(3) 依頼
「オレが想像していたよりも、まともな家だな。お前たちなら、強固な防御結界に侵入者用のトラップなんかを何重にも仕込んでそうなイメージだったんだが」
国王の使者として訪ねてきたドラグレアが、昊斗たちの家を見て回った感想がこれだった。
「一体、どんな家を想像していたんですか?逆にそんなことしたら周りから浮いてしまいますよ。備えはしていますが、防犯の範疇ですから」
ドラグレアの言葉に、苦笑する昊斗。
「いや~、前に来た時も思ったけど、ここは居心地がいいよね」
来客用の三人掛けのソファーに座り、部屋の中をくまなく見渡すのはアルバート騎士団の団長、フォルト・レーヴェである。
昊斗たちの家を訪ねてきたフォルトと、国王の代理として来たドラグレア。そして、フォルトの副官のアルフレット・スクァーレルは、応接室へ通されていた。
元商人の事務所兼自宅だった物件なので、一階は来客用の部屋がいくつもあった。
その中の一つを、昊斗たちは応接室として使い、家具などもそれに合わせて冬華たち女性陣がチョイスしたものだ。
「ありがとうございます」
笑顔で、彼とドラグレアの前にティーカップを置く冬華。
「そういえば、今日はギョクロ君とカナリア君の姿が見えないね?」
「彼女たち、今買い出しに出てるんですよ。どうぞ」
「あ、これは申しわけありません。私にまでお気遣いを」
アルフレットにもティーカップを手渡し、冬華はおぼんを持ったまま、昊斗の隣に座る。
「それで、今日はどういったご用件ですか?」
ドラグレアがうなずき、アルフレットがフォルトに書類の束を手渡す。
さらに、フォルトから昊斗に手渡され、昊斗が内容を確認し始め、冬華も横から覗きこむ。
「・・・・・要人警護、ですか?」
昊斗と冬華は、書類に一通り目を通し、フォルトたちに視線を戻した。
「端的にいえばそうなるな」
ドラグレアは、フォルトに目線を向け、フォルトが言葉を続ける。
「この王都には、知っての通り学生区と呼ばれる学校や学生たちが生活する地区があるんだけど、年に一度王立アイディール学園を中心にした複数の学校が、合同の学園祭をやっているんだ。その規模はかなりのものでね、大騒ぎなお祭りになるんだ。毎年アルバート騎士団も学園祭の警備と要人等の警護をしているんだけど、今年は問題があってね」
「問題って、この留学生うんぬんってやつですか?」
書類の一文に指を指す昊斗に、フォルトが肯定する。
「そう、今年は同盟各国から貴族だけでなく、王族・皇族の子女の方が留学生として多く来られていてね、例年以上に警護人数が必要で、人手が足りない状況なんだ」
「?それなら、各国から派遣してもらえばいいのではないですか?」
冬華の疑問に、ドラグレアが口を開く。
「冬華の言うことももっともなんだが、同盟を結んでいるとはいえ、他国の軍や騎士団を国内に入れると戦略的に知られたくないことが露呈する可能性が在り得るからな・・・・・ルーン王国では、留学生たちに必要以上の従者を国内へ連れてくることは認めていないんだ」
ドラグレアが、ドカッとソファーに背中を預ける。
「つまり、今回はそのことが裏目に出てしまった、ということですか」
「情けないことにね」
苦笑するフォルトに、昊斗は再び書類へ視線を落とす。
なぜ、昊斗たちにこのような話が来ているのか。
理由は、彼らがルーン王国で居住するためである。
ルーン王国に限らず、グラン・バースの各国では異世界から召喚された者たちに、破格の待遇を約束する代わりに、相応の働きを要求する。
言ってしまえば、ギブ・アンド・テイクの関係である。
だが、昊斗たちは突発的にとはいえ、王家の人間や関係者を連続でしかも大勢救っている。
しかし、アルバート城内で起きた件に関しては完全に秘匿扱いとなったため、昊斗たちの存在と力量に疑問視する家臣や有力貴族たちが多いため、国王カレイドは昊斗たちに、彼らを納得させるためにも、ルーン王国で働いてもらえないかと、伝えた。
郷に入っては郷に従え。昊斗たちが、多くの異世界を股に掛ける傭兵として学んだことの一つだった。
下手に波風立てると、後々の行動に支障が出かねないと、昊斗は申し入れを承諾した。
とはいえ、不特定多数を相手にしては人手が足りないだろうと、基本的には国王のカレイドとアルバート騎士団団長のフォルトの依頼を優先で受けるということになった。
家に移り住み一週間。初めてきた本格的な依頼に、昊斗と冬華の顔つきも真剣なものになる。
「今回は、国王と騎士団団長の連名での依頼だ。報酬の方も、通常より色を付けるとカレイドの奴が言っていたが・・・どうする?」
カレイドは、昊斗たちを部下でなく、あくまでも対等な間柄として扱い、依頼を強要するつもりはなかったので、受ける受けないは昊斗たちに一任された。
