(6) 罰当たり
霊峰を管理する社の巫女を、殺した女を拘束した昊斗たちは、外で待っているフェリシアとルールーに状況を説明していた。
「では今現在、霊峰で何かが行われている、ということですか?」
フェリシアの疑問に、冬華は首を傾げながら口を開いた。
「確証はないけど、その可能性が高いかな」
「トウカよ!グズグズしている暇はないのじゃ!今すぐ火の奴のところへ!」
ルールーは、我慢できないと今にも飛び出しそうになっている。
「・・・マダム、聞こえますか?」
二人への説明を冬華に任せ、昊斗は創神器を通信機能から、シオンの名前を選択し、連絡を入れた。
『・・・・・・・・まったく、あたしの部屋の通信球に直で連絡を入れるなんてね。お兄さんたち、もう何でもありって感じだわ』
画面に現れたシオンは、前髪をかき上げながら呆れたように、ため息をつく。
「すみません、ちょっと急ぎの用件だったので」
昊斗は、謝罪しながら手短に進行中の事態を伝えた。
『そう・・・・・・・ごめんなさいね。わざわざ連絡してもらって』
シオンの顔に影が差す。
管理をしていた巫女とは、姫巫女としてではなく、マダム・ヴァイオレットとして面識があったらしく、仕事熱心で親思いの女性だったと、悲しげに目を伏せながら昊斗に聞かせた。
「巫女殺害の犯人はこのまま自警団の詰め所に捨ててきます。それから、マダムに一つお願いが」
『何かしら?』
「霊峰の様子を調べたいので、許可をいただきたいのですが」
昊斗の申し出に、シオンはキョトンとした顔をする。
『何だ、そんなこと?改まって、あたしの確認なんて必要ないでしょ?もう許可書を発行してるんだし』
「まぁ、あくまでも形式的なものですよ」
その言葉に、シオンは怪訝な顔をしたが、すぐに「まぁ、いいわ」と元に戻った。
『それじゃ、何か判ったら、また連絡を頂戴。じゃね』
通信が切れ、シオンの姿が消えた。
とりあえず、一刻も早く旅館へ帰ろうと、犯人の女を自警団の詰め所の前に、「川で発見された女性は、私が殺しました」という看板を首に下げさせ、文字通り捨ていった昊斗。
旅館へ戻る最中、昊斗と冬華は時間が惜しいと行動を起こしていた。
「玉露、金糸雀。聞こえるか?」
歩きながら、昊斗と冬華の意識は、精神空間へと向かっていた。
「昊斗さん、我が主。どうかされたんですか?」
先に現れたのは金糸雀だった。その姿をみて、冬華が首をかしげる。
「あれ?金糸雀、陶芸でもやってたの?」
立っている金糸雀は、エプロン姿に両手が泥まみれになっていた。
「はい。ナターシャ様が、興味があるということで体験教室をやっているお店で、お皿を作っていました」
「あの子、そんな趣味があったのか。モノづくり体験に行きたいって言ってたから、イメージ的にアクセサリーみたいな小物を想像していたが」
土産物屋の店頭で、細かい細工が施されたペンダントやイアリングがお土産品として多く並んでおり、店員に聞くとミナミノ自治区やその周辺自治区では、工芸産業が盛んだと昊斗たちは聞いていた。
その関係で、多くの体験教室が行われていたので、てっきりアクセサリーを作りに行っているものと決め付けていた。
「わたしやフレミー様もそう思っていたのですけど、ナターシャ様のお話ではこの辺りの窯元は世界的にも有名なところが多いそうで、ご実家にはアルターレ護国の自治区製食器がコレクションされているそうで、大変に興味があったそうなんです」
「そうだったんだね」
「・・・・まったく、呼び出すはいいのですが、時と場合を考えていただきますか?」
