(12) 天球人の戦い (合同学園祭 三日目④)
昊斗たちとの通信を終え、精神空間から復帰した玉露と金糸雀だったが、玉露の表情は優れなかった。
「・・・・すみません。友人の体調が優れないようなので、少しここをお任せしてよろしいですか?」
金糸雀が、近くで一緒に来場者の誘導を行っていた生徒会の学生に声を掛ける。玉露を見て、保健室の位置を丁寧に教えてくれた学生に頭を下げ、金糸雀が玉露に付き添って、その場を離れた。
「別に、気を使ってもらわなくてもよかったわ・・・」
「何言ってるの?そんな顔で誘導なんてやってたら、フェリシア様のクラスの評判、落ちちゃうよ?」
保健室の場所を教えてはもらったが、義体である玉露が体調が優れない訳ではないので、少し離れた階段の陰に入る。
「玉露ちゃん、やっぱり昊斗さんのこと、心配なんでしょ?」
「・・・・当然よ、あなたも見たでしょ?昊斗の装備・・・・・」
玉露は、精神空間での昊斗の姿を思い出していた。
精神空間では、現実空間での格好が反映される。
あの格好は、いわゆる緊急対処用に設定されているものだった。
昊斗と冬華の二人には、便宜上三つの形態が設定されている。
パートナーの玉露と金糸雀からのサポートを受け、3形態中もっともバランスのとれた基本形態といえる「ベース・フォーム」。
パートナーと共鳴結合することで、創神器に供給される創造神の力を最大限まで使用し、傭兵最強の力である神滅武装及び神滅術を使えるようになる最強形態の「レゾナンス・フォーム」。
そして、パートナーのサポートを受けることが出来ない状況下において、その代用として組合から支給されている各種装備で低下した戦闘能力を補う緊急対処形態、顔を覆うバイザー姿から「マスクド・フォーム」と呼ばれているものが、先ほどの昊斗の姿だった。
「あの状態じゃ、武器だって数種類しか使えないのよ?もし、不測の事態が起たら・・・・」
昊斗の身を心配し、気持ちの沈む玉露に、金糸雀がため息をつく。
「相変わらず昊斗さんの事に関しては心配性だなぁ、玉露ちゃんは。そんな所は子供のころから変わらないよね」
「・・・・・・別に普通でしょ、好きな人を心配するくらい」
惚気にしか聞こえない玉露の言葉に、金糸雀が何か思いついたように、笑みを浮かべる。
「はいはい、ごちそうさまです」
手を合わせ、ドヤ顔で答える金糸雀に、玉露の後ろの空間にピシッとひびが入る幻影が浮かぶ。
「一度でいいから、言ってみたかった言葉・・・やっと言えた」
「・・・・・何よ、金糸雀のくせに、生意気だわ!」
「いひゃい!いひゃいよ、ぎょくろひゃん!!」
額に怒りマーク浮かべて、金糸雀の両頬を思いっきり引っ張る玉露。
「誰か、いるのですか?」
そんな風にじゃれ合っていると後ろから声を掛けられ、二人が振り向く。そこには騎士としての装備を整えてきたフレミーが立っていた。
「フレミー様!もう来られたのですか?昊斗さんのお話じゃ、もう少し時間がかかるって聞いていたのですが?」
「はい!全速力で来ましたから!!」
息は整っているが、頬は上気したように桜色に染まっていた。
「それで、お二人は何処までご存知なのですか?」
「一通りは昊斗から聞いているわ」
「フレミー様。外の様子はどうでしたか?」
「まだ、何かが起きているというわけではないみたいですが・・・・」
フェリシアの教室に向かうまでに、情報を交換していた三人の視線の先に、フェリシアが歩いてきた。
「あ!ギョクロさん、もう大丈夫なのですか?気分が優れないと聞いて心配していたんですよ・・・・あれ?フレミー、どうしたの?騎士の格好なんて」
「姫様!ご無事でしたか・・・・・」
フェリシアに駆け寄り、安心するフレミー。だが、何事かと首を傾げるフェリシアに、フレミーはヴィルヘルミナが誘拐されたことを伝えるか迷い、玉露たちを見る。
二人はうなずき、フレミーはフェリシアに、ヴィルヘルミナが何者かに誘拐されたことを小声で伝えた。
フェリシアが顔色を青くし、大声を上げそうになるが三人がかりで口を塞ぐ。
玉露と金糸雀が、現在昊斗を始めとする救出チームが動いていると説明し、フェリシアに落ち着くよう促した。
そんな時だった。遠くから、爆発音が響いてきた。
「?・・・・爆発?」
「花火でも上がったのかな?」
