表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
学園の姫君たち 合同学園祭 編
27/180

(2) 引っ越し(後編)

「到着!!」


 騒がしい通学通勤時間を避け城を後にした昊斗そらとたち傭兵四人と、フェリシアの”精霊”で、ただ今昊斗(そらと)たち四人に再教育を受けているルールーは、昊斗そらとたちの新たな拠点となる古めかしい二階建ての一軒家の前に立っていた。


 そこは、商業地区に近い小さな住宅街の外れに位置し、昔商人が事務所兼自宅として使っていたと、クロードから聞いていた。


「ふむ・・・・ここがぬしたちの新たな家か?随分と小さい所じゃな」

 オブラートに包むことなく言い切るルールーに、四人は苦笑する。

「ルールー、おまえアルバート城と比較してるだろ?四人で住むならこのくらいが丁度いいんだよ」

「そうなのか?人間の住む場所の違いなぞ、妾には分からん」

 腕を組み、首を傾げるルールー。

 

 そんな彼女に、冬華とうかはクスクスと笑いかける。

「お城みたいに広い場所での生活も悪くはないんだけどね、やっぱり広すぎるのは落ち着かないんだよ」

『私もあるじの意見に賛成です』


 冬華とうかに同意し、うなずく金糸雀カナリアに、玉露ぎょくろはフッと鼻で笑う。


『一体何を言ってるんでしょうね、この執事っ娘は。金糸雀カナリアの実家だってアルバート城ぐらいあるでしょ?』

『!?ぎょ、玉露ぎょくろちゃん!私の家はあそこまで大きくないよ!!』


 アワアワと慌てる金糸雀カナリア。彼女は、天球でも五指に入る大財閥の令嬢であり、玉露ぎょくろの言っていることもあながち的外れでもなかった。


「懐かしいよね、傭兵になった最初のころは、金糸雀カナリアってよく駄々こねてたの」

「そうそう、「なんで私がこんな狭い所で暮さないといけないの!」ってな~・・・・・懐かしい」

 感慨深げに、うんうんとうなずく昊斗そらと冬華とうかの言葉に、金糸雀カナリアはさらに慌てる。

『やめてください!あれは・・・・あれは私にとって、忘却の彼方へ送った黒歴史ですから!・・・・・・』


 真っ赤になった顔を両手で押さえ、金糸雀カナリアはその場にしゃがみ込んでしまう。


「なるほどの・・・・人間には色々とあるんじゃな」


 金糸雀カナリアを見ながら、一つ人間のことを学んだルールーは自身の顎を撫でる。


「さぁ!無駄話はここまでだ、さっさと掃除してしまおう!」

 手を叩きながら、昊斗そらとは家を紹介してくれたクロード・グエルから引き渡された鍵を使い、玄関のカギを開け中へ入っていく。


「ほら、金糸雀カナリア!落ち込んでないで、行くよ!」

『うう・・・・・恥ずかしい・・・』

 冬華とうかに促され、金糸雀カナリアは重い足取りで冬華とうかの後について家の中へ入っていった。


『・・・・何か?』

 自分を見上げるルールーの視線に気が付き、玉露ぎょくろは声をかける。

「いや、ぬしの実家はどうなのかとちょっと興味が湧いてな」

『別に、何の変哲もない普通の家ですよ』


 仕事モードを崩さず、受け答えした玉露ぎょくろだが、何故かルールーは彼女が少し悲しそうに答えたように見えた。

 家の中へ入っていく玉露ぎょくろの後姿を見ながら、幼女姿の神様は再び顎を擦る。


「本当に、人間とは不思議な存在じゃな」


**********


「えっと・・・・・」

 髪を銀色に戻し騎士服を着たフレミーが、メモ紙と道の看板を交互に見ながら、道順を確認している。


「それにしてもトーカさんたち・・・・お掃除なら私もお手伝いするのに」

 木漏れ日の森で着ていた町服に手には小さな包みを持ち、通学時フレミーのかけていた眼鏡と色違いの眼鏡をかけ変装したフェリシアが、不満そうに頬を膨らませる。

「皆さん、姫様のお手を煩わせたくないという気持ちがあったのでしょうね」

 メモ紙を見ながら、そうに違いないとフレミーが伝えると、フェリシアの頬がさらに膨らむ。

「私たちお友達なのに、水臭いです」

 二人が学校から帰ってくると、昊斗そらとたちが購入した家の掃除に行ったことを侍女たちから聞かされた。


 フェリシアは制服のまま行こうとしたが、彼女たちの通う”学校”の王族や貴族の子女が通う特別クラスでは、通学帰宅以外で制服のまま出歩くのははしたないことという風潮があるため、侍女たちは「行くのならせめて着替えてください」と懇願した。


