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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
学園の姫君たち 合同学園祭 編
26/180

(1) 引っ越し(前編)

 水の神ルドラの出現を発端に起きた混乱(とは言っても、事実を知る者は極々少数で、表向きは発見された異世界の魔法具の暴走と片付けられている)から、三日が過ぎた。


 朝食後の紅茶を楽しんでいた昊斗そらとたちの耳に、廊下からバタバタと走る音が聞こえ、部屋の前で止まったと同時に、勢いよく扉が開かれた。


「・・・・・・・フェリちゃん?」


 呆気にとられる部屋の中の面々の視線の先には、ドアノブに手を乗せたまま俯いて肩で息をする、フェリシアの姿があった。


 しかも恰好は、最近見慣れ始めたドレス姿やドラグレアの小屋で見慣れた町服でなく、初めて見る”学校の制服”だった。


「ど、どうかしたのか?フェリシア」


 恐る恐るフェリシアに近づく昊斗そらとに、フェリシアは勢いよく顔を上げた。


「あう・・・え・・う・・・」


 声を出そうとしているようなのだが、ここまで走ってきたことと、表情から何か混乱の中にあるせいか、フェリシアはうまく言葉を紡げずにいた。


「フェリシア、とりあえず落ち着こうか?肩の力を抜いて、ゆっくり息を吸って・・・吐いて・・・吸って・・・吐いて」


 昊斗そらとの言われたとおりにすると、緊張していたフェリシアの身体の強張りが消え、顔にも余裕が出てきた。


「フェリちゃん、これ金糸雀カナリア特製のハーブティーなの。すごく落ち着くから飲んでみて」

 差し出されたティーカップを手に取り、フェリシアがゆっくりと口をつける。

「・・・・・おいしい。それに、いい香りです」

『お褒め頂き光栄です、フェリシア様』


 執事服姿の金糸雀カナリアが、笑顔で一礼する。


『では、落ち着いたところで・・・フェリシアさん、何か用事があったのではないですか?・・・・・あぁ、ちなみにルールー(食いしん坊)をお探しなら、そこで冬華とうかさん手製のパンケーキをパクついてますよ』

 玉露ぎょくろの目線の先には、実に幸せそうにパンケーキを口へ運ぶ小学生ぐらいの少女が座っている。


「えぅ?」

 視線に気が付いたのか、ほっぺたにクリームを付け、フォークを口に運んだ状態で固まったままフェリシアを見つめる少女。

 偏った知識と経験により、暴走とも取れる行動を取たせいで、昊斗そらと冬華とうかによってトラウマを植えつけられ、現在は”人間”を学ぶためフェリシアの”精霊”となり、神を休んでいる水の神ルドラであり、今はルールーと呼ばれている。


 契約者であるフェリシアと視線が重なり、ルールーは滝のような冷や汗を流し始める。


「い、いや!これはなフェリシアよ、冬華とうかにおいしい食べ物があるよと誘われてだな、しかも妾の為に用意したと言うから、妾が食べなければ勿体ないではないか?もちろん、お主に言わなかったのは妾の失態だが・・・・」


 などと、聞いてもいないことを、矢継ぎ早にしゃべるルールー。

 だが、玉露ぎょくろの言葉にフェリシアは自分の用事を思い出したのか、リラックスしていた顔がみるみる内に険しくなる。


「そんなことはどうでもいいんです!!私、皆さんにお聞きしないといけないことが・・・・」

 そこまで言って、フェリシアははたっと気が付き、口を押えた。


「そっか・・・・・フェリシアにとって妾はどうでもいい存在か・・・そうじゃろうな、モノ扱いした妾なぞ、歯牙にもかけない存在・・・・」

「ご、ごめんなさいルーちゃん!私、そんなつもりで言ったわけでは・・・・・!?お願いですから、泣かないで!」

 膝を抱え、完全に落ち込み涙をためるルールーに、フェリシアが慌ててご機嫌を取り始める。


 膝を抱え拗ねる神様ルールー。フェリシアと契約して数日、膝を抱えるのが様になったな、と思う昊斗そらとだが、その一端を担ったのは間違いなく彼だった。


 最終的に、フェリシアと冬華とうか、さらに金糸雀カナリアまで動員しルールーをなだめることに成功し、彼女は再びパンケーキを食べ始めている。その横で、フェリシアはここへ来た用事を昊斗そらとたちに話していた。


