の言うことだから、そうか」と納得した。


―ほ、本当に、水の神様なのですね?

 ルールーの正体を知り、遠慮しがちだったエメラーダがカグに勢いよく近づく。


「う、うん。本当だよ」


―っ・・・・・あの人が


 エメラーダが、見つめているとルールーとバチッと目線が合う。


「・・・・・・・・・・・・・・・なんじゃ、娘よ。妾に用か?」

 カグの近くに居たのが、女の子だと分かりルールーの顔つきが変わる。


―あ、あの!わたし、エメラーダって言います!水の神様のことは、家の近くにいる水の精霊さんたちのお話しで、聞いていたです!

 引っ込み思案なエメラーダが、”母を怒る以外”で初めて興奮するように”声”をあげる。

「?・・・・・水の精霊、妾の眷属か?」

「ルドラ、実は・・・」

 訝しげにエメラーダを見つめるルールーに、カグが聖域に居た水の精霊たちの話を伝える。




 別荘に着き、ファルファッラ・エメラーダ母娘を別荘に来ていた全員に紹介したフェリシア。


 さすがに、物語の中でしか語られないドラゴンに匹敵する伝説の存在、ハイエルフを目の当たりにし、いつもはマイペースのアリエルでさえ言葉を失っていた。


 しかし、ファルファッラの性格と、姫たちやその騎士たちの柔軟性が幸いし、全員が打ち解けるのにさほど時間は掛からなかった。


 フェリシアとファルファッラを中心に、年長組がテーブルを囲み華やかな茶会として始まったが、ファルファッラの濃いキャラが姫たちの持つハイエルフへのイメージを、色々な意味で打ち壊していた。



「そうかそうか!妾の眷属たちと仲良くしており、話し相手になっておるのか!なんじゃ、最初はカグツチに対して、

気安い奴じゃと思っておったが、娘。ぬしはいい奴じゃな!」


 そして、年長組の隣では、エメラーダを取り囲んでヴィルヘルミナなどローティーンたちを中心に、お茶と会話を楽しんでいたが、なぜかルールーとカグもこちらに参加していた。


「ルドラ様ばっかりズルイ!ミユたちも、もっとエメちゃんとお話がしたいのに!」


 自分たちよりも年下の子がやって来たと、妙にお姉さん風を吹かせようとしていたミユがルールーへと抗議の声をあげ、その後ろでは、神に対して強く出れないヴィルヘルミナがウンウンと肯いている。


「いいではないか、巫女よ!この者も、妾と話がしたいと言っておるのじゃ、もう少し待っておれ。前任の巫女は、そのくらいの度量はあったぞ?」

 エメラーダに抱きつきながら、渡すものかと誇示するルールー。

 ミユも、マーナの事を引き合いに出され、一瞬たじろぐが、負けてたまるか!とルールーに詰め寄る。

「た、たしかに、マーナ様は凄い人だよ!でもミユだって、いつかはああなるもん!けど、今は無理だもん!!」


―あ、あの・・・皆さん。ケンカはダメです・・・・ 

 

