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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
木漏れ日の森の出会い 編
7/180

(5) 精霊術

 フェリシアの試練第二段階突破を祝う宴の席は、結局夜遅くまで続いた。

 

 翌日、昊斗そらと冬華とうか、そしてフェリシアは少し遅い朝食をとっていた。

 しかし、この席に家主であるドラグレアの姿が見えなかった。


 フェリシアが、思っていた以上に早く試練をクリアしたため、彼は今朝方自身の用事を片付けるため、庵を後にしていた。


 朝食を食べ終わり、片付けまで済んだ三人は、庵の近くにある開けた場所へやってきた。


「あの・・・・やっぱり、お見せしないといけませんか?」


 気の進まないフェリシアが、昊斗そらと冬華とうかに「お二人のご家族のお話が聞きたいです」とか「お二人に振る舞いたいお菓子が・・・」と、何とか二人の興味を別へと向ける為に色々と提案したのだが、当の二人は腕を胸の前で交差させ、ダメっと拒否した。


「フェリシアさん、昨日約束してくれたじゃないですか。”精霊術”を見せてくれるって」

「人として、約束を破るのは感心しないな、俺は」

「あ、あうぅぅっ・・・・」


 フェリシアは、昨日の自分に対して頭を抱え「バカぁ!!!」と叫びたくなった。

 祝いの席、フェリシアはポンタの子供たちと遊ぶことに意識が行っていた。そんな時、どうしてもどんな方法でポンタと戦ったのか気になっていた昊斗そらとが、ダメもとでもう一度聞いてみた。


「中級の精霊術を数種類同時に、ポンタさんへ撃ち込みました」


 楽しそうにおなかを見せる小グマを突きながら、フェリシアはすんなりと答えた。

 精霊術がどういった物か知らない昊斗そらとだが、フェリシアの説明を聞き、壮絶な光景が浮かぶ。


 冬華とうかも隣で子グマと遊んでいたが、内容をを聞き逃さなかったようで、昊斗そらとの援護を始めた。


「何か、凄そうですね。・・・・少し見てみたいかも」

 その援護を好機と見た昊斗そらとが、畳み掛ける。

なつめさんも、そう思う?だよなぁ・・・・一度でいいから、見てみたよな~精霊術。俺、見たことないし」

「私もです・・・・フェリシアさん、ダメ?」

 冬華とうかの言葉に、フェリシアは頬を上気させ、コクンと頷いた。

「いいですよ~、お安いご用です~」


 子グマによって、完全にヘブン状態に入っていたフェリシアは、うわの空で安請け合いしてしまう。

 彼女の言葉に、二人の目が怪しく光る。


「なら、明日さっそく見せてもらおう!」

「だね!」

 と、話を進めていった。


 気が付いた時には後の祭りで、断るに断れない状況になっていた。

「・・・・・わかりました、でもあまり期待しないで下さいね」


 何であれ、約束は約束と諦めたらしく、フェリシアが肩を落としながら、離れたところにあった岩に目を向けた。

 

 フェリシアが昊斗そらとたちから離れ、岩へと歩みよる。

「これは、練習・・・精霊術の練習・・・」

 と、なぜか念仏のようにつぶやいていた。


「・・・いきます!」

 そう言って、フェリシアが右腕を高らかに掲げた。


「アクアレイン!!」


 フェリシアの髪が揺らめき、掲げた右腕の上空に薄い水の膜が現れ、そこから水が降り注ぐ。次の瞬間、降ってきた水が弾丸のように岩に穴を穿ち、瞬く間に岩を粉々に砕いてしまった。


「・・・・・」「・・・・・・・」

 初めて見る精霊術の見た目と破壊力に、異世界人の二人は言葉を失った。


「今のが、水の精霊術でも中級に設定されている範囲攻撃の術です。もちろん、威力と範囲はかなり絞りましたが、熟練の術士なら先ほどの数倍の威力と範囲を攻撃できます」

 静かに振り返り、術の説明をしながら二人に近づくフェリシア。

 二人の反応が怖く、少し俯き気味になるが、そんなフェリシアの不安は杞憂に終わった。

「・・・すげぇ」

「これが、精霊術。本当に、そんな力が存在するんだね」


 生まれて初めて見た特別な力に、二人は単純な感想しか出てこなかった。


 目を丸くして驚く昊斗そらと冬華とうかを見て、フェリシアとしてはさっきの術で二人が驚いてくれて、内心ホッとしていた。

 術士見習いのフェリシアには、先ほどの威力が今の彼女には精いっぱいで、それ以上のことを求められると、フェリシアにとってかなり困ったことになっていたのだ。

 仕事をやりきり、安心していたフェリシアだが、昊斗そらとの言葉に、再び頭を抱えることになる。


「でも、想像していた精霊術とは違ったな。俺はこう、精霊が現れて術を行使すると思ってたけど」

 何気ない昊斗そらとの言葉に、フェリシアはドキッとし、身体がビクッと反応する。

「・・・・・・・・」

「私もそれは思ったよ。でも、この世界の精霊術は、フェリシアさんが使ったようなものなんだよ、きっと」

 冬華とうかの言葉を聞き、フェリシアの顔に汗が流れる。

 結局、どうなの?と、二人の視線に「あぅぅぅぅ」と声を上げる王女様。


「・・・・前にも言いましたが、私はまだ見習いの精霊術士でして、実は正式に精霊と契約していないんです」

 フェリシアの言葉に、昊斗そらと冬華とうかも「は?」と呆けた顔を浮かべた。

「ならどうやって術を使ってるんだ?」


 観念し、フェリシアは精霊術に関する説明を始めた。

 

