(2) イレギュラー
グラン・バースは、大神と呼ばれる存在を中心に、火の神”カグツチ”水の神”ルドラ”風の神”ウェンティ”地の神”クロノス”の四柱の神によってバランスを得ている。
四柱の神たちは、世界の気候を制御し、世界中に存在する精霊を生み出す者とされ、グラン・バースに住む人々にとって、身近な存在であり、信仰する対象でもあった。
そして、大神はグラン・バースと言う世界を作り出し、四柱の神を統べる存在であり、異世界人を召喚する元締めである。
なぜ、大神が異世界人の召喚を行い始めたかは定かではなく、今ではごく自然なことと、グラン・バースの人々に受け入れられていた。
ドラグレアの小屋へ戻る道中、昊斗と冬華はフェリシアたちから簡単にグラン・バースのことについて教えてもらっていた。
自分たちが、大神と呼ばれる存在によって、異世界”グラン・バース”に召喚されたことを聞かされ、昊斗はあることを思い出した。
『わしの創造った「グラン・バース」という世界で、面倒が起きての』
昊斗たちが直前に出会った老人。異世界に召喚された際に混乱していた為か、老人のことを忘れていた昊斗だったが、
――て、ことはあの爺さんが大神だったってことなのか?
と、思い至った。
そう考えれば、いろいろと納得できる。
横を歩いている冬華も、考え込んでいたが同じタイミングで昊斗を見た為、同じ考えに至ったのだろうと、昊斗は考えた。
「それにしても、召喚に関する神託・・・・・ありました?」
昊斗と冬華の存在に興奮していたフェリシアだったが、頭の中が冷静になったらしく疑問を口にした。
「彼らが召喚される直前に、王都から連絡があった」
フェリシアが出かけた後に、王都から緊急に連絡が入っていたことを伝えるドラグレア。
「ああ!だからドラグレア様はお二人のことを伝えた時、驚かれなかったのですね」
ドラグレアに異世界人がやってきたことを伝えに行った時、彼が焦る素振りを見せなかったことを、不思議に思っていたフェリシアは、腑に落ちポンと手を打った。
そんなフェリシアに、ドラグレアは呆れるように短く息を吐いた。
「お前があれだけ浮かれていたら、冷静にならざるを得んよ」
庵に飛び込んできたフェリシアは、興奮のあまり何を言っているのか要領を得ず、落ち着かせるに往生した、とドラグレアは意地の悪い笑みを浮かべ振り返る。
「!!」
その時の自分を思い出したのか、フェリシアの雪のように白い肌が、紅を注したように染まり俯いてしまう。
「それはさておき・・・・今回の召喚に関して、おかしな点がいくつかあるのが気になるんだがな」
ドラグレアが、後ろを歩いていた昊斗と冬華を鋭い目つきで射抜く。
「あ、あの・・・・それってどんな?」
二メートル近い身長に、ルビーと言うより血の様な赤い瞳のドラグレアに睨まれ、恐怖に顔を引き攣らせながらも、冬華は恐る恐る聞いてみた。
「まず一つ。召喚は前もって神託として祭事巫女に伝えられるんだ。だが、先ほど言った通り今回は召喚される直前にルーン王国の【祭事巫女】に神託があった。まぁ、これは前例が無いわけじゃない。二つ目は通常、召喚された異世界人には予め翻訳の術が掛かっている。これは召喚の際に大神によって翻訳の術が掛けられているんじゃないかと言われているが、二人にはそれが無かった。そして最大の疑問が、召喚される異世界人は必ず、『基点者』と呼ばれるグラン・バース側の人間の下へ召喚されるんだ。だが、二人は・・・・・」
そういって、ドラグレアの目線は昊斗たちからフェリシアへ移る。
「?フェリシアさんがその”ポインター”じゃないんですか?」
冬華が、フェリシアの方を見る。
しかし、フェリシアは首を横に振った。
「いいえ、基点者は各国に一人しかいません。そしてこの国の基点者は国王である私の父なんです。だから、お二人はお父様の下に召喚されないとおかしいんです」
何気に自分は王女だと明かしたフェリシアだったが、昊斗たちは気づくことなくスルーしてしまった。二人が驚いてくれることを期待していたフェリシアは、少しがっかりする。
自分たちが、異例尽くしの異世界人だとなんとなく理解できた昊斗と冬華。
そうこうしていると、ドラグレアの工房である庵に到着した。
