(9) 動き出す者たち (合同学園祭 三日目①)
第36倉庫区にある倉庫内。
「ぎゃっ!!!」
倉庫に居た作業員と思われる男性が背中から斬られ、さらに倒れてから追撃に背中を一突きされ、絶命する。
「これで全員か?」
リーダーの男が作業員に剣を突き立てている部下に確認する。
「はい、この倉庫の作業員や事務員を含めて、それで全員始末しました」
死体から剣を引き抜き、無造作に死体へ剣を放る。
「よし、死体は全部隠し部屋に放り込んでおけ」
「了解です・・・」
男の指示を受け、若いメンバーが数人集まり、隠し部屋へ続く扉の前に無雑作に積みあげられた死体を下へ運んでいく。
「”荷解き”はどうなっている?」
リーダーの声に、荷物の陰から顔が出てくる。
「もう少し待ってください!貰っていたパスコードが違っていたため、ロックの解除に手が掛かっていて・・・・」
「まぁ、”それ”の出番はもっと後だが、急げよ!・・・・もう一つの方は!?」
「こちらは解除できました!!」
部下の声と共に、コンテナの側面が解放される。
「・・・おおお!!」
リーダーが中を確認し、声を上げる。
中にあったのは、大量の銃器・弾薬である。どの銃も使い古された感のある物ばかりだが、彼らにとっては”宝の山”であり、目的を遂行・達成するための”力”だった。
おもむろにリーダーが近くの銃を手に取る。それは、地球のオートマチック式の軍用ライフルによく似たデザインをしている。
「帝国軍の払い下げ品とはいえ・・・・いいな」
手に取ったライフルを構え、ニヤリと笑みを浮かべる。所狭しと並べられた銃のグリップや本体には帝国軍を示すエンブレムが刻まれていた。
「よし、運び出せ!」
リーダーの指示の下、コンテナ内の銃器が運び出されていく。
「しかし、これほどの量・・・一体どうやって調達したんだ?」
小さな声で、部下の一人が呟きを漏らす。彼の疑問は最もだった。
なぜなら、帝国の武器は他国の数世代先を行く代物で、基本的に門外不出だからだ。
レヴォルティオン帝国と言う国は、少々出自の変わった国である。
それは、”異世界人”によって建国された国だというものだ。
今もそうだが、グラン・バースへ召喚された異世界人たちの中で、”力”を持たない者たちは、役立たずのレッテルを貼られ、国外へ追放されてしまう。
そんな者たちが寄り集まり、小さな集落を形成するのにそう時間は掛からなかった。
そして彼らが、自分たちの身を守るために用いたのが元の世界から持ってきた”知識と技術”である。グラン・バースにおいて異世界人に求められるのが、魔法や超能力と言った”特別な力”であり、異世界人が持つ知識や技術に関しては関心が薄かった。そのため、優れた知識や技術を持ちながら各国から追放された異世界人たちは日に日に増えていき、集落では様々な世界の知識と技術が融合し、彼らが小さな国を立ち上げる頃には、グラン・バース所か自らが住んでいた世界を凌ぐ技術を手にしていたのだ。
彼らを甘く見て侵攻し、逆に侵略された周辺国は数知れず、今では大帝国と言って遜色のない超大国へと成長した。
そのため帝国では、ずっと昔に現役を引退した旧式銃器でも、他国にとっては最新式以上の性能を持つことを、帝国自身よく理解している。
そのため、旧式であってもその取扱いは慎重を喫しており、必ず国内で解体、破棄を徹底していた。
最近では、同盟国に一部技術を提供していてはいるものの、氷山の一角であり、帝国にとっては当たり前すぎる技術で、隠す必要のないものばかりだ。
だからこそ、完品でこれだけの銃器が揃うのは帝国に特別なコネでもない限り不可能なのだ。
「やはり・・・・あのウィスパーという男、信用するわけには・・・・」
側近の一人が不信感を漏らすが、リーダーは笑い飛ばす。
「あんな仮面男、端から信用などしていない!あの男も言っていただろう?俺たちは利用するだけの存在だ、と。それならそれで、構わない・・・・・こちらもこれらを手に入れるために利用したんだ、あとはいかに俺たちがウィスパーの目論みより早く目的を達成するかだけだ・・・そうだろ?」
「は、はい・・・・・・」
銃器を運び終え、全員がリーダーの前に整列する。その殆どが、変装用の清掃員などの格好をしており、胸には偽造IDが掛かっている。
荷物の上に立ち、リーダーがメンバーの顔を眺める。
彼が組織を作り、早30年以上・・・・当時から残るメンバーは足元に並ぶ数人の側近のみ。後のメンバーは自身の子供か、それ以上に若い者たちばかりだ。
「諸君!今日の戦いは、誇りある我ら民族同志たちに向けた狼煙である!これは愚かな帝国、そして蒙昧な帝国国民によって奪われた、我ら民族の誇りと威厳を取り戻す第一歩となる!諸君らは戦士だ!死を恐れず前進することを期待する!!」
”おおおーーーー!!”
