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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
巫女の国 大いなる野望 編
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(3) 船上にて

「さすがは王家専用。何度見ても豪勢だよな~」

 デッキから海を眺めながら、昊斗そらとは感嘆の声を上げる。

 隣には、冬華とうかが寄り添う様に立っている。

「ホントだよね・・・・・こんな風に海の旅をするのっていつ振りかな?」 

「・・・・・パッと思い出せるくらいには、記憶にはないなぁ」

 あははは、と笑う二人の格好は、完全に南国のバカンスを楽しむカップルのような軽快なものだった。


 アルターレ護国は、ルーン王国から真っ直ぐ南に位置する「裂火大陸」の比較的涼しい北側に存在し、大型客船で大よそ2週間の旅となる。


 

 運河を越え、海に出た王家専用客船「クイーン・ファーネリア号」。


 ルーン王国において、最も有名な女王の名を冠した客船は、出航して1週間で全行程の半分を消化していた。


船旅こんなのは、ブルジョアな人種しかしませんしね・・・ねぇ?金糸雀カナリア?」

 冬華とうかとは反対側の昊斗そらとの隣で、腕を絡めている玉露ぎょくろが呆れ気味にため息をつく。

「パパは、時間に五月蠅い人だから移動は基本的に超音速旅客機だからどうだろう?・・・・て、何言わせるの!?」

「貴女が勝手に言ったのでしょう?」


 そんなやり取りのすぐ傍のテーブルで、フレミーが力なく項垂れていた。

「違う・・・・やっぱりこんなの、私が想像していたのとは違う」

 彼女は、避暑地を訪れるお嬢様の様な水色の清楚なワンピースに、髪は一まとめにしてアップにしている。

「フレミー、大丈夫だよ。到着まだ時間はあるんだから、希望はある!」

 一緒のテーブルにはフェリシアが、髪をサイドアップにし、活発な彼女に合わせてミニのワンピースを着ている。

「そうですが・・・・」

 うだうだとするフレミーに、彩の鮮やかなドリンクをストローで飲むルールーが、口を離しフレミーの方へ顔を向ける。 

「しかし、どうかのぉ?神も裸足で逃げ出しそうなあの包囲網を、突破するだけの実力がぬしにあるのか?」

「はぅ!!・・・・・」

 ルールーの容赦のない言葉に、フレミーは完全に撃沈した。

 フレミーがこんな感じなのには、わけがあった。

 

 時間は二日ほど戻る。


「フレミー、あなた大丈夫?ここ数日寝てないんじゃないの?」

「大丈夫です!!この程度の疲労、苦ではありません!!」

 目の下に大きなくまを作り、いつもと違うテンションでフェリシアに力説するフレミー。

 後ろにいるフレミーの精霊二人は、「もう無理です!!彼女を止めてください!!」と、かなり慌てふためきフェリシアに止めるよう訴えかける。

「あなた一人が頑張る必要はないんだから、ゆっくり休んで・・・」

「大丈夫です!!では姫様、見回りに行ってまいります!!!!」

 引き留めようとしたフェリシアだったが、フレミーは聞く耳を持たずそのまま船内の見回りに行ってしまった。

 さすがに心配になり、フェリシアは昊斗そらとたちにフレミーの説得を頼もうと、室内の小型の通信球に手を伸ばした。


「フレミーさん、ちょっといいかな?」

「トーカ殿。何か御用ですか?」

 見回りを始めてすぐにフレミーは、冬華とうかに呼び止められ、少し不機嫌そうな表情をする。

 その理由は、冬華とうかの格好だった。


 フレミーは、乗船してからと言うもの騎士団の制服を身に着け、常に警戒を怠らないようにしていた。

 だが、昊斗そらとたち傭兵の4人は、次の日から普段の格好で呑気に船内を歩き回っていたのだ。

 その姿を見て、フレミーは彼らに対して言葉を失った。

(護衛任務中なのに、なんで?!・・・・・失望しました!!)

