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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
巫女の国 大いなる野望 編
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(6) 聖都到着

 昊斗そらとが港町”シマナミ”で、一騒動に巻き込まれていた頃、フェリシアたちを乗せた馬車の一団が、のどかな田園風景の中を進んでいた。


 そんなのどかな風景とは裏腹に、フェリシアが乗る馬車の中は不穏な空気が流れていた。

「では、”あの決まり”が出来た事に、国民どころか巫女や尼僧たちにも事前通達はなかった、と?」

 マーナの言葉に、巫女統括役のリーンが肯定する。

「その通りです。ご存じのとおり、この国には産業が少なく、生活の殆どを他国から来た商人が持ち込む品によって成り立せています。この国に出入りする商人の殆どが男性・・・・・あのような決まりは、この国を困窮させるだけなのに。賢人方は、そのことを理解されていないとしか・・・」

「け、賢人方がお決めになったのですか?!姫巫女様ではなく?!!」

 リーンの話があまりに衝撃的だったのか、マーナが大声を上げる。そんな彼女の姿を初めて見たフェリシアが驚いて、マーナを見つめる。


「は、はい。各国への通達は姫巫女様の名で行われていますが、決定及び施行指示は、賢人方が直接行いました」

「そんな・・・・今の賢人方は、たしかリーエさんにカーナさん、そしてシーズさんの三人でしたよね?あの方々と私は同期ですが、皆さん思慮深く、何より国を第一に考える方々でした。そんな方々が、このような短絡的な決定をなさるとは、到底思えません」

 落胆するマーナに、リーンは目を伏せながら重くなる口をゆっくり開く。

「それだけではありません。現在、聖都に住む民に対して、賢人方は一日の行動を定め、住民たちに強制しているのです」

「!?・・・・・・・」

 

 完全に自分の良識の範疇を越えてしまったマーナは、絶句する。


「それに対し、不満を上げる方はいないのですか?」

 成り行きを見守っていたフェリシアが疑問を口にする。

「もちろんいます。ですが賢人方は、姫巫女様に直接お仕えする役職の為か、多くの巫女にとって雲の上の存在で、おいそれと意見を言うことが出来ないのです。それでも、私のような古参の巫女や尼僧たちは疑問を感じ、直訴しようと今もお伺いを立てているのですが、未だ取り合って貰えていません。若い巫女たちは賢人方に疑問を持つことなく、従う者が多く、両者に温度差が生まれています」

「疑問を持たない?一体なぜ?」

 フェリシアの問いに、リーンは情けないといった感じで目を伏せる。

「若い巫女たちは良くも悪くも、巫女の務めしか知らないからです。祭事巫女として他国へ出て行く巫女は小数なため、大半の巫女は国内から出ることは稀なのです。そのため、考え方が偏る傾向にあり、我々の抱える問題でして・・・・』


 フェリシアたちの馬車の後ろを走る馬車の中に、フェリシアたちの会話が流れている。

「フェリちゃん、マーナさんの会話を引き継いで、うまく話を引き出してるね。それにしても、これは・・・・・思った以上に面倒なことになってるみたいね」

 考え込むように、頬に手を当て疲れたような顔をする冬華とうか

「しかし、あの巫女統括役の方、余程ストレスを抱えていたのでしょうね。このような話、部外者に話せるものではないと思いますが・・・・」

 金糸雀カナリアの言うとおり、友好国の姫とはいえ、国内の問題をフェリシアにここまで開けっ広げにするのはどうなのか?と思うのだが、重要な地位に居るため心の内を吐露することも出来ず、リーンも内に溜め込んでいた物を誰かに聞いてほしかったのだろう、と平然と盗聴している冬華とうかたちは同情するかのように聞き耳を立てていた。


 盗聴と言う状況に、最初は侍女たちから「問題では?」と声が上がったが、実行者の冬華とうかは・・・・・・

「え?フェリちゃんやマーナさんには許可取ってるよ?それに、どうせ後からフェリちゃんから馬車での会話の内容を全部聞くんだし、今聞くか後で聞くかの差だから・・・・・問題なし!」

