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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
学園の姫君たち 合同学園祭 編
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(15) 超人促進薬(合同学園祭 三日目⑦)

 何事もなかったように、鞘を腰に下げ直し昊斗そらとがヴィルヘルミナたちの下へ歩いていく。

「オ、オクゾノ殿・・・怪我はないのか?」

 近くで確認するが、やはり昊斗そらとが無傷だと分かり、面々は驚きを隠せなかった。

「30人程との戦闘で怪我するほど、ヤワじゃないさ」

 昊斗そらとの基準に、フローラとペトラはめまいを覚える。


「とりあえず、全員無事・・・・て、アンナさん。その頬・・・」

 父親に殴られ赤黒く腫れた頬。未だに疼くような痛みがあるが、アンナは少し目を伏せる。

「大丈夫です・・・・大した怪我ではありませんから」

すると、昊斗そらとがそっと、アンナの腫れた頬に触れる。

「え?!あ、あの・・・」

 男性に触れられる経験の少ないアンナが、突然のことに狼狽する。

「・・・・・・・・・これで、痛みは無くなったはずだ。回復系は冬華とうかの方がうまいから、合流できれば跡が残らないように治してもらえる」

 昊斗そらとが手を離すと、彼の言うとおり痛みは嘘のように消え、心なしか腫れも引いていた。

 昊斗そらとが触れていた頬を触り、アンナが頬を紅色に染める。


 彼のさりげない行動に、騎士の二人が唸る。

(・・・・・オクゾノ殿のあれは、天然か?)

(どうだろう・・・・でも、フレミー殿が憧れている理由は、何となく分かる気がする)

 先ほど”女の子”扱いされた二人が、思い出したように顔を赤らめる。


「よし、敵の増援が来る前にここを離れよう。戦闘はほとんど終わっているようだし、アイディール学園まで安全に移動できるだろう」

 機動端末の映像を見ながら、学園までの道のりを確認する。


「離れるのはよろしいですけど、乗り物は?まさかとは思うけど、わたくしに歩け、と言わないですわよね?」

 ヴィルヘルミナが、周りを見渡す。

 昊斗そらとたちは、倉庫区まで”走って”きたので、当然のごとく乗り物などない。犯人たちが使っていた動力車は、先ほどの戦闘の余波で完全に壊れていた。

「アイディール学園まで大した距離ではないだろ?それに、フェリシアなら歩くぞ、このくらい」

「お、お姉さまとわたくしを一緒にしないで下さらない!?」

 フェリシアの名前を出され、憤慨するヴィルヘルミナ。


「・・・・ところで、この者たちはどうされるのですか?」

 フローラが、倒れている武装集団の若者たちに視線を向ける。


「放っておく。俺たちの目的は、あくまで皇女たちの奪還だ。彼らを捕まえる、なんて欲を出したりして、下手をすれば全員の命を危険に晒す可能性もある。皇女誘拐の犯人がここに居ると判れば、騎士団もこの倉庫区に入ってこれるだろうし、対応もしてくれるだろう」

「わ、わかりました」


 立ち去る昊斗そらとたちに、倒れている若者たちが声を上げる。

「逃げるのか?!」

「我々は諦めないぞ!!」

「ここで我々を見逃したこと、後悔させてやる!」

 口々に罵詈雑言並べる者たちに、フローラとペトラが武器を構える。


「・・・・・・ここで諦めておけ、お前たちの顔は全員覚えた。もし今度、俺や知り合いの周りでその顔を見かけたら、自分がいつ死んだのか理解できない速さで殺してやる」

 昊斗そらとから陽炎のように立ち上る殺気に、全員が硬直する。

「行こう」

 歩き出した昊斗そらとに、他の面々も続く。 


「臆するな!!我らの行動に、民族の未来が掛かっているのだ!!たとえ我らがここで朽ち果てようとも、後に続くものは現れる!!その者たちに道を示せ!!!」

 倒れている中で、歳の行っている男が絶叫のような声を上げる。

 昊斗そらとの殺気に当てられ、硬直していた犯人たちがもそもそと動きだす。


 昊斗そらとが身構える。犯人たちには、身動きが取れないように、高周波ブレードのスタン機能を使って自由を奪っていた。指一本動かせないはずの彼らが動いていることに、昊斗そらとが警戒レベルを引き上げる。


