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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
木漏れ日の森の出会い 編
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(4) 木漏れ日の森の主《ぬし》

「な、なに??今の・・・」

「・・・外からだよな?」


ドラグレアの作る昼食を待っていた昊斗そらと冬華とうかだったが、突然外から聞こえた轟音と揺れに驚き、小屋から飛び出した。



「あ!ソラトさん、トーカさん!ただいま帰りました~!」

 外には、森の奥から帰ってきたフェリシアが満面の笑顔で大きく手を振って昊斗たちを迎えた。

「・・・・・・」「・・・・・・・」


 だが、昊斗そらと冬華とうかは、そんな輝くような笑顔のフェリシアを視界に捉えていなかった。二人の視線は彼女の後ろに注がれていた。


 そこには、目を疑いたくなるものが”座って”いたのだ。

「くま・・・・のぬいぐるみ?」

「うん・・・・ぬいぐるみ、だよね」

 それが昊斗そらと冬華とうかの感想だった。


 フェリシアの後ろにいたのは、見たままを伝えるならゆるい感じで座ったパッチワーク生地の”デカい”くまのぬいぐるみ。座った状態でも四メートルはあり、立ち上がれば目算で七メートルはありそうだった。


【オオキレグマ】

 昊斗そらとたちが居る”木漏れ日の森”周辺に生息する生き物で、一般的には魔獣に分類されている。

 しかし、性格は温厚で子だくさん。特にメスは子供を何よりも大切にしているため、周辺の村や町では出産お守りのモチーフにもなっている。


 昊斗そらとたちが自分ではなく、後ろの”物体”に目が行っていることに気が付き、やっぱり・・・・・と思いつつも、少し悔しく思うフェリシアは、後ろのくまのぬいぐるみ(?)に頬を膨らませる。

 だが、そのくまのぬいぐるみ(?)にポンポンと背中を押され、笑顔に戻って昊斗そらと冬華とうかの下へ駆け寄った。


「フェリシアさん・・・あの、あれって」

 唖然とする二人の予想通りの反応と言葉に、うんうんとうなずくフェリシア。


「あの方は、ルーン王家の委託でこの木漏れ日の森を管理しているオオキレグマのポンタさんです!ポンタさん、こちらが先ほどお話した、昨日異世界から来られたオクゾノソラトさんとナツメトーカさんです!」


 紹介されたオオキレグマのポンタが、昊斗そらとたちに巨大な手を差し出す。


 握手を求められているのだろうか?と、昊斗そらと冬華とうかは顔を見合わせ、差し出された手を恐々触る。

 遠目にはパッチワーク生地に見えたが、実際はパッチワーク柄の毛皮だった。


 ハジメマシテ・・・・・イセカイノ、ワカモノタチ。オアイデキテ、コウエイダワ。


 突然、二人の頭の中に言葉が響いた。

「え!い、今の?!」

「こ、声が頭に響いたぞ!?」

 

