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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
巫女の国 大いなる野望 編
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(1) 行動再開

「失礼します」

 薄暗い部屋の中に、白い巫女装束を纏い、頭を下げたままの女性が入ってくる。


 部屋の中には、一見してただの布が三つほど立っているように置かれているが、仄暗い蝋燭の光によって、布に座った姿の人影が映っている。

 

『・・・・・・』『・・・・・・』『・・・・・』

 布の隙間から、紙の束が音もなく差し出される。


 女性が頭を上げずに、布の前に出された紙の束を回収する。そしてやはり、一度も頭を上げることなく最初の位置まで女性が戻る。


『本日はそう行動するよう、民たちに伝えよ』

 年寄とも幼いとも取れる不可思議な声が、布の中から聞こえる。

「畏まりました」

 出て行くものと思われた女性が、その場にとどまる。


『どうした?』

 先ほどとは違う布から声が響く。

「実は、ルーン王国へ派遣している祭事巫女から至急文が届いており、皆様にお目を通して頂きたく・・・・」

 女性が取り出した手紙の差出人には、ルーン王国の祭事巫女であるマーナ・クロエの名が記されていた。


***********


 

 王都ディアグラムで起きたレヴォルティオン帝国皇女の誘拐事件を始めとした、同時多発テロ事件から一週間以上が経ち、街では破壊された建物などの修復も始まり、全体的に落ち着きを取り戻していた。


玉露ぎょくろ、そっちはどうだ?」

 手にした古い書物を本棚に戻しながら、昊斗そらとは同じ室内に居る相棒に声を掛けた。


「現在、92%まで収集が終わりました。目録通りなら、残りはあまり重要性を感じませんが?」

「・・・・・・いや、情報は残さず貰っておこう」

 少し考え込んだが、何が役に立つか分からないと、昊斗そらとが指示を出す。

「了解です・・・・・が、それよりマスター?そちらはどうなのですか?先ほどと進捗状況が変わっていないように見えますけど?」

 本棚の陰から玉露ぎょくろが顔を出す。その顔は、サボっているんじゃないですか?と言わんばかりに、疑いの色が濃かった。

「仕方ないだろう?乱雑に並んだ本棚を目録順に片付けるんだ。玉露ぎょくろが読み取り終わった本を、無雑作に置かなかったら、もうちょっと早く進んでるよ」

 本棚の前の床や机の上には古い書物が絶妙なバランスで立っていた。


 昊斗そらとの言葉に、玉露ぎょくろが目を細める。

「おや・・・・ではマスターが私の替りに、書物の内容を全て暗記してくださると?」

 書庫内にある残りの書物は8%とはいえ、冊数にすると100冊近い量となる。その全てを一言一句間違いなく暗記するのは不可能に近かった。

「・・・・・悪かったよ」

 不満を漏らすも、簡単に折れた昊斗そらとは再び手を動かし始める。


「・・・もう少しで私の方が終わります。それからお手伝いしますので、それまで頑張ってください」

 仕方ないな、とため息をつきながら仕事に戻る玉露ぎょくろの顔は、仕事モードながらどこか嬉しそうに見えた。



 合同学園祭で、国王カレイドとアルバート騎士団団長のフォルト達から、連名での依頼を受けた昊斗そらとたち傭兵チームは、ルーン王国の隣国のクレスト連邦の王女「アリエル・ベルナデット・フルール・シャリエ」と、レヴォルティオン帝国皇女「ヴィルヘルミナ・エルザ・フォン・ハイゼンベルグ」の警護に付いていた。


 ヴィルヘルミナの誘拐事件など発生したが、昊斗そらとに落ち度はなかったと、ヴィルヘルミナの秘書であるアンナの口添えもあり、責任を追及されるどころか、皇女を無傷で助け出したことに彼女の兄である皇太子から感謝の言葉が届いる。

 さらに、冬華とうかがアリエルをテロリストから護ったとして、クレスト連邦から感謝状が届き、アイディール学園で起きた爆弾騒ぎを、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが未然に防ぐなどし、ルーン王国内での評価が一気に上がった。


 そのおかげで、昊斗そらとたちは国内の移動に関して自由が認められ、国外も騎士団に属する騎士が帯同すれば許可が降りることとなった。


 さらに、これとは別に希望を聞き入れてもらえることになり、昊斗そらとたちは”アルバート城内の重要書物の閲覧”と”各属性の精霊と契約している人物と会わせてもらう”という二つを申し入れた。


