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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
火の神 邂逅 編
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(11) 神と少女の門出

 こめかみを押さえていたシオンが、机の上に広がる書類の束を無造作に掴み、おもむろに丸めてミユの後頭部を、思いっきり気持ちのいい音をさせ叩き抜く。


「イタッ!っっっ・・・・痛いよ、マダム!!」

 叩かれた後頭部を両手で押さえながら、涙目で抗議するミユ。

 しかし、後ろにいたシオンの表情は阿修羅の様な形相だった。


「誰もそんな挨拶を教えてないでしょうが!!全く、この数日の練習は何だったの?!はい、やり直し!」

 

 丸めた書類をチラつかせながら、シオンはテイク2を要求する。


「ぶぅ~・・・・さっきの方が親しみやすいとミユは思うんだけどな」

 納得がいかない様子のミユは、口を尖らせる。


 ”怒”


 が、シオンの怒りが三割ほど増したのを感じ取ったのかミユは、すぐに居住まいを正した。


「コホン・・・初めまして、フェリシア殿下。この度、姫巫女様により、ルーン王国の祭事巫女を命じられました、ミユ・ヤナカ・クロエと申します。若輩者ですが、よろしくお願いいたします」

 先ほどのフレンドリーな挨拶とは対照的に、堅苦しい言葉を使うミユだったが、使い慣れない言葉だったらしく、付け焼刃と判るほど棒読みになっていた。


「お見苦しいところを見せてしまってごめんなさいね。この子が、あたしの選んだ祭事巫女よ。まぁ、巫女としての経験は圧倒的に不足してるけど、潜在能力はあたしに匹敵するモノを持ってるから、色々経験を積めば化けると思うわ。それから、ルーン王国に行っても、マーナほど能力なんかに影響は出ないはずよ?」


 書類を持つ手とは反対の手で、ミユの頭を撫でるシオン。

「あの、シオン様。先ほどミユ様が”クロエ”と名乗られていましたが?」

 フェリシアにとって、”クロエ”と言う名は馴染みがあるモノだ。

 当然の様に気が付いたフェリシアに、シオンは笑みを浮かべる。

「あぁ、それね。実は祭事巫女になれる巫女の条件に、決められた家の出、もしくは籍を置いていることが必須なのよ。あたしの実家でもあるクロエ家は、代々祭事巫女を輩出する名家でね。だから、この子をマーナのところの養子にして、クロエ家の人間にしたって訳。あの夫婦、子供が居なかったから、凄く喜んでたわ」


 養子とはいえ、祖父母と孫ほど歳の離れた家族に、マーナを知るフェリシアもフレミーも、どう反応していいか判らず、困惑してミユを見つめている。


「あの子、昊斗そらと君やシオンさんと一緒にいた子だよね?どういう子なの?」

 冬華とうかに聞かれた昊斗そらとだったが、肩を竦める。

「さぁな。俺も、マダムからは聖都で修行している巫女見習いとしか聞いていないから、詳しいことは知らないぞ」

 そんな昊斗そらとたちのやり取りを聞いたシオンは、腕を組んで肯く。


「とは言ってもあたしの言葉だけじゃ、なかなか信じられないわよね。ちょっと凄いもの、見せてあげましょうか?」

 そう言うと、シオンは人差し指と中指を伸ばし、空中に何かの印を切る。


「解」

 シオンが一言発すると、ミユの身体に変化が起こる。


「え?」

「はい?」

 その”姿”を見て、全員がある場所に視線がくぎ付けとなった。


「?・・・・・・!?」

 全員の視線が、自分の頭の上と後ろへと向いていると感じたミユが頭を触り、血の気が引いたように顔が真っ青になる。


「い、いや・・・・・見ないで。見ないで!!」

 泣きながら、ミユは頭を抑え、しゃがみこんでしまう。

 

