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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
学園の姫君たち 合同学園祭 編
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(14) 少女の復讐、皇女の過去 信じる心 (合同学園祭 三日目⑥)

 帝国内では、国民に対しランクが設けられている。

 建国時から暮らす純粋な帝国国民である”臣民”。

 その下には、帝国に併合された国の国民だった者たちに振り分けられる”一等属民”・”二等属民”・”三等属民”とあるのだ。

 基本的に、属民から臣民にはなれないが、帝国に対し忠誠と働きを見せた属民には、名誉臣民と言われる特別枠が設けられていた。


 ちなみに、アンナは名誉臣民で、ペトラとフローラは一等属民である。


 テロリストに連れて来られた少女は、帝国において今では希少となった純粋な臣民である。

 そんな彼女が、三等属民などで構成されたテロリストと行動を共にしていることに、ヴィルヘルミナたちは驚きを隠せなかった。


「もしかして、あなたも捕まって・・・・」

「わたしは、自分の意志でここにいる」

 アンナの言葉を遮るように、少女が否定の言葉を口にする。


「臣民でありながら、帝国を裏切るなんて、恥知らずですわ!」

 声を荒げるヴィルヘルミナに、少女は何処までも冷たい視線で見つめる。

「・・・・・何も知らない箱入りのお姫さまに、私の気持ちは分からない・・・・帝国に親を殺されたわたしの気持ちなんて、絶対に!」

 少女はそう叫ぶと、ヴィルヘルミナの額を鷲掴みする。 

「何をするつもり?!」

 アンナに問われた少女は、振り向くことなく口を開く。

「皇女の記憶を全部読み取るの、それだけ」

「わ、わたくしの記憶を?!なぜ、そんなものを欲しがるの!?」

 少女の言葉に、ヴィルヘルミナが狼狽する。

「知らない、彼らが欲しがっている理由なんて。わたしはただ、帝国に復讐出来れば、それでいい・・・・・メモリア」

 少女の後ろに精霊が現れる。

 それはまるで、ローブを纏った魔術師のような姿で漂っている。

「ま、まさか・・・特殊属性の精霊?!」

「この子に出来ることはたった一つだけ。わたしが触れた人間の記憶を読み取り、わたしにみせること・・・それだけ」


 意識を集中させようしたとき、少女はヴィルヘルミナが震えていることに気が付いた。

「やめて・・・・」

 つぶやかれた懇願を少女は無視し、ヴィルヘルミナの記憶の中へ入っていった。



 同じころ、フローラとペトラの二人と別れ、陽動の為に屋根伝いに倉庫の正面までやってきた昊斗そらとが、眼下の様子を窺っていた。

「1、2、3・・・・正面に5人。武装はさっき倒したゴロツキたちと大差なし、か。それじゃ、派手に行きますか!!」

 バイザーの画面内の敵全てに、ロックオン表示が付く。

 昊斗そらとは、高飛び込みの選手のように放物線を描きながら、ブレードの柄を握りしめ、手近な相手へ落下していった。


***********


 優しい家族に囲まれ、幸せそうな光景。それが、少女が最初に見た皇女ヴィルヘルミナの記憶だった。

 それは、自分の家族と何ら変わりないものだと、少女は思った。

 厳しくも優しい父に、微笑みを絶やさない母。賢く信望の厚い上の兄に、乱暴だがヴィルヘルミナを必ず守ってくれる下の兄。そんな家族に囲まれ、彼女は健やかに育っていった。


 記憶の映像が突然変わり、雨が降り遠くでは鎮魂のために教会の鐘が鳴り響く中、葬儀の列が進んでいく。沿道には、喪に服した国民たちが傘も差さずに泣き崩れている。

(これ、ニュースで見た・・・・・たしか、皇后の葬儀だ)


『お母様・・・・』

 教会内着き、棺の前で、ヴィルヘルミナが泣いていた。中には、まるで今にも起きそうな、彼女の母である皇后が横たわっている。


(?!・・・・・なにこれ?)

 少女が呆気にとられる。

 なぜならその光景を、少女はヴィルヘルミナとして見ていたからだ。

(わたしが・・・・・皇女の中に入っている?!)

