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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
巫女の国 大いなる野望 編
52/180

(7) 潜入、伏魔殿

「と、いう運びになったから」

 笑顔ながら、どこまでも平坦な口調の冬華とうかの説明に、昊斗そらとは渋い顔をしていた。

『まぁ、そうなるわな・・・・・』

 昊斗そらとから出てきた感想は、この一言だった。


 約束だった夜の連絡。

 昊斗そらとから連絡する手筈だったのだが、なぜかフェリシアから連絡が入った。


 冬華とうかから、フェリシアとフレミーに順番を譲るので、先に連絡していいよ、と言われたらしく、フェリシア~フレミーと極々平和な会話が20分ほど続いた。


 そして、フレミーの次が冬華とうかだった。

 玉露ぎょくろの性格を考えれば、冬華とうかに順番を譲るのは珍しいと思った昊斗そらとだったが、話の内容を聞いて納得した。


「宿泊場所として提供された迎賓館に、悪意のある術が仕掛けられており、それがフェリシアを標的にしたものの可能性がある」と言うものだった。


 何処の誰が仕掛けたものか分からないが、それは明らかな宣戦布告、端的に言ってケンカを売られている。そう判断した冬華とうかたちは、ルーン王国関係者(マーナを含む)以外を敵認定し、逆に罠を仕掛けた。

 その罠で犯人や関係者をあぶり出しつつ、必要な情報(武器)となるピースを収集するため、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが下準備をしている真っ最中らしく、今日の三人分の時間を昊斗そらととの作戦会議に充てられた。


 実時間が経過しない、精神空間を使っての通信でもよかったのだが、それだと手の離せない玉露ぎょくろ金糸雀カナリアまで引っ張り込むことになるため、創神器ディバイスの通常通信を使っていた。

 

『それで、フェリシアにはまだ伝えてはいないんだな?』

「うん、まだだよ。フェリちゃんやフレミーさんを不安にさせてもよくないし、情報が揃ってから報告するつもり」

 初めての海外公務に、表には出していないがフェリシアは、かなりの緊張を抱えていた。近くにいる人間にはそれが伝わっているので、気を使っている。


「とりあえずは、隣にある本殿に忍び込もうと思ってる。あそこ、今現在立ち入りが制限されていて伏魔殿と化してるみたいだし、何か出てくるはず。それに・・・・・呼び出されたマーナさんも心配だから」

『は?』

「ついさっきだよ。この国のナンバー2と言える賢人って人たちに召還されたって。さすがに無視する訳にはいかないって、一人で行っちゃった」

 もちろん、マーナに許可を得て対応策は施してはいる。

 しかし、何が起こるか分からないと、忍び込むついでに様子を確認しに行こうと冬華とうかは考えていた。

『マジか?・・・・・・』

「大丈夫、私も急ぐつもり・・・・それで、昊斗そらと君の方は?」

『こっちも、ある意味でヤバいな。関所でのいざこざが激しくて、いつ人死にが出てもおかしくないぐらいだ。今は、町の商工会の有志なんかが押さえているらしいが、もう限界に近いだろうな』

