表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
火の神 邂逅 編
65/180

(8) その願いのために

 霊峰ミタケ山頂での異変は、麓に広がる温泉街にも伝わっていた。


 だが、正確な情報がもたらされている訳ではない為、観光客などが騒ぎ始め、所々で混乱が起きている。


 旅館こまやで待つよう言われたフェリシアの侍女である、カトリーヌにシャンテ、そしてナターシャは、主たちが向かった霊峰を部屋の窓から眺めていた。


「姫様たち、大丈夫でしょうか?やはり、無理にでも御停めした方がよかったのでは・・・・」

 窓際に立ち、不安そうにしていたナターシャが、落ち着いて座っているカトリーヌとシャンテの方へと振り返る。

「過ぎたことをあれこれ言っても仕方ありませんよ、ナターシャ。私たちは姫様を信じて送り出したのです。ここはご無事を祈り、待つしかないでしょう?」

 実際のところカトリーヌもシャンテも、フェリシアが霊峰に行くことは反対だった。


 しかし、長年二人が仕え、見守ってきた少女は、幼い頃から心に強い芯を持ち、決めたことをやり抜く力を持っていた。

 こうと決めたらテコでも動かない。そのことで、二人は何度も苦労させられたが、今となってはいい思い出になっている。


「霊峰にルーちゃんを連れて行く」

 そう言ってきたフェリシアの目は、カトリーヌたちが何度も見てきた、揺るがない決意に満ちたものだった。


 侍女として失格、と思いつつも二人とも止めることは憚られ、フェリシアたちを信じ送り出したのだった。 


「フレミー殿も同行しているし、それに、オクゾノ様やナツメ様たちも現地に居られるのだから、心配ないわよ」

 落ちついて座ってなさい、と言わんばかりに、自分の横の畳を叩き、ナターシャを促すシャンテ。

 ナターシャは、渋々シャンテの横に座り、ため息をつく。


「でも・・・・・・確実に、オクゾノ様たちには怒られるでしょうね。姫様だけでなく、私たちも」

「え?!」

 突然、とんでもないことを言い出したカトリーヌに、ナターシャは驚愕し声が跳ね上がる。

「それは、仕方ないわね。姫様だけに、辛い思いをさせるわけには行かないもの。侍女ならば、主と運命を共にしないと」

 達観したような二人とは対照的に、ナターシャは「そんな~」とテーブルに突っ伏したのだった。


**********


 カトリーヌたち三人がフェリシアたちの無事を祈っていた同じ頃。

 

 混乱する人ごみの中、山頂を見つめる”人物”がいた。


 二十代の若い男。

 整った顔立ちに、折り目の綺麗なスーツを纏っている。

 その佇まいは、人と言うより人形と言っても差し支えない、一種異様さを醸し出している。


 そして、彼が”人間でない”と決定付けるものが、光を失い濁り出した瞳だった。


 男は、懐から細長い結晶を取り出し、手の中の結晶を握りヒビを入れた。


「ご主人様」

”あら・・・・・・・随分と早いわね・・・・どうかしたの?”

 いつもの主とは違う熱を帯びた声に、男は気づかれぬよう短く息を吐いた。

――これは、間の悪い時に通信を入れてしまった、と。

「・・・・申し訳ありません。どうやら、間に合わなかったようです」

 だが、通信石は希少価値の高いアイテムの上使い捨てのため、通信球のようにかけ直すということが出来ないので、男は諦めて報告を続けた。

”・・・・・・・・そう。起きてしまったのなら、仕方ないわね。全く、我が妹ながら、昔からこらえ性のない、愚かな子だわ。それで・・・・・愚妹は?まだ現場にいるのかしら?”