 精霊術は、精霊と契約し行使する力であり、基本的には精霊と契約してしていなければ使うことはできない。しかし、精霊とは成人する十八歳まで契約することが出来ないことになっている。理由は様々あるのだが、肉体的精神的に未熟な子供が精霊と契約すると、精霊の力を暴走させてしまう可能性が高いとされているからだ。

 

 とはいえ、正式契約してから精霊術を練習していては、一人前になるまであまりに時間がかかりすぎる。そこで考え出されたのが、親が契約している精霊と仮の契約を結ぶことで術を使えるようにした【仮想契約】と呼ばれる形式だった。これなら、子供でも簡単な術ならば使えるようになったのだ。


「私も、お母様の契約する精霊と仮想契約を結んでいるので、精霊術が使えるんです。自分自身の精霊と正式に契約すれば、ソラトさんが言われたように精霊を呼び出し、高度な精霊術だって使えるようにもなるんですけどね・・・・」


 実は、現在彼女が行っている試練は、この精霊との契約するに足る者か測るものだと、フェリシアが説明した。

 さらに、彼女が精霊術を行使すると、精霊を通じて母親に伝わるため、不用意に使わないよう母から厳命されていたのを打ち明けた。


 そのことを聞き、なぜ彼女があそこまで精霊術を使うことに乗り気じゃなかったのか判り、さすがに昊斗そらと冬華とうかは、自分たちの短絡的な言動にフェリシアに頭を下げる。

「ごめん、術者って自分の術を隠したがるって小説とかで目にしていたけど、フェリシアさんの場合はそんな理由があったんだな」

「それなのに、私たちフェリシアさんに無理強いさせてしまって、ごめんなさい」


 頭を下げる昊斗そらとたちに、フェリシアが慌てて二人に駆け寄る。

「そんな、頭を上げてください!私も、承知でお見せしたんです!精霊には練習だと念押ししたので、お母様にはそう伝わっているはずです。それに・・・・」


 フェリシアが、はにかんだ表情で二人を見た。

「私の術であんなに驚いて喜んでもらって、私も嬉しかったです」


 そんなフェリシアを見て、冬華とうかがオオキレグマのポンタの子供たちを見た時と同じ顔していた。

 はにかんだフェリシアに、そのまま抱きつく冬華とうか


「ト、トーカさん!?」

 突然のことに、驚くフェリシア。


「!~~フェリシアさんは可愛いな~、私、やっぱり妹がほしかった・・・」

 

 冬華とうかには、上に兄と姉の二人の兄妹がいる。一番下の冬華とうかにとって、妹や弟は幼いころから欲した存在だった。


「そうだ!フェリシアさん・・・”フェリちゃん”って呼んでいい?」

「え?!」

 冬華とうかの申し出に、フェリシアは目を見開き、素っ頓狂な声を上げた。

 これを冬華とうかは、拒否と受け取り表情が暗くなる。

「・・・やっぱりダメ、だよね。お姫様だもんね」


 無理を承知で言ったことだが、「そうだよね」と淋しげに目を伏せる冬華とうかに、フェリシアは首が取れるのではと心配するほど横に振る。


「ダメじゃありません!むしろ私からお願いしたいです!どうぞ、私のことは”フェリ”と呼んでください!」

 顔を真っ赤にして冬華とうかの申し出を受けるフェリシア。

「!!!!フェリちゃん!!」


 感激のあまり、再び抱きしめる冬華とうか

 そんな光景を、傍観者状態で昊斗そらとは微笑ましい・・・のかな?、と思いながら眺めていた。


 そんな中、ハタッとフェリシアと視線が合う。

「あの・・!」

「ごめん、俺は出来るなら呼び捨てを希望したい」

 先回りして、彼女の言いたいことを遮る昊斗そらと

「はい!では、ソラトさんは呼び捨てで呼んでください!」


 家族など近しい間柄の人間以外から呼び捨てされることや、愛称で呼ばれることのないフェリシアにとって、二人の申し出はお互いの距離が縮まった気がして、嬉しかった。

「フェリちゃん」

「フェリシア」

「はいっ!」

 フェリシアは二人から呼ばれる度に、嬉しそうに笑顔を浮かべ元気に返事していた。


 その後、美少女二人の会話に、昊斗そらとは一歩引いて参加していた。


 そんな会話で上った話題が、昨日来たオオキレグマのポンタファミリーのことだった。


「もう一度、子グマたちと遊びたいね」

 冬華とうかとフェリシアは、その時のことを思い出したのか、頬に少し赤みが増した。


「・・・・迷惑でないなら、行けばいいじゃないか?あのポンタさん(ひと)も、いつでも遊びに来なさいって言っていたし」

 昊斗そらとの言葉に、美少女二人が満面の笑顔で彼を見つめた。

 神々しささえ感じる光景に、情けなくも昊斗そらとはたじろいでしまう。


 そして、満場(?)一致でポンタたちが暮している森の奥へと行くことが決定した。


 しかしこの時、森の奥で起きていた”異変”に、彼らはまだ気づくことはなかった。 




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