地響きのような歓声が起こる。だが、そのことに外にいる人々が気が付くことはなかった。なんせ、この倉庫区は殆ど人が立ち入らない場所だからだ。
「さぁ、同志諸君。行こうか?」
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合同学園祭、最終日。
相も変わらずの盛況ぶりで、どこもかしこも人だらけだった。
そんな中、フェリシアの騎士であるフレミーは困った顔をして、紅茶の注がれたティーカップに口を付けていた。
彼女の前には、クラスメイトとその友人が座っている。
と、いうかヴィルヘルミナの騎士である二人の女性なのだが・・・。
「うぅ~国の母さんに、何て報告すれば・・・」
玉露に啖呵を切り、舞台ではフレミーのライバルであるお転婆な姫を演じた青に紫のメッシュの入った長い髪が特徴のフローラ・メッサーシュミットはこの世の終わりのように落ち込んでいる。
「フローラ・・・・アンナ殿も、気にすることはないとおっしゃってくれたのだ。姫もあの時は、虫の居所が悪かったのだろうさ」
同僚であり同級生、短髪の緑髪が印象的なペトラ・クリスティーネ・ローレンツが慰めの言葉を掛けるが、一向に復調の兆しが見えなかった。
原因は、昨日まで遡る。
騎士クラス三年合同の演劇「英雄の鎮魂歌」が無事終わり、控室として使っていた多目的ホールでは打ち上げが行われていた。
演劇場の使用クラス及び団体が多いため、スケジュール的に一度しか公演できないので、彼らにとっては最後の学園祭が終わったのだ。
そんな中、フェリシアたちが現れたので控室は騒然となった。しかも、フェリシアに、それとアリエルは差し入れを用意しており、その心遣いに騎士クラスのメンバーの中には泣き出すものまでいたほどだ。
自身の騎士であるフレミーに、労いの言葉をかけるフェリシア。そんな姿を、横目で見ながらフレミーと同じ主役を演じたフローラは、主からの労いを期待していた。
だが、その期待は儚くも打ち砕かれた。
「全く・・・・あの程度の演技をわたくしに見せて、何を誇った顔をしているの?・・・・不愉快だわ。フローラ、暇を出すから・・・・その驕った心、反省しなさい」
舞台をやりきった達成感は吹き飛び、フローラは奈落に突き落とされたように、その場にへたり込んでしまう。
「ふん・・・」
吐き捨てるように、ホールから出て行くヴィルヘルミナ。
昊斗が彼女の後を追うのを確認し、アンナがフローラと彼女を支えるペトラに近づく。
「フローラさん・・・気にしなくていいわ。ヴィルヘルミナ様は少々、お疲れなのよ・・・・それに、あなたを姫の騎士に任命したのは皇太子殿下なのだから、騎士を降ろされることはないわ」
それだけを伝え、アンナもヴィルヘルミナたちを追いかけてホールを出て行った。
空気の重くなったホール内を、アリエルの穏やか空気が一掃しても、フローラの気持ちは晴れることなく、今でも引きずっているのだった。
「見ての通り、フローラはこの状態で・・・・気を使ってもらってすまないね、フレミー殿」
「いいえ、気にしないでください、ペトラ殿。フェリシア様たちもご心配されていたので・・・・・それで、ヴィルヘルミナ様は・・・」
「あの後から部屋に籠られたままだ・・・・・」
主が心配なのだろう、ペトラの表情が沈む。
クラスメイトであるフローラの様子が心配だったフレミーが、彼女たちを見つけ話を聞くことになったのだが、当のフローラが落ち込み過ぎているので、もっぱらペトラの話を聞いているような状態だ。
「アンナ殿から、姫のことは任せて、気分転換に学園祭を楽しんで来なさい、と言われたが、そんな気にもなれなくてね」
ティーカップを指先で弄びながら、ペトラは何かを思い出し、顔を上げる。
「そうだ、フレミー殿に前々から聞きたいことがあったんだ」