 自分のせいで、ケンカが起こりそうになり、オロオロとするエメラーダ。

 だが突然、ルールーの顔が真っ赤になり、身体が硬直する。

「ルドラ、もういいだろ?すまない巫女殿、それにヴィルヘルミナ姫も。ルドラにも悪気はないんだ、許してあげてほしい」

 カグがルールーを後ろから腰に腕を回し、抱きついた格好のままエメラーダから引き剥がす。

 呆気に取られるミユとヴィルヘルミナに頭を下げるカグ。


「そ、そんな。わたくしたちの方こそ、立場を弁えず、申し訳ありませんカグツチ様!」

 神に頭を下げられ、慌てるヴィルヘルミナ。

 夏期休暇に入った頃に、ルールーとカグの正体を知らなかった関係者たちはフェリシアから話を聞かされて以来、ルールーたちとの距離感を取れずにいた。

 木漏れ日の森での生活で、だいぶ改善されてはいるが、まだまだと言った感じである。


 ミユやヴィルヘルミナたちが、エメラーダと話し始めたことを確認し、カグが硬直したルールーを解放する。

「カ、カグツチは他の(女の子)に甘くないか?」

 顔を真っ赤にしながら抗議するルールー。しかし、その勢いにいつもの迫力は微塵も無かった。

「そんなことないよ。それより、ルドラも神だという自覚があるなら、もう少し我が侭をなおしたらどう?」

 カグの言葉に、ルールーはまるで落雷が落ちたように硬直し、パクパクと口を動かす。

「!?・・・・ぬしは、我が侭な妾は・・・・・き、嫌いなのか?」

 わなわなと手を震わせ、この世の終わりが来た様な顔をするルールー。

 そんな彼女を一瞥し、カグが短く息を吐く。

「嫌いじゃないよ。むしろ我が侭なところも、ルドラの魅力の一つで好きだけど、人前では自重した方がいいって話だよ・・・・って、どうしたの?」

 つい今まで、絶望したような表情だったルールーが、一転して華やかに明るくなる。その心の中では・・・


――す、好き!?カグツチの奴、今確かにそう言ったの!好き・・・・えへへへ・・そうか、やはりカグツチも妾が好きなんじゃな!!な、なら、妾は・・・・・


 とお花畑が満開である。

 

「うん・・・・・・・・・ぬしがそう言うなら、妾頑張る・・・・・・」

 やはり、自分の知るルールーとは違う反応を返す彼女に、カグは少し心配になる。

「う、うん。が、頑張って」 

 だが、今は彼女が大人しい方がいいと思い、カグは指摘するのをやめるのだった。



 広間が盛り上がっていた頃。昊斗そらとは、別荘の玄関で来客の対応をしていた。


 訪ねて来た相手は、木漏れ日の森の管理事務所のスタッフをしている魔獣使い(ビースト・テイマー)鞍馬くらまだった。


「不審者、なぁ」

 鞍馬くらまの持ってきた紙に目を落としながら、昊斗そらとはため息をつく。

「元不審者の俺が言うのも変ですけど、この時期ってそういった奴が多いらしいんです。王侯貴族の避暑地って事で、そう言った人たちの誘拐なんかを企てる奴や、強盗とか頻発していて、実際、もう何人も管理スタッフや騎士団が拘束しているんです。それで、こうやって注意喚起のために皆でまわってるんですよ」

 

 鞍馬くらまの言うとおり、王家の別荘の周りでも、そう言った不審人物は多く目撃され、警護する騎士団の兵士たちに拘束されている。


 中には、フェリシアやアリエル、ヴィルヘルミナとお近づきになりたいと考え、気持ちが先走って勝手に敷地内に侵入しようとした、頭の足りない貴族のボンボンやお嬢様方などが見受けられたが、厳重注意を受けて解放されている。


 昊斗そらとたちも、仕事柄そう言った輩はすぐに見分けが付くため、誰にも気づかれずに無力化して、騎士団の詰め所に捨てていたりする。


「まぁ、ここは魔王が襲ってきても大丈夫でしょうが、一応気をつけてください」

 ある意味で冗談に聞こえないことを言いつつ、鞍馬くらまが見回り表にサインをしていると、外から小さくも力強い遠吠えが聞こえた。

「あ、また不審者が出たみたいだ」

 遠吠えの聞こえた方角を見ながら、鞍馬くらまは見回り表をポケットへ押し込む。

「今の鳴き声、昨日連れてた?」

「はい、俺の相棒です。それじゃ、俺はこれで失礼します」

 一礼して、玄関を出て行く鞍馬くらま


 ちなみに、鞍馬くらまの相棒は、親とはぐれた子犬に似た生き物で、方々親を探したが結局見つからず、魔獣使いである鞍馬くらまが引き取っていた。のちにこの子犬は犬ではなく、とある世界では「フェンリル種」と呼ばれる凶暴な魔狼の子供と分かり、ある意味で鞍馬くらまに預けたのが正解だった、と管理スタッフ一同が胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。


 だが、正体が分かっても鞍馬くらまは「こいつは、ただのわんこです!」と頑なに言い張り、名前も普通なら黒い毛皮である魔狼なのに、全身白い毛に覆われているので「シロ」と名づけた。

 普段の仕草が子犬のそのものなので、今では周りも子犬だと考えるようになり、シロも管理スタッフには懐いていたりする。


 渡された紙をもう一度読み、昊斗そらとはフレミーたち騎士に、今一度気を引き締めるよう言う為、賑やかを通り越して騒がしくなった広間へと戻って行くのだった。


 


 今回は、二話連続更新です。

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