*********
「・・・・・・・」
キッチンで、お茶の準備をするフェリシアが浮かない顔をしていた。
「なんだ、自分が王女だと遠回しに言ったのに、気づいてもらえなかったのがそんなにショックだったのか?」
遅れて入ってきたドラグレアは、ニヤニヤとフェリシアの出方を見る。彼の言葉に、フェリシアはバレてはいけない人物に筒抜けだったことに、しまった!と焦る。
「な・・・・!違い・・・・ませんけど、そうじゃありません」
しかし、すぐに表情が沈むフェリシアに、ドラグレアも茶化すことをやめ、真剣な面持ちとなる。
「なら、どうした」
お茶請けのお菓子を棚から出しながら、フェリシアが短く息を吐いた。
「・・・お二人は、これからどうなるんでしょうか?」
キッチンの外で待っている異世界人二人。
前例のない召喚でやってきた彼らが、通常の召喚でやってきた異世界人と同じように取り扱われるのか、フェリシアは心配していた。
フェリシアの心配を聞き、ドラグレアはキッチンの外を一瞥し、頭を掻く。
「最終判断は、国王であるお前の父が下すが・・・・・・正直、あまり芳しくはないだろうな」
感知能力に優れたドラグレアとフェリシアが、二人の異世界人の若者たちから感じた”空虚感”。これは、特別な力を一切持たない普通の人間だということを指していた。
グラン・バースにとって、召喚によってやってくる異世界人に求めるものは、純粋に”力”だった。大神が連れてくる”客人”ではあるが、各国にとって自国に利をもたらさない者なら、はっきり言って邪魔な存在でしかなかった。
「あいつが、いきなり二人を放り出すことは考えられないが、周りの者は黙ってはいないだろう」
「・・・・・・・」
フェリシアも、自分の大好きな父親が非人道的な行いをするとは考えられなかった。しかし、大臣や有力貴族たちはどう出るか、予想できなかった。
「まぁ、こちらも”予定”があるしな。王都に帰るまでの少しの時間で、対応を考えるしかない」
「はい・・・・・」
準備を終えたティーセットを持ち、二人は昊斗と冬華を待たせている応接室へ向かった。
********
フェリシアたちがキッチンで話をしていた時、昊斗と冬華は通された応接室で、お互いの考えをすり合わせていた。
「やっぱり、あのお爺さんが大神だとしたら、私たちはこの世界で起きている問題を解決しないといけないってことなのかな?」
「どうだろ・・・・・もし、本当に問題があるとして、どうして俺たちなんだ?普通の大学生に出来ることなんてたかが知れてる」
昊斗も冬華も、飛び抜けて身体能力が高いわけでもなく、魔法や超能力と言った特別な力も持っていなかった。
そんな自分たちが、どうして選ばれたのか理解できなかった。
「この世界に来て、私も奥苑君も眠っていた力に目覚めるとか?」
そんなご都合主義的なことが運よく起きるとも思えないが、実のところ昊斗も同じことを考えていた。
「・・・・・もしかして、棗さんもファンタジー小説とか、読んでる?」
昊斗の言葉に、冬華が笑顔で頷く。
「高校の時の友人の影響でね・・・・奥苑君はどう?」
「俺は、妹がのめり込んでて・・・・大学に入って実家を出るまで、毎日勧められていたよ・・・」
お互いに、似たような環境だったことが分かり、笑いあう二人。
「しかし、これで元の世界には帰れないって言われたら、鉄板だな」
「そうだね~。でも一度は、言われてみたいシチュエーションだよね」
そんな話で盛り上がる中、キッチンに行っていたフェリシアとドラグレアが戻ってきた。
「すみません、お待たせしました」
フェリシアが、テキパキと応接室のテーブルにティーカップなどを準備し始める。
準備が終わり、タイミングを見ていたドラグレアが口を開いた。
「最初に、お前たちが聞きたいであろう質問の答えを言っておく・・・・・召喚された異世界人は、元の世界に戻る可能性はゼロに近い」
突然の言葉に、二人は手にしようとしたカップを取り損なう。フェリシアは、何て事を!といった驚愕の表情を浮かべ、ドラグレアへ詰め寄ろうとする。
そんなフェリシアを、ドラグレアは手で制し、昊斗たちへと視線を戻した。
「これは俺の経験だが、この事実を知らされるのが遅ければ遅いほど、ダメになる奴が多い。下手な希望を持たせることのほうが、無責任というものだ。だから、伝えた」