 主に問われ、男はポケットから小型の端末を取り出す。

 起動すると、画面に霊峰ミタケ周辺の地図が表示され、二つの光点が霊峰から遠ざかっていた。

「・・・・・いいえ。反応が移動していますので、無事脱出されたようです。いかがなさいますか?」

 通信石から、情事の音が漏れ聞こえるのを聞き流し続け、男は主の返答を待つ。


”あなたは予定通り、あの愚妹と合流し、私の元に連れ帰りなさい。それと、あの子の失敗の後始末、どうしようかしら・・・・”

「それに関しては、心配する必要は無いと思われます。妹君に仕えているあの青年は、人間にしては大変優秀ですから、手を打っているはずです」

 彼が見てきた人間の中で、その青年は好感が持てた数少ない存在だった。

 そんな青年が、主君を連れ出すのに手一杯で何も対処していない、などと男には想像できなかった。


”あぁ・・・・あの坊やか・・・・・・・・愚妹には勿体無い、一生懸命で可愛らしい執事君だったわよね・・・・・・私が欲しいくらいに!”

 舌なめずりする音が聞こえ、主の艶を増した声と、口を押えられくぐもったような男の声が大きくなる。

”いいわ!実験の方は捨て置きなさい。下手にあなたが介入すれば、余計な尻尾を掴まれることも考えられるしね”


 そんな下手を打つつもりはないと反論したかったが、先日思いがけないことで、前の身体を放棄せざるを得なくなったことを思い出し、男は「無理はすまい」と肯く。


「畏まりました、では後ほど」

”えぇ。私からの愚妹への伝言も忘れないでね”

「御意」


 役目を終え砕け散った通信石の残骸を払い、ルーン王国で起きたテロ事件の犯人たちを裏で操った存在、”ウィスパー”と呼ばれる男は人ごみの中へと消えていった。



***********


 霊峰山頂では、”人”対神の激戦が繰り広げられていた。


「はあああああああ!!!!!」

 両手に握る長さ十メートルを超える二振りの剣で、迫り来るカグツチの巨大な腕を幾度も切り刻む昊斗そらと


 だが、火の粉となって消える腕は、瞬間には再生し、再び昊斗そらとへと伸びてきた。


「こいつ!何で再生するんだ?!」


 昊斗そらとの持つ神滅武装は、ほぼ全ての代理神が持つとされる、再生能力を強制的に封じる力を付与されている。

 水の神ルドラの時がそうだったように、外部から回復されなければ、傷はそのままのはずなのだ。


 だが、目の前のカグツチは幾度となく再生を繰り返している。


「っ!なら!!」

 昊斗そらとは、手に持つ巨大な武器を物ともせず、急加速してカグツチの懐へと飛び込んでいく。

 

 オオオオオオオオオオオオオ!

 カグツチも、迫り来る昊斗そらとを捕らえようと待ち構え、一気に掴みかかりに来た。


「っっ!!」


 だが、昊斗そらとは急制動をかけ、真下へ直角に方向転換し


 グアアアアアアア!!

 対応し切れなかったカグツチの両手が、轟音を立て衝突する。


 昊斗そらとは、火口の淵に沿って飛び、カグツチの真後ろ、死角となる首筋の後ろへと回り込んだ。


「これなら、どうだ!!」

 両手の剣を重ね合わせ、一閃し首を切り飛ばす。

 

 切り離された首が火の粉となり、次の瞬間、首が昊斗そらとの方を向いて再生する。

 しかも、口を開けエネルギーを溜め込んだ状態でだ。


「くっ!」

 咄嗟に剣の巨大さを利用し、カグツチの攻撃に耐えるための盾にする昊斗そらと

 

昊斗そらと君!!」

 だが、昊斗そらとへの攻撃が放たれる直前、カグツチの巨体に、氷の槍・・・などと生易しいものではなく、大陸間弾道ミサイル大の氷塊が流星雨のように降り注ぎ、数千度を超える熱を持つ灼熱の神を氷の彫刻へと変えてしまった。


「大丈夫?!」

 フェリシアたちの元から、冬華とうかが戻り、昊斗そらとの横に並ぶ。

「悪い、冬華とうか!ルールーはどうした?」

「何とか持ち堪えたよ。ただ、カグツチの攻撃の影響が、精神にまで及んでる可能性もあるから、まだ動かせる状態じゃないの。今は、フェリちゃんとフレミーさんに頑張って貰ってるけど、長くは持もたないかも」