金糸雀の話を聞いていると、仕事モードの玉露もやってきた。
「あ、ごめんね、玉露ちゃ・・・・ん?!」
「玉露ちゃん!?何て格好してるの!!?」
現れた玉露を見て、冬華と金糸雀は顔を真っ赤にして声を上げた。
なんと、玉露は一糸纏わぬ、生まれたままの姿で現れたのだ。
「当然でしょう、こちらはカトリーヌさんたちに付き合って、温泉めぐりをしているのですよ?こういうことは予想できると思いますが?」
「だからって、もう少し女の子として恥じらいとか持とうよ!!」
冬華の訴えに、玉露はため息を一つ漏らす。
「この面子に、今更恥じも外聞もないでしょう。別に見られて恥ずかしいとは思いませんし」
隠すどころか、腰に手を当て胸を張る玉露。
慌てる冬華たちとは対照的に、昊斗は静かだった。
「玉露・・・・」
「おや、マスター?随分と静かだと思いましたが、もしかして私の裸に欲情しました?」
少し下世話な笑みを浮かべる玉露だったが、次の瞬間後悔する羽目になった。
「・・・・・・今すぐ服を着て来い。早く!!」
恥ずかしがる素振りも無く、怒り成分一〇〇%の昊斗の怒鳴り声に、玉露がポカンとし、やってはいけない場面で、ふざけてしまったのだと気がつき、瞳を潤ませながら無言で姿を消し、浴衣を着なおして戻ってきた。
久しぶりに本気の昊斗に怒られ、落ち込む玉露を冬華と金糸雀が励ましている。
昊斗も言い過ぎたか、とも思ったがフォローを入れるのは後回しと、説明をはじめる。
「何者かが、霊峰を封鎖し、よからぬことを企てていることが判った。だが現状、情報は無いに等しい。そこで玉露と金糸雀には、霊峰に機動端末を飛ばし、情報収集を頼みたい」
「それは、構いませんが・・・ご存知の通り、私も玉露ちゃんも、私有地もしくはそれに順ずる場所には機動端末を入れられませんよ?」
「大丈夫、マダムには許可を取ってあるから。すぐに始めてくれ」
先ほどのシオンとの通話音声を再生し、二人に確認させる。
「分かりました、では後ほど」
金糸雀は、昊斗と冬華に敬礼して、精神空間から出て行った。
「・・・・・・・・・・・・・」
だが、玉露は未だに立ち直れていないのか、俯いたままだった。
「昊斗君」
冬華に脇を突付かれ、昊斗は大きく息を吐いた。
「玉露」
昊斗は、玉露の前に立ち、彼女の肩を持って抱き寄せた。
「・・・・・・・・?!そ、昊斗!?」
慌てる玉露を、気にせずに昊斗は彼女の耳元に顔を近づける。
「いつまで落ち込んでるんだ?失敗した分、名誉挽回して取り戻すんだろ?俺の知っている玉露なら、そうするはずだ。そうだろ?」
耳元で囁かれた言葉に、玉露は耳まで真っ赤にする。
「・・・・・・・当然です。そのために、私はあなたの傍にいるのですよ。マイマスター」
昊斗がゆっくり、玉露を離すと、先ほどまで落ち込んでいたのが嘘のように、彼女は仕事モードに入っていた。
「それでこそ、俺の知っている玉露だ」
昊斗の言葉を背中越しに聞き、玉露は一瞬振り返り、笑顔を浮かべ「ありがとう」と言って現実へと帰っていった。
「昊斗君のタラシ・・・・・」
「嗾けたのは冬華だったはずだが?」
「そうだけど、言わずにはいられなかったの!」
相も変わらず冬華の理不尽な言い分に、昊斗は頭を抱えながら、現実へと復帰した。
*******
昊斗たちが旅館へ一番乗りし、間を置かずに玉露や金糸雀たちが戻ってきた。
フレミーやカトリーヌたちはなぜ早めに帰ってきたのか、聞かされていなかったらしく、フェリシアが簡単に説明を始めている。
隣の部屋では、昊斗たちが早速、玉露たちの手に入れてきた情報を確認していた。