 一つ目の理由は、王都に来てから行っていた”図書館巡り”が終了し、必要とした代理神の情報は得ることが出来なかった。その為、一般には出回っていない書物が所蔵された、アルバート城の書庫に目を付けたのだ。

 

 二つ目は、先日の事件の際に、犯人たちに関わりのあると思われる”精霊”を逃がす失態を演じてしまった反省から、グラン・バースに存在する精霊に関する情報を得るためだった。


 国王たちは、その申し出と理由を聞いて快諾し、昊斗そらとたちは事件後から、アルバート城に寝泊まりしていた。

 昊斗そらと玉露ぎょくろペアは、アルバート城の書庫を担当し、冬華とうか金糸雀カナリアペアが精霊の方を担当している。



 昊斗そらとたちが、書庫内の本と格闘していた同じころ、冬華とうかたちは・・・・


「全隊!相手は一人だ!押しつぶせ!!」

 騎士団の術士隊隊長である女性の命令が飛び、四方から水・火・風・土の精霊術が冬華とうかへと殺到する。


 アルバート騎士団が誇る広大な演習場の真ん中に立つ冬華とうかが相手にしているのは、ルーン王国にある五つの騎士団の中で、殲滅戦を得意としているアルバート騎士団精霊術士隊の全部隊である。


 ここ数日、冬華とうか金糸雀カナリアは、精霊の情報を多く集めるために、演習と言う名目で、多くの術士たちと模擬戦を繰り返していた。

 

『我が主・・・・申し訳ありませんが、あの攻撃は避けないで頂けますか?』

「うん、いいけど・・・・防御はしていいよね?」

『はい、もちろんです』

 金糸雀カナリアの言葉に、冬華とうかは表情一つ変えず、その場の佇み精霊術の渦に消えて行った。

 

「・・・・・・たいちょ・・マリア様、本当に大丈夫なのでしょうか?」

 指揮台の上で部隊を指揮する女性が、顔色を変えてはいないが、不安げな声で隣に立つ王妃マリアに問いかける。

「心配しなくていいわ。何度も言ったけど、油断は禁物・・・・それに、隊長がそんな弱気でどうするの?部下たちに、その弱気が伝わるわよ?」

 だが、当のマリアは涼しい顔をして、隊長に昇進した元部下を諭す。その顔は王妃ではなく、先陣を切って進んでいた”術士隊隊長”の顔だった。

「・・・そうでしたね。一隊、そのまま待機!二隊、三隊はいつでも攻撃できるよう、術を展開!四隊及び五隊は援護に回れ!」

 迷いの消えた隊長の命令を忠実に遂行する部隊。


「さすがは、アルバート騎士団の精霊術士隊。今までの術士とは、精度も密度も段違いだね」

『ええ、おかげでいいデータが取れていますよ・・・・・・我が主、お待たせしました。攻撃に転じられてよろしいですよ』

「ホント?・・・・待ってました」

 土煙が晴れ、中から姿を現した冬華とうかの顔つきが、一気に戦闘モードへ切り替わる。


「・・・トウカがその気になったの・・・」

 ルールーの顔色が青くなる。

「ルーちゃん、ここからトーカさんの表情が見えるのですか?」

「まぁ、見えるが・・・・・この空気感は嫌でも忘れられんのじゃ」

 演習場の観戦席で成り行きを見守るフェリシアとルールー、そしてフレミーの三人。

 ルールーは、冬華とうかにトラウマを植えつけられている為か、恐ろしさがこみ上げてきていた。


「しかし、アルバート騎士団が誇る術士隊の攻撃を受けて無傷とは・・・・ソラトさんだけでなく、トーカ殿もやはり別格なのですね」

 昊斗そらとと剣を交えたことのあるフレミーだが、冬華とうかが戦う姿を見るのはこれが初めてだった。


「じゃが、妾の時に比べれば本気とは程遠いの・・・まぁ、人間相手なら仕方ないか」


 そんな話をしている間に、攻守が入れ替わっていた。


「一体どうなっているんだ!!」

「三隊がいないぞ?!何処に行ったんだ!!」

「援護を!援護の隊はどうしたんだ!!」

「た、助けてくれぇぇぇ!!」

 広大な演習場が、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。 

  