周りにいる来場者たちが口々にそう答える中、フェリシアとフレミーの表情が硬くなる。
「ま、まさか・・・・」
「・・・・・・・・学生区の端の方で起きた爆発です。そこまで大きな規模の爆発ではないみたいです」
あらぬ方向を見ている金糸雀が、淡々と報告する。上空に待機させている機動端末の一つから映像を確認したのだ。
「ちょっと金糸雀、あれってもしかして」
周囲の警戒を始めていた玉露が金糸雀に声をかける。玉露の見ている方へ、視線の動かす金糸雀が息を飲む。
「あの・・・・どうかされたのですか?」
二人に置いて行かれている形になっているフェリシアとフレミーだったが、どうしても気になったフェリシアが二人に問いかけた。
「フェリシア様、あちらの建物は一般クラスが入る校舎でしたよね?」
廊下の窓から、少し離れた場所に立つ校舎を指さす金糸雀に、フェリシアが肯定する。
「はい、そうですよ。一般クラス方々が使われている校舎は、最後に建設されたものなので、アイディール学園内でも離れた場所に建っているんですが、それが?」
「「・・・・・・・・・」」
「・・・・・・何かあるのですか?」
押し黙る玉露たちに、フレミーは意を決して質問する。玉露が仕事モードに切り替わる。
「あの校舎に、爆発物がいくつも仕掛けられています。全てが爆発すると完全に崩壊するほどの量です」
包み隠さず答える玉露に、フェリシアたちが絶句する。
「・・・・・フレミーさん、外を警備している騎士団の方々に一般人の避難誘導を頼んでください。フェリシアさんは、クレアさんに爆発物の説明をして一般クラスの方々を避難させるよう伝えてください」
「分かりました」
フレミーは、手早く通信機を取り出し、説明を始める。
「お二人は、どうさせるのですか?」
そう問われ、玉露と金糸雀は胸を張る。
「決まっています」
「あんな物騒なもの、すぐに撤去してきますよ」
***********
フェリシアたちと別れた玉露たちは、一般クラスの入る校舎へ走る。その姿は、学園祭協力員をしていた時に着ていた服装から、戦闘服である制服姿に変わっている。
「それにしても、同じ学校内でも対応がこんなにも違うんだね」
走りながら、警備に配置された騎士団の分布に偏りを感じた金糸雀が辛そうな表情をする。
「仕方ないでしょう、一般人と比べて貴族に対して手厚くしないと、後々面倒になりかねないですから」
仕事モードながら、吐き捨てるように答える玉露。
「金糸雀、屋上に仕掛けられたのをお願い。爆弾の配置と規模から、それが親機でしょうから」
「分かってるよ、玉露ちゃん。子機の方はお任せするね」
そう言って、校舎にたどり着いた金糸雀は、一足飛びで屋上へ。玉露は、避難を始めた生徒たちを避けて、校舎の中へ入る。
「これだね・・・」
屋上に置かれた木製のコンテナをスキャンし、安全な一面を強引に引きはがすと、爆発物が封入された大型の容器と起爆装置が姿を現した。時限式らしく、タイマーが動いている。
「玉露ちゃん。現物を確認したよ、やっぱりこれが親機だね。爆発まで3分・・・・・玉露ちゃんは直ぐに子機の排除を始めて」
『ええ・・・・・時間が来ても爆発しなければ、犯人が来るでしょうしね』
玉露との通信が切れ、爆弾の解体に取り掛かる金糸雀。
両手を前に出すと、10本の指が割れていき、数十本の小さな指へ変形した。
視覚を、複合センサーに切り替え作業を始める。
複雑な構造を持つ起爆装置が、あり得ない速さで解体されていく。
「まさか、こんなに複雑な機械が存在しているなんて。これだと、知識があっても普通の人間じゃ解体なんて出来ないんじゃないかな?」
そんなことを言いつつ、金糸雀は事も無げに装置の解体を進め、1分も経たずに起爆装置を解体してしまい、タイマーが残り2分少しを残し停止した。
「玉露ちゃん、解体完了したよ。すぐにそっちに・・・」
『心配ないわ。生徒や一般客が避難を終えてたから、邪魔になるのはいないし、もうすぐこっちも終わるから』
「なら、後は犯人を待つだけだね」
『そちらの索敵はお任せするわ』
「りょうか~い!」
「馬鹿な・・・なんで、爆発しないんだ?!」
一般クラスの校舎を見渡せるグラウンドの端にある、木の陰に隠れている男が時計を見て焦りを見せていた。
「ちょっと、どういうことよ!校舎を吹き飛ばせるだけの物を仕掛けたんじゃないの?!」
