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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
火の神 邂逅 編
62/180

(5) 不機嫌なルールー

 温泉旅 二日目。

 

 昊斗そらとたちは、三つのチームに分かれて、思い思いの場所へと出かけていった。


 カトリーヌとシャンテ、そして玉露ぎょくろは温泉めぐりへ。

 フレミーとナターシャ、そして金糸雀カナリアは、モノづくり体験。


 そして、昊斗そらと冬華とうか、フェリシアとルールーは散策に出ていた。


「ソラトよ。火の奴の所へはいつ行くのじゃ?」

 昊斗そらとと手を繋いでいたルールーが見上げている。 

「へ?火の奴?・・・・あぁ、火の神カグツチの所か?そうだな、一応明日の予定にしているぞ」

「明日?あの巫女の長が寄越した紙っきれがあるのに、すぐに行けんのか?」

 何処か棘のある言い方のルールーに、昊斗そらとは怪訝な顔をする。


「マダムに言われてるんだよ。霊峰に行く場合、前日にこの温泉街にいる巫女さんに一言断ってからにしてくれって。昨日行ってみたけど、責任者の巫女さんは留守だったみたいでな。今日、これから改めて顔を出すつもりだ」

 昊斗そらとの説明に、「やはり、人間とは面倒じゃ」と言ったきり、ふくれっ面で黙り込むルールー。


「ルーちゃん、昨日から様子がおかしくないですか?」

 昊斗そらとたちの後ろを歩くフェリシアが、横に並ぶ冬華とうかに小声で話しかける。

「そうだね。たしかに、温泉から上がった頃から、妙に大人しかったけど・・・・」

 温泉から上がったルールーは、入る際とは真逆に静かだった。

 夕飯の時も、人一倍食べる彼女が、料理を半分食べた時点で箸を置いた為、周囲は大いに心配した。


「おや?お嬢ちゃん、何ブスくれてんだい?」

 重苦しい空気の中、街を見て回っていると、店先で威勢よく呼び込みそしていた中年の女性が、ルールーに声を掛けてきた。


「なんじゃ?妾は今、虫の居所が悪いのじゃ。声を掛けるな」

 不機嫌に言葉を吐き捨てるルールー。

 女性はルールーの態度に目を丸くしたが、すぐに破顔する。


「おやおや、お転婆な子だねぇ。ほら!これでも食べて機嫌をなおしな」

 そう言って、女性は店先で蒸かしていた饅頭を、ルールーの前へ差し出す。

「・・・・・・・」

 差し出された饅頭に視線を落とし、凝視するルールー。

「うちの饅頭はね、温泉街一って言われてる一品なんだ、ほら」

「・・・・!いっいらんわ!」

 ハッと、女性の好意にソッポを向くルールーだったが


 くぅ~・・・・

 

 と、ルールーのお腹から、可愛らしい虫の音が鳴る。

「なっ、ち、違うのじゃ!今のは・・・・」

 まさか、このタイミングで鳴るとは思わなかったルールーは、アタフタとする。


「あっはっはっは!たしかに、虫の居所が悪かったみたいだね!ほら、子供が無理するんじゃないよ、さぁお食べ!」

 豪快に笑う女性から、饅頭を受け取ったルールーは渋々かぶりつく。


「!!」

 一口食べ、ルールーは一息に饅頭を食べてしまった。


「何だい、がっついて。そんなにお腹が空いてたのかい?そいつはおばちゃんのおごりだよ。もっと食べたいなら、お父さんにおねだりしな」

 お父さんにおねだり、と言う言葉と昊斗そらとへ向かう女性の視線にルールーは、ものすごい勢いで昊斗そらとを見上げる。

「?!・・・・分かった。その代り、三つまでだぞ」

 ルールーの反応にたじろぎながらも、昊斗そらとはため息をつきながら、財布を取り出した。


「まいどあり!」

 女性から饅頭の入った袋を受け取り、先ほどまでの不機嫌さは何処へ行ったのか、ホクホク顔のルールーは、早速袋から一つ取り出し、出来立ての饅頭を食べ始めた。


「良かった・・・・・ルーちゃん、朝何も食べてなかったから心配したんですよ?」

 昨日からどう声を掛ければいいか分からなかったフェリシアは、安堵の表情を浮かべる。

「ルーちゃん、やっと機嫌が直ったね」

 ルールーの頭を撫でながら、冬華とうかも笑みを浮かべている。

「えぅ?・・・・・!?」

 食べ物に釣られて(というよりルールーが勝手に釣られた)怒りを忘れていたのか、ルールーが驚いて饅頭を落としそうになり、昊斗そらとは彼女を支えながら、話を聞こうと少し先のお店に視線を向けた。