 少女の契約する精霊は、契約者に対象の記憶を、俯瞰として見せることしかできない。なので、今のように、対象の目線で見ることはありえないのだ。


『ミーナ・・・・さぁ、母上にお別れを』

『待って上兄様!!わたくし、まだお母様と・・・・!下兄様!離してください!』

『ヴィー!・・・もう、母さんを休ませてあげるんだ』

 棺の蓋が閉じられ、皇后の棺が教会内の埋葬室へ入れられる。


 静かに涙を流す二人の皇子と、兄にしがみつき泣き叫ぶヴィルヘルミナとは対照的に、夫であり三人の父である皇帝は涙ひとつ見せず、棺を見送る。


 ヴィルヘルミナの感情が、少女の中へ流れ込んできた。

(わたしもそうだった・・・・・でも、あなたはまだいい。お母さんと”お別れ”が出来たんだから)

 そう言って少女は、唇を噛みしめる。


 さらに場面が変わる。

『お父様が?』

 皇后の葬儀から1週間。上の兄であるライナルトが、ヴィルヘルミナの部屋へやってきた。

『あぁ、葬儀では気丈に振る舞っておられたが、父上は母上を深く愛しておられた。ここ数日、塞ぎこまれて部屋から出られていないのだ』

『そう・・・だったのですか』

 ヴィルヘルミナも、母の死が受け入れられず、ずっと塞ぎ込んでいた。


『私やディートが見舞いに行っているのだが、芳しくなくてな・・・・お前も辛いのは承知しているのだが・・・』

『・・・上兄様、お気遣いありがとうございます。お父様の悲しみは、わたくしにも分かります、ですから・・・・』

 それだけ言って、笑顔を見せるヴィルヘルミナ。

『・・・・すまない』 

 