「山頂に複数の人影?」
表示されるいくつもの画像を見ながら、昊斗はその中の一枚に目を凝らした。
「はい。それと、大型の機器が幾つも持ち込まれてるみたいですね。規模や磁場、発生している周波数から推測するに、観測用の機器だと思います」
拡大されるリアルタイム映像には、火口付近で多くの人間が忙しなく動き、設置してある機器を扱っている姿が映し出されている。
「金糸雀の言うとおりですね。彼らの会話を聞く限り、何かの実験を行おうとしているようです」
玉露は、ノイズなどを取り除きクリーニングした音声を再生する。
『急げ、これ以上待たせたら、俺たちの命が無くなるぞ!』
『くそ、まだ対象の詳細位置が判明していないっていうのに・・・・』
『麓の社に潜入させてた女が捕まったって話よ。直に、ここへ様子を見に来る人間が、いるかもしれないと考えてるんでしょう、スポンサー様は』
『とにかく、十分後に”実験”開始だ!失敗したら命は無いと思えよ!』
そこで、再生が止まる。
「・・・・・・・・」
無言のまま考え込む昊斗。
「昊斗君、どう思う?」
「可能性だけを言えば、火口にいる奴らの目的は、火の神だろうな」
「やっぱり、そう思うよね・・・・ルーちゃんにはなんて言おうか?」
「伏せておくべきでしょう。下手に伝えれば、あのロリ神様は飛び出して行きかねませんし」
「わたしも、玉露ちゃんの意見に賛成です。ここは、フェリシア様たちには旅館でお待ちいただいて、我々だけで行くべきです」
金糸雀の意見に、昊斗は全員を見渡す。すると、冬華も玉露も賛成と肯いた。
「それじゃ、フェリシアたちには旅館で待つように言って、すぐに出発しよう」
「いやじゃ!なぜ、妾が付いて行ってはならんのじゃ!?」
開口一番、ルールーは拒否の言葉を言い放った。
フェリシアたちに、「とりあえず、様子を見てくるから、皆は旅館で待っていてくれ」と伝えた昊斗。
何が起きているか分からない場所へぞろぞろ皆を連れてはいけないから、と言葉を続けて、待つように促したが、ルールーだけがそれを拒否した。
「ルーちゃん、気持ちは分かるけど、ここで待ってて。安全が確認できたら、ルーちゃんも呼ぶから、ね?」
目線を合わせ、子供に言い聞かせるような口調で話す冬華。だが、ルールーは聞く耳を持たなかった。
「それでも、嫌なものは嫌じゃ!付いていく!!」
昊斗たちから何かを感じ取ったのか、一歩も引かないルールー。
「ルールー。今のお前は神の力を殆ど失い、残った力でさえ封印している状態だ。封印した力もフェリシアが傍にいなければ発揮することも出来ない。言っておくが、俺たちは万能じゃない。いざという時、手が回らない事だって考えられる。自分の身も守れないのに、お前は自分の我が侭で、フェリシアを危険な場所に連れ出す気か?」
フェリシアの名前を出され、ルールーの瞳が揺れる。
「じゃが、妾は・・・・」
「駄目なものは駄目だ。ここで大人しく待っていろ」
淡々とした昊斗の言葉にルールーは、歯を食いしばり両手でスカートの裾をギュッと握り締める。
「ソラトさん!」
見ていられなくなったフェリシアが、ルールーの肩に手を置き、昊斗を抗議するように見つめる。
「・・・・・・とにかく、先に俺たちが行って詳しい状況と安全を確かめてくる。冬華、行こう」
「・・うん」
昊斗の言葉に呼応し、玉露と金糸雀の姿が消え、お互いのパートナーの背後に守護霊のように浮かんで現れる。
冬華が転移術式を発動させ、昊斗たちは現れた紋章の中へと消えていった。
「妾は只、あ奴のことが・・・・・」
