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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
火の神 邂逅 編
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(10) 新たな祭事巫女

「ただいま~」

「ただいま帰りました」

「ただいまです」

「ただいま」

 昊斗そらとたちが創造神の元から、旅館に帰ってきたのは夕飯の時間が押し迫る夕暮れ時だった。


「あ!皆さん、お帰りなさい!!」

 待ちわびたと言わんばかりに、笑顔のフェリシアが昊斗そらとたちを迎える。

「ただいま、フェリちゃん。ルーちゃんの様子はどう?」

「妾なら、心配要らぬぞ~」

 部屋の奥から、ルールーの暢気な声が聞こえる。


 四人が部屋に入ると、昊斗そらとたちの部屋には、出迎えたフェリシアに、旅館で待っていたカトリーヌたち侍女三人を始め、フレミーに、いつもの幼女姿に戻ったルールーの姿があった。


「ルーちゃん、何処かおかしな所とかは無い?」

「問題ない!完全復活したのじゃ!さすがはトーカじゃの~」

 立ち上がって胸を張るルールーを、冬華とうか金糸雀カナリアが「念のため」と、ルールーの身体を調べ始める。


「それで、どうなったんですか?火の神の方は・・・」

 フレミーが、入り口近くに立っていた昊斗そらと玉露ぎょくろに、不安そうな顔をして聞いてきた。


「あぁ。無事、創造神に力を返還し終わった。これで、だいぶ他の世界とのバランスが戻ったはずだ」

「そうでしたか・・・・」

 事情を知るフレミーではあるが、「この世界が危機に瀕している」などと言われてもイマイチ実感が持てないのだが、昊斗そらとが大丈夫だと言っているので、一先ず安心する。

「マスター。そろそろ入れてあげないと、可哀想なのでは?」

 玉露ぎょくろが急かすように、昊斗そらとの脇を小突く。

「そうだった。冬華とうか!」

「ん?」

 昊斗そらとに呼ばれ、冬華とうかが顔を上げる。


 すると、昊斗そらとが親指で外を指差すジェスチャーをしているのに気がつき、冬華とうかは口に手を当てた。

「いけない!ルーちゃん、ちょっと待っててね」

「ん?なんじゃ?」


 外へ出て行った冬華とうかの後姿に、ルールーが首をかしげる。


 外から「ごめんね、待たせちゃって」と冬華とうかの声が聞こえてくる。


「はい、皆さん注目!」

 戻ってきた冬華とうかが、全員の視線を誘導する。


「トーカさん、何かあるのですか?」

 何が始まるのか、興味津々のフェリシアが手を上げる。

「ふっふっふっ・・・・さぁ、入ってきて」

 冬華とうかに促され、一人の”少年”が入ってくる。

 年齢は、幼女姿のルールーと同じぐらいで、燃えるような緋色の髪と瞳。服装も、ある存在を起因させる火のモチーフがあしらわれていた。


 その姿を見て、ルールーは「なっなっなっ・・・・」と口を開けて少年を指差し、フェリシアとフレミーは「まさか・・・・」と呆然と見つめ、その三人がどうしてそんな反応をしているのか分からないカトリーヌ、シャンテ、ナターシャの頭の上には疑問符が浮かんでいる。


「今日から、一緒に生活することになりました。火の神カグツチ改め、火の精霊(仮)のカグ君です!仲良くしてあげてね」

「よ、よろしく・・・・・」

 カグと呼ばれた少年は、遠慮しがちに頭を下げる。


「な・・・・・・なんじゃとぉ!!!!!」


 まさかの事態に、ルールーは旅館が揺れるのでは、というほどの大音量で叫んだ。


「あの・・・・私、今凄いことを聞いた気がしたのですが、気のせいですよね?空耳ですよね?!」

 今回、フェリシアの公務に初めて同行したナターシャは、すでに何度となく自分の常識や固定観念などを、木っ端微塵に吹き飛ばされていたのだが、とうとう限界を超えてしまった様で、湯飲みを手にしたまま震えだしてしまった。

「そうね、きっと気のせいよ」

 穏やかな口調のカトリーヌが、これまた穏やかな笑みを浮かべ肯く。

「ナターシャ、今は気のせいと思っていていいから、震えるのをやめなさい。お茶が零れるわよ?」

 ナターシャから湯飲みを取り上げ、落ち着くように言い聞かせるシャンテ。


 すでに、度を越えたハプニングに対する耐性を身に着けていたカトリーヌとシャンテは、現れたカグツチにも動じてはいなかった。

 彼女たちにとっては、最後の仕事で本当にいい思い出が出来、しかもこれから待ち受けるであろう嫁ぎ先での苦労など、目の前の事態に比べれば、笑って受け流せる自信がついていたので、今の状況に感謝はすれど、迷惑とは思っていなかった。