  

「ルールー、何で不機嫌だったんだ?」

「・・・妾にもよく分からんのじゃが、昨日入ったオンセンの湯から、火の奴の気配がほんの少し混じっているのに気が付いての。それからと言うもの、無性にこう・・・胸のあたりがモヤモヤとして、変なのじゃ」


 立ち話もなんだ、と言うことで小さな茶屋の入り、どうしてルールーが不機嫌だったのか?本人に聞き取り調査が行われた。

 彼女の説明では、温泉に入ってから無性に胸のあたりがモヤモヤとして、食べ物が喉を通らなかったと言う。


「病気か、何かでしょうか?」

 もしかして、と心配するフェリシアに、冬華とうかは首を横に振る。

「それはないと思うんだけどね。まず人間がかかる病気にはならないし、精霊特有の病気があったとしても、ルーちゃんは厳密には”精霊”じゃないし・・・・・ん~、どっちかと言えば、身体よりも心の原因かも」

「どういうことじゃ?」

 ルールー自身、自分の事なのに原因が分からないため、どうすればいいか対処を思いつかず、他人に相談しようという考えも浮かばなかった。

 冬華とうかは、「そういう時は、私かフェリちゃんに相談したらいいよ」と言い、言葉を続ける。

「ルーちゃん、火の神と会うのってどのくらい振り?」

 冬華とうかの問いに、ルールーは腕を組んで考え込む。


「あ奴と最後に顔を合わせたのは、世界に降りる直前じゃな。それ以来会ってはおらん」

「なるほど・・・多分だけど、緊張してるんじゃないかな?」

「緊張・・・・ですか?」

 神様が緊張するなんて想像も出来ないフェリシアは、首を傾げる。

「うん。久しぶりに親しかった友達と再会するみたい、って言えばいいのかな?ルーちゃん、火の神と久しぶりに会うのが、少し怖くて緊張して、気持ちがいっぱいいっぱいだったんだよ。今のルーちゃんは、人の中で様々な経験をし始めて、気持ちに変化が起き始めている段階だから、うまく気持ちがコントロールできなかったんだと思う」

「そうなのか?・・・・・妾には、よう分からん」

 冬華とうかの説明を受けても、やはり気持ちと言うものを理解できず、ルールーの表情が沈む。

「大丈夫、少しずつ慣れて行けばいいから」

「そうですよルーちゃん!私もついてますから!!」

 フェリシアがルールーの手を握る。


 彼女の手のぬくもりは、数か月前の”あの時”と何も変わりがなく、その事にルール-は胸の奥がほんの少し暖かくなるの感じた。


「フェリシアは、本当に凄いの・・・・」

「?どうかしましたか、ルーちゃん?」

 ルールーの声が聞き取れなかったフェリシアが、顔を近付ける。


「何でもない!ん~~!何を、バカバカしく考え込んでいたのかの、妾は!なんじゃ、安心したらお腹が空いたのじゃ!」

 恥ずかしがりながらも、いつもの調子を取り戻したルールーが、茶屋のお品書きを見始める。


 そんなルールーの姿を、フェリシアは嬉しそうに見つめ、昊斗そらと冬華とうかは、苦笑しながら店員を呼んでいた。



「お腹一杯じゃ!」

 満足満足と、満面の笑みで歩くルールー。


「・・・・・今度から、ルールーを断食させちゃいけないな」

「そうだね」

 そんなルールーの後姿に、呆れかえった昊斗そらと冬華とうかの二人はため息をつく。

「あの、本当によかったのですか?お支払いの事・・・・」

 申し訳ない、と身体を小さくするフェリシア。


 本調子を取り戻したルールーは、茶屋にあった在庫全てを食べ尽くした。

 「いい加減にしてくれ!」と泣きの入った茶屋の主人に謝りながら、代金を支払った昊斗そらとたちは逃げるように店を後にした。


「おいおいフェリ、忘れたのか?”義妹”に、支払なんてさせるわけないだろ?それに、お金の事は心配しなくていいぞ」

 昊斗そらとの言葉に、フェリシアは現在の自分の立場を思い出す。

「そうだよ、フェリちゃん。”妹”がそんなこと気にしちゃダメだよ?こういうことは、お姉ちゃんたちに任せなさい!」

「・・・はい、お姉ちゃん。それに、お義兄さん」

 