「・・・なら、急ぐしかないか」

 巨大な氷の彫刻を前に、昊斗そらとが武器を構えなおす。

「待って!もしかしたら私たち、早まったことをしようとしてるかもしれない!」

「何だって?」

 冬華とうかは、ルールーから聞き、そして彼女から伝わってきたカグツチの情報を、昊斗そらとに話し始めた。


 カグツチが本来、争いを好まない性格をしていること。そのせいで危険から自身を守るために、力を振るうことに躊躇うのではないか、と”彼”を案じた創造神が、与えた自動防衛機構。

 それが、目の前に立ちはだかる炎の巨人”炎却の衣”であること。この衣は厳密にはカグツチとは別の存在であり、その行動に、カグツチの意思が反映されないこと。

 

 そして、この力の発動キーが


「助けて?」

「うん。カグツチが「助けて」と願った瞬間に、”炎却の衣”が発動するように設定されていたそうなの。しかも一度発動されれば、カグツチの意思とは無関係に炎却の衣は攻撃を始めてしまうって。そうなれば、辺りが焦土と化すまで止まらない。・・・ルーちゃん、炎却の衣のことを、過去にカグツチ自身から聞かされていたみたいで、だからあんなに必死になって止めようとしてたみたいなの」

「そうだったのか・・・・・」


 遠くに見える、光の殻を見つめ、昊斗そらとは目を閉じた。

 炎却の衣に、神滅武装の効果が出なかった理由。

 それは衣が、代理神を守るための攻撃本能を持った鎧であるために、代理神のみを消滅ころすことしか出来ない武器は通用しないから。

 ルールーが自分たちの言いつけを破り、フェリシアを危険に晒してまでやってきた理由。

 もし放って置けば、昊斗そらとたちの手によって、罪のないカグツチが消滅ころされてしまうかも知れなかったから。

 疑問だった二つのことが、昊斗そらとの中で腑に落ちる。


「とりあえず、あとで創造神の爺さんは説教決定、だな?」

「うん、そうだね」

 なぜか、目の前の炎の巨人をどうすかよりも、この事態を引き起こした要因の一つを作った、創造神にお灸をすえることが、二人の中で決定される。


「それじゃ、手の掛かる神様を助けに行くとするか」

「うん、小さな女の子からのお願いだからね」


 昊斗そらとたちが見据える先に佇む氷塊の像に、幾筋もの亀裂が走る。

 その間から漏れる力に、かすかだが創造神の力が混ざって感じる。


「ちっ!とうとう奪った創造神の力も持ち出してきたか!」

「時間がないね。今すぐ本体を探すから、昊斗そらと君!少しの間、時間を稼いで!!」

「分かった!頼むぜ、冬華とうか!」


 冬華とうかが意識を集中し始めたと同時に、氷が砕け炎却の衣が姿を現す。


グワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


 怒りの咆哮を上げ、その双眸が昊斗そらとたちを捉える。


「おい、木偶の坊!お前の相手は、この俺だ!!」

 昊斗そらとの手に、再び二十メートルもの長さの斬艦剣が握られ、激しい攻防が始まる。


 冬華とうかは、自身の意識を最大まで拡大し、炎却の衣を見つめる。


 膨大なエネルギーの塊の中から、カグツチ本体を探し出す。

 それは、簡単なようで実に難しい作業だ。


 エネルギ源が、カグツチ本体だけでなく、マグマからも得ている為、本体が力の渦の中に埋没しているのか、反応が感じられないのだ。


 だが、今の冬華とうかは情報生命体である金糸雀カナリアと融合することで、あらゆる存在を凌駕する思考速度と演算能力を獲得している。

 そして、彼女はルールーからカグツチ本来の気配を”教えて”貰っている。


 彼女にとって本体を探すなど、一瞬の作業でしかなかった。


「居た!」

 炎却の衣の中に、カグツチ本体の反応を見つけた冬華とうかは、すぐに術式を選択する。


「ちょっと痛いけど、我慢してね!・・・聖なる釘鎖ホーリー・チェーンネイル!」


 展開した紋章から、代理神のみを拘束する大きな釘のついたいくつもの鎖が、炎却の衣へと突入し、手応えが戻ってきた。

 冬華とうかは、鎖がカグツチにかかったことを確認すると、なんと炎の巨人から引っ張り出そうと、紋章ごと鎖を引き始めたのだ。

「っっっ!!・・・・お願い、出てきて・・・・・!」


 ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 悲鳴を上げる巨人が、自分に刺さる鎖を持ち、冬華とうかと引き合い始めた。


