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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
聖域の中の母娘 編
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(8) ハイエルフ

「全く・・・里の奴らも、しつこいわね。いい加減に諦めればいいものを・・・・しかも、今度は人間を使うなんて!この優しくて、超絶美人のファルファッラさんも、怒りで打ち震えてしまうわ!!」

 

 敵愾心むき出しのハイエルフの女性に、昊斗そらととカグは渋い顔をしている。


(ソラトさん、どうされるんですか?何か僕たち、敵視されてますよ)

(怪しい者じゃない、と説明して・・・・・信じてもらえなさそうだよな。あの感じじゃ)


 対応に苦慮し、ヒソヒソと相談する二人に、女性は顔の筋肉を引く付かせる。


「・・・・ちょっと、何か言いなさいよ!それに、暗殺者ならもう少しそれらしい格好をして、忍びなさい!!」

 

 昊斗そらとたちを暗殺者と勘違いする女性は、少々間の抜けたことを言いつつ、戦闘態勢に入ったのか、身体の周りに高密度の霊力を纏い始める。


「!?待て待て待て、俺たちは怪しいものじゃない!話を聞いてくれ!!」

 慌てて弁明に入る昊斗そらとだが、女性の額に青筋が走る。

「怪しい奴は、皆そう言うわ!もう、騙されないんだから!!」


 今までに何があったんだ?と、目の前にいるハイエルフの女性の過去が気になる昊斗そらとだったが、悠長なことはしてられない、とカグへ指示を飛ばす。 


「カグ、封印を解け!さすがに、洒落にならない力を持ってるぞ、あの人!」

「は、はい!!」

 昊斗そらとの指示に、カグは慌てて首の封印具へと手を伸ばす。


 その時だ。


―だ、だめ!!


 その場にいる全員の頭に、”声”が響き渡る。


 すると、小屋の中からもう一人の人物が駆け出してきて、女性にしがみ付いた。

 見た目から、彼女の妹だろうか、顔のつくりは女性をそのまま小さくしたようにそっくりで、種族特有の少し長めの耳。

 色白だが金髪金眼の姉とは違う、日本人の様な真っ黒な髪に、黄金の様な瞳の右目と、エメラルドの様な瞳の左目をしており、どこか不思議な雰囲気を纏っている。


「エメ?!どうして出てきたの!?早く中に戻りなさい!!」

 女性の言葉に、妹と思われる少女は首を振った。


―この人たちは、悪い人じゃないです!さっき、森の精霊さんたちが教えてくれたです・・・・・これから火の神様が来るよって!


「はぁ?火の神って・・・・・そんな馬鹿なこと、あるわけ・・・・」

 と、少女に言いつつ気になるのか、女性がチラッと昊斗そらとたちの方を見る。


 少女の言葉に、昊斗そらとはこちらの正体――主にカグの正体――が精霊から筒抜けになっていると悟り、カグに今すぐ封印を解くよう、耳打ちする。


 カグは、封印具に触れ、自らを戒める枷を外した。


 幼い少年が、一瞬にして力強い青年の姿へと変わる。


 その身に、神である証となる神気を纏って。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそ」


 さっきまでの勢いは何処へ言ったのか、女性とその妹は呆気に取られ、カグの神気に当てられたのか、その場にへたり込んだ。


「これで、少しは落ち着いて話しが出来るかな?」




「ごめんなさいね!ここに越してきて、初めての来訪者だったから、てっきり”里”が寄越した手の者かと思っちゃった、てへっ」


 小屋の入り口の扉を直す昊斗そらとの横で、神聖なイメージをぶち壊しかねない茶目っ気を出すハイエルフの女性。

 ファルファッラと名乗った彼女は、昊斗そらとの見立てどおりハイエルフであり、そして異世界人だった。

 かつて、住んでいた村ごとグラン・バースに召喚され、それ以来この世界に干渉しないように、ひっそりと生きてきた、と話すファルファッラ。


 だが、ある事情から、住んでいた隠れ里から”娘”を連れて逃げ出し、それ以来、彼女たちを連れ戻そうとする里の追っ手をやり過ごしている、と身の上話を聞かされた。


 そう、彼女は姉ではなく”母”だったのだ。


―お母さん!それじゃ、お二人に失礼です!・・・・あの、お母さんがご迷惑をかけました。ごめんなさいです。それから、ドアを直していただいて、ありがとうございます・・・・ほら!お母さんもお礼を言うです!


