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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
木漏れ日の森の出会い 編
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(3) 異世界の朝

「・・・・・・・・・・朝か」

 窓から差し込む朝日で目が覚めた昊斗そらと


 異世界へ来て二日目の朝を迎えた。

 昨日は、フェリシアたちにグラン・バースのことを色々と教えてもらおうと思っていたのだが、逆にフェリシアからの質問攻めにあってしまった。

「お二人のいた世界はどんなところなんですか?」


 透き通るような深い青の瞳を輝かせ、純真無垢な幼子のように聞いてくるフェリシアに、昊斗そらと冬華とうかは断ることが出来ず、「仕方ないな・・・・」と彼女の質問に夜遅くまで答え続けた。

 

 元からクセっ毛な髪が、寝癖で爆発しているのを手櫛で直しながら、ベッドから抜け出た昊斗そらとは、昨日のうちに綺麗にしてもらった自分の服に袖を通し、部屋を出た。


「あ、ソラトさん!おはようございます!!」

奥苑おくぞの君、おはよう」

 眠たげな顔をしてキッチンに顔を出すと、美少女二人の笑顔に迎えられ、昊斗そらとは思いっきり気後れする。

「・・・お、おはよう」

 何とか挨拶を返した昊斗そらとに、窓から射し込む朝日を受け輝くような笑顔を返すフェリシアと冬華とうかは、仲良く朝食の準備をしていた。


「あ、ソラトさん!お顔を洗うなら、奥に洗面所がありますから・・」

 キッチンの奥へと続く扉を指さしながら、フェリシアは昊斗そらとの頭をみて、口を押えながら笑いを堪えていた。

 冬華とうかも、クスクスと笑いながら自身の髪を指さす。

奥苑おくぞの君、スゴイ寝癖だよ。私のヘアブラシ置いてあるから、使って」

 冬華とうかに指摘され、自分の頭が思っていた以上に悲惨なことになっていることを知った昊斗そらとは、顔を赤くする。

「!あ、あぁ・・・・行ってくる」

 慌てて洗面所のあるドアへ向かう昊斗そらとを見送り、美少女二人が朝食の準備に戻っていく。

 そんな二人を横目で見ながら、昊斗そらとはその光景(いわかん)に慣れることはなかった。まさか、一国の王女が甲斐甲斐しく食事の準備をする姿など、昊斗そらとの読んだどんなファンタジー小説などでも見たことは無かった。ついでにいうと、冬華とうかも歴史ある名家の令嬢なのだが、長い髪を簪で纏め、手馴れた様子で食事の準備を進めている。


 顔を洗い、冬華とうかの言っていたブラシを躊躇しながら手に取り、水で濡らした髪を梳く。

 キッチンへ戻ると、準備は終わりに近づいているようで、テーブルの上には二人が作った朝食が並んでいる。


 立ったままでは居心地が悪かったので昊斗そらとも手伝おうとしたのだが、テキパキと動く女性二人に付け入る隙は微塵も無く、先に席に付いていたドラグレアと同様に大人しく席へ付いた。

 準備が終わり、冬華とうかとフェリシアも席へ付いた。


「では、食べるか」

 そう言って、ドラグレアは料理に手を付け始める。


 フェリシアはというと、お祈りだろうか、手を合わせて感謝の言葉を述べている。


「えっと・・・・いただきます」

「いただきます」

 さすがに、ドラグレアのように勝手に食べ始める程の度胸もなく、昊斗そらと冬華とうかはフェリシアのお祈りを待って、一緒に食べ始めた。


 朝食を食べ終わり、今度こそはと朝食の後片付けを申し出た昊斗そらとと手伝いを申し出た冬華とうかが、片付けを終えキッチンを出ると、玄関前の廊下でフェリシアとドラグレアが話をしていた。


「あれ、フェリシアさん?」


 声をかけた昊斗そらとと、後からきた冬華とうかの視線が、フェリシアにくぎ付けとなった。

 眼に飛び込んできたフェリシアの格好が先ほどの町服とは違っていたのだ。


 ミニスカートに革製のロングブーツ。上は何かの紋章の入ったカッターシャツと、フェリシアのひざ裏まであるマントを羽織、全体的に薄い青色で統一され、それはまるで制服のように見えた。

 二人が自分の格好を気にしている、と気が付いたフェリシアは昊斗そらとたちに見せやすいように、正面を向いた。

「これですか?これは、王国所属の精霊術士が着る術士服です。私も、王女であると同時に見習いの精霊術士なので」


 昊斗そらとたちに見せるように、クルッとその場で回って見せるフェリシア。

 だが、勢いよく回ったせいで、スカートの裾が思ったより翻ってしまい、フェリシアはあわてて裾を押さえた。

 

 何となく、青とは違う色が見えた気がした昊斗そらとだったが、見なかったふりを装いドラグレアの方を見た。


「ま!・・・・マントとかに描かれてるマークって、なんなんですか?」

 しかし、動揺を打ち消すことはできず、声が上ずってしまう。


「・・・・・」「・・・・・」


 スカートを押さえ顔を真っ赤にしたフェリシアと、ジト目の冬華とうかに睨まれながら、昊斗は女性陣からの視線攻撃を耐え忍ぶ。

 そんな若者たちに、年長者のドラグレアはくくくっと笑いを堪えていた。


「マントなどに描かれるのは、本来は騎士団での所属隊の隊章なんだが、フェリシアのは王家の紋章だ」

 