「そっか・・・・・・」

『我が主、準備が整いました』

 すると、創神器ディバイスに戻っていた金糸雀カナリアから、声が掛かる。

「あ、準備が終わったみたいだから、今日はここで終わるね。何か分かったらすぐに連絡するよ」

『あぁ、こっちも色々と情報を手に入れてるから、玉露ぎょくろに送っておく。後で金糸雀カナリアと確認しておいてくれ』

「うん、分かった」

 創神器ディバイスの通信画面が消える。


「それじゃ、行ってみようか?」

『畏まりました、我が主』

 立ち上がった冬華とうかから、羽織っていた外装である白いコートが消え、黒いジャケットとスカート姿になる。

 視認性を押さえる措置は、何重にも取ってはいるため、どんな色の服でも構わないのだが、そこは潜入ということで気分で黒ずくめになる冬華とうか

玉露ぎょくろちゃん、フェリちゃんたちのことをよろしくね」

「えぇ、ご心配なく。こちらからも、お二人のサポートをしますので」

「よろしく!」

 部屋の窓を開け、外へ飛び出す冬華とうか


金糸雀カナリア、マーナさんの居場所トレースできてる?」

 とりあえず、屋根伝いにでも本殿へ侵入しようと考えていた冬華とうかは、中に居るはずのマーの位置を金糸雀カナリアに確認させる。

『はい、大丈夫です・・・・・・?!マーナ様の脈拍・呼吸数が大きく乱れています!しかも、脳波も異常な数値が!!』

「!・・・・ホントに、頭にくるよ」

 冬華とうかの顔から、表情がごっそり抜け落ちる。

 表示されたマーナの反応に、冬華とうかは見覚えがあるからだ。


金糸雀カナリア、マーナさんの所へ短距離跳躍ショートジャンプ。誰にも気づかれずに行けるよね?」

『もちろんです、我が主。ここの人間に気付かれるようなヘマは致しません』

 心強い言葉に、少しだけ笑みを浮かべ、冬華とうかの姿が消える。


**********


「さすがは、祭事巫女を歴代最長期間務めただけではある・・・・」

 巫女からはかけ離れた、頭の上からつま先まで黒ずくめの外装を羽織った女性たちが、マーナを取り囲んでいる。


 当のマーナは気を失っているらしく、簡素な造りのテーブルの上に寝かされていた。


「くっ!全員、もっと力を籠めなさい!」

 リーダーと思われる女性が全員に発破をかけた時だ。


”一体、何をしているのかな?”


「!?!?」

 何重にも張った結界によって完全な密室の部屋に、聞きなれない声が響き全員が周りを見渡す。


 入口の扉の前に、何処までも冷たい視線を女性たちに向ける冬華とうかが立っていた。


「な・・・き、貴様!どこから・・・」

「黙りなさい」

 その一言に、全員が陸に上がった魚のように喘ぎ、膝をつく。


 冬華とうかが、リーダーの女性に近づき、頭の外装を取っ払う。

 何とか呼吸をしながら、冬華とうかを睨むリーダーだったが、冬華とうかに睨み返され、完全に蛇に睨まれた蛙の様な状況になり、ガタガタと震えだす。


「で、あの人に何してたの?」

 視線だけマーナへ向ける冬華とうか

「・・・・・・・・」

 リーダーの女性は、声にならない声を漏しそうになり、唇を噛む。

「当ててあげようか?マーナさんの記憶を改ざんして、洗脳しようとしてたんでしょ?」

「!?」

 言い当てられた事に、女性は目を見開く。

「やっぱり・・・・それで、これって誰の指示?あぁ、隠してもいいけどその場合、ここに居る全員。何で一思いに殺してくれないのかって思える体験をさせてあげるよ。どっちがいい?素直に話す?」

 冬華とうかは、全員の目に見えるほどの創造神の力を纏って交渉(・・)を始めた。



「う・・・・・」

「マーナさん、大丈夫ですか?」

 気が付いたマーナが、冬華とうかに支えられゆっくりと体を起こす。

「ナツメ様・・・・?」

 冬華とうかの姿を認め、マーナの表情が見る見るうちに変わる。


「ナツメ様!!」

「落ち着いてください、マーナさん。大体のことは彼女たちから聞きました」

 力強い交渉(・・)の末、冬華とうかは黒ずくめのリーダから、マーナが賢人たちに何か反抗的な態度を取ったために、リーンとは別の巫女統括役の命でここへ送られてきた、と聞き出していた。

 マーナが視線を動かすと、その先にガタガタとお互いの身体を抱き、震えながら冬華とうかの言葉に恐怖からか、いちいち反応する女性たちがいた。


「それで、マーナさん。賢人たちに会ったとき、何があったのですか?」

 その質問に、マーナは静かに目を閉じ、そしてゆっくり目を開けた。

「・・・・・端的に言えば、あの方々は賢人ではありません」

「え?」

「あれは、完全に別人です。話をして確信しました・・・・間違いなく、今賢人と名乗っている者たちは偽物です。彼女たちから感じた波動は、私の知らないモノでした」

 マーナの知る限り、巫女が纏う波動は生涯変わることはない。

 賢人を務めている同期だった女性たちの波動を、マーナはよく覚えており、似ても似つかないもだと断言した。


「では、マーナさんが知らないうちに、交代されたという可能性は?」

「それはありえません。賢人の交代は、この国でも上位にくる一大事です。他国で働いている祭事巫女にも、緊急連絡を入れるほどにです。ですが、私が知る限りでは、そのような連絡はありませんでした」