 ミユに起きた変化。

 それは、頭にピンと立った狐の耳に、モフモフとした九本の尻尾が生えていたのだ。


 フレミーやルールーなどは、どうなっているのか判らず、目をぱちくりさせている。


 そんな中、これにいち早く反応したのは冬華とうかだった。


「ふぁ~・・・綺麗な毛並み・・・、ねぇ、ミユちゃん。触ってもいい?ダメかな?」

「・・・・え?」

 涙目でミユが振り返ると、我慢できない!と言わんばかりの冬華とうかが、自分と同じ目線にしゃがんでいた。

 自分が想像していた反応と全く違い、ミユが困惑しながら声を漏らす。


「あぁ!トーカさん、ズルイです!私も触ってみたいです!ミユ様、私もいいですか?」

 フェリシアもミユに詰め寄り、目を輝かせてお願いする。


「こ、怖くないの?気持ち悪くない?」

 恐る恐る聞いてくるミユに、冬華とうかとフェリシアは笑みを浮かべる。

「全然!だって、こんなに可愛いんだよ?怖がる方がどうかしてるよ」

「ですね!」

 「だから、ちょっと触らせて!」と迫る二人の迫力に負け、ミユは無言で肯くと、二人が耳や尻尾を撫で始める。


「柔らか~い・・・・髪の毛とはまた違った肌触りなのですね」

「う~ん、尻尾も想像以上にモフモフしてるぅ・・・・はぁ、ミユちゃん抱き枕にしたらぐっすり眠れそう」

 うっとりした表情で、ミユの尻尾を撫でる冬華とうか


「ミユ、だから言ったでしょ?マーナたちがそうだったんだから、殿下たちもちゃんと受け入れてくれるって」

「マダム・・・うん」

 困惑しながらも、嬉しさがこみ上げ泣き出すミユ。

 そんな彼女を、冬華とうかとフェリシアが優しく抱きしめ、受け止めていた。


「それにしても、さすがね。お姉さんの方は予想できたけど、殿下はやはりジェラード様の血筋なのね。物怖じしないところがそっくりだわ」

 二人に泣きつくミユを見ながら、シオンは二人に感心しながら何度も肯く。


「もしかしてミユ様は、九尾の先祖返りですか?」

「先祖、返り?」

 金糸雀カナリアの言った名称を聞いたことが無かったのか、フレミーが首をかしげる。

「先祖などに、強い力や特殊な力を持った存在が居たりすると、何世代か後に同じ力を持った子供が生まれたりするのです。それを、一般的に先祖返りというのですよ。そして、往々にしてそう言った方々は、周りから疎まれる傾向にありますね」

 玉露ぎょくろは簡単に説明し、「ですよね?」とシオンの方を見た。


「ご名答。あの子の父方の血筋に、九尾の狐と交わった者が居たみたいなの。で、一族の中に度々先祖返りをする者が居たみたいなんだけど、この子は特に強く出てしまってね。そのせいか、親から酷い虐待を受けてたみたいで、あたしの知り合いだったあの子の祖母から相談されて、こっちで引き取ったのよ。来た当初は酷い人間不信でね、親に付けることを強要されていたあの狐の仮面をいつも被って周りを拒絶していたわ。ただ、ここでの生活に慣れてくると、耳や尻尾が出ていない時は、さっきみたいな人懐っこい性格に変わって行ったから、あたしの力で表に出てこないよう封印していたの」

 その言葉に不信感を感じたフレミーが、怪訝な顔をする。


「では、どうしてわざわざ、彼女の心の傷を抉る様なマネを?隠せるなら、隠しておいた方がいいと思いますが?」


 フレミーの言葉が、ミユを蔑むものではなく、彼女を想っての言葉だと感じ取り、シオンは嬉しくなり笑みを浮かべた。


「遅かれ早かれ、いずれバレることだもの。”アレ”は、言ってしまうとあの子にとって力の象徴。力を行使するなら、ああやって表に出さないと、力が使えないのよ。それにどう上手くやっても、長く隠し通せると思うほどあたしも楽観主義者じゃないわ。だったら、いっそのこと最初に教えておいた方が、お互いの為よ。それに・・・」

 さっきまで泣いていたミユだったが、冬華とうかが大きなぬいぐるみに抱きつくようにミユを抱き、フェリシアが”いい子いい子”と、彼女の頭を撫で、どうしたらいいか判らずオロオロするミユを見ながら、シオンが目を細める。