「ルーちゃん」
小さく呟くルールーを心配そうに見つめ、フェリシアは何か決意したように、顔を上げる。
「フレミー」
「は、はい!」
突然、フェリシアに声を掛けられ、どう対応していいのか分からず慌てるフレミー。
「お願いがあるの」
主であるフェリシアの表情から、何かを察したフレミーは、騎士の顔つきへと変わった。
*********
昊斗たちがルールーと揉めていた頃、霊峰ミタケの山頂では大勢の人間が作業に追われていた。
火口付近の比較的平地に、幾つものテントが設営され、中には様々な計器が並んでいる。
火口ぎりぎりには、ロケットの打ち上げ台の様な機械が設置され、作業着姿の男たちが汗を拭いながら、最終調整を行っていた。
「・・・・・・・・お嬢様、準備が全て整いました」
火口から上ってくる熱気にもブレることなく、黒の執事服に身を包み汗一つ掻かない男性が、テントの下で涼む、血のような真っ赤なドレスを着た少女に頭をたれる。
「ふん!やっとなの?本当にうすのろな奴らね!・・・・この実験が終わったら、成功しようが失敗しようが全員殺しなさい。この私の貴重な時間を無駄に浪費したのだから、命で償って貰うわ」
冷酷な言葉に、執事は眉一つ動かすことなく再び一礼する。
「畏まりました。そのように手配します」
下がっていく執事に視線を動かすことなく、少女は手にしたグラスの中身を一気に煽り、そのままグラスを地面へと投げ捨てた。
「始めなさい!!」
少女の声と共に、白衣を着た者たちが一斉に作業に取り掛かる。
「目標の位置を確認。誤差、コンマ三.二!」
「アンカー射出!」
ガス銃の様な空気が抜ける音が聞こえ、火口内にアンカー付きのワイヤーが落ちていく。
「アンカー降下中・・・・・・目標位置に到着!」
「続いてV.Gを射出!」
ワイヤーに沿って、箱型の物体が降下していく。
「射出確認!」
「V.G、指定位置に到着。固定します!」
作業が順調に進む中、全員は固唾を飲む。
「システムの最終確認完了。いつでも起動できます!」
「目標移動!V.Gとの距離が縮まります!」
「十分に引き付けろ!・・・・・・・V.Gシステム起動!!」
「起動!!」
作業員の一人が、ボタンを押す。
「起動確認!目標との同調、開始しました!」
「データ収集!一つも取り洩らすなよ!!」
モニターの前にいる作業員たちは、送られてくるデータに笑みをこぼしている。
「目標、システムとの同調を確認・・・こちらの支配下に入りました・・・・・・成功です!!」
その言葉に、歓喜の声が上がる。
「おめでとうございます、お嬢様」
責任者と思われる年配の男が恭しく頭を下げ、作業員たちからは拍手が起こる。
「これで、”火の神”は私の物になったのね?」
「その通りでございます」
その言葉に、少女の顔が狂気を孕んだ笑みに彩られる。
「これで、あの女を見返せるわ・・・さぁ、私のお人形さん、ここへ来なさい!」
だが、突然計器からアラーム音が鳴り響く。
何事かと、全員が持ち場に戻り、状況把握に努めだす。
「何?どうしたの!?」
一人取り残される形となった少女は、不満が爆発し声を荒げる。
「・・・・・・・大変です、システム消滅・・・火の神の意識が、ブラックアウトしました。制御不能!!」
作業員の叫びと共に、山が震えた。
ご提案を頂きまして、今回からあとがきに更新予定を載せることにしました。
次回更新ですが、1月31日(金)を予定しています。
時間は、PM11時前後になると思います。
変更がある場合は、活動報告にてお知らせします。