「やはり、カグツチ様だったのですね・・・・・」

 フレミーも、入ってきた幼姿のカグツチを見て、ルールーを初めて見た時と同じ印象を受けたので、全く驚いていなかった。

「え~とつまり、カグツチ様もルーちゃんと同じ様に、別の身体を作って、そこに精神と力の一部を入れたということですよね?それにしては、ルーちゃんの時より早い気がするのですが?」


 フェリシアが疑問に感じるのも無理はなかった。

 前回、ルールーの新しい身体を用意するにあたり、一〇時間近く掛かっていたのだが、今回は創造神の元へ昊斗そらとたちが行ってから、七時間程度で帰ってきている。だが内訳としては創造神への説教の時間が殆どで、カグツチの新しい身体は、モノの二~三時間ほどで作り上げてしまっているのだ。


「うん、そうだよ~。前回は、一から試行錯誤してやったから時間掛かったけど、今回はルーちゃんの時のデータがあったから、スムーズに進んだんだ。それに、創造神のお爺ちゃんもお願いしたら頑張ってくれたし」

「あ、あはははは・・・・・・・・・」

 笑顔で冬華とうかに、カグツチが乾いた笑いも漏らす。間違っても、アレを”お願い”と言っていいものではなかった、とカグツチは思い出していた。


「しかし、なぜカグツチ様にも新たな身体を?こう言ってはなんですが、ルドラ様と比べて好印象な気がするのですが?」

「確かに、カグツチは人間を含むこの世界に住む生命を慈しんではいる。しかし、自分が力を振るうことに対しては、あまりにも潔癖すぎるんだ。例え自分が襲われたとしても、一切手を出さない。代理神として、それじゃ困るんだよ」

 昊斗そらとの説明に、複雑な心境なカグヅチは俯いてしまう。

「炎却の衣の制御が出来ても、攻撃しないんじゃ意味がない。だから、俺たちのところで再教育を受けてもらうことにしたのさ」

 得心が行ったのか、フェリシアもフレミーも「なるほど」と肯く。


 しかし、一人だけ空気を読めない幼女がいた。


「そんなことは、どうだっていいのじゃ!なぜ火の奴までそんな姿でここにおる!?それに、妾と(・・)一緒に暮らす?!・・・・・・・・・・・まっ、待つのじゃ!そんな急に言われても、まだ心の準備が・・・・たしか、人間の言葉に「男女七歳にして席を・・・何とかと言うものがあるそうではないか!神とはいえ、カグツチは男神で妾は女神じゃ。そこの所は・・・・・・て、何をくつろいでおるのじゃ、ぬしは!!」

「え?!」

 ルールーが捲くし立てている間に、俯いていたカグツチを玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが呼び、彼に湯のみを渡す。

 初めて目にし口にするお茶を、興味深げに見つめていたカグツチ改めカグはルールーの声にビックリして、目を見開く。

「ルーちゃん・・・・ちょっと落ちついた方がいいですよ?お茶飲みます?」

 ヒートアップするルールーを落ち着かせようと、金糸雀カナリアが湯飲みを差し出す。

「これが落ち着いてなど・・・・むぅ、お茶は飲む・・・・・・・・ふぅ。大体、ぬしぬしじゃ!妾と一つ屋根の下で暮らすなどと・・・・・ぬしに恥じらいはないのか?!」

 と、何故かおかしな解釈をしているルールーに、カグが昊斗そらとに助けを求めて、視線を送る。

「はぁ・・・・・ルールー。とりあえず、誤解しているようだから言っておくが・・・・・・・カグとお前は一緒には暮らさないぞ」

「・・・・・・え?」

 昊斗そらとの言葉が理解できなかったのか、ルールーが間の抜けた声を上げる。

「ルーちゃん。あなたはフェリちゃんと契約する”精霊”でしょ?だから、ルーン王国じゃ基本的にアルバート城で生活してるじゃない。でも、カグ君は誰かと契約している訳じゃないし、ルーン王国に帰ったら私たちのベースで再教育を受けながら生活して、色々なことを覚えて貰わなきゃいけないの。だから、ルーちゃんと一つ屋根の下って訳にはいかないかな」