 アリエルやヴィルヘルミナの警護の際は、戦闘服でないにしてもスーツに身を包んでいた昊斗そらと冬華とうかを知っているフレミーは、その落差に絶句していた。


 それからと言うものフレミーは、昊斗そらとたちとは距離を取っていた。

「うん、ちょっとフレミーさんとお話がしたくてね」

 笑顔の冬華とうかに、フレミーは目線を逸らす。

「・・・申し訳ありません。船内の見回りがありますので・・・」

「フレミーさん」

 その声に、フレミーの身体がビクッと振える。

 ゆっくりと冬華とうかの顔を見たフレミーは、比喩ではなく本当に心臓がつぶれるかと思った。

 先ほどと変わらない笑顔の冬華とうか。だが、纏っている空気は今まで感じたことのない、恐怖を感じるものだった。

「いいから、付いて来てね?」

「は、はい!」

 逆らえば殺される。そう思わせる雰囲気に、先ほどのテンションなどが吹き飛び、素直に冬華とうかの後をついていくフレミー。


 着いた場所は、豪華な家具が並ぶサロンだった。


「お、来たな」

 そこに待っていたのは、昊斗そらとたち傭兵メンバーだった。

「すみません、フレミー様にも何か飲み物を」

 金糸雀カナリアが、サロンに控えているメイドに声を掛ける。

 一礼し、メイドが後ろへ下がっていく。

「立ってないで、座っていいよ」

 フレミーは後ろに立つ冬華とうかが怖くて、恐る恐る席に着く。


「何で呼ばれたかは、薄々分かってるよな?フェリシアから、フレミーが無理をしているから止めてくれって頼まれたんでな」

「無理なんてしていません」

 憮然とした態度で言い切るフレミーに、昊斗そらとは殺気を放ち、一瞬で手に握った鉄製の剣を首を刎ねる勢いで、首筋に突き付けた。

「!!」

「きゃぁぁぁーーー!!」

 あまりに突然のことで、反応することのできなかったフレミー。その状況に、飲み物を持ってきたメイドが悲鳴を上げトレーを落とすが、傍に居た金糸雀カナリアが神業的なトレー捌きで、飲み物を零す来なく受け止めた。


「無理をしていない?今の攻撃を全く反応出来なかった君が?ケンカを売っているのか!!」

 剣を引っこめる昊斗そらとに恫喝され、フレミーは決闘の時を思い出していたのか、瞳が揺れる。

「言っておくが今の攻撃、フレミーと決闘した時と同じ力量に設定してあった。しかも、攻撃前に殺気も付けた・・・・あれから色々と経験をした君ならしっかり反応出来るはずが、それが出来ないほどパフォーマンスを落としておいて、よく大口が叩けたな」


 拳を握ったフレミーが、昊斗そらとを睨んで吠えた。

「だって・・・・皆さんが、気を抜いてるからです!!この南洋は、いつも穏やかな表情をしていますが、大型の海洋系魔獣やモンスターの巣がいくつも点在し、しかも海賊だっているんですよ?!こんな大きな船なんて、恰好の的です!!そんな遊びに行くような恰好をして、皆さんがやる気がないのなら、私が頑張るしかないじゃないですか!!」

 フレミーの言い分に、昊斗そらとたちはため息をついた。

「フレミー、まさかと思うが・・・・・俺たちが何もせず、のほほんとしていたと思ってたのか?」

 昊斗そらとの真剣な眼差しに、ビクッと身体が反応するフレミー。

「・・・・フレミーさん、覚えてる?2日目に、私と金糸雀カナリアが試作した術式の試射したの」

 冬華とうかの言葉に、フレミーは2日目のことを思い出す。

 

 それは、出航2日目。

 外海に出た辺りで、冬華とうかが術式の試射を行った。

 巨大な魔方陣が出現し、まばゆい光が辺りを包み、冬華とうかの持つ杖の先一点に凝縮され、解放された力が水平線を横薙ぎにする。

 その威力は、大人数で行使する大規模精霊術を軽く凌駕し、海を割った。

 フェリシアやルールー以外の人々は唖然としてした。

 もちろん、フレミーもその一人だった。

 なんせ、威力も去ることながら、術の破壊力で発生するはずの衝撃波やそれに付随する津波などが一切発生しなかったからだ。

 そのことを、船員の一人が冬華とうかに質問した。


「え?そんなの別次元に相転移させたから、発生しようがないよ?」

「ですが、定期的に術式の確認は必要ですね。危うく余剰エネルギーを転移しきれませんでしたし」

 あっけらかんと言いきる冬華とうか金糸雀カナリアに、全員が絶句したのは言うまでもなかった。



「あれ、試射も兼ねてたけど、本当はこの船を襲おうとしていた超大型魔獣を撃退するために使ったの。この船には魔獣除けが施されているけど、それをも跳ね除けて襲ってくるのがいるかもしれないって、ドラグレアさんに言われてたからね」