 そして、幼い見た目とは裏腹に、しっかりとした言い方をする娘は、エメラーダと言う名前で、これまたある事情で喋る事が出来ず、テレパシーに似た術を使って、意思を伝えていると、昊斗そらとたちは聞かされた。


「うぅ・・・エメが手厳しい・・・・・・・・あ、ありがとうね」

 

―ちゃんと言うです!!

「あ、ありがとうございました!!」


 はっきり言って、どっちが親か正直迷う構図だ、と「娘に怒られる母親の図」を見ながら昊斗そらとは思った。


 昊斗そらとたちも、不公平にならない程度に自分たちの事を話した。


 自分たちが仲間と一緒に休暇で、この森に来ていること。二人で釣り場を探している最中に不思議な声を聞き、気になってこの聖域へ入ったこと。自分たちには、二人に危害を加える意思がないことを伝えた。


 長々と立ち話もなんだと、小屋の中へと招かれた昊斗そらととカグ。


 中はかなり質素で、生活に必要最低限のものしか置かれていなかった。


 椅子も二脚しかなかったので、昊斗そらとが自分とカグの分を創神器ディバイスから取り出し、全員が席に着いた。


「それにしても、いくらここに結界が張ってあると言っても、よく誰にもバレずに生活できましたね」

 昊斗そらとは、ふと小屋の周りや、聖域内の森の様子を思い出す。


 ハイエルフといえども、食事を取る必要がある。

 しかし結界内の森は、高濃度の霊力があちこちに滞留している影響か、食用に適する植物が自生していなかった。

 そして、小屋の周りには作物を作ろうとした痕跡が残っていたが、失敗したらしく耕された土地には雑草が伸びていた。


 そのことから、食べ物を得る為に結界の外へ出る必要があるのだが、昊斗そらとは今まで、木漏れ日の森周辺において、ハイエルフの目撃情報を聞いたことが無かった。


「まぁ、この森の管理者さんに色々融通してもらってるから」

 特に隠すつもりもないのか、ファルファッラは取り繕うことなく昊斗そらとの問いに答えた。

「・・・・・・・もしかして、ポンタさんの知り合い?」

「知り合いっていうか、彼女に助けてもらったの。ちょうど一年くらい前かな・・・・里の追っ手を振りきって、この森まで逃げてきたんだけど、この子が熱を出しちゃってね。困り果ててたところを、ポンタさんに助けられたのよ。最初は、食べられちゃう!!って叫んじゃったんだけど、話したらすっごいいい人・・・ていうかいいクマで、驚いたわ。母親として、色々教えてもらったりして、今じゃ”師匠”って呼んでるくらい。この子の熱が下がった後、どこか平穏に暮らせる場所がないか聞いたら、ここを教えてもらったのよ」


 その話を聞いて、昊斗そらと鞍馬くらまの言っていたことを思い出した。


”ポンタさんから「不用意に聖域へは近づかないこと」と、よく言われてるんです。”


 ――こういう理由だったわけか・・・・・・


 昊斗そらとは、あとでポンタのところに行って、事情を説明し、話を聞かないといけないだろうな、とため息をつく。


 そして、もっとも気になったことを、ファルファッラに質問した。

「それにしたって、ここの結界って相当な難物ですよ?結界を壊すことなく、どうやって通り抜けてるんです?」

 昊斗そらと自身は、普段から張ってある防御結界を緩衝材に使って中に入ったが、かなり強引な手だった。

 まさか、ファルファッラも力技でどうにかしているのか?と疑問が湧いた。


 その問いに、彼女はジト目で返してきた。

「それは、君にも同じことが言えると思うけど・・・・まぁ、私の一族って、結界に関して造詣が深いからねぇ。どんな結界も、解除も構築も思いのままだから。さすがに、この規模の結界を私一人で解除・構築するわけにはいかないから、いつもは影響が出ない程度の”穴”を開けて通り抜けてるわ」