「あなたたちなら、あの子と良好な関係を築いてくれると、あたしは信じているの。こういう時の予感は、結構当たるのよ、あたし」

 その顔は、「あたしが外すはずないでしょ?」と言いたげに、自信に満ちていた。


「それじゃ、ミユはまだルーン王国に行く準備が全部終わってないから、これで失礼します」

 冬華とうかとフェリシアから解放されたミユは、耳と尻尾を引っ込めて恥ずかしそうに部屋を出て行った。

 二人は名残惜しいのか、残念そうにミユを見送っている。


「う~ん、妾も二人からよく似たようなことをされておるが、傍から見ておると意外に恥ずかしいものじゃの」

 と、感想を漏らしていたルールーを突然、フェリシアがグワッと後ろから抱っこし、「あ~・・・ルーちゃんを抱っこしても癒されますね」と、笑みをこぼす。


「あぁ!フェリちゃんズルい!ん~・・・・カグ君、こっちおいで」

 今度は出遅れた冬華とうかは、カグに狙いを定め手招きする。


 しかし、カグも恥ずかしいというのは理解できたようで、昊斗そらとの後ろに隠れ、笑顔を引きつらせて首を横に振っている。


「そうだ、マダム。頼まれていた翻訳作業が終わりましたので、これを」


 そんなカグの頭をちょっと乱暴に撫でながら、昊斗そらとはシオンから預かっていた初代賢人の日記帳と、大幅な”修正”がなされ、グラン・バースの共用語で書かれた翻訳版をシオンに手渡す。


「もう終わったの?!数ヶ月は掛かると覚悟してたんだけど、あたし」

「さすがに、この国にとって大切な書物を、国外に出すわけにはいかないでしょう?それに、俺のチームは何においても最高なんですよ」

 そういって、昊斗そらと冬華とうかたちの方を誇らしそうに見る。

 

 当初は、翻訳作業を手伝うことに難色を示していた玉露ぎょくろ金糸雀カナリアだったが、昊斗そらと冬華とうかが二人っきりで作業しているのに、疎外感を感じ結局四人で作業することとなった。 

 玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが加わったことで作業速度が上がり、合間を縫った作業だったが、数日で翻訳版を完成させたのだ。


 カグに避けられ拗ねていた冬華とうかは、昊斗そらとの笑顔で機嫌を取り戻したのか笑顔を返し、玉露ぎょくろは、さも当然と言わんばかりに胸を張り、そして金糸雀カナリアは嬉しそうに頬を赤くし、「えへへ」と照れ隠しに笑いながら俯く。


「そう・・・・・・・本当にありがとう。それで、報酬のことだけど、本当に前、お兄さんが言ったアルターレ護国への入国許可書と国内の通行手形だけでいいの?この国を二度も救ってくれた英雄たちに対する褒章としては、いささか・・・・・」