 だが、犯人たちは小さな小瓶、というより医薬品のアンプルを取り出した。

「?!あ、あれって!!」

「あ、あり得ない!!なぜ、奴らはあんな物(・・・・)を持っている!!」

 声を上げたのは、フローラとペトラの二人。

「あれが何なのか、二人とも知っているのか?」

 昊斗そらとの問いに、二人は聞こえていないのか答えることなく、犯人たちへ奔る。

「やめなさい!!それを飲んだら・・・・・・」

「くっ・・・・・・」

 手を伸ばす二人を尻目に、全員がアンプルを開け一気に煽る。


「・・・・・・!!?があああああああああ!!」


 一拍置き、全員が苦しむように叫びながら地面をのた打ち回る。


 間に合わなかった、と唇を噛む二人が犯人たちから一気に距離を取る。

「二人とも、あいつらがさっき飲んだモノが何なのか、知っているんだな?」

「・・・・・超人促進薬バーサーカー・アンプル

 昊斗そらとの二度目の問いに、憎らしげに吐き捨てるペトラ。

「バーサーカー・アンプル?」

「帝国の研究機関で軍用に開発された肉体強化薬です。開発当初は、軍の戦力強化に一役買うと期待されていたのですが、出来上がったモノはとんでもない”劇薬”でした。一定量の服用なら、確かに効果があるのですが、徐々に服用量を増やさないと効果は持続しなくなり、ある上限を超えるか一度に大量の服用をした瞬間、副作用が起きるんです・・・・・それが、あれ(・・)です」


 説明するフローラの視線の先で、犯人たちがヨロヨロと立ち上がり始めた。中には足を骨折している者もいるが、痛みを感じていないのか構わず立ち上がる。

 全員の目が、常人のそれとはまったく違っており、焦点が合わないのか眼球が痙攣している。


「オクゾノ殿、気を付けてくれ。ああなっては、彼らはすでに人間(・・)ではない」

 構えるペトラの顔を、汗が流れる。

 そして・・・・・


「ああああああああ!!!」

「ぎゃぁあああああ!!」

 狂乱した犯人たちが昊斗そらとたちに向かって迫ってきた。

「!?」

 ホラー映画かパニック映画のような光景に、ヴィルヘルミナやアイリスが声にならない悲鳴を上げ、アンナが二人を抱きしめる。

「フローラ!すまないが、時間稼ぎを頼む!」

「いいけど、1分も待てないからね!オクゾノ殿は、姫様たちをお願いします!!」

 フローラは、両手に固定してある銃のセーフティのロックを外し、迫りくる犯人たちへ突撃する。


 膝をついたペトラが、両腕に装着しているパーツを外し組み立て始める。

「大丈夫なのか?彼女一人で。あのくらいなら俺一人でも・・・・」

「たしかに、30人の敵を相手に無傷だったオクゾノ殿は強い。それは認めるが、あれは違うんだ」

 組み立てながら、ペトラは何かを思い出すように苦痛の表情を浮かべる。

「それに、我々はあれを何度か(・・・)駆除している。あれとの戦闘経験は我々方が上だ」


 視線を、突っ込んでいったフローラへ戻すと、戦端が開かれていた。

 30もの化け物が、フローラへ向かって殺到する。

 フローラの目から光が消え、右側の銃口を犯人たちへ向け躊躇なくトリガーを引く。

 発射音と共に、数人が血しぶきと肉片をまき散らしながら吹き飛ぶ。


 フローラは、すぐに別の標的へ左側の銃口を向け、トリガーを引く。

 再び、数体が肉片へと変わる。

 四方八方から掴みかかる手を払い除け蹴り除け、そして両腕の銃が交互に火を噴く。その姿は演舞を披露する踊り子にも見える。


「銃・・・しかも、ショットガンによる銃格闘術か」

 様々な世界を渡り歩く昊斗そらとは、同じようなモノを数多く見てきており、すぐに看破した。

「そう、基は異世界から入ってきた戦闘術なんだが、フローラのお師匠が改良を加えたものさ。あのコンバット・スーツを着ているからなせる技と言える・・・・さて、私も行こう」

