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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
学園の姫君たち 合同学園祭 編
31/180

(6) 不穏の胎動

 王都ディアグラムの港岸区は、貿易の一大拠点である王都にとって重要な区画である。

 

 国内外から輸出・輸入品が一挙に集められ、船によって各地へ運ばれていく。そのため、大規模な倉庫群が所狭しと立ち並び、人の出入りも激しい場所でもある。


 第36倉庫区。

 ここは、他の倉庫群から離れた場所に位置し、ルーン王国と同盟関係にあるいくつかの小国が自国の貿易会社に倉庫として使わせており、莫大な使用料をルーン王国に払う代わり、第36倉庫区内の治外法権を認めさせ、特別区画に指定されている。

 そのため、有事の際であっても各国に立ち入りの許可を求めなくてはならず、滅多なことでも騎士団の巡回はやってこない”死角”となっている。


 さらに、夜ともなればほとんど人気がなくなるため、近隣では年々犯罪が増えてきている。


 暗闇の中、人影が動く。周りの闇に溶け込むための黒い外装を身に着け、顔も隠しており、男か女かは判別できない。


 黒い外装の人物は、第36倉庫区にある倉庫の中へ、音もなく入っていく。


 夜目が利くのか、月明かりさえない暗闇の倉庫の中、天井高く積み上げられた荷物の間を滑るように倉庫の奥を目指す。


 行き当った壁には、事務所への扉が一つあるだけ。明かりが見えないため、事務所には人がいないのだろう。外装の人物は、壁に手をついて扉から左の方へ移動し、ある場所で立ち止まる。


「・・・・・・・・・」

 壁にあるわずかな窪みを押し込むと、壁が回転し地下へと続く階段が現れる。


 中に入り、入口の壁を閉じる。ここにきて外装の人物は、初めて懐からマッチを取り出し、火をつけ、壁際に刺さる松明に火を灯す。


 松明を手に取り、階段を下りていくと赤く錆びた鉄の扉が姿を現し、外装の人物は規定数のノックを扉に刻む。


 ゆっくりと、ノブが動き扉が開いていく。松明を壁際の穴に差し込み、中へと入っていく。


 元々は、密輸品などを一時的に保管しておくための隠し倉庫だが、今ここにあるのは”品”ではなかった。


「あんたか・・・・・」

 決して広くはない場所に、見える限りで20人以上の人間が存在した。年齢、性別など違いがあるが、全員に共通している特徴があった。

 それは、褐色の肌に茶色い瞳、そして黒い髪。その場にいるほとんどの人間に当てはまる特徴だ。


 その中の一人が、外装の人物に近づいてくる。先ほど声をかけてきた男で、ここにいるメンバーのリーダーをしている中年の男だ。


「貴殿が所望した”商品”だが、先ほど全て揃った。後程、こちらに運び込むので、確認を願う」

 外装の人物がフード部分を外すと、下から現れたのは道化師の仮面だった。仮面でくぐもる声だが、男のそれだと判別でき、明かりの下で身体全体が見え、体格から男だと分かった。


「まさか、こんなにも早く揃うなんてな・・・・・ウィスパーの旦那、恩に着るぜ!これで、俺たちも行動に移せるってもんだ!」

 男の言葉に、メンバーたちから歓声が上がる。


「・・・・・ここに偽造した人数分の身分証を用意している。警備の目があるとはいえ、”生誕祭”に匹敵する祭りだ、入り込むのは容易のはず」

 ウィスパーと呼ばれた外装の人物は、懐から小包を取り出し、リーダーの男に手渡す。男が小包を開け、中を確認すると、確かに顔写真付きの身分証が入っていた。


「しかし、ここまでしてもらって言うのもなんだが・・・・・どうしてあれっぽっちの金で仕事を引き受けてくれたんだ?あんたにとって、この話に旨味なんてないだろう?」

「私にはなくとも、我が主人にはあるのだ。貴殿らを利用する意味が、な」

「へ・・・・利用か」

「不服かな?」

「いいや!こっちもあんたらを利用しているんだ。持ちつ持たれつ・・・・俺たちは”同志”だぜ」

 男の言葉に、ウィスパーは気付かれないほど小さく、鼻で笑う。

 ただ単に利害の一致した者に対し、同志という言葉を使う目の前の男が、滑稽に見えたのだ。


「では、後は手筈通りに・・・・そうそう、それから我が主人から貴殿たちにささやかながら差し入れを預かっている。”商品”と一緒に届くはずだから、それで英気を養ってくれ」

