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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
水の神 降臨 編
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(11) 神 ヲ ウツ者

 光の中から現れたのは昊斗そらと冬華とうかの二人だけで、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアの姿が見えなくなっていた。だが、それ以上に二人の姿が変わって(・・・・)いたことに居合わせた全員の意識が向かっていた。


 二人の戦闘服は全身に亘り真っ白になり、昊斗そらとの茶色掛かった黒髪と冬華とうか濡烏ぬれがらすの羽色を思わせる黒髪が一点の曇りもない雪のような白い髪色になっていた。


共鳴結合レゾナンス・オン

 昊斗そらと冬華とうかに、情報生命体である玉露ぎょくろ金糸雀カナリアが融合することで飛躍的に能力を高める、今となっては昊斗そらとたちにしか使えない特殊スキルである。


 二人がゆっくり目を開けるとフェリシアが「あっ」と声を上げた。

 

 昊斗そらとの瞳の色がエメラルド色に、冬華とうかの瞳は金色。自身のパートナーと同じ瞳の色になっていたのだ。


 二人の視線に射抜かれたルドラが、無意識にほんの少し身を引いた。

「!?」


 その事に、自分自身が驚愕してしまう水の神。

(馬鹿な・・・相手は人間。今までも、多く叩き潰してきた存在だ!なのに・・・わらわが・・・・・世界を統べる神である妾が、人間に臆するはずがない!!)


「あるはずが・・・ないのじゃ!!」


 迷いを振り切るように持てる力を使うとルドラを中心に大量の水が溢れ出し、数秒の内に空間一杯に水で満たされた。


「ソラトさん!トーカさん!!」


 冬華とうかの術で守られたフェリシアたちは、水に巻き込まれることなく普通に呼吸もできていた。だが昊斗そらとたちは自らを守る行動ひとつ見せることなく水中に浮かんでいる。


『これで終わりでないぞ!』


 ルドラの声が水中に響き、次の瞬間昊斗(そらと)たちの周りから凍りだしたのだ。これも、数秒で全体が凍りつき、ルドラの周りだけが水のままだった。


(創造神の力も付与した氷じゃ。例えどんな方法を用いても溶かすことも砕くことも出来ぬ永久氷結・・・・これでは、手も足も出まい)


 ほくそ笑むルドラだったがそれは長く続くことはなく、あり得ない現象に視線を外せなくなる。


 完全に凍っているはずの昊斗そらと冬華とうかの口元に笑みが浮かんだのだ。


誕生の灯(ビッグバン・フレイム)


 冬華とうかの声と同時に杖の先端が赤く光り、一瞬にして空間内の氷を溶かしてしまう。

 さらにルドラの周りの水も含め一気に蒸発し、今まで感じたことのない感覚がルドラを襲った。


「あぐっ!?」


 肌を焦がすような熱さを感じ、ルドラは逃れるように距離を取る。


「あ、ちょっとやりすぎちゃった」


 久しぶりに使う術に冬華とうかは”距離感”を見誤っていたらしく、おちゃめに舌を出した。

 だが、創造神の力を使った攻撃をいとも簡単に破られたルドラの心境は穏やかではなかった。


「あり得ん・・・・あれを破るなど、人間には無理なはずじゃ・・・!」


 ここに来てやっと自分の目の前に立ちはだかる人間たちが創造神からの刺客だと思い知られたルドラは、”逃げる”ことを選択した。


「娘は諦めてやる・・・・・だが!覚えおれよ、人間ども・・・妾に楯突いたこと、未来永劫後悔するがよい!!」


 この場から逃げる為”転移”するルドラだったが姿が消えた瞬間、衝突音と共に再び姿を現した。


「無駄だよ、あなたを逃がすつもりはこれっぽっちもないんだから」 

 右手でジェスチャーしながら、ルドラを鋭い目つきで見る。

 

「な、何をした?」

 どうやら顔をぶつけたらしく鼻を赤くして聞いてくるルドラに、冬華とうかは種明かしをするため、床を杖で数回突いた。


 すると、周りの壁がまるでコントの舞台のように外へ倒れていく。


「な、な、な、な・・・・・・」


 その光景にルドラだけでなく、フェリシアたちも絶句した。


 儀式の間の外に広がっていたのは、どこまでも見渡す限り真っ白な空間だった。


「あのまま戦ってたら、外の人たちに迷惑がかかるからね、この空間に儀式の間ごと転移させてたの」

 万人を虜にする笑みを浮かべる冬華とうかの言葉に、ルドラは大きく目を見開いた。


「馬鹿な!!いつその様なことを・・・・妾に悟られずやったのじゃ!?」

「だって、水の神って言うにはあなたって意外に熱くなりやすいだもの。気付かれずに転移させるなんて造作もないよ」


「なんてことないよ」と言った体の冬華とうかだったが、フェリシアはそんな隙がいつあったのだろうと頭を捻る。 

 