『お父様、ヴィルヘルミナです。中に入ってもよろしいですか?』

 父の部屋にやってきたヴィルヘルミナがドアをノックするが、返事がなかった。

『・・・・・お父様、入りますわね?』

 ゆっくりと扉を開けると、昼間だと言うのに部屋の中は薄暗かった。

 中へ入り見渡すと、ベッドの脇の置かれた椅子に、皇帝が力なく座っている。

『お父様、ライナルトお兄様から聞いてやってまいりました。お加減はどうですか?』

 椅子に座る父に近付き、声を掛けるヴィルヘルミナ。

 そこには、威厳に満ちた皇帝()の姿はなく、憔悴しやつれた中年がぽつんといるだけだ。

『お父様・・・・・』

 見たことのない父親の姿に、ヴィルヘルミナが心を痛める。その時だ。


『・・・・・・ベル?』


 皇帝が、ヴィルヘルミナの方へ振り向いたかと思うと、突然彼女をベッドへ押し倒した。

『お、お父様!?』

 あまりのことに、ヴィルヘルミナは目を見開く。

『あぁ・・・・ベル。私の可愛い君。戻ってきてくれたんだね・・・』

『な、何を言っているのですか、お父様?わたくしは、お母様でありません!』

 ベルとは、亡くなった皇后イーザベルの愛称である。ヴィルヘルミナは、たしかに母親似ではあるが、まだ幼い彼女を、妻と間違えるには些か無理があった。

『ベル・・ベル!!』

 皇帝は、ヴィルヘルミナの胸元を握ると、強引に彼女のドレスを引きちぎった。

『・・・・いやぁぁぁぁーーーーーー!!!』

 父親に襲われ、状況の呑み込めないヴィルヘルミナが遅れて叫ぶ。

『ベル・・・・やはり君は美しい・・・・』

 暴れるヴィルヘルミナを組み伏せ、皇帝が娘の身体を弄る。

『やめてくださいお父様!!お願いです、いや・・・!!』

 必死に抵抗し、涙の流れるヴィルヘルミナの目に映ったのは、怪しい光を瞳に宿した父の姿だった。


『一体なんの・・・?!父上!!何をなさっているのですか!!』

『父さん!?ヴィーに何やってるんだ!!』

 部屋に入って来たライナルトと第二皇子のディートハルトが、信じられない光景を目の当たりにし、父親をヴィルヘルミナから引きはがす。


『離せ!!何をするんだ!!ベル!ベル!!』

『!?・・・ディート、父上は私が抑えておく。今のうちにミーナを!』

『わ、分かった!』

 ベッドの上で、父にドレスを引き裂かれ素肌を露わにし、身を縮めすすり泣く妹を見て、ディートハルトが苦痛に満ちた表情を浮かべる。


『・・・・ヴィー、もう少し辛抱してくれ』

 シーツで、妹の身体を覆い、小さな身体を抱きかかえ部屋を後にするディートハルト。

 ヴィルヘルミナの耳に、必死になにかを叫ぶ、父の声がこびりついて離れなかった。


*********


「いやぁぁぁぁぁ!」

 少女が、ヴィルヘルミナから手を離し、叫びながらおぼつかない足取りで下がる。


 ヴィルヘルミナは、涙を流しながら震えていた。

「そ、そんな・・・・どうして・・・・」

 少女も、先ほどの光景と感触を思い出し震える。

 彼女にとって、”父親”とは自分を守ってくれる大きな存在だった。それはヴィルヘルミナも同じだと、記憶を覗いて分かった。


 そんな頼るべき父親に襲われ凌辱されそうなるなど、14年しか生きていない少女には、理解の範疇を大きく外れる出来事だ。

「見たのね・・・あれを」

 震える声でヴィルヘルミナに問われ、少女は小さく何度もうなずく。


「そう・・・でも、わたくしも見ましたわ。アイリス(・・・・)、あなたの記憶を」

「え?・・・・・な、何で言って」

 ヴィルヘルミナが何を言っているのか、アイリスと呼ばれた少女は呆けてしまう。

「優しい両親が死んで、その両親が残してくれたモノを、全て”親戚”を名乗る者たちに奪われ、引き取ってくれた祖父母も、結局あなたを捨てた・・・・・誰も信じられず、彷徨った挙句に、先ほどの男に拾われた。”家族”のいるわたくし以上に、あなたは過酷な運命を歩んでいるのかもしれませんわね」

 アイリスの頭の中が、真っ白になる。ヴィルヘルミナの言ったことは、全て真実だからだ。

「・・・もしかしたら、姫さまとあなたは”共振”を起こしたのかもしれないわね。潜在能力の高い者同士が極まれに起こす特殊な現象・・・・・相性がとても良くないと起きないものよ」

 説明をしながらも、アンナ自身信じられないと言った顔をしている。


 共振とは、精霊術以外の異世界から伝わった体系で口伝されている現象で、発生する力を数十倍に引き上げるとも言われている。ここ近年、精霊術士内でも似たような現象が報告されているが、小数例しか報告がなく、検証も行われていない。


「・・・・三年前、帝国南部で起きた震災の復興の手伝いに行っていたパパとママは、”あの事件”に巻き込まれて死んだの」


 共振の影響からか、アイリスが自身の身の上を話し始めた。

 三年前に帝国南部、あの事件と聞いてアンナが思い至ることがあった。


 それは、帝国建国以来の大災害と言われた南部大地震の復興が行われていたとある町で感染力の強い病気が発生した、と言うものだ。特効薬が帝都から届くまでの間、蔓延を防ぐために軍が町を隔離したのだが、震災の影響で特効薬は遅れに遅れて間に合わないと判断した、軍が町を焼き払ったものだ。


「あの町に・・・・・あなたの両親がいたのね」

「そう、元々南部には帝国のことを快く思っていない民族が多かったから、復興自体に帝国の対応がとても遅かった。感染力の強い病原菌が原因と言われているけど、本当はごくありふれた病気で、帝国が反抗の芽を摘むために故意に薬を回さなかったのが原因、て情報もあるんだ」

 アイリスの言うとおり、一時期そう言った憶測が流れたこともあったが、それは全くのデマであり、民間の研究機関が調査した結果、問題の病原菌が発見され、軍の対応がもう少し遅れていれば、爆発的に広がっていたと言われている。


「・・・・姫様の騎士に、当時作戦の指揮を取っていた方の娘さんがいるわ。もし、あの時何あったのか知りたいなら、私たちに協力してくれないかしら?そうしたら私の権限で、あなたの罪を軽くし、彼女ペトラに話を通してあげる」