「そうか!ここの所、缶詰ばかりで部下たちにいい物を食わせてなかったからな・・・・あんたの主人にお礼を言っておいてくれや!」


 フードを被り直し、倉庫を後にするウィスパー。懐から手のひらに収まる大きさの長細い結晶を取り出し、力強く握ると少しだけ亀裂が入る。

 その結晶を、まるで電話の受話器のように耳に当てた。


「ご主人様・・・・手筈通り、あの者たちに”商品”を引き渡し手続きを終わらせました」

”ご苦労様・・・・やはり、あなたは仕事が早くて助かるわ”

 結晶から、うら若い女性の声が聞こえてくる。

 ウィスパーの使っている結晶は、”通信石”と呼ばれるもので、その希少性からかなりの高額で取引される代物だ。通信石は、使用する前に半分に割り、片方を話したい相手に持たせておき、使用の際はほんの少し傷つけることで、離れた相手と会話することが出来る。


”それで、例の物もちゃんと?”

「はい、差し入れと言って食べ物の中に混ぜております。後は”発症”を促す薬を当日飲ませるだけです」

”そう、分かったわ。それから、「お父様」から最新作が一ロット送られてきたの。すぐにでも、データを取ってほしいと手紙が添えられてた”

「では、すぐにでも被検体の選定を・・・・」

”必要ないわ・・・・・だって、最新作に求められているのは”無差別性”ですもの。丁度おあつらえ向きな祭りもある事ですし”

 通信石の向こうで、女性が高笑いを必死に押さえているのが伝わってくる。


「・・・・畏まりました。では、”散布”方法を検討いたします」

”頼むわね・・・・私のかわいいお人形さん”


 女性の声と共に、通信終了を意味する”破壊”が起こる。

 通信石は使用時間が極端に短く、しかも効力を失うと、粉々に砕け散ってしまうのだ。そのため、費用対効果を考えると、あまり有用には思えないが、第三者から通話を傍受されることもなく、使用環境も選ばないため、各国の特殊部隊やスパイが愛用している。


 ウィスパーは、砕け散り砂になった通信石の残滓を投げ捨て、同化するように暗闇の中へ消えて行った。 


**************


 昊斗そらと冬華そうかが依頼を受けて、一週間が経とうとしていた。

 

 学園内は、完全に学園祭一色となり、準備も佳境に差し掛かっていた。

 

 現在、アイディール学園は昼食時間で、ある者は教室で、ある者は食堂、そしてある者は中庭で食事を取っている。


 その中庭の一角には、美しい”華”たちが咲き誇っていた。


「見て、フェリシア様にアリエル様、それにクレア会長よ・・・いつ見てもお綺麗だわ」

「あちらの方々も、お三人様に引けを取らない不思議な美しさだわ」

「あそこの初等部の子、可愛い~!フェリシア様たちのお知り合いかしら?」


 周りの生徒たちの視線の先にいたのは、フェリシアにアリエルの王女二人に生徒会会長のクレア、アドバイザーとして学園に通い詰めている玉露ぎょくろ金糸雀カナリア、そして色とりどりのお弁当を前に嬉しそうに目移りしているルールーの五人に、アリエルの後ろには複合センサー搭載の機械式バイザーを付けた冬華とうかが立っていた。


「トーカさん、やはりご一緒に食べてはいただけないのですか?」

 直立不動の冬華とうかに、フェリシアが淋しそうに声をかける。

「ごめんねフェリちゃん。仕事中は、公私をきっちり分けるようにしてるから、またの機会にね」

 申し訳なさそうにする冬華とうかに、フェリシアが「とんでもありません!」と慌てて謝罪する。


 玉露ぎょくろのように、オンオフを設けているわけではないが、冬華とうかもプロとして、仕事をしている時はきちんと公私を分けるようにしているのだ。

「トーカ様は~、仕事熱心なのですね~」

「アリエル様のおっしゃる通りです、同じ女性としてナツメ様から見習わなければいけないことが多くありますね」

 ポワポワとした笑顔と、独特の間延びしたしゃべりで冬華とうかを評するアリエルと、尊敬のまなざしを向けるクレア。


「それにしても、トウカはともかくとして、ソラトは大変じゃの~・・・!ん~、フェリシアのお弁当は美味しいのじゃ!」

 広げられた弁当から、フェリシアが作った卵焼きを取り頬張るルールー。彼女の言葉で、その場にいる全員が、ある教室の窓を見つめる。

 

「・・・・・やはり、避けられてしまいましたか」

 残念そうにするクレアに、フェリシアは俯き、アリエルは少し笑顔を陰らせる。

「はい~・・・・ミーナさんにも~声を掛けたのですが・・・・」


”中庭で一緒にお弁当を食べませんか?”