「なんでしょう?」
紅茶の香りを楽しみながら口に含むフレミー。
「実はオクゾノ殿ことなのだが・・・・」
昊斗の名前が出て、フレミーは口に含んだ紅茶を吹き出しそうになる。
「!・・ソラトさ?!・・・そ、ソラト殿がどうかされたのですか?」
「いや、カレイド陛下やアルバート騎士団団長殿が推薦された方とは聞いているが、私やフローラは実際に彼の腕前を見たわけではないから、少々疑問に思ってね・・・・!もちろん、陛下や団長殿を疑っている訳ではないので、そこは誤解しないでくれ」
「それは、分かりますが・・・どうして私にそのことを聞こうと?」
「あなたが、オクゾノ殿と剣を交えたと聞いたのでね」
ペトラの言葉に、今度は紅茶が気道に入り、盛大に噎せ返るフレミー。
「だ、大丈夫か?!」
心配して立ち上がるペトラ。落ち込んでいたフローラも、さすがに顔をあげた。
フレミーは、手を前に出し大丈夫と合図を送る。
「ケホ、ケホ・・・・・だ!誰から聞かれたのですか?!」
「お、同じクラスの人間にだ。なんでも、いい勝負をしたと聞いているが?」
今度はフレミーが立ち上がる。
「そんな!・・・・私は、あの方に胸を借りたまで・・・・とても、私程度では足元にも及ばないですよ」
「あなたがそこまで言うのか?う~ん・・・・・」
騎士クラスは、前にも言ったが騎士見習いが通うクラスである。フレミーのように騎士を拝命している生徒はごく少数だ。ペトラもフローラも、フレミーと同じ騎士を拝命する身ながら、戦闘スタイルの違いとはいえ、剣ではどうしても敵わない。だが、それを差し引いても、フレミーの強さを二人も認めている。そんな彼女が、自分では足元にも及ばないと言わしめる男。
ペトラの目が怪しく光る。
「・・・・よし、決めた!オクゾノ殿に、一勝負挑もう!」
「え?・・・えぇ!?」
ペトラの言葉に、フレミーが驚愕する。
「こんなところで、燻っているよりは、騎士としてよほど健康的だ!フローラ、お前も来い!姫を御守りするに足る者がどちらかはっきりさせれば、姫ももう一度認めてくださるはずだ!」
「・・・・ほんと?」
フローラの目に、ほんの少しだが火が灯る。
「本当だとも!それに・・・私が今まで、嘘を言ったことがあるか?」
「あるよ。割と頻繁に」
フローラの容赦ない言葉に、ペトラがこける。
「そこまで軽口を叩けるとは・・・・お前、オクゾノ殿に興味を持ったな?」
「まぁね・・・・フレミー殿にあそこまで言わせる手練れ・・・騎士として興味を持たない訳ないでしょ?」
未だにヴィルヘルミナに言われたことを引きずっているはずのフローラだが、騎士としての興味の方が勝っていた。
表面上、立ち直ったように見えるフローラを見て、フレミーが驚いて見ている。だが、フレミーは別のことで驚いていた。
(ま、まさか・・・フローラ殿も、ソラトさんのことを?!で、でも親しくなる接点なんて・・・・!?もしかして・・・)
と、思いっきり恋愛の方に思考してしまっていた。
「では、善は急げだ!今日を逃せば、次はいつ会えるか分からないからな!」
「そうだね!!」
ダン!とテーブルにお金を置き、勘定だ!と店員に実に男前にいうペトラ。
「ほら、フレミー殿も行くのよ!」
ブツブツと独り言をいうフレミーを、フローラが右腕を抱え立ち上がらせる。
「そうだぞ!・・・そうだ!よかったらフレミー殿は、オクゾノ殿にリベンジマッチを挑めばいいじゃないか!」
フレミーの左側に立ち、彼女の腕を抱えるペトラ。
「さぁ、行こう!」「さぁ、行きましょう!」
「え?え?」
混乱のまま、二人に脇を抱えられ連れ去られるフレミー。
この後、彼女らはアンナの提案を無視して昊斗に勝負を挑みに行った自分たち自身に、心から感謝することとなる。
この時はまだ、平和な学園祭が行われていたディアグラムだった。