 マーナの話を聞き、冬華とうかは思案する。


「マーナさん、巫女統括役は何人いますか?」

「え?私たちを迎えに来たリーンさんを含め、5人ですね。この本殿に詰めているのは2人だったはずです・・・どちらもどんな方か存じませんが」

「申し訳ありませんが、マーナさん。少しの間、洗脳にかかったフリをしていただけませんか?」

 驚いた顔をするマーナだったが、冬華とうかの意図を察し、笑みを浮かべる。

「・・・・構いませんよ。出来うる限り、情報を集めておけばよろしいのですね?」

 今度は冬華とうかが驚いた顔をする。

「・・・・・ごめんなさい。本当なら、このようなことをマーナさんに頼むのは、心苦しいのですが・・・」

 申し訳なさそうにする冬華とうかに、マーナが首を横に振る。

「お気になさらずに・・・・精霊召喚の儀の際、ナツメ様たちに救われたこの身。ここでお役に立てなければ、恩義を返す機会はもうないでしょう」

 その言葉を聞き、冬華とうかは目を伏せた。

「ありがとうございます」

 冬華とうかは、マーナに渡していた魔法具(カトリーヌたちに渡している物より高性能で、回数制限なし)が、正常に起動していることを確認し、部屋の隅で震える黒ずくめの女性たちへ視線を向ける。


「分かってると思うけど、此処でのことを誰かに話したらどうなるか・・・・」

 そこまで言うと、女性たちは首がもげ落ちるのでは無いかと言わんばかりに、振り続ける。


「では、行きますね」

「お気をつけてください。ナツメ様」

「はい、マーナさんも」


 入ってきた時とは違い、普通に扉から出て行く冬華とうか


「さて、どうしようか?」

 短距離跳躍で忍び込んだ冬華とうかは、現在位置を大まかにしか分かっていなかった。だが、金糸雀カナリアが様々な周波数帯を駆使し、反響を用いて即座に本殿内のマップを完成させる。