 冬華とうかの説明で、漸く理解できたのかルールーは、顔を真っ赤にする。

「・・・・・・も、もちろん!そんなことは解っておるぞ!?まぁ、さっきのは妾なりの冗談という奴じゃ!!あはははは!!」

 照れ隠しだと判る笑い声を上げるルールー。


「ルーちゃん、明らかに残念がってますよね?」

 彼女との付き合いが長くなってきたフェリシアはここ最近、ルールーと精神をリンクさせなくても、彼女の感情が読み取れるようになって来た。

 そんなフェリシアには、今のルールーがとても残念がっていると感じ、冬華とうかに小声で伺う。

「仕方ないよ、ずっと気掛りだった相手が近くにいるんだもん、やっぱり期待して舞い上がっちゃうよ。ルーちゃん自身に自覚はなくても、カグ君のことが好きなんだね、きっと」

 同じく小声で受け答える冬華とうかも、ルールーの態度からそうではなかろうか、と思っていた。


 だからこそ、二人にはきちんと知識を身に着けさせる必要があるよね、と冬華とうかはこれからの教育方針を考え始めていた。


「ルドラ」

 カグが、意を決してルールーに声を掛ける。


「な、何じゃ?!妾の冗談は、そんなに笑えなかったのか?!」

 恥ずかしさのあまり、八つ当たり気味に声を荒げるルールー。


「僕がここにいる理由は、確かにソラトさんやトウカさんに言われて、あの方の代理たる神に相応しい存在になる為だよ。だけど、もう一つ理由があるんだ」

「・・・・・なんじゃ?」

 今度は不貞腐れるルールー。

「君だよ」

「にゃ、にゃんじゃと?!」

 カグの突然のカミングアウトに、不覚にも噛んでしまったルールー。

 何か言い返してやろうと思ったルールーだが、真剣な眼差しのカグを見て、今まで見たことがないほど、アワアワと慌てる。

 そんなルールーを余所に、カグが言葉を続ける。

「久しぶりに会った君は、僕が知っている君とは違っていた。僕にとっては、それが衝撃的だったんだ。あれほど強い”自分”を持っていた君が何故変わったのか?その理由が知りたかった。だから、僕は君のように人間の中で生活しようと思ったんだ。そうすれば、何かが見えると思うんだ。やっぱり駄目かな?」

 ルールーは、珍しく自分の意見を言っていたカグを見て、少し見直していたのだが、「駄目かな?」という言葉に、いつもの情けないカグツチが見えてしまい、ほんの少し冷静さを取り戻す。

「・・・・・ふん、妾に決定権など元からないのじゃ。ソラトたちが決めたのなら是非もない。それに、誰でないぬし自身が決めたのなら、それで良いではないか」

「そうか。うん、そうだね。ありがとう、ルドラ」

 カグの笑顔に、ルールーの戻って来ていた冷静さが何処かへ飛んでいく。

「そ・・・それより・・・・・わ、妾はそんなに変わったか?」

「変わった・・・・でも、僕は今の方がいいと思うよ」

「!?」

 内に起こるコントロールできない感情に振り回され、ルールーはそのまま両手で顔を押さえ悶える。


「何でしょう。二人の正体を知っているから、そう違和感を感じませんが・・・・冷静に見ると、幼い子供が精一杯背伸びして、大人ぶっているように見えますね」

玉露ぎょくろちゃん、それは言いすぎだよ・・・・・」

 いつの模様に玉露ぎょくろを諌める金糸雀カナリアだったが、彼女もそう思っていたらしく、笑いを堪えるのに必死だった。


「ほのぼのとした気持ちになりますね」

「いいよねぇ。殺伐とした気持ちが癒されるよ」

 冬華とうかとフェリシアは、ルールーとカグのやり取りを見ながら終始、頬が緩みっぱなしだった。


――こりゃ当分ルールーは、コレをネタに皆から遊ばれるな


 と、昊斗そらとは考えながら、部屋全体を眺めていた。


 ふと外を見ると、日は完全に落ち辺りは真っ暗になっていた。


「皆!夕飯食べに行くぞ!今日はカグの歓迎会も兼ねて、女将さんに少し豪勢にしてもらうよう頼んでたんだ。遅れたら、折角の料理が冷めてしまう!」

「あっもうそんな時間だっけ?!じゃ皆、宴会場に行こうか!」

 冬華とうかの号令で、全員が移動を始めるが、内二名は自立歩行が無理なほど、精神的ダメージを受けた為に、抱えられて部屋を出て行った。

 