 初めて見る、二人の予想通りの反応に、フェリシアは満足顔になる。


「ポンタさんは、挨拶と握手を交わした相手と、テレパシーで会話が出来るんです」

 フェリシアの言葉に、昊斗そらと冬華とうかの視線がポンタへと注がれる。

「なら、さっきの声は」

 エエ・・・ワタシノ、コエヨ。


 大きな頭が、ゆっくりと縦に動く。


 聞き取りづらい部分もあるが、ポンタの言葉は人間のそれと変わらなかった。


「おー、もう終わったのか?早かったなー、こりゃ記録更新したな」

 庵の中から何故か板前姿のドラグレアが、包丁片手に出てきた。


「あんたもいい歳なんだ、そろそろ一番上の子供たちに仕事を引き継いだらどうだ?」

 ドラグレアがごく当たり前にポンタに声を掛ける。


 バカ、イワナイデ、チョウダイ。アノコ、タチジャ、マダニガ、オモイワ。

 大木の様な腕を組んで、憤然とするポンタに、ドラグレアは盛大にため息をつく。

「相変わらず、頑固で子供に甘いな」

 アタリ、マエヨ。ワタシハ、ハハオヤ、ナンダカラ。

 組んでいた腕を腰に当て、胸を張るポンタ。

 その姿に、昊斗そらと冬華とうかはポンタに、肝っ玉母ちゃんのイメージを幻視する。

 そんな二人の話を横で聞きながら、昊斗そらと冬華とうかは、フェリシアからポンタのことを聞かされていた。


「この辺りで昔、人を襲うオオキレグマの噂が出たんです。当時、王子だった私の祖父、ジェラードは武者修行の為に諸国を旅していた際、その話しを聞きつけ調査の為やってきました。すると、たしかに、オオキレグマが人を襲っており、かなりの被害が出ていました。おじい様は森の中を探し回って見つけ出し、壮絶な戦いの末、後一太刀で止めをさせると言う所まで追い詰めました。すると、森の奥からポンタさんの子供たちが駆けつけてポンタさんを庇ったそうです。そんな姿を見たおじい様は、ポンタさんに人を襲う理由を聞いたそうです」


(聞いたって、いきなり?)

(というか、聞いたら答えてもらえると思えるのが凄いな)

 その辺りの感覚がいまいち理解できず、小声で話しなから首をかしげる地球人二人。だが、語り部になりきったように、熱の篭ったしゃべりをするフェリシアには、二人の様子は映っていなかった。


「ポンタさんは涙を流しながら、おじい様に訴えました。『ここ最近、人間たちが森へ入ってきては私の子供たちを連れ去っていくのです。七頭いた子供はここにいる三頭だけとなりました。本当は、私も人間を傷つけたくは無いが、子供たちを守る為には、仕方が無いんです』と。話を聞いたおじい様は、城へ戻ると情報を集めました。すると、一部の貴族の間でオオキレグマの子供の肝には若返りの効果がある、という噂は広まっており、高値で取引されていることを知りました。そのことを知ったおじい様は激怒し、仲間と共に執念で噂を広めた犯人を探し出しました。その後、肝には若返りの効果は無いという情報が広まり、密猟は無くなっていきました・・・・・」


 目じりに溜まった涙を拭うフェリシア。そんな姿を見て昊斗そらとは思った。――彼女はこの話が物凄く好きなんだな、と。


「その後、仲良くなったおじい様とポンタさんは交流を重ね、国王となったおじい様はポンタさんを木漏れ日の森の管理者として任命したんです。そして、戦った際に感じた強さを見込んで、王家の子が受ける試練を監督する試験官にも抜擢したんですよ」


 ポンタの方へ視線を動かす昊斗たち。今も、ドラグレアと雑談に興じるポンタ。だが、フェリシアの話しを聞いたせいなのだろうか、二人はほんの少しポンタを見る目が変わった気がした。