「ほ、本当に・・・・貴様らは人間・・・なのか?神を・・・創造神の力を超える力など聞いたことがない!!」

「まさか・・・・創造神を超える力なんてないさ。だが、創造神の力を使っているのが自分だけって考えは狭いんじゃないのか?」

 昊斗そらとの言葉に、まさか!?と目を見開くルドラ。


「俺たちの力は、創造神・・・この世界じゃなく、数多いる別の世界の創造神たちから提供された力を”組合”を通じて無尽蔵・・・に供給されるのさ。それに、あんたより創造神の力との付き合いは永いんでね。あんな拙い運用法じゃ、俺たちに通用なんてしないぜ」


 玉露ぎょくろ金糸雀カナリアの持つ他の存在を超越する思考キャパと演算能力を得ることで、昊斗そらと冬華とうかは創造神の力の運用効率と使用量を極限までアップさせ、傭兵が持てる中で”究極の力”を使えるようになる。


 昊斗そらとが握っていた片手剣が消える。


神滅の武装群アームズ・オブ・エクスティンクション

 昊斗そらとの声と共に、彼の周りにはまるで幻のように透ける”武器”が空間を覆い尽くす程現れ、凄然と浮かんでいた。


 自分たちの周りにも浮かぶ武器たちを見て、フェリシアたち・・・特に国王カレイドは武器の形状に目を見張った。 

 剣や槍、斧といった見覚えのあるものも多くあるが、中には武器なのか分からない形をした物体まであった。

 

 昊斗そらとが、右手を横に上げると、遠くある武器が一つ彼の手の中に現れる。

 それは、武器と言うにはあまりに無骨な”刃”だった。唾や柄と言った装飾が一切施されていない鉄の塊と言っても差し支えない日本刀。


 だが、それを見た瞬間ルドラの背中に”寒気”が走り、自身の内から冬華とうかの”攻撃”を受けた際に感じた言い知れぬ感覚が沸き起こった。


 それが”恐怖”と言う感情だと知らないルドラにとって、自分は一体どうなってしまったのかと困惑していた。

 震える右手を見つめ昊斗そらとから目を離したのが、神である彼女が初めてした”失態”だった。


 昊斗そらとへ目線を戻すと、数十メートル以上離れていた昊斗そらとが目の前に立ち、刀を振り上げていた。


「あ・・!」


 咄嗟に後ろへ逃げるルドラだったが、振り下ろされた切っ先が彼女を翳め胸の辺りを切り裂く。神である彼女は、今まで傷を負ったことはない。仮に傷を負ったとしても血を流すことなどないし、すぐに再生するはずなのだが・・・・・・


「ぎ、ぎゃあああああああああ!!!!」


 切られた胸を押さえ、絶叫しながらその場にうずくまるルドラ。血が出ることはないが、傷が治ることがなかった。


「・・・・”痛い”か?」


 無慈悲な顔で、うずくまるルドラを見下す昊斗そらと


「い、痛い?・・・これが、痛み?!なぜじゃ、神である妾が痛みなど感じるはずが・・・・」


 痛みで震えるルドラは、生まれて初めて感じる痛みに混乱は頂点に達する。

 代理神は、その役目のため人間の持つような感覚・感情を排される傾向にある。”痛み”は、その最たる一つだ。

 それなのに、痛みを感じるのはおかしな話なのだ。


 そんな彼女に、昊斗そらとはある話を始めた。


「昔・・・・気の遠くなるような大昔に、ある世界で代理神が創造神に対して反旗を翻したそうだ。今回のように創造神は傭兵に依頼したが、創造神の力を使っている傭兵でさえ代理神を消滅《殺す》ことは出来なかった。だから創造神は一計を案じ、作られたのが”神滅術”と”神滅武装”の二つだ。俺の持つ武器群とさっき冬華とうかの使った術がそれに当たる。これらには、ある特徴があって・・・痛みを感じない代理神に、”強制的”に激痛を与えることができるんだ」


