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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
水の神 降臨 編
24/180

(12) 成人

「・・・・・・・・・・・・・・」


 まさか、神である自分があんなに大泣きし、しかも人間にそれを受け止められたことがショックだった水の神ルドラは膝を抱え、落ち込んだ様子でブツブツと独り言を呟いていた。

 それを見て、彼女を信仰するカレイドやマリア、そしてフェリシアはどうしたらいいのか分からず、そっとしておいてあげようと示し合わせた。


 状況が終了したことを確認し、冬華とうかは儀式の間を元の場所へ戻した。


 すると扉が開き、ダメージの回復したドラグレアと彼に付き添っていたフレミーが慌てた様子で入ってきたが、彼らが予想していた状況に反していたのか、入ってきた瞬間ドラグレアは固まり、フレミーは何がどうなっているのか分からない様子で立っていた。


 カレイドは、ドラグレアに事のあらましを話し、彼からは城内の状況を聞いていた。マリアは、未だ意識を戻らない祭事巫女のマーナに付き添っている。


 フェリシアはフレミーと共に、共鳴結合を解いた昊斗そらとたちから話を聞いている。

 それは、ドラグレアたちには知らせていた、昊斗そらとたちがグラン・バースへやって来た目的だった。

 フェリシアは、昊斗そらとたちが大神たいしんではなく、創造神と呼ばれる存在によって特別にグラン・バースへ召喚されたことは聞いていたが、それ以上のことは聞いていなかった。もちろん、彼らが何かを隠しているのは薄々感じていたが、話してくれるまで待とうと、フェリシアは決めていた。


 真相を聞き、フレミーはうまく話が呑み込めていないようで、首をひねっていた。

 そしてフェリシアは、さびしげな眼をして顔を伏せた。


「ごめんね、フェリちゃん。代理神が絡む依頼の場合、現地の人に無闇に話すと不安を煽るだけから話しづらかったの・・・・・本当に、ごめんなさい」

「そ、そんな!トーカさんは・・・・・皆さんは悪くないですよ。皆さんが、私やこの世界に住む人のことを考えてくれていたの、すごく伝わりましたから」


 フェリシアが怒っていると思い、謝罪する冬華とうかに、フェリシアが慌てて否定するフェリシアだったが、やはり表情は暗いままだった。


「フェリシア・・・どうかしたのか?」

「いいえ・・・皆さんが、ソラトさんとトーカさんが来た所に、私が”たまたま”居合わせただけだったんだなって思って・・・・」

 そこまで言って、フェリシアはポロポロと目から涙が零れ落ちた。


 グラン・バースにおいて、大神たいしんによって召喚された異世界人と、基点者ポインターの精神の波長がよく似ていることが知られている。そのため、基点者ポインターと召喚された異世界人が親密な関係になることが少なくなかった。


 フェリシアの父であるカレイドも、彼の下に最初にやってきたドラグレアとはそれ以来の大親友である。 

 幼いころから父とドラグレアの関係を見てきたフェリシアは、そんな二人を羨ましく思っていた。

 そしていつかは自分も、と思っていた矢先に自分の下へやってきた兄や姉のように思えた年上の二人。

 フェリシアは、運命だと思い・・・すごく嬉しかった。初めて精霊術を使えた時より、父と母に褒められた時よりもだ。


 だが、そんな二人が大神たいしんとは違う意思によって召喚され、しかもやってきた理由が仕事だったから、というのだ。つまり、彼らとの出会いは”たまたま”だった?と思うとフェリシアは悲しくなった。


 涙ながらに語るフェリシアに、冬華とうかは優しい声で、こう尋ねた。


「・・・フェリちゃんは、波長の合う人じゃないとお友達になれない?”たまたま”出会った相手とは、親友にはなりたくはない?」

「そんなことは!・・・・・・・!」


 そこまで言われて、フェリシアは気が付いた。昊斗そらと冬華とうかを異世界人だと考えすぎるあまり、視野が狭まっていたことを。


「フェリちゃんは、同じ世界に住む人たちと友達になるのに、そんな難しいこと考えないよね?異世界の人とだって・・・・・・私はフェリちゃんを大切な友達だと思ってる。フェリちゃんはどう?」