 自信満々に言ってのける冬華とうかに、3人は呆気に取られ閉口せざるを得なかった。



「現段階で話を総合する限りでは、この国の上層部は、この上なく無能だと判断できますし・・・・・てっとり早く〆ましょうか?」

 それは、冗談ですよね?と、若い侍女が玉露ぎょくろを見て表情を引き攣らせる。 

「それは、万が一の最終手段。今はまだ情報不足だから、何が起きても対処できるよう、警戒だけしておこう」

 玉露ぎょくろに釘を刺しつつ、冬華とうかは同行する侍女3人を見る。

 

 フェリシアのお世話として同行してる侍女3人の内ベテランが2人。

 普段からアルバート城でフェリシア専属として働く、カトリーヌ・A・オーキッドとシャンテ・ヴァーノンという貴族の令嬢だ。

 二人とも25歳で、行き遅れ・・・・と言うわけではなく、フェリシアが成人するまで見届けたいと希望し嫁ぎ先に待ってもらっているらしく、このフェリシアの海外公務が最後の仕事となっていた。

 

 そして、昊斗そらとが抜けたことで、人数合わせで同行することとなった若い侍女は、ナターシャ・アリョールといい、フェリシアたちの通う学園の2年生で、フェリシアの後輩に当たり、前の二人と同様に貴族令嬢だ。

「あ、あの!」

 そんな中、ナターシャが声を上げた。

「どうかした?」

「や、やはり私が姫様に同行するのは、間違いだった気がするのですが・・・・」

 自信なさげに、言葉が尻すぼみになるナターシャに、シャンテの目つきが鋭くなる。

「何を言っているのです!今回同行している侍女の中で、家柄を考えれば私たちが同行するのが自然でしょ?もっと自信を持ちなさい!」

 カトリーヌは侯爵家の出身で、シャンテは辺境伯家の出。そして、ナターシャは伯爵家の出である。王族である以上、下手な人間を傍に置く訳にもいかないため、おのずと上流貴族が仕えることになるのだ。


「私もシャンテも、もうすぐお暇をいただき、それぞれの嫁ぎ先に行くことになります。私たちが、あなたに教えることが出来る時間は、このご公務が最後です。姫様の為、少しでも私たちから吸収できることを吸収しなさい」

「は、はい・・・・」

 叱咤激励されても、ナターシャの顔色は優れることはなく、俯いてしまう。

「大丈夫!何があっても、私たちが護るから!!」

 そう言って冬華とうかは、創神器ディバイスからペンダントを3つ取り出し、3人に手渡す。

「あの、ナツメ様。これは?」

 カトリーヌが、首を傾げて訪ねる。

「簡単に言うと、お守りです。身に着けた対象者を、あらゆる事象から3回まで無効化してくれる魔法具です。ですので、肌身離さず身に着けておいて下さい」

「よろしいのですか?このような高価なものを」

 シャンテが、恐る恐る尋ねてくる。

 ルーン王国では、異世界から入ってきた魔法具をコピーして、少数ながら独自に生産しているのだが、性能はお世辞にもいいとは言えず、特に異世界人が持ち込んだオリジナルの魔法具は希少なのだ。


「ご心配なく、それは私と金糸雀カナリアが生成したものですから、皆さんに差し上げます。この公務が終わってもお持ちになってください」

 

 侍女3人は、首からペンダントを掛け、服の中へ入れる。


『皆様、そろそろ聖都へ到着します。ご準備ください』


 御者席に居る付き添いの巫女が、声を掛けてくる。冬華とうかたちが、外の人間を気にせず物騒な話が出来たのは、馬車に乗り込んだ際に、冬華とうか金糸雀カナリアが張った結界のおかげである。

 この結界は、馬車内の音を一切外へ漏らすことなく、外の音は聞こえる便利な結界で、冬華とうかたちがよく使く結界だ。

 だが、まったく中の音が聞こえないのは不審に思われるので、玉露ぎょくろがリアルタイムで、擬装用の音声を流していたため、外の巫女に御者は気が付いていなかった。

「分かりました」

 返事を返した冬華とうかが、横で寝息を立てているルールーを揺する。


「ルーちゃん、もうすぐ着くから起きて」

「ん~?もう着いたのか?ふぁ~~~~~」

 大きなあくびをしながら、しょぼつく目を擦るルールー。


 聖都を訪れる際に対し、しゃべると余計なことを言いそうなルールーに、冬華とうかたちは、何を聞かれても声に出さず、首を縦か横に振って意思表示する無口キャラでいるよう言い含めていた。