 攻撃に転じた冬華とうかは、広域殲滅用の術式を複数同時展開し、殲滅戦を得意とした術士隊を蹂躙した。


「それにしても、ドラグレアさんが作ったこの結界・・・・便利だよね~」

 本物の戦場なら、命を奪うだけの術が飛び交っているが、現在死人どころか怪我人も出ていない。 これは、国王と王妃の友人であり、異世界人のドラグレアが作った訓練用の結界のおかげだ。

 ただ、今使われている結界は、最新版の結界であり、ダメージを受けると一定時間動けなくなってしまう様に改良されていたため、冬華とうかが通り過ぎた後には、うめき声を上げる術士隊の隊員が倒れていた。

 

『ですが、あるじが本気を出してしまうと、結界が壊れてしまいますよ』

「分かってるよ・・・・さぁ!どんどん行こう!!」


 楽しくなってきた冬華とうかが、先ほどとは別の術式を展開し、連携が断れ右往左往している部隊へ狙いを定めた。


 創造神の力と言う、圧倒的なエネルギー量を持つ冬華とうかとの撃ち合いに、人間が耐えられる訳もなく、10分も経たずして隊長の女性が降伏宣言を出した。

 最後まで立っていた隊員は、数える程しかおらず、冬華とうかに完膚なきまでに叩かれ、これ以降の部隊の士気にどんな影響が出るか、隊長の女性は頭を抱えていた。


 死屍累々の様相を呈する隊員たちの中で、冬華とうかは観戦席にいるフェリシアたちに笑顔で手を振っていた。


**********


 演習場での訓練が終わった頃、昊斗そらとたちの方も、思わぬ助っ人たちのおかげで書庫の整理が終わっていた。


「手伝って貰って悪かったな。俺と玉露ぎょくろの二人だと、もっと時間がかかったかもしれない」

「いいえ、お気になさらないでくださいソラトお兄様。わたくし、お兄様のお役にたてて嬉しいです」

 年相応の笑顔を浮かべるヴィルヘルミナ。その笑顔はどこか、フェリシアを彷彿とさせた。

「このくらい、いつでも言ってくれて構わないぞ、ソラト殿!な、フローラ?」

「そ、そうね・・・・」

 助っ人とは、ヴィルヘルミナを始めとしたレヴォルティオン帝国の面々だった。


 誘拐事件の際、彼女たちが使っていたアパートメントで使用人全員が殺され、そこに再び住むというのは精神的にヴィルヘルミナの負担になるだろうと言うことで、新たな住居が決まるまでの間、ヴィルヘルミナはアルバート城に、フローラとペトラは騎士団の隊舎に身を寄せていたのだ。


 どこから聞きつけたのか、手伝いたいとやってきた彼女たちを、昊斗そらとたちは二つ返事でお願いした。


「・・・・お待たせしました」

 話をしていた昊斗そらとたちの下にメイドが一人、ティーセットを運んできた。その顔を見て、昊斗そらとが首を傾げた。

「あれ?君はたしか・・・」

「どうも・・・・」

 現れたメイドは、ヴィルヘルミナを誘拐したテロリストのメンバーだった帝国の臣民である、アイリス・クレインだった。

「アイリスは、わたくしに仕えるメイドとして、現在アルバート城で修行しているんですよ」

 立ち上がったヴィルヘルミナが、アイリスの両肩に手を置き、嬉しそうに紹介した。

「・・・ミーナ。わたし、別の仕事があるから、使い終わった食器はここに置いておいて。あとで取りに来るから」

「アイリス・・・・分かりました。じゃあ、お願いね」

 友達のような付き合いになっていた二人は、気さくに言い合える間柄になのだが、主従関係の手前、人前ではそれなりに線引きをしていた。

「うん・・・・・・」

 コクンとうなずき、アイリスが来た方向へ帰っていく。 


「姫、我々はアルバート騎士団団長のフォルト殿に呼ばれていますので、ここで失礼します。ソラト殿、すまないが姫の事を頼む」

「分かった」

 一礼して立ち去ろうとしたペトラは、動かない同僚に気が付く。

「ほら、フローラ!ぼーっとしてないで、行くぞ!」

「え?あ、ちょっと待って!」

 首根っこを掴まれ、フローラがペトラに引きずられて行った。その顔は、昊斗そらとと話せなかったことが心残り!と言わんばかりだった。


「・・・せっかくアイリスが準備してくれたんだ、紅茶をいただこうか」

「あ、お兄様!わたくしが淹れます!」

 慌てて立ち上がったヴィルヘルミナが、少し緊張しながら紅茶をティーカップに注ぐ。


「お兄様、どうぞ」

「ありがとう」

 ヴィルヘルミナが席に着いたのを確認し、昊斗そらとが紅茶を口に含む。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 珍しいツーショットに、お互い何を話せばいいか分からず、無言になる。