「この国での自由を許可してもらえれば、それで構いません。それに、ゴタゴタで財政的に厳しい国から、報奨金とかはいただけませんよ」 

 昊斗そらとの言うとおり、先の事件でアルターレ護国の財政はかなりひっ迫している。

 イメージ的には、全国民が爪に火をともさないといけないくらいにだ。


「そんなことにまで気を使ってもらって、ホントごめんなさい。それはそうと、さっきからずっと気になってたんだけど」

 昊斗そらとの横に立っているカグを見ながら、シオンが首をかしげる。

「その子、何処の子?」

「あぁ、すみません。紹介が遅れましたね。彼は・・・・」

 そう言って、昊斗そらとは指を鳴らす。

「?・・・・・・・・・・はい?」

 シオンの目に、おかしなモノが映る。

 正確に言うと、カグの周りにシオンの中に覚えのある、濃密な気配が見えるのだ。


「も、もしかして・・・・・・」

 あり得ないことが起きているんじゃ、とシオンは思い至り、顔を引きつらせた。

「久しぶりだね、巫女の長。どれ位ぶりかな?」

 シオンの方へと向き直ったカグが、挨拶する。

 その立ち振る舞いは、幼くなろうともまさしく”神”そのものだった。

「か、カグツチ様?・・・・・・」

 さすがのシオンも、二柱もの神が目の前に現れたため思考が堪えられず、そのまま後ろに倒れてしまった。

「シ、シオン様?!」

 フェリシアや金糸雀カナリアたちが慌てて駆け寄り、頭などを打っていないか調べる。


「これで、マーナさんの期待にこたえられたかな?」

「映像も押さえましたし、マーナさんも満足されるでしょう」

「お二人とも・・・・・」

 ウンウンと肯く冬華とうか玉露ぎょくろを見て、フレミーは軽く引いていた。



「つまり・・・・ルドラ様と同様にカグツチ様も”神”としてまだまだ未熟な部分があるから、お兄さんたちの所で修行する、と?それ、本気?」

「えぇ、本気ですよ。これも傭兵としての義務ですから」

 気がついたシオンに、事の経緯を話した昊斗そらとたち。

 自分が神に対して随分、失礼なことを言っているな、とか色々と思う所のあるシオンは頭痛を覚え、額に手を当てていた。


「ご心配なく。カグツチの身体には、世界を管理・維持するだけの力と思考力を残して、霊峰に置いて来てますから、この国や大陸へ特に影響は出ないと思いますよ?ここにいるカグ君自体も、ルーちゃんと同じ封印を施してますから、ご覧の通り、何処からどう見ても可愛らしい男の子にしか見えませんよね?それと、ルーン王国で発生している力場が、カグ君が加わることでさらに混沌としても、巫女であるミユちゃんがマーナさんの様な影響が出ないように、現在対応策を練っていますから、ご心配なく」

「あたしの心の代弁、ありがとう・・・・・・まぁ、いいわ。その辺りは全部、お姉さんたちにお任せするから」

 もう、好きにして、と言わんばかりに諸手を上げるシオン。

 

 諸々の報告が終わり、仕事へと戻っていったシオンの部屋を後にする昊斗そらとたち。


 この後、マーナとの約束を履行した冬華とうかたちは、映像を彼女の元へ届け、気絶するシオンの映像を見て、マーナがとても楽しそうにしていたと、後に立ち会った彼女たちの口から語られた。


――今まで見たことないくらい、本当に楽しそうだった、と。


**************


 そして、いよいよフェリシアたちルーン王国一向が、アルターレ護国を離れる日がやってきた。


 やって来たときと同じ岸壁に、ルーン王家専用の客船「クイーン・ファーネリア号」が接岸し、デッキへと伸びるタラップの入り口の横に、冬華とうかたち傭兵と、フレミーなどの騎士たち。反対側には、カトリーヌたち侍女が整列していた。


「よくよく考えたら、私たちがこの国に来て一週間ぐらいしか経ってないんだよね」

 日数を数えながら、冬華とうかがそんなことを呟く。

「まぁ、色々ありましたからね。とても濃密な日々に、若干一名精神的に大変だった方もいらっしゃるようですが」

 冬華とうか玉露ぎょくろの視線の先に、何かを悟りきったナターシャの姿があった。

 

 フェリシアたちに先んじて、一足先に船へ戻っていたナターシャは、カトリーヌやシャンテ、その後に合流した冬華とうか金糸雀カナリアなどが手伝って、今は何とか落ち着きを取り戻している。


「でも、ナターシャ様はあの程度でへこたれる方ではないと思いますよ?数日、ご一緒しましたけど、今回の経験で大きく成長される素養をお持ちだと、わたしは感じますけどね」

 金糸雀カナリアの言うとおり、その片鱗は船に戻ってから端々で見受けられるようで、船に残っていた侍女たちからは「まるで、別人のように落ち着いた」と口をそろえて言っているのだ。