 

 フェリシアとアリエルは、ヴィルヘルミナにも声を掛けたのだが、彼女は首を縦に振ることなく、去ってしまった。先の件があるにしても、彼女がここまで自分たちを避ける理由が、フェリシアたちにはわからなかった。


「皇女様に張り付いて、昊斗そらとも一人で淋しいでしょうから、からかいに行こうかしら」

玉露ぎょくろちゃん、意地が悪いよ。そんなことしたら、昊斗そらとさん絶対怒るから」

 仕事に励んでいるであろう昊斗そらとを、からかいに行こうとする玉露ぎょくろに、金糸雀カナリアがビシッと、釘をさす。 


昊斗そらと君、大丈夫かな・・・・)

 バイザーに隠れた目線を、彼がいるであろう屋上に向ける冬華とうかは、大変な相手を押しつけちゃったのかな、と少し心を痛めた。

 


 成り行きで、レヴォルツィオン帝国第一皇女ヴィルヘルミナ・エルザ・フォン・ハイゼンベルグの担当になった昊斗そらとは、彼女から離れて周囲を警戒していた。


 ヴィルヘルミナは、ルーン王国の国王カレイドの好意と、昊斗そらとの警護を容認したが、彼が自分の視界に入るのを決して許さなかった。

 そのため、昊斗そらとは彼女のいる教室の反対側校舎の屋上に陣取っている。


 冬華とうかと同じバイザーを付けた昊斗そらとが、バイザー内に映る映像をズームさせ、教室内のヴィルヘルミナにピントを合わせる。

 彼女の警護についてから、昊斗そらとが感じたのが、彼女がクラスメイトだけでなく、自分に仕える人々にさえ、気を許していないというものだ。


「・・・・・・あの子、何かあったんだろうな」

 そんなことを呟いていると、バイザーに接近警告が表示される。


「・・・・下手に気配を消して近づくと、攻撃されても文句は言えないからな」

 驚かせようとした相手から声を掛けられ、昊斗そらとに近づいてきた人物が声を上げる。


「!・・・・・またダメでしたね」

 昊斗そらとが振り向くとそこには、はにかんだフレミーが小さな袋を持って立っていた。学校用の変装と言うべき、栗色の髪に眼鏡姿は、未だに新鮮に映る。

「どうかしたのか?」

「いいえ・・・・あの、これ」

 彼女が差し出した袋を受け取り、中を確認すると、少し不格好なサンドウィッチが入っていた。


「・・・・・もしかして、フレミーが作ったのか?」

「は、はい・・・・姫様に習いながら」


 城では料理が出来ないと、ここ最近フェリシアは朝早くに昊斗そらとたちのベースを訪れては、持ち込んだ食材を使ってお弁当を作っている。

 そんな中、昊斗そらとに手渡したものは、フレミーも作ってみたら?とフェリシアに進められ作ったものだった。


 昊斗そらとは、その中から一つ取り出し口の中に放り込む。一瞬の出来事に、フレミーは遅れて顔を赤くする。

「・・・!できれば、私の見ていない所で食べてほしかった・・・・」

 恥ずかしさのあまり、言葉が尻すぼみになっていく。


「それじゃ、感想が言えないだろ?悪くないと思うよ、初めて作ったにしては」

 まぁ、サンドウィッチに上手下手はあまり関係ないが、きちんと野菜の余分な水分を取っているため、初心者にありがちな水っぽさは感じなかった。


「あ・・・ありがとうございます」

 褒められたフレミーは、さらに顔を赤くし俯く。


 フレミーのサンドウィッチを頬張りながら、昊斗そらとは再びヴィルヘルミナに視線を戻す。


「なぁ、フレミー」

「は、はい!?」

 名前を呼ばれ、声の裏返るフレミー。

「あの皇女様って、昔からああ(・・)だったのか?」

 昊斗そらとからの質問に、舞い上がっていたフレミーが落ち着きを取り戻す。

「あ・・・・えっと、私はよく存じていないのですが、姫様のお話では、ご幼少のころはとてもお優しい方で、周りの方々に気遣いを忘れない方だったと聞いておりますが・・・」

「なろほどな・・・・・」

 その話を聞くと、今とは真逆の性格である。

 考え込む昊斗そらとを見て、邪魔をしてはいけないと思い、フレミーがゆっくりとその場を後にしようとする。


「フレミー!」

「は、はい!」

 呼び止められ振り返ると、昊斗そらとがバイザーを上げて素顔を晒していた。

「サンドウィッチありがとう。おいしかったよ」

 笑顔でそう言われたフレミーは、意を決するように昊斗そらとを見つめる。

「・・・・・ソラトさん!頑張ってください!」

「?・・・・おう!」

 顔を真っ赤にして走り去るフレミーの背中を見送りながら、昊斗そらとは感じた違和感が何だったのかを考えながら、仕事へ戻っていったのだった。

 

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