 ちなみに、玉露ぎょくろは書庫で得られた書物の情報を整理・解析の為、創神器ディバイスに籠っている。


「あの、お兄様・・・・・・」

「ん?」

「お兄様は、ご兄弟がいますか?」

 ありきたりなネタではあるが、14歳の少女に多くを期待するのは酷な話である。

「あぁ、妹が一人いる」

「・・・どんな方なのですか?」

「興味があるか?」

「はい!」

 昊斗そらとは、嬉しそうにするヴィルヘルミナに、妹の話を聞かせた。


「・・・・・凄い方なのですね」

 ヴィルヘルミナから出た感想が、この一言だった。どの世界で妹の話をしても、同じ反応が返ってくるので、昊斗そらとも呆れるしかない。

「凄いと言うより、一定方向への力の入れ方が異常なんだよ、あいつは」

 ヴィルヘルミナに妹の話をしたせいか、フッと妹の顔が浮かぶ。


(そういや、今度の休みに実家に帰ったら、東京に連れて行けって言ってたな)

 そんな約束を思い出していると、ヴィルヘルミナが覗き込んできた。

「お兄様?」

 心配そうに見つめるヴィルヘルミナを昊斗そらとは、幼いころ妹にしていたように優しく頭を撫でた。

 くすぐったそうにするヴィルヘルミナ。その姿は子犬のように見えた。


 その時だ。


「私と金糸雀カナリアが頑張ってた時に、昊斗そらと君は一体何をしてたのかな?」

 ヴィルヘルミナの頭に手を乗せたまま、振り返った昊斗そらとが見たのは、絶対零度の笑顔を浮かべる冬華とうかだった。 

「・・・言い訳させてくれ」

「却下します」

「一言だけで・・・」

「却下です」

 取りつく島もなく、昊斗そらと冬華とうかに引きずられて廊下の陰へ入っていった。



「あ、そういえば・・・・ヴィーはマーナ様に会いたいって言ってたよね?」

 廊下の陰で、モザイクを掛けないといけないような惨劇(・・)が繰り広げられている中、ヴィルヘルミナを見て、フェリシアがあることを思い出した。


「はい、一度お会いしてみたかったので」

 少し考え込んだフェリシアは、ポンと手を叩く。

「じゃ、今から行ってみようか?」

「いいのですか?」

 失礼では?と言う顔をするヴィルヘルミナに、フェリシアは大丈夫!とうなずく。


「フェリちゃん、どこかに行くの?」

 少し晴れた顔をした冬華とうかと、疲れたようにため息をつく昊斗そらとが、廊下の陰から出てくる。

「今から、マーナ様に会いに行こうと思うんですが、トーカさんも行きますか?」

「そうだね、私もゆっくり話を聞いてみたいことがあったしね」

 

 マーナの部屋は城内でも、他の部屋から離れた場所にあった。

 祭事巫女の性質上、雑音の少ない方がいいとされているからだ。


 フェリシアを先頭に、マーナの部屋の前まで来ると部屋の前に、多くの荷物が出されていた。

「よいっしょ・・・・」

 重そうな荷物を部屋の外に置き、痛くなった腰を叩くマーナ。部屋へ戻ろうとした際、フェリシアたちに気が付く。

「これは・・・・姫様、それにヴィルヘルミナ様も・・・このような所にわざわざお越しいただかなくても、お呼び頂ければ、私の方から出向きましたのに」

 70近い年齢ながら、歳を感じさせない立ち振る舞いをするマーナ。 

「マーナ様・・・・お部屋の模様替えですか?」

 ドアの隙間から部屋の中が見え、フェリシアの記憶にある部屋と照らし合わせると、かなりすっきりしていた。


「まだ、陛下からお聞きにはなっていないのですね?」

 痛々しく見える笑みを浮かべ俯くマーナに、フェリシアの心の中に不安が広がる。

「えっと・・・・何をですか?」

「姫様、このマーナ・・・・・この度、祭事巫女の任を退くことにいたしました」


 その言葉に、フェリシアの顔から表情が抜け落ちてしまうのだった。

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