冬華とうか!!」

 玉露ぎょくろと融合したことで、昊斗そらとは瞬時に状況を判断し、最良の行動を導き出す。


 炎却の衣の背後へ周り、本体がいる反対側に昊斗そらとは陣取る。


 手の中から斬艦剣が消え、昊斗そらとは腰を落とし、拳を握った。


「・・・・痛いことが大嫌いなルールーだって、お前を助けたい一身で痛みを我慢したんだ。お前も、ちょっとぐらい痛いの我慢しろよ?」

 高密度の力を限界まで圧縮し、拳全体に纏わせる。


「歯ぁ、食いしばれぇ!!!!」

 昊斗そらとの掛け声と共に、衝撃波を伴う強烈な一撃を背後に受けた巨人の体が、大きく海老反る。


「もういっちょ!!」

 逆の拳に、先ほどと同等の力を纏わせ、二撃目を背中に叩き込む。 

 

 衝撃に堪えられなくなり、鎖から手を離す炎却の衣。


「!!今だ!」

 巨人が手を離したのを確認した冬華とうかが、一気に鎖を引く。


 すると、巨人の中から光の玉が吐き出され、フェリシアたちの近くへ落下し、地面に激突する。


 グギャアアアアアアアアアアアアアアア!!


 本体を失い、絶叫する炎却の衣。

 だが、エネルギー源の本体とは別に、マグマからのエネルギー供給が続いている為か、消滅することなく一層激しく暴れ始めた。


「たく!往生際が悪い!」

昊斗そらと君、離れて」

 冬華とうかの声に、昊斗そらとは背中に寒気を感じ、炎却の衣から全速力で離れる。


「君が悪くないのは分かるけど・・・・でも、ルーちゃんを泣かせた責任は、取ってもらうから」


 冷たく言い放つ冬華とうかの後ろに、幾重もの紋章が浮かぶ。


全てを喰らいし者(オール・イーター)


 炎却の衣の中心に黒い点が発生し、一気に膨張して炎却の衣と火口の一部を飲み込む。

 膨張は数秒で収まり、黒い点が消え去ると、そこに猛威を振るった自動防衛機構の姿はなく、火口の形が歪なものへと変わっていた。



「・・・うん、さすがにもう再生はしないよね?」


 冬華とうかと、遠くに離れ戻ってきた昊斗そらとが火口を覗き込むと、炎却の衣の残骸がマグマの中へと落ち、混ざり合っていく所だった。

 衣が再生しないことを確認した冬華とうかは、「ちょっとは気が晴れたかな」と背伸びをする。


 そんな彼女の姿を見て昊斗そらとは、大きくため息をつき頭を掻く。


「相変わらず、容赦ないな」

「そう?昊斗そらと君だって、似たような時あるけど?」

 否定はしないが・・・・、と言った面持ちで押し黙る昊斗そらと


「それよりも、フェリちゃんたちのことが心配だから急いで戻ろう。近くに落下したカグツチの事も気になるし」

 カグツチがフェリシアたちの近くに落ちて、そう時間は経っていないが、もう動けるぐらいにはなっているのではないかと、冬華とうかは考えていた。

「そうだな。用心のため、融合状態は解かずに行くか」


 二人はフェリシアたちと、彼女たちの近くに落ちたカグツチを心配し、未だ土煙が立ち上がる落下地点へと飛んでいくのだった。

 


 次回更新は、2月8日(土)PM11:00前後を予定しています。


 変更の際は、活動報告にてお知らせします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