「私は・・・・・ソラトさんもトーカさんも、それにギョクロさんもカナリアさんも大切なお友達だと思ってます・・・お友達でいたいです」

 冬華とうかの手を握り、フェリシアは昊斗そらとたちの顔を見渡す。

「なら、解決だな」

『ですね』

『フェリシア様、これからもよろしくお願いします!』


 フェリシアの手に、昊斗そらと玉露ぎょくろ、それに金糸雀カナリアが手を合わせる。

「ほら!フレミーも来いって!」

「え、えぇ!?」


 ちょっと疎外感を感じていたフレミーに、昊斗そらとが強引にフレミーの手を引き輪の中に連れ込む。

 昊斗そらとに手を掴まれ、顔を真っ赤にしたフレミーは、驚きながらも何処か嬉しそうだった。


 若者たちの心温まる光景に、大人たちは微笑ましく見つめていた。


「・・・・・・さて、落ち着いたところだが、問題が一つある」


 手を上げてドラグレアが、昊斗そらとたちに声をかける。


「問題って、あれ(・・)ですか?」

 昊斗そらとが、後ろで膝を抱える水の神(ルドラ)を指さす。

「いや、あれも問題だが、フェリシアのことだ」

「フェリちゃんの?」


 自分に視線が集まり、フェリシアは困惑するように周りを見渡す。


「カレイドやマリアとも話したんだが、はっきり言ってフェリシアが今日中に精霊と契約が出来ないかもしれないんだ」

「え・・・・・」

 ドラグレアの言葉に、フェリシアの顔から表情が消える。


「?今日中に無理なら日を改めればいいんじゃないですか?」


 冬華とうかの疑問に、マリアが答えた。


「精霊術士にとって、精霊との契約は一生に一度。成人である18になる年のもっとも良き日に契約しなければいけないのです。フェリシアにとって、今日がその日だったのですが・・・・」


 マリアが遠慮がちに、ルドラの方へ視線を送る。


『ああ、あそこで膝を抱える空気を読めなかった(世間知らず)のせいで、台無しになった、と』


 玉露ぎょくろの言葉に、ルドラが顔を上げ抗議しようとするが、昊斗そらと冬華とうかに睨まれ、「ひぃ!」と再び顔を伏せ、カタカタと震えだした。


「フェリシアが契約できるのは水の精霊だけ・・・水の精霊を統べている水の神が戦った場所に、恐れをなした精霊が現れるとは思えない・・・・」

 

 マリアの声がフェードアウトしていき、昊斗そらとたち傭兵4人以外の空気が沈んでいく。


 そんな中、昊斗そらと冬華とうかはあれ?っと言った感じで、ルドラのことを見ていた。


「神は精霊を統べている・・・・」

「・・・・ねぇ、昊斗そらと君。私、いい考えが浮かんだけど」

「奇遇だな。俺も、妙案が浮かんだ」 


 二人は、先ほどの戦闘の時とは違う、まるで獲物に狙いを定める猛禽類のような目で、ルドラを見つめた。


 昊斗そらとたちに短時間で植えつけられたトラウマのせいで、二人の視線に敏感になったルドラは、今度は何をされるのか解らず、先ほど以上にガタガタと震えるのだった。


************


「我が娘フェリシアが精霊との契約を完了した。これより成人の儀を始める」


 玉座に座るカレイドと隣には王妃マリアを見ながら、居並ぶ家臣たちの間を、フェリシアが成人を迎えるために仕立てられたドレスを身にまとい進んでいく。


 自慢の娘の晴れ姿に、カレイドは満足そうにうなずき、母のマリアは目に涙を浮かべる。

 玉座の前まで進み、跪くフェリシアに立ち上がったカレイドが近付く。


「今日からお前は成人として、これからは責任のある行動をしなければならない。王として、そして父として、お前の一層の頑張りを期待しているぞ」

「はい、お父様」


 カレイドは、成人の証であり正式な精霊術士の証でもある水の指輪を家臣から受け取り、父の手でフェリシアの指にはめられる。

 


 立ち会った家臣たちからは、拍手が巻き起こり、フェリシアの成人の儀は無事終了した。



「あ!フェリちゃん、お疲れ様~」

「お疲れ、フェリシア」


 成人の儀を終えたフェリシアがその足で向かったのは、昊斗そらとたちが待つティールームだった。


「お待たせしてしまってすみません」

「いや、構わないさ。主役がいなきゃ始まらないしな」


 成人を迎えるフェリシアの為、冬華とうか玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが企画したささやかなお祝いの席。テーブルには、色とりどりのお菓子が並んでいた。