突き放すように言い放ち、ドラグレアは言葉を切った。
フェリシアは、どうフォローを入れればいいか、お盆を持ったままアワアワとしていた。
が、昊斗と冬華は、驚くというより呆れた顔をしている。
「・・・・さすがに、ここまで来ると出来すぎだよな」
座っている椅子の背もたれに体重を預けながら、昊斗は天を仰いだ。
「奥苑君もそう思った?」
冬華も、苦笑しながらフェリシアの淹れたお茶に口をつける。
二人の様子が思っていたものと違い、フェリシアはあれ?っと首をかしげた。
「えっと、ですね。私たちの世界には、今の私たちと同じような状況に陥る主人公を題材にした物語が多くあるんです。異世界に召喚されて、元の世界に帰る手立てもなくて、召喚された先の世界で生きていくことを余儀なくされるって感じで・・・・、まさか、さっきまで二人で話ていたことが本当になるとは思わなかったので」
フェリシアの疑問を感じ取った冬華の説明に、昊斗がうなずく。
「さすがは異世界・・・期待を裏切らないな」
あはははは、と笑う二人。
フェリシアの頭の中は、現在進行形で混乱の只中にあった。
聞いていた異世界人の反応と、昊斗と冬華の反応があまりにも違った。
帰れないと聞かされた異世界人の反応は、泣き叫ぶか怒って暴れるか、そういったネガティブなものがほとんどなのだ。
だが、昊斗と冬華は笑っている。
あり得ない反応を見せる二人に、フェリシアの頭はさらに混乱に包まれた。
「あの・・・・お二人とも元の世界に帰ることが出来ないんですよ?驚かないんですか??」
不謹慎と思いつつも、どこかで通例を期待していたフェリシアだったが、冬華の言葉に逆に驚かされることとなる。
「驚いたり、慌てたりしたって帰れる訳じゃないからね。どちらかと言えば、私は王女様がお茶の準備してた方が驚いたかな?」
「・・・・・・ええ?!」
冬華の言葉に昊斗も頷き、まさかスルーされていたと思っていたフェリシアは、恥ずかしくなり顔を隠してしまう。
「・・・ふ、ふはははははははは!!」
今まで黙っていたドラグレアが、突然声を上げて笑い出した。
何事かと、三人が驚いて彼の方を見る。
「こっちの予想を上回ってくるなんてな・・・・オレでさえ召喚された時は、それなりに動揺したんだぞ?」
くくく、と笑いをこらえるドラグレア。
「・・・・・俺たちのこと試していましたね?」
そんなドラグレアを、昊斗は「やっぱりか」と半眼で睨む。
「ほう、気が付いていたのか?」
自分の意図を読み取っていた昊斗に、ドラグレアは素直に驚きを見せた。
「まぁ、似たようなシチュエーションが知ってましたから、小説ですけど・・・・ってドラグレアさん、異世界人なんですか?!」
サラッと暴露された事実に、昊斗と冬華が驚きの表情へ変わる。
「ああ、言ってなかったか?そういった意味では、オレはお前さんたちの先輩になるかな」
「・・・・・・」
帰れないことを告げられたことより驚く二人に、再び笑うドラグレアだった。
「・・・・・本当なら、今すぐにでも王都に戻り色々と二人を調べたいんだが、オレもフェリシアも今ここを離れるわけにはいかなくてな。事情を知らない騎士団の奴らには任せられんし、かといって右も左も分からないお前たちを王都へ送り出すのは以ての外。オレたち・・・・というより、最低でもフェリシアの用事が済むまで待ってもらうしかない。お前さんたちも、自分たちの常識が通じない世界に、放り出されるのは嫌だろう?」
とりあえず、今後のことの予定を告げられた昊斗と冬華。
先ほど王都から二人を連れてくるよう指示が出たらしく、当初は身動きが取れないドラグレアたちの代わりに、近くの騎士団支部の職員が王都まで同行する手筈だったのだが、ドラグレアとフェリシアが断固拒否したため、昊斗たちは二人の用事が済むのを待つこととなった。
「それじゃ、お世話になります」
「フェリシアさん、仲良くしてくださいね」
「はい!」
何とか立ち直ったフェリシアが、嬉しそうに昊斗と冬華を部屋に案内する姿見て、ドラグレアは友人である彼女の両親に、帰ったらいい話ができそうだと、笑みをこぼした。
8/10 内容を一部改稿。