 

 慣れないことをやったため、馬車の中で疲れて寝ていたルールー。冬華とうかは、寝癖の付いた彼女の髪を直していると、窓の外に大きな街が見えてきた。

 


『あれが、我がアルターレ護国の聖都”ミヤコ”です』

 ”シマナミ”を出発して1時間。巫女の言葉を聞き、侍女の3人は感嘆の声を上げていた。


「あれが、聖都?」

「の、ようですが・・・・金糸雀カナリア

「うん、私も同じことを考えた」

 そんな中傭兵3人が、少々驚いたように風景を見ていた。


 彼女たちの前に現れた聖都”ミヤコ”。それは日本の平安京のような佇まいだった。

 馬車が、聖都の大通りを進む中、中の面々は興味深げに辺りを見渡している。


『この聖都は、初代姫巫女様に仕えた賢人様によって設計されたと言われ、建設の際、建物の配置など事細かに決められたため、今に至るまで、聖都はその姿を変えていないのです』

 巫女の説明に耳を傾けながら、冬華とうかが首を傾げる。


「歴史の教科書とかでは見たことあったけど、なんか違和感がない?」

「・・・・あ、あれです我が主。道が石畳なんですよ!道がきちんと整備されているから、違和感があるんです」

 金糸雀カナリアの言うとおり、道は土がむき出しのままではなく、綺麗に切り出された石が敷き詰められている。

 しかも、馬車にそこまで振動が無い所を見ると、段差があまりないと言うことだ。


「それもありますが、所々で建築様式の異なる建物が混じっているからでしょう。それに、住民の服装も全く違いますし、私たちが違和感を感じて当然でしょうね・・・・・」


 馬車は、大通りを進み一番大きな建物へと近づく。

 位置的に平安京で言う所の、大内裏に当たる場所だ。

 敷地に入った馬車は右へ折れ、他の建物とは不釣り合いな洋風建築の玄関先で停まった。


「皆様、お疲れ様でした。今日はこちらの迎賓館でお休みいただき、祭事巫女の交代式は明日執り行います。では後程、改めてお伺いします」

 リーンや巫女たちが一礼して馬車に乗り込み、本殿の方へと去っていく。


「長旅、お疲れ様でした。お部屋の準備は終わっておりますので、どうぞ」

 迎賓館付の使用人の女性たちが、フェリシアたちを出迎える。

 広いホールには、なぜか書の掛け軸などが掛かっており、冬華とうかたち異世界人には、そこかしこに違和感が溢れていた。

「フェリシア殿下の部屋はどちらですか?」

「殿下のお部屋はこちらとなっております」

 

 冬華とうかは、先に部屋の様子を見てくるとフェリシアたちに伝え、責任者と思われる女性に連れられ、フェリシアが泊まる部屋の前まで来ると、冬華とうかたちはドアを開け、部屋の中へ入る。