「凄い・・・・これ、皆さんがご準備を?」

「お菓子と飲み物は私と金糸雀カナリアが、飾りつけは玉露ぎょくろちゃんが担当したんだよ」

『ちなみに、昊斗そらとは見てただけよ』

「そこは、言わなくていいだろ」


 プライベートの口調になっている玉露ぎょくろに、昊斗そらとが余計なことを言うなと半眼で睨む。


 ちなみに、フレミーもお呼ばれされているのだが、騎士団の方で呼び出しを受けた為、遅れて参加することになっている。

 

 和気あいあいと始まるお茶会だったが、一角だけに淀んだ空気が流れていた。


 どこかで見たことのある膝を抱えた姿。しかし、見覚えのある姿とは身体の大きさが全然違った。


 大きく見積もっても、小学校中学年程度の体つきで、性別を超えてすべての人間を虜にする魅惑的な体つきは見る影もなく、顔も幼くなっていたが美少女であるのは変わりなかった。


「ルーちゃん?どうしたの?」

 冬華とうかがルーちゃんと呼んだ幼女が、涙目で立ち上がった。


「どうしたもこうしたもない!!妾は世界を管理する神なのじゃぞ?それが、こんなちんちくりんな姿に・・・・・」


 自らの姿を見渡し、再び膝を抱える幼女。


 そう、この膝を抱える幼女こそ、昊斗そらとたちの目の前に現れた水の神ルドラなのだ。着ている衣も、前のデザインを踏襲しているが、幼い姿に合わせて所々に甘系のイメージが付け加えられている。


 フェリシアが、精霊との契約が難しくなったと聞いた昊斗そらと冬華とうかが一計を案じ、水の精霊を統括するルドラとフェリシアが契約してしまえばいいと、言い出したのだ。


 もちろんその場にいた全員が耳を疑い、担ぎ出されたルドラは「ふざけるな!」と騒いだが、昊斗そらとたちは問答無用にある場所へ連れて行った。


 そこは、創造神の元だった。


 裏切りに近い所業をしてしまった相手の前に連れ出され、ルドラは昊斗そらとたちとは違う恐怖を感じていた。

 しかし、出迎えた創造神は、我が子であるルドラを見て激怒することなく、優しく出迎えたのだ。その優しさは、フェリシアにも感じたのと同じものだった事にルドラは驚き、再び泣き出してしまった。

 そして、ルドラから創造神に力が無事返還された。


 報告で、昊斗そらと冬華とうかは創造神にルドラの現状を伝え、更生のために人間と共に生活をさせることを提案し、創造神はすぐに了承した。


 創造神はルドラの新たな身体を用意し、元の身体には世界を管理するのに必要な力と最低限の思考力を残し、新たな身体にルドラの魂と残った力を入れこんだ。


 創造神の下から戻ったルドラを見て、フェリシアは驚いたがルドラに「私と、契約していただけませんか?」と頭を下げた。彼女から伝わる切実な気持ちに、ルドラは仕方ないと折れ、契約を結んだ。

 名前も、まんまルドラじゃマズイとして、”ルール-”と改めた。


 フェリシアとの契約は納得しているルドラことルールーだが、自分の姿には納得していなかった。


「だって、前の姿じゃ周りを威圧しちゃうでしょ?その姿なら、色々お得だと思うよ?」


 裏話だが、ルールーの姿をデザインしたのは何を隠そう可愛い物好きの冬華とうかで、着ている衣は、玉露ぎょくろデザインだ。

 ルールーの姿を見て、渾身の出来!と二人は自画自賛していた。


「これの何処がお得なのじゃ!!」

「まぁまぁルーちゃん。これでも食べて」

 憤慨するルールーに、冬華とうかがお菓子を差し出す。


「ふん、人間が食べるものなど・・・・!」

 一口食べたクッキーに、ルールーの顔が先ほど落ち込んでいた時が嘘のように明るくなり、一つ二つとクッキーを手に取り、口へ運ぶ。


「おいしい?」

「おいしい・・・・・これが、おいしいという感覚か?!」


 初めて食べ物を食べ、おいしいという感覚に目覚めたルールーは、無我夢中でお菓子を頬張りだした。

 人間を学ぶため、ルールーの身体には人間と同じ感覚が備わっており、神の時には無かった味覚もあるのだ。


 そんな姿を、微笑ましく見守るフェリシアに、昊斗そらとが声をかける。


「ルドラとは、仲良くやっていけそうか?」

「はい」


 昊斗そらとが見たその横顔は、ほんの少し少女が大人の女性になったように見えた。

 

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