 組みあがった武器を手に、ペトラが立ち上がる。

 その手に握られていたのは、戦斧・・・それもバルディッシュと呼ばれる半月状の刃を持つ斧だった。だが、通常の戦斧と違い、刃と反対側にはゴテゴテと機器がくっ付いている。

「・・・・フローラ!!」

 名を呼ばれ、銃を乱射し続けるフローラが、地面に張り付くように伏せる。

「パァンツァーーーー!!」

 腰を落とし構えたペトラの掛け声と共に、戦斧が甲高い音を響かせ備え付いた機器・・・ブースターが作動しそのまま彼女の身体ごと敵中へ吹っ飛んでいく。

「はあああああ!!!」

 飛んでいく勢いのまま、ペトラが独楽のように回転し、犯人たちを切り倒していく。


 ”竜巻”と化したペトラが通り過ぎた後には、首や胴体を両断された死体が転がっている。

「まだまだ!!」

 

 ブースターを反転させ、回転の勢いを相殺するペトラ。驚異的な三半規管を持つのか、目を回すことなく通り過ぎた方へ走り出す。

 撃ち漏らした敵を、戦斧の重さを生かして切り伏せる。


「もう!ペトラは相変わらず強引なんだから!」

「何を言っているんだ、”嵐の娘(テンペスティア)”と呼ばれるフローラに比べれば、私のなどつむじ風だろう?」

「よく言うわ、あなただって”首狩り魔女”なんて言われてるでしょう!」

「それに関して言えば、わたしにとっては不本意だ!!」

 そんなことを言いつつも、息の合った連係で敵の数を減らすフローラとペトラ。



 そんな姿を、昊斗そらとたち以外に見ている者がいた。

「なんなんだ、あれは!」

 画面に映る外の状況に、テロリストのリーダーにしてアンナの父親が画面を叩き怒りをぶつける。


 彼らに武器を提供した武器商人”ウィスパー”から、今日になって持ち込まれたとっておき。帝国軍が使っている(・・・・・)という、ドーピング剤。もしもの時に使うといいと言われたそれを、男は受け取りを拒否したはずだった。