 その後行われた歓迎会という名の無礼講騒ぎは、夜遅くまで行われ、旅館の方々に多大なご迷惑をお掛けすることになってしまったのだが、当事者たちの名誉の為、ここでは詳細は伏せておこう。



 次の日は、前日の影響で身動きの取れないメンバーが多数いたので、特に何をすることなく一日を過ごした。



 そしてさらに次の日。


「当旅館をご利用いただきまして、誠にありがとうございました」

 女将のサエコと、従業員一同が見送りに並び、深々と一礼する。

 

 昊斗そらとたちは旅館に来た際と同じ格好――カグは途中参加したフレミーたちの親戚、と言ってある――で、女将たちに応じていた。


 聖都にいるシオンから、「やっと祭事巫女が決まったから、戻ってきて!」と連絡が入ったため、急遽聖都へ戻ることになったのだ。

「こちらこそ、大変有意義な時間を過ごさせていただきました。それから、先日はご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」

 代表となっているカトリーヌが、申し訳ないと言った顔で、頭を下げる。

「いいえ、お気になさらず。マダムがお泊りになられた時に比べれば、皆様はまだ可愛いものですよ」

 おほほ、と掌で口元を隠して笑う女将。


 昊斗そらとたちは、「なにやったんだ?あの人」と思ったが、あえて聞くことはしなかった。


「ご縁がありましたら、また当旅館をご利用くださいませ。従業員一同、心よりお待ち申し上げます」


 手を振る従業員たちに見送られ、昊斗そらとたちは短くも、色々なことがあった温泉街を後にし、聖都への帰路に着いた。



「お帰りなさい、皆さん」


 聖都に着いて出迎えたのは、賢人として忙しい日々を送っているはずのマーナだった。


「マーナ様!」

 その姿を見つけたフェリシアが、彼女の元へと駆け寄る。

「姫様、よくご無事で・・・・自治区で事件が起きていると聞かされ、心配しておりました」


 彼女は、無事にフェリシアたちが帰ってきた事を知り、ほんの少しだけ抜け出してきたと説明した。


 フェリシアやフレミーたちが無事なことを確認していたマーナが、ルールーと話しをしているカグの姿を見つけ、息を呑んだ。

「・・・・・オクゾノ様、ナツメ様」

 只ならぬマーナの雰囲気に、声を掛けられた昊斗そらとたちは、「さすがですね」と笑みが漏れる。


「ご想像の通りですよ、今からマダムにも説明に行きますので、詳細はその時にでも」

「そうですか・・・・・・・・・私は、賢人の仕事が残っていますのでご一緒できませんが、ぜひ!兄を驚かせて上げてください。最近、退屈しているようなので」

 何故か、言葉の端々に殺意が篭るマーナ。


「分かりました。では、シオンさんの元へ行ってきますね」

「えぇ、お願いします」 

 昊斗そらとたちは、心底嬉しそうなマーナに見送られ、シオンの部屋へと向かった。




「本当に、ごめんなさいね。あなたたちには、また大変な目に遭わせてしまったわ。それから、二度も国の危機を救ってもらって、姫巫女として感謝してもし切れないわ」

 部屋へと通された昊斗そらとたちは、シオンから労いの言葉をかけられた。


 余程仕事がたまっているのか、シオンは書類の山に埋もれている。

「まぁ、私たちに無関係な話ではなかったですからね。気にしないでください」

 そんな書類の山には触れずに、冬華とうかは笑顔で答えた。

「そう言ってもらえると、助かるわ。ホントにありがとう」


「あの、シオン様。早速で悪いのですが、新しい祭事巫女様が決まったと・・・」

 一週間近く待った知らせだったので、フェリシアは失礼と思いつつも、本題を切り出した。

「そうそう!殿下には、本当にお待たせしてしまって、申し訳なかったわ。でもその分、才覚のある巫女を選んだから期待してね?入ってきて!」

「・・・あ」

 シオンが、外へと声を掛けると、部屋の奥から昊斗そらとの知っている少女が現れた。


「初めまして姫様!ミユはミユって言います!よろしくね♪」


 そう、頭に狐のお面をつけ、アメジストに似た紫の瞳とシオンと同じ巫女服が特徴的な、”巫女ちゃん”のミユだった。


「この子が、新しい祭事巫女?」

 

 一体誰の呟きか。

 しかし、その場にいたルーン王国の関係者は全員、そう思ってしまったのだった。


 次回、投稿は2月16日PM11:00前後を予定しています。


 変更がある場合は、活動報告で連絡いたします。

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