「え・・・・?」

「それから、昨日。俺と玉露ぎょくろが一時居なくなったことがあったんだが、フレミーは気が付いてないだろうな・・・・近くに居た海賊の船団を全滅させてきたんだぞ」

「えぇ!!?」

「この船を襲うかもしれませんでしたし、別の商船や客船が襲われたら目覚めが悪いですしね」

 海賊船は10隻もの大船団だったが、昊斗そらと玉露ぎょくろ冬華とうかたちの転移術を用いて強襲し、モノの数分で全滅させてしまった。


「我々にとって服装など、些末な問題なのですよ。どのような格好でも、結果を出してしまえばいいのですから」

「フレミーさん、あなたはなんでも一人で背負い込もうとする癖があるみたいだけど、それって周りの人たちを蔑にしていることだって、気が付いてる?」

 この船の船員は、騎士団出身の選りすぐりで構成され、船に関しても戦闘に関しても一流が揃っている。冬華とうかの言う通り、フレミー一人が頑張る必要など皆無なのだ。

 

「君の仕事はあくまでもフェリシア一人を護ることだ。君の仕事が始まるのはフェリシア同様、目的地に上陸した瞬間から。その前に君がつぶれたら、一体誰がフェリシアを護るんだ?それなのに、この船全体を一人で護ろうなんて、思い上がりだとは思わないか?」


 昊斗そらとたちの言葉に、フレミーは返す言葉が無かった。


 前回、しきたりとはいえ、フェリシアの騎士として、木漏れ日の森に同行出来なかったフレミーは、今回のアルターレ護国への同行に、ある意味で浮かれていたように思えた。

「・・・・ごめんなさい」

 素直に頭を下げるフレミーに、昊斗そらとが立ち上がって近づく。 


 殴られる覚悟でキュッと目を瞑り、身体を強張らせるフレミーだったが、彼女の予想に反しフワッと頭を包む温かい手の感触がそこにあった。

「まぁ、まだ若いんだ・・・こんな失敗で縮こまるなよ?そこから何かを学び取ればいいんだ」

 昊斗そらと優しさとそんな彼らを疑った自分に恥じて、フレミーは泣きそうなるも何とか堪える。


「それじゃ、フレミーさんはまずしっかり寝ること!」

 フレミーの両肩に手を置き、背中から彼女の顔を覗き込むように、冬華とうかが笑顔を見せる。

 それは、いつもの優しい笑顔だ。

「もう~、女の子が目の下にくま作っちゃダメだよ!寝不足は、美容の大敵なんだからね?」

 座るフレミーの身体の向きを変えさせ、彼女の前に膝をついた冬華とうかが、フレミーの目の下に触れると、黒々としたくまがウソのように消えた。


「それじゃ・・・よっ!」

「え?え?!」

 昊斗そらとに抱きかかえられ当惑するフレミー。

「一人で部屋に帰しても、まっすぐ帰らないかもしれないからな。連れて行く」

「ま、待って下さいソラトさん!・・・・」

 あまりの恥ずかしさに、顔を真っ赤にし両手で覆うフレミー。


 結局、そのまま昊斗そらとに部屋まで運ばれたフレミーは、冬華とうかたちによって強制的にベッドへ釘付けにされ、寝かされた。 

 その後、しっかりと睡眠を取ったフレミーだったが、起きて待っていたのは、玉露ぎょくろとフェリシアによる着替えと言う名の着せ替え遊びだった。


 なんと、騎士団の制服以外、私服を持ってきていなかったフレミーに、「空気を読みましょう」と玉露ぎょくろが用意した洋服を代わる代わる着る羽目になったのだ。


「フレミー、可愛い格好してソラトさんに褒めてもらいましょう」

 フェリシアの天使(悪魔?)の囁きに、目つきの変わったフレミーは、船旅の間は制服ではなく玉露ぎょくろが用意した洋服で過ごすこととなった。


 そして、時間が戻り現在。


「あ、そうだ!玉露ぎょくろさん、なにか面白いものを用意してるって言ってませんでしたか?」

 話題を変えるように、大きな声で玉露ぎょくろを呼ぶフェリシア。


「そうですね・・・・そろそろ準備も済んでいるでしょうし、では皆さん。参りましょうか?」

 昊斗そらとの腕を離し、玉露ぎょくろが滅多に見せない仕事モードの笑顔を浮かべ、風を切って船内へ消えていく。

「ほら、フレミー!」

 先ほどのルールーからの口撃にやられフレミーを引っ張り、フェリシアとルールーが玉露ぎょくろの後を追う。


昊斗そらと君は、どうする?」

「答えは分かっているだろ?」

 ついて行っても、桃源郷と言う名の地獄が待っていることを知っている昊斗そらとは、首を横に振る。

「だよね、じゃまた後で」

「行ってきますね、昊斗そらとさん」

 冬華とうか金糸雀カナリアも、船内へ入っていった。


「若い方たちとの旅はいいですね。私の気持ちが若返るようです」

「マーナさん」

 女性陣たちと入れ替わりに、船内から現れたマーナは、質素な巫女服を着ていた。ここしばらく、母国であるアルターレ護国への報告書を作成していた為、部屋に籠りっぱなしだったためか、マーナが大きく背伸びをする。