「一体誰があんなものを受け取ったんだ!?」

 その時、彼の下に通信が入る。

『・・・・どうも、雲行きが怪しいようだな』

 通信機から聞こえてきたのは、武器商人ウィスパーの声だった。

「貴様!ぬけぬけと・・・・あれはなんだ?!ただのドーピング剤ではないだろう!!」

『いいや、ドーピング剤だよ。使用者を強靭的な戦士へと変質(進化)させる、ね・・・・・そのことを貴殿の部下に話したら、喜んで受け取ったよ』

「利用とは・・・このことだったのか?!」

『違うな。彼らに渡したものは”商品”だ。すでに、十分なデータは取ってある。”試験”はこれからだ』


 男がいる空間に、小さな機械音が鳴る。 

「?・・・!!なんだ?!」

 首筋に痛みを感じ、咄嗟にその部分を押さえる。

『貴殿が、受け取らないことは予想済みだったのでね・・・・・そこ(・・)に仕掛けを設けていた。貴殿には、特別製の実験台になっていただこう』

「ま、待て!!・・・・・・・がぁああ・・・・・」

 男の全身に、痛みにも似た感覚が走る。


『安心しろ・・・部下たちと一つ(・・)になれるのだ。貴殿にとって喜ばしいことなのだろう?』

「ふ・・ふざ・・ああああ!!」

『・・・・・さぁ、行こうか?同志(モルモット)よ』


 外では、ヴィルヘルミナの騎士二人の手によって、狂人となった犯人たちを全員の命は絶たれていた。


「あ、あれが・・・・・わたくしの騎士たち?」

 初めて見るフローラとペトラの戦闘に、ヴィルヘルミナの声は震えていた。


 返り血を浴びた二人に、昊斗そらと創神器ディバイスから大ぶりのタオルを取り出し、二人に渡す。

「女の子がそのままじゃ、あんまりだろ?」

 再び女の子扱いされ、本格的に籠絡され始めた二人の顔は、戦闘後の熱で赤いのかどうか判断付かなかった。


「!全員、倉庫から離れろ!!」

 突然、昊斗そらとが叫ぶ。バイザーの画面には警報マークが点灯している。


 すると、倉庫の壁を突き破り、巨大な物体が姿を現した。

「おいおいおいおい・・・・それは、無いだろう。いくらなんでも、カオス過ぎだぞ」

 現れた物体を見て、昊斗そらとが呆れたように声を上げる。

 現れたのは、科学技術の進んだ世界で必ずと言っていいほど見かけた、全高5メートルの二足歩行型攻撃兵器だった。だが、どの世界で見たモノと比較しても、昊斗そらとには完成された機体に見えた。


「もしかしてだが、あれも帝国製じゃないよな?」

 昊斗そらとと違い、茫然としている帝国の人間たちは魂が抜け落ちているようにも見える。

「・・・・・あれは、帝国軍機械化部隊用に開発が進んでいる実験兵器です。なんであんなものが・・・・」

 絞り出すようにフローラが声を上げる。


『・・・・・・・』

 ノイズ音と共に、外部スピーカーから荒い息遣いが聞こえてくる。

「この声って・・・・」

 アンナの顔色が、一気に変わる。


『ぎゃああああああああ!!』

 男の絶叫が倉庫区内に響き渡る。

 あまりの音の大きさに、昊斗そらと以外が耳を押さえる。


「・・・・・?!おい、フローラ。あれ・・・・」

 信じられないと言った表情を浮かべるペトラの指さす方を見たフローラが、絶句した。


 先ほど二人が殺した犯人たちの亡骸が動きだし、肉体がドロドロの肉の塊となり、一つにまとまっていく。

 巨大な肉の塊となった元犯人たちが、まるで意思を持つかのように二足歩行兵器へ近づき、まとわりつく。


「ド、ドラゴン・・・・?!」

 ヴィルヘルミナが目にしたもの。それは、物語に語られるドラゴンそのものだった。


「随分と、応用の幅を持った薬だな」

 呆れと感心が混ざったような昊斗そらとの言葉に、ペトラが即座に否定する。

「違う!少なくとも、私たちが知っている超人促進薬バーサーカー・アンプルには、あんな機能はなかった!!」

「となると、品種改良されたモノか独自に開発されたモノか・・・・とはいえ、今調べるのは難しいか」


『があああああああ!!』

 先ほどの外部スピーカーから、雄叫びが響く。それは、まさにドラゴンの雄叫びそのものだ。


「二人とも、今すぐ全員連れてこの場を離れろ」

 その言葉に、その場の全員が絶句する。

「な、何を言っているのですか?」

「あの実験兵器は、対人・・・しかも術士殲滅を念頭に開発されている。それが、正体不明なものへと変質した以上、戦闘は避けるべきだ」

 

 だが、昊斗そらとは二人の騎士の静止を振り切り、ドラゴンへと変わった兵器の前へ歩み出る。


「心配するな、こういった手合いとは、嫌と言うほど戦ってきている」

 腰から下げた高周波ブレードを抜き放ち、不敵な笑みを浮かべる昊斗そらと


 その後ろ姿は、まるでドラゴン退治に向かう戦士のようだった。

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