「お父様から聞きました・・・・皆さん、ここから出ていくと。それは、本当なのですか?」

「あー・・・・・それか。まぁ、間違いではないかな。な?」

「うん、そうだね。とりあえず近日中にでもね」


 昊斗そらと冬華とうかの言葉に、まさにこの世の終わりのような絶望した表情に、悲壮感がフェリシアから漂ってくる。


「やはり、城内の雰囲気が?それとも、別の・・・・!」

 ブツブツと呟いていたフェリシアが、何かに気が付き顔を上げたその時だ。

「すみません、こちらに姫様が来られていますか?」

 ノックの後扉が開き、フェリシアの騎士であるフレミーの声が聞こえた。それと同時に、フェリシアが声を上げる。

「もしかして、フレミーが出て行けと言ったからでしょうか?!」

「えぇ!!?」

 いきなり槍玉にあげられたフレミーが部屋に飛び込んでくる。


 普段のフェリシアがそんなことを言うことはないのだが、ネガティブな考えが積りに積もっていたのか、とんでもないことを言ったのだが、昊斗そらとたちは別のことに驚いていた。


「・・・・・フレミー、だよな?」


 入ってきた女の子の声は間違いなくフレミーなのだが、彼女の容姿とは違う部分があった。フェリシアと同じ銀色の髪はルーン王国の国民に多い栗色になり、眼鏡をかけて髪を二つに括っているので立ち姿は地球でいうところの委員長スタイルなのだ。制服のデザインも所々違うため、そっくりな二人が今日は別人に見える。


「フレミーさん、髪の色・・・・」

「え?!・・・・あ、えぇ、学校に行くときは周りに混乱が起きないよういつもこの色にしているのですが・・・って!姫様、先ほどのお言葉はいったい?!」

「ソラトさんたちがこの城を出ていくと聞いたの!それで、その理由がフレミーが前にソラトさんに言ったことが原因だと・・・」

「そ、そうなのですか?!!」


 まさか自分のせいで、とフレミーが昊斗そらとに泣きそうな顔で訴えかけてくる。

 埒が明かないと、昊斗そらとは大きく両手を広げ、手のひらを打ち合わせた。音の大きさと振動で、部屋がビリビリと揺れる。


「ふたりとも、ちょっと落ち着け」


 耳を押さえるフェリシアとフレミーに、昊斗そらとが迫力のある笑顔と声で、自制を求めたのだった。


 落ち着いた二人に、昊斗そらとたちは城を出てはいくが、ルーン王国を出て行くつもりのないこと、城下町に家を購入し、今日にもそちらへ移ることを伝える。


 かなり急な話だが、日を追うごとに家臣たちの昊斗そらとたちへの風当たりが強くなり始めていたので、後々の事を考えて遺恨を残さないためだ、と説明した。


 その話を聞き、フレミーは思い当たる節があったのか、あぁという顔をする。

「ではこの間のは、家を探されていたのですか?」

「?あぁこの間、街であった時か?そう、フォルトさんの部下に不動産に強い人がいるって紹介してもらって、色々と物件を見せてもらったんだが、いい所があったから即決したんだよ」

 

 その話を聞きながら、一人で大騒ぎしていたことがよほど恥ずかしかったのだろう、フェリシアは穴があった入りたいと言わんばかりに、顔を伏せていた。


「フェリちゃん、大丈夫だよ・・・誰だって勘違いはあるから」

 冬華とうかのフェローで、フェリシアは顔を赤くしたまま何とか顔を上げる。

「あの・・・大騒ぎしてしまいすみませんでした。それに、フレミーも疑ってしまってごめんなさい」

「姫様!私にそのような、お気遣いなどしなくても!」

 深々と頭を下げるフェリシアに、フレミーはアタフタとして立ち上がる。


 そんなやり取りを見ながら、冬華とうかが二人に声をかけた。

「さっきから気になってたんだけど二人とも、それって学校の制服だよね?だけど、どうしてデザインが違うの?」


 冬華とうかの質問に、お互いの制服を見比べるフェリシアとフレミー。

「これですか?姫様の制服は王族や貴族の方々が通う特別クラスの、私のは騎士見習いの生徒が通う騎士クラスの、これにあと平民などの生徒が通う一般クラスの制服がありますよ」