 一見、力技に思える方法だが、結界の構成をきちんと理解していなければ、結界に”穴”を開けるのはかなり危険な行為である。


 下手をすれば、結界につぎ込まれている力が外へと解放され、周辺地域に壊滅的被害を齎しかねないのだ。

 罷りなりにも、目の前に居るのが人間を超える力を秘めたハイエルフであることを、改めて認識する昊斗そらと

 そんな話をしていると、昊斗そらとは視線を感じ、そちらへと目を向ける。


「!!」


 じっと昊斗そらとを見ていたエメラーダは、突然対象が自分の方を見たので、驚いて飛び上がった。

 先ほどと打って変わって、母親の背中に隠れて昊斗そらとのことを何処か、恥ずかしそうに見るエメラーダ。


「ごめんなさい。この子、人間と接する機会が殆ど無かったから、人間である君が物珍しいんだと思う。悪気があるわけじゃないから、許してあげて」

「そうでしたか。大丈夫ですよ、こういうの慣れてますから」

 笑みを向ける昊斗そらとをみて、エメラーダは一層恥ずかしくなったのか、とうとう顔を隠してしまった。

「あれ?嫌われたかな」

 苦笑しながら、その後昊斗(そらと)たちは、ハイエルフの親子と談笑を楽しんだ。


 日が傾き、これ以上長居しても悪いと、昊斗そらととカグが席を立つ。


「君たち、いつまでこっちに居るの?」

「あと数日は居ますよ。でも、どうしてそんなことを?」

 質問の意図が掴めず、首をかしげる昊斗そらととカグ。


「いや、君たちと話して、悪い人じゃないって分かったし、それに楽しかったからね。お友達と一緒に来てるなら、今度はお友達も連れて来てくれないかな?あの子にも、いろんな人と会って、色々と経験させてあげたいの」

