(13) 思わぬ再会、そして潜入(合同学園祭 三日目⑤)
「一体、これはどういうことですか?!打合わせでは、全員を眠らせるという話だったのに、無関係な使用人たちを全員殺すなんて!!」
拘束され運搬用の動力車に押し込まれたアンナが、犯人たちに叫ぶ。横では、薬で眠らされたヴィルヘルミナが寝息を立てていた。
「何か言ったらどうなのです!?」
先ほどから一言もしゃべらない犯人たちに怒りを露わにするアンナ。
「・・・・・一つ、勘違いをされているようなので訂正させていただきますが、我々は貴女方を助けに来た護衛部隊ではありません」
「な・・・・・」
口を開いた犯人の男の言葉に、アンナが絶句し、後ずさる。
「あぁ、もちろん”特殊部隊”の方でもありません。我々は、別口なのであしからず」
「ど、どういうこと?」
考えていた状況と食い違い、アンナの思考は停止寸前にまで追い込まれる。
実のところ、今日アパートに”襲撃”がある事は織り込み済みだった。
本国からの暗号通信で、ヴィルヘルミナを連れ戻そうとする一派が、ルーン王国へ特殊部隊を潜入させ、合同学園祭最終日に誘拐するという情報が入った。
一計を案じた皇女の兄である、皇位継承権第1位にして皇太子のライナルト・ヴォルフ・ハイゼンベルグから護衛部隊を派遣するとアンナに連絡があったのだ。
無用な混乱と犠牲を出さないためにアンナは、ヴィルヘルミナに仕える使用人たちは眠らせ、留学するヴィルヘルミナの為に一時的に第二皇子の部隊から借り受け護衛の任についていたフローラとペトラを理由をつけてアパートから遠ざけ、帝国の事情に巻き込めない昊斗を強引に追い返した。
そして、特殊部隊の襲撃前に護衛の部隊と合流し、ヴィルヘルミナを他の場所で匿う手はずだった。
しかし、蓋を開ければ今の状況である。文官であるアンナに、混乱するなと言うのは酷なものだ。
「まぁ、今頃は皇女を護りに来た部隊も連れ戻しに来た部隊も全滅しているでしょうね・・・・聞こえますか?あの爆発音が」
そういわれ、耳を澄ませると、動力音に混じって遠くから爆発音が聞こえてくる。
「・・・・・・一体、何が目的なの?」
「我々は皇女とあなたを”ある方”の下へ連れて行くのが任務ですので、お答えできません・・・・・着いたようだ」
男が外の方に目線をやると、動力車が停まる。
「降りてください」
銃を突き付けられ、強引に立たされたアンナが動力車の荷台から降りると、巨大な倉庫のような建物を背にし、中年の男が護衛の若者に挟まれ立っていた。
「?・・・・・!そ、そんな、なんであなたが生きているの?!」
男の顔を見て、アンナの顔が青ざめる。
「15年ぶりか・・・・久しいなアンナ。我が娘よ」
そこに立っていたのは、15年前に自分と母と弟を捨て、姿を消した憎き男だった。
「あり得ない!あなたは、10年前に帝国軍のテロリスト掃討戦で殺されたはず・・・」
「ここにいる、と言うことは生きていたということだ・・・・連れて行け」
銃で押されながら、倉庫の中へ歩かされるアンナは、別の入口に入っていく父親を睨みつけていた。
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遅れること、数十分。昊斗たちが倉庫区に到着し、物陰から様子を窺っていた。
「話には聞いていたが、高い壁だな・・・入口はあそこのゲートただ一つ。どうしたものか」
「迷う必要などありません。姫様がこの中にいるのは明白なんです。正面から堂々と入れば・・・」
フローラの言葉に、昊斗が首を横に振る。
「ダメだ。この倉庫区画はルーン王国が関知していない場所なんだ。確固たる証拠があっても、正規の手続きなど経ないと入るのは不可能だ。かと言って、強引に入ろうとすれば国際問題に発展しかねない」
「そ、そんな・・・・・」