「じゃあ、フェリシアさんが言っていた用事って」

「そうですよ、ポンタさんの試練を受けていました。ポンタさんと戦って実力を認めてもらうって試練を」


 一体、あんな巨体の相手とどんな方法で戦ったのか気になった昊斗だが、「内緒ですから」とフェリシアに釘を刺された。


「・・・・・そういうことにしておいてやる。さて、フェリシアは合格でいいんだな?」

 エエ・・・モンクノ、ツケヨウガ、ナイワ。


 ドラグレアの問いに、ポンタは巨大な頭をコクっと下げ肯定した。

「よし!では責任者ドラグレアの名において今一度問う!監督官ポンタ。貴殿は、受験者フェリシアを認めるか?」


 オウジョサマノ、ゴウカクヲ、ミトメルワ。

 再び、巨大な頭が肯く。


「ではここに、ルーン王国第一王女フェリシア・アルバーナ・ルーンの試練第二段階の終了を宣言する!」

 高らかに宣言するドラグレアだが、板前姿で包丁を持っているために締りの無い宣言となってしまった。


「よし!昼飯は豪華に行くか!フェリシアの祝いだ!あんたも食べて行けよ、なんなら子供たちも呼んでもらってもいいぞ」


 ソウネ。チョウド、キタミタイ、ダシネ。

 ポンタが振り向くと、後ろの茂みが動き、そこからまんま小さなぬいぐるみが数頭出てきた。


「もしかして、ポンタさんの子供ですか?!」

 出てきた子グマに、フェリシアは目を輝かせてポンタを見つめる。

 コトシウマレタ、コドモデスヨ。オウジョサマ、ヨカッタラ、ダイテアゲテ、クダサイ。


 ポンタの言葉に、フェリシアは黄色い悲鳴を上げて駆け寄る。

 さすがはポンタの子供。初めて見た人間に臆することなく近づき、フェリシアが出した手にすり寄る。


 アナタモ、アソンデ、アゲテ。

「い、いいんですか?!」

 

 ポンタの子供たちと戯れるフェリシアを、羨ましそうに見ていた冬華とうかが、目を輝かせる。

 この時、冬華とうかには、ポンタが慈愛に満ちた母親の顔をしているように見えた。


 うなずくポンタに見送られ、冬華とうかは驚かせまいと、フェリシアから離れていた一頭にゆっくりと近づき、しゃがみ込む。

 気が付いた子供が、やはり臆することなく冬華とうかに近づき、彼女の出した手にじゃれ付く。

 

 冬華とうかは、そのまま抱き上げ自分の顔に近づけると、ポンタの子供が自分の鼻を冬華とうかの鼻にすり合わせた。

「!!!!!!!!!!」

 その動作が可愛かったのだろう、冬華とうかは抱き上げた子供を、苦しがらない程度に抱きしめた。


「どうやら、退屈せずに待っていられそうだな」


 冬華とうかとフェリシアを見ながら、ドラグレアは手にした包丁を肩に担ぎ、小屋の中へきびすを返す。


 ボウヤガ、ドンナリョウリヲ、ツクルカ・・・・・タノシミニ、シテイルワ。 

 まるで、知り合いの子供の成長を確める様なポンタに、ドラグレアは顔をしかめた。

「・・・だから、坊やって呼ぶのやめろって」


 長い間変わらない呼び方に、恥ずかしい思いをしながら中年男ドラグレアは足早に入っていった。


 そんな背中を見送る昊斗そらとが、再び冬華とうかたちへ視線を移した。


 やはり、美少女二人がぬいぐるみに見えるオオキレグマの子供と戯れる光景は、絵になった。

 そんな光景に見とれていた昊斗そらとに、ポンタが声を掛けた。

 アナタハ、イイノ?

「さすがに、あの中に入っていく勇気はないですよ」

 あははは、と乾いた笑いが漏れる昊斗を、ポンタが真剣(?)な眼差しで見つめていた。


「あの・・・どうかしましたか?」


 何となく怖い顔をして見られている気がして、昊斗そらとは自分から声をかける。


 ・・・・アナタモ、カノジョモ、フシギナクウキヲ、マトッテ、イルワネ。

 子供と遊んでいる冬華とうか昊斗そらとを交互に見ながら、ポンタは腕を顔に当てて、考え込むような仕草をする。

「あー、一応異世界からきた人間ですから」

 そんなポンタに、昊斗そらとは肩を竦める。

 ソウイウイミデ、イッタンジャ、ナインダケド・・・・

「え?」


 最後の方が聞き取れず、昊斗そらとが聞き返したが、彼女はそのまま口をつぐんでしまい、昊斗そらとは仕方なく冬華とうかたちの方へ視線を戻した。


―ボウヤノトキデサエ、コンナコトハ、ナカッタノニ。コノコタチハ・・・・・―


 何故かポンタの目には、昊斗そらと冬華とうかの二人それぞれのそばに、何か(・・)が立っているのが見えていた。


 それが、彼女には何かが起きる前触れに思えたのだった。

8/10 内容の一部改稿

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