 フレミーの説明に、玉露ぎょくろの目が光る。

『なるほど・・・・・そう言われれば、フェリシアさんの制服は細かい所にまで繊細な装飾が施され、お嬢様学校に見られる丈の長いスカートでエレガントさを演出しているのですね。逆にフレミーさんの制服は、動き回る騎士見習いに配慮して短いスカート丈に、肩などの動きを邪魔しないように余裕があるのですね。こうなると、一般生徒の制服も見てみたいですね』


 ”服”に興味のある玉露ぎょくろにとって、二人の制服はとても感性を刺激されたようだった。


 開いた扉から通りかかったメイドさんが、血相を変えて入ってきた。

「姫様、フレミーさん!!こんな所にいたのですか?!学校へ行く時間、とっくに過ぎていますよ!!」

「うそ?!」

 驚いてフェリシアたちが部屋の時計を見ると、確かにいつも出る時間から考えると、学校に着くのはかなりギリギリなる時間を回っていた。


「ひ、姫様、先に行ってください。鞄をお持ちしますので!」

「フレミーお願い!すみません、ルーちゃんのことお願いします!」

 二人を探していたメイドに急かされ、二人は学校へと登校していった。


「人間とは、大変じゃの」

 パンケーキを食べ終わり、金糸雀カナリアの淹れた紅茶をおいしそうに飲むルールー。

「食べ終わった?なら、何ていうんだっけ?」

 

 冬華とうかは、子供に言い聞かせるようにルールーへ問いかける。

「ん?おぉ、そうじゃった・・・ごちそうさまでした」

 手を合わせ、ペコッと頭を下げるルールー。


 人間の中で生活するうえで、ルールーに色々と教えなければいけないのだが、その役目の大部分を昊斗そらとたちが請け負っている。未熟な代理神への再教育なども、いくつかある傭兵としての義務の一つとなっているのだ。

 もちろん、契約者であるフェリシアもグラン・バースでの人間社会に関することを教えていたりと、みんなでルールーを育てている状態だった。


「しかし、フェリシアたちの行っている学校と言うところにも興味があるのじゃがなー」

「ルールーは、まだ覚えないといけないことが多いんだ。それに”隠形”出来ないようにしているから当分無理だな」


 精霊は、基本的に契約者のすぐ傍で”隠形おんぎょう”、つまり姿を消した状態でいるのだが、今のルールーがそんな状態になったら何をしでかすか分からないため、隠形出来ないように首輪型の封印具をつけている。

 これは、別世界の創造神が対代理神用に作っていた封印具で、それを冬華とうか玉露ぎょくろが手を加えて、効果を限定的にしている。

 とはいえ、離れていて契約者に万が一のことがあると困るので、どれだけ離れていてもフェリシアが呼べば一瞬で彼女の下へ跳べるように冬華とうかが術式を組み込んでいるので、フェリシアの傍にいなくても問題になっていないのだ。


「まったく、信用がないの~妾は」

「前科持ちが何言ってるんだか・・・・さぁ、今日中に掃除を済ませないといけないからな、ルールーにも頑張って手伝ってもらわないとな」

「ま、待つのじゃ!そんなことまで妾はしないといけないのか?!」


 昊斗そらとの言葉に、驚いてテーブルを叩き立ち上がるルールー。 

 ここ数日で、ルールーが苦手と感じ、避けていたのが掃除だったのだが、冬華とうかはそんなこと百も承知なので、丁寧にルールーの退路を断ち始めた。


「ルーちゃん、さっき私が焼いたパンケーキ食べたよね?私たちの世界には、働かざる者食うべからずって言葉があるんだけど、働かない者はご飯を食べちゃいけないよって意味なの。つまりご飯を食べたのなら働こう、ともいえる訳・・・・ここまで言えばわかるよね?」

『ようは、とっとと働けってことです。駄神だしん様』

 玉露ぎょくろが止めを刺し、ぐうの音も出ないルールーはテーブルに倒れ込んだ。


 この日、ルールーはタダより怖いものはないと、身を以て体験したのだった。

  


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