フローラが意気消沈する中、ペトラが目を細める。
「オクゾノ殿、どうしてそのような情報をご存じなのだ?ルーン王国でも、機密に当たるものではないのか?」
「自分たちが拠点としている街の情報は、漏らさず頭に入れておかないと、傭兵なんて仕事出来ないからな」
目を見張るペトラを尻目に、少し考え込んだ昊斗が、ため息をつく。
「仕方ない、壁を飛び越えるしかないな」
そう言って、昊斗はゲートに立つ守衛を避け、天高くそびえる壁に沿って走る。
「オ、オクゾノ殿!・・・・・・・」
フローラとペトラは顔を見合わせ、昊斗の後を追った。
ある地点で立ち止まる昊斗に追いついた二人は、壁の上を見る昊斗に倣って上を見る。
「よし、向こう側に人影なし。ここから行くか」
バイザーのセンサーに反応がないことを確認し、屈伸を始める昊斗。
「ま、待ってください!行くって、どうやって上るのですか?」
「どうやってって、跳ぶんだけど?」
軽く言ってのける昊斗に、女の子二人がめまいを覚える。
彼女たちが使っているスーツは、装着者の身体能力を底上げするモノだが、さすがに8メートル以上ある壁を飛び越えるのは不可能だった。
躊躇の見える二人に、昊斗は疑問符がつく。なぜなら、さっきフレミーが精霊の力を使って跳んだ姿を見ていたので、彼女たちにも同じことが出来るものと思っていたのだ。
そんな力を持ち合わせていないし、飛び越えることが出来ない、とを伝えてきたフローラとペトラに、昊斗は時間がないと言い、ペトラをおぶりフローラを抱えた。
「オオオオオ、オクゾノ殿!?なんで私が、前なのですか?!」
「いや、君の装備じゃおんぶ出来ないし」
武装を固定し両手が塞がっているために、抱えられたフローラが、顔を赤くしている。
「いいじゃないか、フローラ。男性に抱えてもらうのが夢だと言っていただろう?」
「わ、私が考えてたのと違うから!」
笑いを必死に堪えるペトラに、睨むフローラだったが、昊斗が遮る。
「二人とも、しゃべっていると舌をかむぞ」
それだけ言って、昊斗は助走もタメも無しで、一足飛びで壁を越える。二人が悲鳴を上げなかったのは、日ごろから訓練を受けていた賜物である。そんな中で二人が見た光景は、軽々と自分たちが10メートル以上も跳んでいるものだった。
人間三人分の重量が着地したとは思えないほど軽い着地音をさせ、降り立った昊斗が二人を下す。
「凄いな・・・・これだけの装備を付けた私たちを抱えて、あの高さを跳ぶなんて」
「そうか?女の子二人ぐらいなら、余裕だよ。それに二人とも、小柄なんだから」
「そ、そんなことは・・・・」
まさか、ここで女の子扱いされるとは思っていなかった二人が明らかに挙動不審になる。
「ほら、ここに留まっても見つかるかも知れないから、移動するぞ」
身を隠すため、近場の物陰へ急ぐ昊斗。
「・・・・・・こんな状況じゃなかったら惚れてしまいそうだな」
「そ、そうだ・・・ね」
顔を赤くする二人も、昊斗を追って走っていった。
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「痛っ・・・・無礼者!わたくしをレヴォルツィオン帝国第一皇女、ヴィルヘルミナ・エルザ・フォン・ハイゼンベルグと知っての狼藉か!!」
睡眠薬の切れたヴィルヘルミナが暴れ出し、仕方なくアンナと共に小さな部屋に放り込まれた。
「お静かに頂けますか、殿下?」
銃を突きつけられ、押し黙るヴィルヘルミナだが、その目に恐怖と言うものは映ってはいなかった。
「ほう、悲鳴ひとつ上げないとは、さすがですな。お初にお目にかかります。我々は”明けの革命戦線”。私がリーダーの・・・」
「お前たちの名など興味ないですわ!目的は何?お金かしら?」
名乗りを中断させられ、少し顔つきの変わる男だが、務めて平静な言葉遣いを心がける。