 冬華とうか玉露ぎょくろ金糸雀カナリアの3人は、部屋の中を見渡す。

「・・・・・・・」

「・・・・金糸雀カナリア、フェリシアさんたちに来るよう伝えてください」

「うん、分かった」

 金糸雀カナリアが、外で待っているフェリシアたちを呼びに行く。


「ここが、最後に使われたのはいつですか?」

「は?・・・・・半月ほど前ですが、それが?」

「そうですか・・・・・」

 冬華とうか玉露ぎょくろへ目配せする。

「!?」

 気配無く責任者の後ろへ回った玉露ぎょくろが、無表情で女性の後頭部を鷲掴みにする。

 パシッと、スパーク音が聞こえた同時に、女性は白目をむいてしまう。

「・・・・・・・この人は、この部屋に仕掛けられていた術に関して、何も知らないようですね」

「そっか、じゃ玉露ぎょくろちゃん、離してあげて」

 玉露ぎょくろが手を離すと、女性は何事も無かったように、意識を取り戻す。

「あら?私は何を・・・・」

「何か考え事をしていたみたいですが、大丈夫ですか?」

 冬華とうかは、心配するように女性へ近づく。

「え、えぇ大丈夫です。すみません、私は仕事へ戻ります。何かございましたら、室内の通信球でご連絡ください」

 連絡事項を伝え、責任者の女性は首を傾げながら、部屋を出て行った。


 すれ違いに、フェリシアたちが部屋へと入ってくる。


「トーカさん、何かあったのですか?」

「ううん、大丈夫だよ。フェリちゃんは、自分の役目の事だけを考えて」

 笑顔で答える冬華とうかに、フェリシアは少し心配そうな顔をし、すぐに笑顔を返した。


「姫様、お着替えの準備が出来ました」

 侍女のカトリーヌが、手早く荷解きを終えフェリシアに声を掛けた。

「それじゃ、フェリちゃん。私たち、建物の周りを見てくるね」

 そう言って、冬華とうかたち傭兵が部屋を後にした。


「・・・・・どう?」

「ここが、基点ですね。冬華とうかさん、とりあえず元の紋章を相手に気づかれない様に作り替えて、迎賓館内への回路は破壊しておいた方がよさそうですね」

「了解」

 玉露ぎょくろが指示した部分に、冬華とうかが手をかざし、極々微弱に創造神の力を流す。

 すると、紋章が一瞬浮かび、消え去る。

「しかし、まさかここまで露骨とは・・・・・完全にこっちにケンカ売ってますね」

 玉露ぎょくろが、周りの様子を窺いながら、本殿を睨む。


「たしかにね。でも、”これ”を仕掛けたのが誰かわからない以上、まずは犯人と証拠を捜さないと」

 玉露ぎょくろの話に受け答えしながら、冬華とうかは新たな術式を用意する。


 なぜ彼女たちが、このようなことをやっているのかと言うと、実はフェリシアの泊まる部屋には、外から訪れた人間に対し、部屋に入った瞬間に無差別で発動するトラップとも言える術が仕掛けられていたのだ。

 その術の内容は、対象者が催眠術等の精神攻撃を受け入れやすくする土台を作る、と言ったものだった。


 部屋に入った瞬間、冬華とうかたちに対して術が発動したが、あっさり無効化し、瞬時に無害な物へと作り換えた。

 術の基点が迎賓館の外にあることは、すぐに分かったので、こうして確認をしに来たのだ。

 先ほど玉露ぎょくろが迎賓館の責任者に行っていたのは、記憶の強制読み取り。これは、相手の嘘等などを見破るために使われる義体の一機能で、対象者の記憶を脳の電気信号を介してデータとして読み取り、しかも使用後の相手の記憶を改ざんし、行為自体を忘れさせることが出来るという、ある意味で悪人が好みそうな手段だった。

 彼女が、何かしら関与しているのでは、と考え実行したが、白だった。

「よし!部屋に仕込んだ擬装用の術との同期完了!」

 冬華とうかが仕込んでいた術は、犯人に術が成功していると誤認させ、尚且つ逆探知して冬華とうかたちに犯人の居場所を知らせるものだった。


「我が主。敷地内の結界ですが、意外に穴が多いですね。常時結界を張りなおしているようですけど、練度が低すぎます。これじゃ、入ってくださいって言ってるものですよ」

 金糸雀カナリアが、呆れながら探査結果を報告する。

 ”攻撃”を受けたと判断した冬華とうかは、情報収集するために周囲の状況を、金糸雀カナリアに調査させていた。 

「罠の可能性は?」

「それはないでしょう。罠だとしたらフォローが全くされていませんし、これでは結界の製作者は無知か愚か者ですよ」

 金糸雀カナリアから送られてきたデータを眺めながら、玉露ぎょくろがワザとらしく大きなため息をつく。


「そっか、それなら情報収集には不自由しなさそうだね」

 笑みを浮かべて、立ち上がる冬華とうか


「何処の誰から知らないけど、後悔させてあげるよ。私たちにケンカを売ったことを、ね」


 そう言って、冬華とうかだけでなく、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアも不敵な笑みを本殿に向け、見つめるのだった。


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