 王家の紋章のデザインは、水の神ルドラを象ったものに王家の父祖「アルバート一世」の得意とした一対の双剣が描かれていた。

 精霊術士とか、騎士団という単語が会話の中にごく自然に出てくる状況に、昊斗そらとたちは、改めて異世界に来たのだと思い知る。


「・・・そんな恰好をしているってことは、フェリシアさんお出かけですか?」

「はい、所用で森の奥へ。遅くても夕方までには戻りますので、では行ってきます」

 そう言って、フェリシアは森の奥へ出かけていった。


「さて昨日は、フェリシアが迷惑をかけたからな・・・お前さんたちの質問に答えてやる。一晩経って、聞きたいことも纏まっているだろう?」


 ドラグレアに促され、二人は何から聞こうかと思案しながら彼の書斎へ通された。


 昊斗そらと冬華とうかは、思いつく限りの質問をドラグレアにぶつけた。

 

 ドラグレアは、そのどれに対しても真剣に答え続けた。そこに、嘘をついている様子は微塵もない。

 昊斗そらと冬華とうかは、そんなドラグレアが信頼に足る人物だと判断し、あることを伝えることを決める。


 それは、自分たちが不思議な老人によって、グラン・バースへ連れてこられたということと、その老人に自身の創造つくったと言う世界の問題を解決してほしいといったニュアンスを言われたことだった。

 それを聞いたドラグレアの表情が、険しいものに変わる。


「・・・・俺が召喚された時と、まるっきり違うな」

「私たちも、そう思いました」

 

 質問の中、二人はドラグレアが自分たちと同様に異世界から召喚されたことを改めて確認し、その時の状況を聞いた。

 彼は、住んでいた里に帰る途中の山道で、突然落とし穴に落ちるような感覚に襲われ、次の瞬間には当時ルーン王国の王子だったフェリシアの父の下へ来ていた。つまり、ドラグレアは誰かに出会うことなく召喚されたのだ。


「二人の話を聞く限りではその老人が大神たいしんの可能性もあるが・・・・。俺の知る限り、大神たいしんが姿を現したことはおろか、異世界人に何か使命を与えるために召喚した前例はなかったはずだ」

「そうですか・・・」


 大神たいしんと呼ばれる神が、どう言った理由で異世界人を基点者ポインターの下へ召喚し続けるのか、未だに解明されていない。四柱の神は、時折人々の前に顕現しているのだが、大神たいしんは、数ある文献の中に語られはすれど、姿を現したという記録は残っていない。

 

 こうなると、あの老人が本当に大神たいしんなのか?と、昊斗そらとたちは頭を抱える。

 

「まぁ、その老人が連絡すると言っていたなら、その連絡を待つのも一つの手だろう」

 深く考えても仕方ないぞ、とドラグレアは、二人を励まし昊斗そらとたちの前に小さな箱を二つ並べた。


「あの・・・・これは?」

 

 二人は、目の前に置かれた小箱を手に取り、様々な方向から観察し始める。

 飾り気はなく、重さを感じない白い箱。どんな材質作られているのか分からないが、昊斗そらとが多少握った程度では変形しなかった。

「そいつは、俺が自分の世界から持ち込んだマジック・アイテムだ。”希望の小箱”と言って、箱を開けた者がそのとき一番必要とする”モノ”を出してくれる、レアなアイテムだぞ」

「へぇ・・・」


 昊斗そらとは、興味本位で箱を開けようと、蓋に指をかけた。


「言っておくが、それは一度っきりの”使い捨て”道具だからな。よく考えて使えよ?」


 半眼で意地の悪い笑みを浮かべるドラグレアの言葉に、昊斗そらとは驚いて小箱を落としてしまう。

「やばっ!」

 慌てて拾い上げ、昊斗そらとが小箱を調べるが、へこむ所か傷一つなかった。

「どうして、そんな貴重なものを私たちに?」

 手に取っていた小箱をテーブルに置き、冬華とうかは理由を聞いた。


「何、ちょっとした保険だと思えばいい。お前さんたちはこれと言った特別な力を持っていないだろ?いざ何か起きた時に、自分の身を守る手立てが無ければ、”そこまで”だ。それは困るだろ?」


 物騒な話だが、それなりの数の小説を読み倒していた昊斗そらと冬華とうかは納得した。

 ファンタジーノベルの愛読者の内で、「異世界では何が起きるか分からない」と言うのは常識である。


”道を歩いていて、盗賊や魔物に襲われる”。

 こんなことは、基本中の基本。


 実際の異世界ではどうかは分からないが、そのぐらいの気構えは必要だろうと、昊斗そらとたちは有難く”希望の小箱”をもらった。 


「お、もう昼になっていたか。それじゃ、飯の準備をするか」

 書斎の壁にかかる柱時計の時間を見て、ドラグレアが立ち上がる。だが、そんな彼を二人が驚いた顔で固まっていた。

 失礼な話、二人にはドラグレアが料理をする光景が、どうしても想像できなかったのだ。

「あのな・・・・フェリシアに家事全般を教えたのは、オレだからな?あいつは、二か月前まで何もできなかった正真正銘の”お姫様”だったんだ。今じゃ俺より美味い料理を作るが、それもこれも俺の教え方が良かったからだぞ?少しは、楽しみに待ってろよ」


 いい大人が拗ねながら部屋を出ていく姿を眺めながら、昊斗そらと冬華とうかは言われたとおりに待っていた。


 そんな時だ。

 外から何か巨大なものが倒れたような地響きと揺れが庵を襲ったのだった。


8/10 内容を一部改稿

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