「も、もしかして・・・止められたんじゃ・・・」
同じく、物陰に隠れていた者たちが姿を現す。全員が、アイディール学園の一般クラスの制服に身を包んでいた。
「あり得ない!だって、一度作動させたら専用工具を用いてじゃないと停止させられないってのが売りの爆弾なんだぞ!」
主犯格の男子が声を荒げる。危ない橋をいくつも渡り、大金を出して手に入れた爆弾が爆発しない、そんなことが到底認められるはずがないのだ。
「・・・・・ねぇ、他に爆発させる方法ないの?」
目元のきつい少女がイラつきながら、主犯の男子を睨む。
「あるはずないだろ・・・・くそっ、これじゃ何のために準備してきたんだよ」
この場にいる全員は、一般クラスにおいて秀才と言われる生徒たちだった。名門と言われるアイディール学園に成績優秀者として入った彼らは、自分たちが”選ばれた人間”だと確信していた。
だが、入学後に待ち受けていたのは、秀才であっても、貴族たちと競うどころか、同じ場所に立つことさえ許されないという現実だった。
自分たちの方が優秀だとしても、評価されるのは貴族ばかり。そんな現状に、鬱屈した物が積み重なり、このような行動を引き起こしていた。
「・・・・・確認してくる」
「ば、爆発したら、危ないよ!」
気弱が制服を着たような少年が、主犯の男子を止めるが、それを振り払い校舎に向かって歩き出した。
「ここで、失敗させるわけにはいかないんだ!」
「やめておくことをお勧めします。爆弾は全て解体してしまいましたから」
頭の上から声をかけられ、男子が驚いて歩みを止める。すると、彼の目の前に鉄くずが降ってきた。
そのどれもが、自分たちが学園祭の準備期間に仕掛けた爆弾だと理解するのに、若干の時間を要した。
「爆弾を仕掛けたのは皆さん・・・ですね?残念ですが、爆弾は解体・無力化しました。それから、騎士団の方々に通報したので、無駄な抵抗はやめてください」
空中から降りてきた金糸雀の言葉に、犯人全員が驚愕で目を剥く。
「どうやって、解体したんだ!専門家でも専用工具を用いないと、手も付けられない代物なんだぞ!」
声を荒げる面々に、玉露がため息交じりで、口を開く。
「説明する必要を感じません。それより、これから先の自分たちの処遇を心配した方が、いくらか建設的だと思いますよ」
無表情にしゃべる玉露を見て、馬鹿にされていると思ったキツイ目元をさらにキツくした少女が激高する。
「ふざけないで!どれだけ準備に時間をかけたと思っているのよ!!それを、突然現れて邪魔しないで!!!」
少女の叫びに、全員が呼応し精霊を呼び出す。
「爆弾を解体したって、爆薬が残っている!それを使って、もう一度・・・・」
主犯の男子が玉露たちの足元に転がる爆薬に目を向けた時だ。
まばゆい光が辺りを包んだ瞬間、犯人たちの周囲で轟音が鳴り響く。
光が薄れ、彼らが見たのは光と翼を纏った玉露と金糸雀だった。
「無駄な抵抗はやめてくださいと、言ったはずですよ」
金糸雀の背中には、6対12枚の翼にも見える無線誘導式の兵装ビットが浮かんでいる。その姿は伝説の中に語られる大天使を彷彿とさせる。
「まだ、やりますか?」
犯人たちに問いかける玉露の後方には、大小さまざまな光輪、チャクラムが浮かんでいる。一つ一つが犯人たちを威嚇するように甲高い回転音を響かせている。
玉露の姿は、まるで後光の差す菩薩のようだった。
犯人の生徒たちの周りには、二人の攻撃による爪痕が幾重にも刻まれている。
これが、義体に入った玉露と金糸雀が唯一使用する物理攻撃だった。
自分たちの置かれた状況に、生徒たちは茫然と立ち尽くしてしまう。
校舎側から、騎士団の団員たちが走ってきている。
兵装を格納した二人が、一息つく。
「さぁ、彼らを騎士団に引き渡したら、フェリシアさんの所へ戻りましょう」
「そうだね・・・・・玉露ちゃん、たった今冬華さんから連絡が入ったよ。アリエル様と一緒に学園まで戻ってきたって」
「そうですか・・・・では、すぐに戻ってこれからの対応を考えないと」
玉露が敷地の外に目を向ける。未だに、遠くから怒号と悲鳴が響いていた。
「昊斗さん、大丈夫かな?」
「・・・・・・・」
金糸雀の言葉で、先ほどの心配がぶり返した玉露は、再び気持ちが沈んでしまったのだった。