『我が主、玉露ぎょくろちゃんから連絡です。例の罠に引っかかった者が出たそうで、この本殿内に居るみたいですよ』

「ナイスタイミング!」

 玉露ぎょくろから送られてきた情報を基に、犯人の位置を特定する金糸雀カナリア


「意外に近いね・・・行ってみようか」

 獲物を狙うかのような、目つきで冬華とうかは目的地へ足を向けた。


********


「ふふ、術は正常に作動しているわね」

 40代ぐらいの女性が、机の上に広げた紋章が描かれた羊皮紙を見つめる。

 巫女統括役のリーンと同じ服装しており、彼女は現在、直接賢人たちとやり取りできる数少ない人物だった。

 自身が仕掛けた術が正常に作動していることを確認し、安堵の表情を浮かべた。

「ところがどっこい。それは擬装なんだよ?」

「な!?」

 突然、後ろから声を掛けられ、女性が振り向こうとする。


「動くな」

 その声に、女性は石のように体が硬直する。

「あなたね、迎賓館の術を仕掛けたのは」

 冬華とうかの質問に、一瞬女性の身体が反応する。

「な、なんの事かしら?・・・・そ、それより、わたくしにこのような仕打ちをして、只で済むとでも思っているの?ここで悲鳴を上げれば、貴女は捕まるのよ?」

 女性の強気な発言に、冬華とうかは鼻で笑う。

「どうぞ、ご自由に。出来るならやってみて」

 余裕のある冬華とうかの声に、女性は馬鹿にされたと感じ大声を上げた。

「だれか!!わたくしの部屋に賊が侵入している!!僧兵!!!」

 だが、どれだけ声を上げても誰かがやってくることはなかった。


「私が部屋に入った時点で、ここを空間封鎖して、外に居る人間に、この部屋から意識を遠ざける術を使ってるの・・・気が付かなかった?」

 クスクス笑う冬華とうか

 冬華とうかの言ったことを、どれ一つ感知できなかった巫女統括役の女性は、相手が自分より格上だと理解し、冷汗が流れる。 


「それから、只では済まないって言葉だけど、そっくりそのまま返してあげる。ルーン王国の王女に手を出して、只で済むと思わないことね」

「な・・・・・あの程度の術で、そのような・・・・」

 冬華とうかは、女性を振り向かせ、杖をフルスイングする。

「ぐっぎゃあああああああああ!!!!」

 顎がちぎれるのではないかと錯覚するほど、横へズレ顎の骨が砕けた。

「何?ふざけてるの?術の中身は関係ない。フェリちゃんに対し、悪意のあるトラップを仕掛けたこと自体がすでに問題なのよ?そんなことも理解できないで、よく国の中枢なんかに居られるわね?」


 上から氷山のような冷たい言葉を浴びせる冬華とうか。だが、女性は痛みでのた打ち回り、聞こえていなかった。

「いつまで痛がってるの?私の非力な力で殴られた程度で・・・・大したことないでしょ?」

「な、に、を・・・・・?!」

 女性は、自分の顎を押さえ驚愕する。グシャグシャに砕けたはずの自身の顎が、何事も無かったように綺麗に治っていたのだ。


「さて・・・・・教えて貰いましょうか?今回の件、あなたの単独犯?それとも、共犯かあなたに命令している人がいるのかな?」

「・・・・・・・・」

 女性は口を噤み、ダンマリを決め込む。

「ダンマリか・・・・・あれだけの痛みを受けて、まだそんな気力があるんだね」

 そう言って、冬華とうかの口角が吊り上る。

金糸雀カナリア、術式用意。・・・・・・2~3回死んで来れば、少しは素直になるよね?だって、言うでしょ?馬鹿は死ななきゃ治らないって」

「!?・・・・」

 冬華とうかから発せられたあり得ない言葉に、女性が冬華とうかを見ると、とてもその顔は冗談を言っているようには見えず、さらに身体からは殺気が噴き出していた。

『回復系術式を待機状態で準備・・・・・完了しました、我が主。いつでもどうぞ』

 金糸雀カナリアの報告に、冬華とうかは女性を見下す。

「さぁ、あなたは何回耐えられるかな?」



玉露ぎょくろちゃん、昊斗そらと君に連絡してくれる?とりあえず、戦争することになりそうだって。詳細は、データで送るね」

 妙に清々しい声で、連絡を入れる冬華とうか

 その足元には、髪が真っ白に変わり、70~80代の老婆のように老け込んだ巫女統括役の女性が、呻きながら倒れていた。

 もし彼女が洗脳等の処置をされていれば、冬華とうかも対応を変えていたが、自らの意志で黒幕に手を貸していたと分かり、助ける気は起きなかった。


『そうですか・・・・了解しました、マスターに伝えます』

 通信が切れ、冬華とうかは一息つく。


『我が主、どうされますか?このまま、本丸まで攻めますか?』

 金糸雀カナリアの提案に、冬華とうかは首を横に振る。

「ううん、それはフェリちゃんの役目だよ。あの子がやるべきことだから」

『そうですね・・・・』


 冬華とうかは女性を放置し、部屋の空間封鎖を解くことなく、短距離跳躍で外へ出る。

 出現したのは、最初に窓から出て着地した場所だ。

「う~ん・・・・もうすぐ朝だね。さてと、色々忙しくなりそうだね」

 背伸びをしながら、冬華とうかの頭の中では、様々な作戦が立ち上がっている。

『ですね。でも、ちゃんと寝てくださいね?我が主』

「分かってるよ~」

 冬華とうかは、足取り軽く迎賓館へと帰って行く。


 そして、この10数時間後、アルターレ護国の歴史に刻まれる大事件が、盛大に起こるのだった。 

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