 アンナの提案に、アイリスの心が揺れる。

 

 実際、彼女は帝国をどうにかしたい、と本気で考えてはなかった。子供心に、やり場のない怒りをぶつける矛先を探し、それが両親の命を奪った根源と思われる帝国へ向いた。そしてその流れで、テロリストに加担したのだった。


「・・・・本当に、パパとママの事を教えてくれるの?」

「約束するわ」

「・・・・・・・・分かった」

 少し考え込んだアイリスが、首を縦に振る。

「どうして・・・・・・?」

 自分の拘束を解くアイリスを肩口に見ながら、ヴィルヘルミナが口を開く。

「なんで、アンナを信じようと思ったのですの?」

「・・・・・だって、誰も信じないと思ってるあなたが心の片隅で信じている一人。そんな人が約束してくれたから。だから、信じようと思った」

 アンナに聞こえない小さな声で紡がれた言葉に、ヴィルヘルミナが息を飲む。

 

 すると、にわかに外が騒がしくなる。

「おい!まだ終わら・・・、貴様、何をやっている!!」

 入ってきた犯人の一人が、ヴィルヘルミナとアンナの拘束を解こうとしていたアイリスを見つけ、銃口を向ける。

「?!・・・」

 銃を向けられ、硬直するアイリス。


「!?」

 しかし、銃を構えた犯人の首が左に傾き、こめかみから噴水のように血が噴き出す。

「な、なんだ!ぐわっ!!」


 廊下の奥から駆けてくる音とともに、銃声が何発も響き、犯人たちの身体に撃ち込まれる。

 最後に、蹴りを入れられ扉から犯人たちの姿が消える。


「姫、アンナ殿!!ご無事か?!」

「姫様、アンナ様!!」

 犯人に蹴りを見舞ったペトラとフローラが、部屋の中へ入ってきた。

「あなたたち!来てくれたのですか?!」

 現れるはずのない二人の姿に、アンナが声を上げる。


「申し訳ありません、遅れてしまい・・・・?!」

 ペトラが、アイリスの姿を認め、銃を向ける。

「やめなさい!この者は、我が帝国の臣民の一人ですのよ!今すぐ、銃を下しなさい!!」

「!?はっ!」

 ヴィルヘルミナに命令され、銃を下し、直立不動になるペトラ。

「しかし、よく二人でここまで来てくれました」

 アンナの言葉に、二人が横に首を振る。

「いいえ、オクゾノ殿も一緒です。あの方がいなければ、我々だけでここへはたどり着けませんでした」 

「現在、オクゾノ殿が外で時間を稼いでくれています。が、お一人ではあまりに危険です」

「あの男まで来ているのですの?!」

 ペトラとフローラの説明を聞き、ヴィルヘルミナが驚く。彼女にとって傭兵である昊斗そらとが来ること自体、信じられないことだった。

  

 ペトラが、アンナの拘束を解き終わる。

「とりあえず、オクゾノ殿と合流します。フローラ、君は後方を頼む」

「分かったわ」

 銃を構え、ヴィルヘルミナたちを挟む形でペトラを先頭に部屋を抜け出し、最短距離で外へ出られる正面入口へ向かう。 


 周囲を警戒し、合図を送るペトラとフローラ。ペトラが扉を蹴り開け、その先に広がる光景に絶句した。

「な、なんなのですの?」

 ほかの面々も、ペトラと同様に言葉を失う。


 銃で武装した集団。ざっと30人が、うめき声を上げて地に伏していた。

 ある者は、腕を。またある者は足を折られたのか、あらぬ方向を向いている。だが全員、命に係わる怪我を負ったものは見当たらない。


 地面には大量の薬莢に、壁には弾痕が残っている。その中心に、頭上高く掲げた鞘にブレードを収めようとしている昊斗そらとの姿があった。だが、見た限りでは、怪我も負った様子どころか、服に汚れさえ無かった。


「おっ、無事だったみたいだな」


 軽い感じで昊斗そらとに声を掛けられ、女性陣は顔を引き攣らせるのだった。 

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