「・・・いいえ、帝国から施しなど望んでいませんよ・・・・我々が望むのは、あなたの”死”です」
アンナの父親であるリーダーの言葉に、ヴィルヘルミナはもちろんアンナも絶句した。
「我々の目的は、我が民族が帝国から奪われた土地を奪い返すことなのですよ。だが、正攻法では不可能なのは歴史が証明している。なので我々は、あなたをルーン王国が殺したと演出し、帝国と王国の間で戦争を起こさせて、その隙に独立する・・・そのために殿下には、人柱になっていただたきたく、お越しいただいたのです」
「馬鹿な・・・・まだそんなことを言っていたの?!帝国国内で、どれだけの人たちが自分たちの地位向上のために努力していると思っているの?それを、あなたは踏みにじろうと言うの!?」
父親の言葉に激怒するアンナの頬に、父親が思いっきり平手を打つ。
「帝国に尻尾を振るなど、お前は民族の誇りを何処へやった?!あの女もそうだったが、情けない!!」
先ほどまでの紳士な仮面が簡単に剥がれ落ち、男が粗暴な言葉遣いに変わる。
「!・・・・お母さんの悪口を言うな!!」
再び、アンナの頬に平手が飛ぶ。
「顔だけでなく、考えまであの女そっくりだな・・・・・お前も、皇女と一緒に殺してやる。おい、皇女から引き出せる情報を引き出しておけ」
「はい」
部下に指示を出し、男がほかの部下を引き連れ部屋を出て行った。
「・・・・・・・・・・・・」
唇をかみ切らんばかりに噛むアンナに、ヴィルヘルミナが、不審感を露わにする。
「あなたとあの男、どういった関係なの?」
「・・・・・不本意ですが、娘です・・・・ですが、私にとって、親と呼べるのは母だけです」
「・・・・・・どうしてこんなことになったのか、隠さず説明なさい」
アンナは一呼吸おいて、帝国からヴィルヘルミナを連れ戻すために特殊部隊が送り込まれ、それを阻止するために皇太子が用意した護衛部隊が諸共、先ほどのテロリストに全滅させられたことなど、全てを話した。
全てを聞き、ヴィルヘルミナの顔色が真っ青になっていた。
助けに来る者が皆無かもしれないと言うのもそうだが、自分を連れ戻す計画が進行していたことに、恐怖が噴き出した。
「おい、とっとしろ」
出て行った部下の一人が、誰かを連れて戻ってきた。
入ってきたのは、ヴィルヘルミナと同じくらいの女の子だった。その容姿は、犯人たちとは違い、白い肌に青い瞳、灰色の髪しており、それは帝国臣民に見られる特徴だった。
「いいな?皇女から情報を引き出せば、お前の願いも叶うんだからな」
「分かってる・・・・・・」
ふん、と少女を一瞥して男が出て行く。
少女がヴィルヘルミナを見つめる。その目は、どこまでも冷たく暗いものだった。
ヴィルヘルミナたちが捕まっていると思われる倉庫までやってきた昊斗たちは、巡回している敵の目を掻い潜り、裏手へ回り込んでいた。
「・・・・居た、間違いなく皇女とアンナ女史だ」
得られたデータから、大まかな場所を探し当てた昊斗は、敵がいないことを確認し、裏口の扉を高周波ブレードで真っ二つに斬る。
「二人は、皇女たちを助けに行くんだ。俺は、外で暴れて敵の注意を引き付けておく」
「大丈夫なのですか?オクゾノ殿一人では・・・・」
敵がどれだけいるか分からない中で、敵を引き付けることがどれだけ危険なことか、二人は理解していた。
「心配するな、こういう状況には慣れている。それに、君たちがあの子を助けに行かなければ意味がないだろう?」
理由はどうあれ、誘拐を許してしまった事で失った名誉を回復する機会をフローラとペトラに譲る昊斗。
「突入のタイミングは、君たちのヘッドギアに送る」
それだけ言って、昊斗は素早く、倉庫の屋根へと上っていった。
迷っている暇はない、と二人は昊斗が文字通り切り開いた入口から、中へ潜入したのだった。