 話を聞き、そこには神々しいオーラを放つ”神”ではなく、恐怖に怯える”人間”のように見える存在がいた。


「い、いやじゃ・・・・いやああああああ!!!!」


 恐怖に耐えきれず、ルドラが昊斗そらとに背を向け走って逃げ出す。


聖なる釘鎖ホーリー・チェーンネイル


 冬華とうかの杖の先が光り、地面から鎖に繋がる杭のようにも見える大きな釘が現れ、ルドラの四肢に突き刺さり地面へ繋ぎ止める。


「!!!!」


 あまりの激痛に悲鳴さえ上げることも出来ず、座り込んだルドラは大量の汗をかいていた。


「逃げるな・・・・」


 冷徹な声が降りかかり、ルドラが顔を上げると再び刀を構える昊斗そらとが立っていた。

 そして、”惨劇”の幕が上がった。


*********


「!!」

 

 ルドラが気が付くと、おかしなことが起きていた。

 昊斗そらとから全身に刻まれた傷は消え、珠のような肌に戻っていた。


「なんじゃ・・・?さっきのは幻か?」

「そんなことないだろ?」


 聞きたくなかった声が聞こえ、ルドラの白い顔がさらに白くなる。

 目線を上げると、そこには昊斗そらと冬華とうかが立っていた。


「あ、傷なら私がきっちり治してあげたから、安心して」


 笑顔を浮かべる冬華とうかに、ルドラはガタガタと震えだした。

 理由は簡単。敵である自分を完璧に回復する必要がないからだ。


「どうして傷を治したのか、分からないようだな。まさか、あれ(・・)で終了だと思っていたのなら、考えが甘すぎだ」


「あ、あ、ああああああああああ!!!!!」

 昊斗そらとの言葉を聞き、刻まれた恐怖が呼び起されたルドラは絶叫しかできなかった。



「・・・・・起きろ」

「う・・・・」


 もう何度目だろうか。刀で切り刻まれ、術によって撃ち抜かれ、何事もなかったように傷を回復されるサイクルを繰り返し、ルドラの精神は疲弊していた。


 それでも、昊斗そらとたちが攻撃の手を緩めることがなかった。


「もう・・・やめて・・・・・ほしい・・・のじゃ」

「そう言い続けた人間に、あんたはどうしてきた?これは、代理神として不適格だったあんたへの”罰”だ。簡単に、終わるはずがないだろ?」


 ルドラの言葉に、昊斗そらとは苛立ちを見せる。

「人身供物を要求するなど、代理神として恥ずべきことなんだ・・・・それを」


 刀を握る昊斗そらとの手に力が入る。

「ご・・ごめん・・・・なさ・・い」


「もうやめてください!!」


 突然、右腕を掴まれた昊斗そらとは驚いてそちらも見ると、涙を流したフェリシアが必死にしがみついていた。

「フェリシア!」

「フェリちゃん!?どうして出てきたの!!」


 冬華とうかの張った防御の術は外からは不可侵なのだが、中の人間が自らの意思で出ることが出来る。

 未だ危険なことに変わりがない状況でフェリシアが出てきたことに、昊斗そらとたちは怒鳴りつけた。

 怒られることを承知だったのか、フェリシアは一歩も引くことなく昊斗そらとの腕をつかむ手に力を込める。


「もう、やめてください・・・・」

「だが・・・」

 ルドラを見おろす昊斗そらとに、フェリシアが必死に首を横へ振る。


「・・・・話を聞いて、この方が偏った知識とこの世界を想いすぎたせいであんなことになったんだと思ったんです。だからそうじゃないって・・・・・間違ってるところをきちんと正して差し上げれば、大丈夫だと思うんです。それに・・・あんな怖いソラトさんとトーカさんを、もう見たくありません」 


 泣きながら懇願するフェリシアを昊斗そらとは一時見つめるとため息をつき、刀を”収納”する。


 そんな昊斗そらとの行動を見て、冬華とうかもルドラの拘束を解いた。


「・・・・・なぜ、妾を・・助けた?お前を供物と呼び、モノのように扱ったのじゃぞ?恨みはないのか?」

 息も絶え絶えに問いかけるルドラに、フェリシアは彼女の前に膝をつき目線を合わせた。


「たしかに、そうですね・・・・・でも・・・そうであっても、あなたは私たちの信仰する”神”なんです。見捨てるなんてことできません」


 膝をつき、同じ目線で話すフェリシアに、ルドラは眩しいほどの精神・・・魂の輝きを彼女の中でみた。

(あぁ・・・これが、あの方が行っていた”人の優しさ”か・・)


 フェリシアの優しさに触れ、忘れていた大切なことを思い出したルドラは、初めて涙を流し声を上げて泣いた。


 フェリシアは、そんなルドラを優しく抱きしめるのだった。  

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