 そんな光景を眼下に見ながら、船のデッキでは、ルールーとカグが並んで港町を眺めていた。

 隣のカグが遠い目をしていると思ったルールーが声を掛ける。

「どうしたのじゃ?」

「え?・・・いや、住み慣れた場所から離れるのは、少し不安を感じると思ってね」

 世界に降りてから、一度も霊峰ミタケから動かなかったカグにとって、大陸の外はまさに未知の世界だった。

 なので、そんな世界への期待の半面、怖さも感じていた。

「何じゃ、そんなことか。人間と違い、別にこの土地と今生の別れになる、と言うわけではないのじゃ。いつかは、戻ってくる場所じゃろ?」

 何を小さいことを、と呆れるルールー。

「そうなんだけどね。ルドラは、どうなの?ずっと世界を見て周って来たんだよね?君には世界が、どう見えた?」

「おかしなことを聞く奴じゃの。そんなことを聞いて、何が面白いのじゃ?」

「え?」

 「何が面白い」。その言葉の意味が、カグには解らなかった。

 ルールーは港町を背にして、反対側に広がる海へと目を向ける

「この先に何があるか分からない。じゃから、自分の目で見に行き、確かめにいくのじゃ。それを他から聞いては、面白くないではないか!」

「ルドラ・・・・・」

 これが、世界を見てまわった(彼女)と、一つの場所に留まり続けた(自分)の差か、とカグは思い知らされる。


「ま、まぁ・・・・ぬしがそんなにも不安じゃと言うなら、妾が傍についててやってもいいがの。それなら、ぬしも不安では・・・な、なかろう?」

 恥ずかしさを隠す為、そっぽを向いて提案してくるルールーに、カグは目を閉じて笑みを浮かべる。

「うん、ありがとう」

 その言葉に、ルールーは耳まで赤くしてしたが、カグに気づかれることはなかった。



「それでは、ミユさん。しっかりと、お勤めをこなすのですよ」

「はい、マーナ様」

 タラップの前には、正装したフェリシアと、祭事巫女の正装を纏ったミユ。そして、賢人用の巫女装束を纏ったマーナが別れの挨拶をしていた。


 本来なら、盛大に祭事巫女を送り出すのだが、国内の状況を鑑み、今回はごく小規模なものになっていた。


 アルターレ護国側は、責任者のマーナを筆頭に、数人の巫女と護衛の僧兵である尼僧数人しか立ち会っていない。


「姫様。そそっかしい子ですが、義娘むすめをよろしくお願いします」

 短い期間で、親子らしいやり取りなど数えるほどしか出来なかった二人だが、それでもフェリシアには、不思議と本当の親子に見えた。

「はい、マーナ様。次にお会いできるのがいつになるかは分かりませんが、その時までお体を大切に」

「えぇ、姫様も。陛下や王妃様によろしくお伝えください」


 三人のやり取りを少し離れた場所で、姫巫女としてではなく、ミユの知り合いのマダム・ヴァイオレットとして、シオンが昊斗そらとと並んで見ていた。


 シオンの姿は、昊斗そらとが出会った時と同じ、ラフな格好にフェリシアがプレゼントした、ドラグレア謹製の認識阻害メガネをかけていた。


「いいんですか?声を掛けてあげなくて」

「えぇ、あの子にはコレまでも色々言ってきたし、それに折角の晴れの門出に、小言を言って水を注すのも無粋でしょ?・・・・お兄さん、あの子の事をお願い出来るかしら?」

 シオンの目を見て彼が、マーナ以上にミユを心配している、と昊斗そらとは感じた。

「俺たちの、介入出来る範囲でなら」

 何処まで保障出来るか判らないが、自分や冬華とうかたちの届く範囲ならどうにか出来る、と昊斗そらとは肯く。


 聞きたかった言葉が聞けた、とシオンは一つ背伸びをする。

「それで、十分よ。それから、殿下に”例の件”よろしくって伝えておいて。じゃ、あたしは帰るわ」

 そう言って、踵を返すシオン。

 その時だ。


「マダム!!」

 ミユが大声で、シオンを呼び止めた。

 その声に、反射的に足を止めるシオン。


「ミユ、頑張るから!マダムに教えてもらったこときちんと守って、将来マダムがいろんな人に自慢しても恥ずかしくない立派な祭事巫女に、ミユはなるから!だから、行って来ます!!」


 泣き声の混じるその声に、シオンは振り向くことなく手を上げて答え、そのまま歩いていく。

「・・・・・・・・もう、あんな事言われたら、湿っぽくなっちゃうじゃない。あの子は」

 一筋の涙を流し、シオンはポツリとつぶやく。


「全く、強情な人だな」

 そんな強がりな後姿を少し呆れながら見送り、昊斗そらとは船へと歩いていく。


 そして、ルーン王国一向を乗せた客船クイーン・ファーネリア号は何度も霧笛を鳴らしながら、アルターレ護国を後にするのだった。  


 



 次回更新は、2月20日(木)PM11:00頃に予定しています。


 変更の場合は、活動報告にて連絡いたします。

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