 急いでいるフェリシアだったが、自身の立場を考え逸る気持ちを抑えながら着替えに部屋へ戻り、フレミーを伴って昊斗そらとたちの家へ出かけたのだ。


「・・・・・あの角を曲がったところですね」

 フレミーの案内で、角を曲がるとフェリシアたちの目に昊斗そらとたちが購入した家が映る。


「ここですね」

「趣のある家・・・・私もこういった家に住んでみたい」

 玄関前に立ち、フレミーがドアをノックする。


「はーい」と、中から声が聞こえドアが開く。


「・・・・・・これは、フェリシア様にフレミー様。ようこそいらっしゃいました」


 少し驚いた顔をし、すぐに二人を笑顔で出迎えたのは、執事服に女の子らしいエプロンと言う変わった出で立ちの金糸雀カナリアだった。


「・・・・・!すみません、突然お邪魔してしまって・・・お掃除に人手が必要だと思いお手伝いにきました」

 そんな彼女の格好に気を取られ、慌てて頭を下げるフェリシアとフレミーに、金糸雀カナリアも恭しく一礼した。


「お心遣い、ありがとうございます。ただいまあるじたちを呼んできますので、中でお待ちください」

 二人を中へ招き入れた時だった。

金糸雀カナリア、誰か来たのですか?・・・おや、フェリシアさんにフレミーさん。学校は終わったのですか?」

 廊下の奥から、玉露ぎょくろが頭の三角巾を外しながら現れた。いつもの着物姿で、袖が邪魔にならないよう襷掛けしており、その姿はまさしく古き良き日本女性そのものだった。


「はい、帰ってから皆さんが購入された家の掃除をされていると聞いたので駆けつけたのですが」

「そうでしたか・・・・しかし、お二人とも制服ではないのですね。残念」

 今朝見た二人の制服姿を今一度じっくり見てみたいと思っていた玉露ぎょくろは、少し残念そうにしている。

玉露ぎょくろちゃん、あるじたちは二階だよね?」

「えぇ、そのはずよ」

 階段を上る金糸雀カナリアを見送り、フェリシアたちは玉露ぎょくろへ視線を送る。


「どうかされましたか?」

 首を傾げる玉露ぎょくろに、フェリシアとフレミーはある違和感を感じていた。


「あの、少しよろしいですか?」

「はい?」

 フェリシアは、ゆっくりと玉露ぎょくろの着物に、手を伸ばした。そして、触れることのできないはずの玉露ぎょくろに触れることが出来、フェリシアは驚いて彼女の顔を見た。


「驚いただろう?」


 頭の上から声が降りかかりその方へ顔を動かすと、階段の踊り場には昊斗そらとたちを呼びに行った金糸雀カナリアと、掃除のしやすい格好なのだろう、黒のジャージ姿に頭には白いタオルを巻いた昊斗そらとに、対して汚れても目立たないようにか、普段の彼女が着ないような地味な色の長そでのシャツにジーンズ、その上からエプロンを身に着けた冬華とうかが立っている。

 そして、フリルのたくさんついたエプロンをつけていたルールーが、疲れた顔をして立っていた。


「フェリシア~!」

 契約者の姿を見つけ、掃除に疲れたルールーがフェリシアに駆け寄り抱きつく。


「ルーちゃん!トーカさんたちのお手伝いをしてたのですか?えらいですね」

 抱きつくルールーの頭をやさしく撫でるフェリシア。

「えらい?・・・うむ!妾はえらいのじゃ!」


 嬉しそうにするルールーを撫でながら、フェリシアは昊斗そらとたちに質問をぶつける。

「あの、どうして玉露ぎょくろさんに触れることが出来たのでしょう?たしか、玉露ぎょくろさんと金糸雀カナリアさんは実体を持たないと聞いていたと記憶しているのですが」

 フェリシアの言葉を引き継ぎ、フレミーが続ける。

「私もそう聞き及んでいます。ですが玉露ぎょくろさんに、そして金糸雀カナリアさんは今、間違いなく実体を持たれていますよね?」


 フェリシアもだが、特にフレミーは騎士という立場からか、人一倍気配を敏感に感じるため、普段は感じない天球人の二人から気配を感じ、内心で驚いていた。


「この身体は、天球人の傭兵一人一人に支給されている高性能の義体です。狭いとはいえ、この家をマスターたちだけに掃除させるわけにはいかないので、これに入って掃除をしていたのですよ」