「もちろん受けますよ。ルーン王国で行動するには、俺たちはまだまだ立場が弱いですから」
現在、昊斗たちがルーン王国から認められているのは、王都ディアグラム内と周辺地域という狭い範囲の自由行動だけだった。
それ以外への外出となると、騎士団の監視が必須となるため、この上なく制限が増えるのだ。
持ちうる力を使えばどうにでも出来るのだが、強大な力を笠に着ることを昊斗たちは極端に嫌う。もちろん、必要と感じれば妥協はしないが、親しい相手にはそんな手を使いたくはないと、考えていた。
「分かった、カレイドの方にはオレから伝えておく。内容の詳しい話は、フォルトから聞いておいてくれ」
ティーカップの紅茶を、胃に一気に流し込み、ドラグレアが立ち上がる。
「帰られるんですか?」
「こう見えても、忙しい身の上でな」
見送りはいい、とドラグレアは部屋を出て行った。
「では、話を詰めようか?」
ドラグレアの背中を見送り、フォルトが書類を取り出す。
「君たちには、このお二方の警護をお願いしたい」
昊斗と冬華は受け取った書類に貼られた写真に視線を落とした。
*********
昊斗と冬華がフォルトと仕事の話をしていた同じ時間。
玉露と金糸雀は、学生区の中にある店から出てきた。
「なかなかいい買い物が出来ましたね」
ホクホクした顔で、満足そうにしている玉露。
「玉露ちゃん、これって無駄づかいだよね?」
後ろの金糸雀は、玉露から持たされた荷物を呆れた目で見ている。
「別に、私の持ち金でやっていることですから、問題はないでしょう?」
彼女たちが先ほど出てきたのは、学生服を取り扱う店で、学生区内にある学校の制服を取り扱っており、玉露は購入できる制服を全て購入していた。
「人間の服と言うのは、やはり窮屈じゃな」
フェリシアたちが通うアイディール学園初等部一般クラスの制服を着たルールーが、不満そうに声を上げる。
玉露の誘導で、ルールーは初等部の制服を着るように仕向けられた。ちなみに、金糸雀も高等部の制服を着せられそうになったが、彼女に合うサイズ(特に胸周りに合うサイズ)がなかったため、難を逃れた。
「制服とは窮屈なものですよ。あ!そのリボンを取ったらバランスが崩れる!!」
玉露に怒鳴られ、ビクッといじっていた胸元のリボンを離すルールー。
「もう・・・・いいですか?女の子の制服はこのリボンが命なのです。もっと丁寧に扱ってください」
「わ、分かったのじゃ・・・・」
崩れたリボンを直しながら、ルールーを嗜める玉露。
「あら?ギョクロさんにカナリアさん、この様なところでどうされたんですか?」
そんなことをやっていると、3人は後ろから声をかけられた。金糸雀が振り返ると、そこにはフェリシアとフレミーが立っていた。
「フェリシア様にフレミー様!今お帰りですか?」
「はい、そうなのですが・・・・もしかしてそちらの初等部の子は・・・ルーちゃん?」
初等部一般クラスの制服を着たルールーを見つけて、フェリシアたちに疑問符が付く。
「おお、フェリシア!どうじゃ?似合っておるかの?制服と言うものをギョクロから買ってもらったぞ!」
自慢げに自分の姿を見せるルールーに、フェリシアが破顔する。
「はい!よく似合ってますよ!!・・・・かわいい~」
前に冬華にされたように、フェリシアがルールーを抱きしめ、いい子いい子と頭を撫でる。えへへへ、と嬉しそうな顔をするルールーに、玉露は満足そうにうなずきながら眺めている。
「あの、制服って高かったんじゃないですか?私たちの学校って、一般クラスでも制服の値段は普通の学校より高かったと思うのですが」
フレミーが小声で、金糸雀に恐る恐る聞いてきた。
「あの人の趣味ですから、気にしなくていいと思いますよ」
幼馴染をフォローするのも慣れたな、と金糸雀は短くため息をついた。
その後、フェリシアとルールーを見る周りの目がさすがに辛くなってきたため、フェリシアたちは場所を変えようと、歩き出した。
「学園祭?」
「ええ、そうです。ご存知ですか?」
「それはまぁ、私たちの世界の学校でも同じようなことはやっていますから」
歩きながら、玉露たちはフェリシアから今度開催される合同学園祭の話を聞いてた。
「実は、私のクラスでは喫茶店と言うものをやることになりまして、そのことで今から喫茶店へ実際に行ってみようと思っていたんです」
「そうでしたか、学園祭の王道ですね・・・・では、おすすめの喫茶店へ・・・・」
「あら?どなたかと思えば、そこにいらっしゃるのはフェリシアお姉さまではありませんか?」
玉露の声を遮り、後ろから声をかけられ振り向く。
そこには、フェリシアと同じ特別クラスの制服を着たピンク色の髪をした女の子が自信に満ちた顔で仁王立ちしていたのだった。