「ん?なんじゃあれは?」

 三人のやり取りを後ろに見ながら、前を歩いていたルールーが、立ち止まって横を流れる川の方を指さしていた。


 昊斗そらとたちが視線を移すと、道を塞ぐほどの人だかりが出来ている。

「何か、あったのでしょうか?」

「三人はここで待ってろ」

 そう言って、昊斗そらと冬華とうかたちを残して、人だかりへと近づく。


「・・・・あの、何かあったんですか?」

 どうやっても、人だかりの先の様子を窺い知ることが出来なかった昊斗そらとは一人、野次馬に声を掛けた。


「あ?あぁ、なんでも川の底から死体が上がったそうだぞ。どこの誰か分からなくするために、顔がグチャグチャに潰されてるって話だ。しかも身体つきから若い女らしくてな、可哀想に発見された時は、全裸だって言うし・・・・ムゴいことをする奴もいるもんだ」

 野次馬に礼を言い、昊斗そらとは人だかりからを離れ冬華とうかたちの所へ戻ってきた。


「なんだったの?」

「若い女性が殺されていたそうだ。しかも、人物を特定できないように顔を潰して、裸で遺棄されたみたいだな」

「酷い・・・・・・」

 フェリシアは、嫌悪感を露わにし口に手を当てる。


「厄介ごとに巻き込まれないように、早く用事を済ませて旅館に戻ろう。玉露ぎょくろ金糸雀カナリアにも連絡して、早く帰ってくるように言わないとな」


 フェリシアの正体を隠し、お忍びで温泉街に来ている昊斗そらとたちにとって、厄介ごとは避けるべき事象だ。こう言う場合、早々に旅館へ引き上げた方が安全なので、昊斗そらとたちは玉露ぎょくろたちに連絡を入れながら、霊峰を管理している巫女たちが常駐している社へと向かった。


「さて、今日はいてくれよ・・・・ごめんください」

「はい、どちら様でしょうか?」

 社から、一人の若い巫女が現れる。

 その服装は、聖都で見慣れた巫女たちのモノより少し色味のある装飾が施されており、彼女が普通の巫女より上の地位に居ることを現していた。


「すみません、責任者の方ですか?実は、霊峰への入山のことでお話が・・・・」

「申し訳ありませんが現在、霊峰への立ち入りは固くお断りしております」

 昊斗そらとが言い終わる前に、巫女は拒否の言葉を言い放つ。


「え?・・・・あの、聖都の賢人様から許可状をいただいているのですが・・・・」

 驚いた冬華とうかが、シオンから貰った(姫巫女が許可したと言うことでは、いらぬ波風が立つ可能性があるので、文面上では賢人になったマーナの名で発行されている)霊峰ミタケへの許可状を出そうとする。

「どなたであれ、入山は許可できません。お引き取りを」

 取りつく島もなく、昊斗そらとたちは責任者の巫女に拒絶されてしまった。


「・・・分かりました、もう一度確認して出直しましょう・・・・・あ、もう一つよろしいですか?」

 巫女に咬みつきそうになっているルールーを押さえつつ、素直に立ち去ろうとした昊斗そらとは、人差し指を立てて振り返る。

「なんでしょうか?」

「いえ、アルターレ護国の巫女である貴女から、どうして精霊の気配(・・・・・)がするんでしょうか?」

「え?」

「・・・・アルターレ護国の決まりでは、巫女は精霊と契約できないことになっているんだ。こう言ってはなんだが、もう少し下調べをしておくべきだったな?」

 笑みを浮かべ、挑発的な言い方をする昊斗そらと

 巫女から殺気が爆発し、その魔の手がフェリシアに伸びる。


「?!」

 だが、寸での所で巫女の身体が光の鎖によってガチガチに拘束される。


「ダメだよ、この程度の揺さ振りで地を出しちゃ」

 マスクド・フォームで使う機械式の杖を握る冬華とうか

 反対の手には、効果を発揮したカードが薄らと消えかけていた。


「ナイス冬華とうか・・・しかし、なんで亀甲縛り?」

 昊斗そらとの指摘通り、巫女を拘束している鎖の縛り方は、所謂その筋ではスタンダードな亀甲縛りと言うものだった。

 神聖な巫女装束を纏う女性に、この縛り方は背徳感が滲み出てしまい、教育上よろしくはなかった。

「あ、ごめん。これ、玉露ぎょくろちゃんが試しにって作ったやつだ」

 

 何に試すつもりだったかを製作者(玉露)を後でとっちめないと、と決意する昊斗そらとはフェリシアたちに振り向く。

「フェリとルールーは、俺たちが呼ぶまで外で待っててくれ」

「すぐ済むと思うから、ちょっと待っててね」

 笑顔の二人が逆に怖いと感じたフェリシアが、固唾を呑む。


「・・・・・あの、あまりやりすぎないでくださいね」

 同じような状況を何度も経験したフェリシアは、「下手に止めるより昊斗そらとたちの気の済むようにしてもらった方が結果的にいい」、と学習したようで、それだけ言ってルールーの手を引いて社の外へ出て行った。