 当初、天球人たちの利用法で模索された中の一つに、実体を持たない天球人たちに”身体”を与えて傭兵にしようと言う計画があった。その際、様々な世界に存在したサイボーグ技術やロボット技術を駆使して、専用の義体を開発し何人かに使用させた結果、大きな成果を上げることに成功し、これ以降天球人たちに一体ずつ支給されている。


 玉露ぎょくろたちの使っている義体は、一般的な戦闘用の物に比べ一部の戦闘機能を省いた上で、最低限の戦闘機能を残し、それ以外の機能を高めた特別製で、本格的な戦闘には不向きだがサポート役の彼女たちには十分な性能だった。


「フェリシア様たちに私たちのご説明した際、このことを伝え忘れていたので、アルバート城内では使っていませんでした」


 説明を受けながら、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアを隅々まで観察するフェリシアとフレミー。


「本当に、生きた身体ではないのですか?どこをどう見ても本物にしか見えません」

「触ってみますか?」


 金糸雀カナリアの差し出した手を、フェリシアは恐る恐る握る。

 温かな、人のぬくもりが伝わってくる。ただ、肌の質感はほんの少し人とは違う気がした。


 フェリシアに替わり、フレミーも手を握るとフェリシアと同じ反応が彼女に起こる。


「異世界の技術とは、凄いものですね」

 金糸雀カナリアの手を握った自身の手を見つめ、感心するように呟くフレミー。


「とはいえ、この状態では本来の役目に支障がでますので、傭兵の”仕事”では使いませんがね」

 玉露ぎょくろたちの話をしていると、つまらなそうに横で聞いていたルールーがフェリシアの手を引っ張る。


「のうフェリシア。その手に持つものはなんじゃ?なんとなく甘い香りがするんじゃが?」

 フェリシアの持つ包みに視線を固定し、ルールーは興味津々で鼻を動かしている。

「あぁ、これはお土産に持ってきたケーキですよ。お茶請けにいいかと思い持ってきました」

「ケーキ!?」

 フェリシアの言葉に、先ほどまでの疲れた顔が嘘のように明るくなるルールー。


「そういや、ほとんど休憩なしで作業してたからな~、ここらで一息入れよう」

「そうだね、キッチンの方の片付けは終わってるから、お茶入れようか?」

「あ!私もお手伝いします!」


 キッチンへ歩き出す冬華とうかに、フェリシアが嬉しそうに小走りでついていく。城に戻ってからと言うもの、ドラグレアの小屋でやっていた家事が一切出来なくなったフェリシアは、隙あらば家事をしようと虎視眈々と狙っていたのだった。

 

「!?お客様にそのようなことさせられません!お待ちください!!」

 出遅れた金糸雀カナリアが、慌てて後を追いかけ、ルールーも待ちきれない様子で付いて行った。 


 残った昊斗そらと玉露ぎょくろ、そしてフレミーは何をする訳でもなく、手持無沙汰に立っていた。


「そうだ、フレミーさん」

「は、はい!」

 玉露ぎょくろに声をかけられ、フレミーの声が裏返った。

「よろしければ後日、学校の制服をじっくり見せていただいても?」

「あ・・・は、はぁ構いませんが・・・・」


 フレミーは、先日の街中での一件以来、玉露ぎょくろに対して苦手意識を持っていた。なので、彼女から声をかけられると、身体が反応してしまうのだ。


「楽しみです」

 義体に入っているせいか、いつも以上に顔から表情が読み取れる玉露ぎょくろは、本当に楽しそうにしていた。

 そんな彼女の反応を見て、フレミーは何となく猛獣に狙われているような感覚に陥り怯える。


「すまないな、玉露ぎょくろは服が絡むと人が変わるんだ。おかしなことをされることはないかはずだから、安心してくれ」

「は・・・・はい」

 笑顔の昊斗そらとを見て、今度は恥ずかしそうに顔を赤くし俯くフレミー。


「失礼な・・・・モデルさんに手を触れないのは当然です。私の興味は”服”なのですから」

 自身のこだわりに小さな胸を張る玉露ぎょくろ


昊斗そらと君~!準備できたよ!」

 キッチンから、冬華とうかの声が響き、紅茶の香りが漂ってくる。

「よし!それじゃ、休憩したら、残りを頑張るか!」


 背伸びをしながらキッチンへ歩いていく昊斗そらとたち。


 休憩後、途中参加のフェリシアとフレミーのおかげで掃除は予定通り終了し、昊斗そらとたち傭兵チームがこの新たな拠点に移り住んだのは、それから三日後のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