「久しぶりに太陽の下に出ました・・・・この潮風、いつ振りかしら」

 何かを懐かしむように、マーナが海を見つめる。

「どうぞ」

 フェリシアたちが使っていたテーブルとは、違うテーブルの椅子を引く昊斗そらと

「ありがとうございます、オクゾノ様」

 会釈しながら、マーナが席に着き、その反対側の椅子に昊斗そらとが座る。


「先ほど、姫様たちが楽しそうにしていましが、何かあるのですか?」

「あぁ、あれですか?実は・・・・」

 昊斗そらとは、少々呆れながら説明を始めた。


 昊斗そらとたちが、初めて王都へ来た際に乗っていた客船でのことだ。

「豪華客船にプールが無いのは寂しいよね」

 冬華とうかのつぶやきを、ドラグレアが聞いていたらしく、今回の改修で船の最上階に豪勢なプールが増設されたのだ。

 

 ルーン王国というか、グラン・バースにおいて「プール」と言う概念が無く(唯一、異世界人の国であるレヴォルティオン帝国では一般的)、周りを海に囲まれた船上で、泳ぐ発想は生まれることはなかった。


 そのため、船員たちも何の施設か分からなかったせいで、そのまま放置されていた。

 仕方なく、フェリシアやフレミー、ルールーを除く全員で一旦プール清掃を行い、水を張っていたのだ。 

 そして、女性陣はプールで泳ぐため、水着に着替えるべく部屋へ戻っていったのだった。


「それは、とても面白い考えですね」

 年相応の上品な笑みを浮かべるマーナ。

「まぁ、若干1名は別の目的が駄々漏れでしたけどね」

「?」

 もちろん、昊斗そらとの頭に浮かんでいるのは、先頭を切っていった和服の人である。


「ソラトよ!」

「ん?・・・・ぶっ!?」

 振り向いた先に居た人物の格好を見て、昊斗そらとは不覚にも、吹き出してしまった。


「まぁ、ルドラ様。可愛らしいお姿です」

「おぉ、巫女よ!似合っておるか?」

「はい」

 相槌をうつマーナの顔は、神を恐れる巫女ではなく、孫の姿を見て嬉しそうにする祖母のそれだった。

(似合っている・・・似合っているが!!)

 そんなことを心の中で叫ぶ昊斗そらとの視線の先に居たのは、水着を着たルールーである。


「ルールー、その恰好・・・」

 何とか絞り出せた昊斗そらとの言葉に、満面の笑みを浮かべる小さな神様。

「うむ!ギョクロが、妾にはこれしかないと用意してくれたのじゃ!」

 その水着とは、幼女が装備すれば最強と言われた”旧型スク水”。しかも、白バージョンである。

 ご丁寧に、胸には「るーるー」と、大きくひらがなで書かれている芸の細かさだ。


玉露ぎょくろ、やりやがったな・・・・・冬華とうかたちはその姿を見て、何も言っていなかったか?」

「トウカたちには、まだ見せておらんぞ。ギョクロからは、トウカやカナリアに見つからない様に、ソラトを呼びに行ってほしいと頼まれたからの!」

「そうか・・・・」


 全てを悟り、元凶に対して、冬華とうか金糸雀カナリアの力を借りて、鉄槌を下さなければと、昊斗そらとはゆっくりと立ち上がる。

「・・・・ルールー。冬華とうかたちの所へ戻ろうか?」

「そうじゃの!妾も”ぷーる”と言うのが凄く気になっておっての~」


 ぷーる、ぷーると燥ぎながら戻っていくルールー。


「申し訳ありません、用事が出来ましたので、ここで失礼させていただきます」

「はい」

 途中退席する非礼を詫び、昊斗そらとは闘気を纏って船内へ消えて行った。


「若い方々と一緒だと、本当に若返ってしまいそう」

 ふふふ、と笑みを溢しながらマーナは、穏やかな海を眺めるのだった。



 ちなみに、”悪ふざけで”ルールーにスク水を着せた玉露ぎょくろは、昊斗そらとたちから本気モードの説教をされ、素に戻って落ち込んでいた。


 その珍しい光景を、フェリシアたちは玉露ぎょくろに気を遣い、見ないようにしていたのは内緒である。

 

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