 毎日交代でご飯を作っているらしく、今日はエメラーダの当番と言うことで、彼女には台所の高さが作業するのに高いため、踏み台に乗って準備をしている。


 料理する娘の背中を眺めるファルファッラの横顔は、まさしく母親そのものだった。

「驚きました。追われてるって言ってたから、誰にも言わないで、と言われるものと思ってたんですけど」 

「別に、後ろめたいことをして逃げてるわけじゃないもの。それに!」

 ばん!と机を叩き、立ち上がったファルファッラが力強く拳を握る。

「私だって、いろんな人とお話ししたいの!!」


 ――それが本音か。


 昊斗そらとは、どこまでもハイエルフの神聖なイメージをぶち壊す彼女に、生暖かい眼差しを送りながら、聖域を後にした。




 ドラグレアの庵へ帰る道中、いい土産話が出来たと、話していた二人だったが、彼らは重大なことを忘れていた。


「!?」

 まるで、身体の中心から冷えるような感覚に陥ったカグ。後ろに何か居ることは分かるのだが、振り返ることが出来ない。


「・・・・・・・・何じゃ、こんなところに居たのか、カグツチ・・・・探したぞ?」

 感情の篭らない声と共に、固まったように動かないカグの首に、後ろから抱きしめるように腕が絡みつく。


「ル・・・ルドラ?」

 喘ぐように、何とか上半身だけ動かし、強引に振り向くカグ。


 カグの思ったとおり、ルールーが後ろから抱きついていた。


 だが、その姿を見てカグは絶句した。


 彼女は封印を解いた姿でおり、しかも健全な青少年には見せてはマズイ、それは水着ですか?と問いたくなるような際どいモノを身に纏っていた。


「ど、どうしてそんな格好・・・」

 混乱のただ中にいるカグに、ルールーは笑みを浮かべる。

「何を言っておる?ぬしと湖で遊ぶ為じゃ・・・・おかしなことを言うカグツチじゃな」

 しかし、その目は一切笑っていない。


「さぁ、カグツチよ。今から湖へ遊びに行くぞ・・・・妾は昨日から楽しみにしていたのじゃ・・・ぬしも楽しみじゃろ?じゃから、楽しみを今まで取っておいたのじゃろ?」

 ルールーの言葉に身震いするカグは、彼女が感情を忘れるほど怒っていることに気がつけずにいた。


 初めて見るルールーの姿に、恐怖を感じるカグ。


「ソ、ソラトさ・・・・・・・」

 ルールーに連れて行かれながら助けを求めようと、昊斗そらとへ手を伸ばすカグ。



「と、冬華とうか・・・・・・・・」

 しかし、助けを求めた人物も、自分と同じ。いや、それ以上の窮地に立たされていたのだ。


「一体何処まで釣りに行ってたのかな?見たところ・・・・・何も釣れなかったみたいだね」


 冬華とうかも、何故か昼間着ていた水着姿のまま、昊斗そらとの前に立ちはだかっていた。


 しかも、その髪は純白に染まり、瞳は金色に変わっている。

 今までも、似たような状況は幾度とあったが、冬華とうかがその”力”を使ったことは一度もなかった。

 なぜなら、今まではパートナーの金糸雀カナリアが止めに入っていたからだ。


 つまり、今回は金糸雀カナリアが積極的に協力している?と昊斗そらとに焦りが生じる。


「ま、待ってくれ、冬華とうか!確かに、何も言わずに居なくなったのは、俺の判断ミスだ。その後、連絡を入れなかった事も含めて、許してくれとは言わない・・・・・でも、共鳴結合レゾナンス・オンはないだろ!!」


 一歩間違えれば、幾ら昊斗そらとでもタダでは済まない。冗談で使っていい力でないことはお互いに重々承知しているはずだった。

 自分も使わなければ、下手をすれば・・・・・・そう思い、何度も玉露ぎょくろへ連絡を入れるが、一向に繋がらない。


「そうだね・・・・・・でも、私もルーちゃんみたいに楽しみにしてたんだ・・・・・頑張っていつもなら絶対着ない水着選んで、昊斗そらと君に一番に見てもらいたかった。色々と言って欲しかった訳じゃないよ。ただ、一言・・・似合ってるってあの場で言って欲しかった。それなのに・・・・・・・それなのに!!」


 積もり積もった昊斗そらとへの不満が、怒りとなって爆発した冬華とうかの目に大粒の涙が溢れている。

 昊斗そらとは、ここに来て自分が重大な間違いをしたことに、気が付いた。


 今までの経験も踏まえ、あの場所()に居れば自分が大変な目に合うと、半ば直感で逃げたのだが、それが許されたのは子供の頃だけ・・・・・・・成長し、様々な責任を背負う(大人)の自分に、それは許されないのだ。


 逃げは所詮逃げでしかなく、何の解決にもならない。


 ――いい加減、冬華とうかたちに誠意を見せてやれ。


 不意に、前に筆頭鍛冶師の薫子かおるこに言われた言葉が頭の中に甦る。


”俺、最低だな”

 

 昊斗そらとは目を閉じ、冬華とうかから撃ち放たれる力をその身に受ける為、手を広げた。


 今の自分に、冬華とうかを納得させる言葉はなく、これで冬華とうかの気が済むのなら、と。


昊斗そらと君の・・・ばかぁーーーー!!!」


 冬華とうかの叫びを聞きながら昊斗そらとは、自分が冬華とうかたちにとってどうあるべきか、考える。


 今まで逃げ続け、思考することを避けていた考えに目を向ける決意をしながら、昊斗そらとは光の中へと消え入ったのだった。







 次回更新は、4月2日(水)PM11:00過ぎを予定しています。


 変更の場合は、活動報告にてご連絡します。

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