 もしもの為、フェリシアとルールーに防御結界を施した冬華とうかは、今居る玄関スペースのみを空間隔離し、邪魔者が入って来れないようにする。


「準備OKだよ」

「よし!さてと・・・・・ん?」

 拘束した巫女に視線を落とすと、顔を真っ赤黒くなり、彼女の身体は小刻みに痙攣していた。


「舌を噛み切ったな・・・たく、冬華とうか

「はいはい」

 冬華とうか取り出した創神器ディバイスから、カードを数枚出現させ、一枚を巫女へと放る。

 杖の先端でカードを突き刺すと光が溢れだし、女性へと降り注ぐ。


「?!・・・そ、そんな!?」

 噛み切った筈の舌が元に戻り、女性は驚愕した表情で昊斗そらとたちを見上げる。

「簡単に死なせるはずないでしょ?あぁ、歯に仕込んだ毒を使ってもいいけど、即効性の毒であろうと、私なら無害化出来るからね」

 笑顔の冬華とうかを見て、女性は言い知れぬ不快感を感じ始めた。


「君に残された選択肢はただ一つ・・・・俺たちに洗いざらい全部話すことだ。全てを聞き終わるまでは、どんな手を使っても死なせないし、殺してもやらない」

 昊斗そらとの宣言に、女性は睨みつけてくる。


「プロの人みたいだね・・・・拷問の痛みには慣れてるのかな?う~ん、なら別の方向で攻めてみようか?こういう人って、意外に”快感”に弱いんだよね」

 何か思いついたのか、冬華とうかが楽しそうにクスクスと笑い始める。

「さて、覚悟はできたか?」

 昊斗そらとも、どこか楽しそうに笑みを浮かべる。


「あ・・・ああ・・・・」

 人の形をした何か。女性は、楽しそうに立つ目の前の二人をそう幻視してしまった。


 そして彼女は長い”職歴”の中で、初めて形容しがたい恐怖を覚え、悲鳴を上げた。


 十分後。


「も、もう・・・無理っふぁあ!!!!」


 さっきまで恐怖で歪んでいた女性の顔は、今では恍惚の表情へと変わっていた。


「・・・・あんたが知っていることは、これで全部か?」

 昊斗そらとの問いかけに、女性は激しくうなずく。

「はっはい!これで全部です!!全部話しました!!・・ですからお願いです、もう我慢できないです。だから、さわっ・・・!!」

 縋るような目で昊斗そらとを見る女性を、昊斗そらとは首を打ち気絶させる。


「・・・・・チョットやり過ぎたかな?なんか、変な性癖に目覚めさせちゃったみたいだけど」

 あはは、と乾いた笑いをする冬華とうか

「これまで何人もの人の命を奪っているんだ。償う罰としては、まだ軽いだろう?」 

 立ち上がりながら、昊斗そらとは首を鳴らす。


 拘束した女性は、別の国で暗殺など、裏の仕事を長年していたのだと説明した。


 それなりに名が知れ渡った彼女に一週間ほど前、依頼を受けてこのミナミノ自治区へやってきた女性は、霊峰ミタケを管理する巫女に成りすますよう言われ、依頼完了までの間、霊峰へ入山しようとするものを追い払うのが仕事だった。

 本物の巫女は、顔を判別できないほど損壊して捨てたと話した。

 依頼は、いくつもの人間を経ていた為、大元の依頼主は分からないということだった。


「さっき見つかった遺体。ここの巫女さんだったんだね」

 気絶している女性の話を信じれば、川で見つかった顔無し遺体は、この社を管理する巫女だった。

「あぁ。とりあえず、必要な情報は手に入った。彼女は役所へ突き出して、マダムへ連絡入れないとな」

 管理の巫女が死んだことを、自分たちの方からシオンへ報告を上げた方がいいと、昊斗そらとは判断した。

「うん。それにしても、彼女に依頼したって人物。何が目的なんだろ?」

「他人に見られたくないことを、霊峰でやってるんだろうな」

「だよね」

 嫌な方向に状況が向かっていることを示唆する証拠の数々に、二人は頭痛を感じる。

 冬華とうかは空間隔離を解き、杖を創神器ディバイスへとなおす。


「一つ分かったことは、また波乱が起きてるってことだ」

玉露ぎょくろちゃんとかは、嫌な顔をしそうだね」


 気絶した女性を担いだ昊斗そらと冬華とうかは、外で待っているフェリシアたちにどう説明するかな、と思案しながら社を後にするのだった。

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