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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
水の神 降臨 編
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(9) 水の神、降臨

 昊斗そらとたちが儀式の間へ突入する少し前のこと。


 中では、王女フェリシアの精霊との契約儀式が行われようとしていた。


 王都へ戻ったフェリシアは、すぐに第三段階をクリアし、いよいよ最後の段階、精霊契約までやってきた。これが無事に済めば、彼女は晴れて成人することとなる。

 

 主役であるフェリシアに、彼女の両親である国王カレイドと王妃マリア。そして、立会人のドラグレアが見守る中、儀式を執り行う祭事巫女のマーナ・クロエがフェリシアに最終確認を行っていた。


 祭事巫女とは、アルターレ護国と呼ばれる巫女の国から各国の祭事を取り仕切るため派遣されており、巫女たちの高い能力に各国は絶大な信頼を寄せている。マーナも半世紀に渡りルーン王国へ派遣・常駐し、多くの祭事をこなしてきたベテランである。


「では姫様、こちらへ」

「はい」

 

 マーナに促され、フェリシアが儀式の間の中央へ進む。


 儀式の間には、特殊な術がかかっており、部屋自体はそう広くないのだが、誰が施した術かは定かではないが、空間が歪められ部屋の中は、例えるならドーム球場のグランド程の広さがあるのだ。


 進み出て中央に描かれた紋章の上に立つフェリシアは、一点の曇りも無い純白のドレスを身に纏ってる。

 儀式の間に満ちる神聖な空気と相まって、神々しさを放っていた。


「これより、ルーン王国第一王女フェリシア・アルバーナ・ルーン姫殿下の精霊契約の儀を開始いたします」


 開始を宣言したマーナが、祝詞にも似た呪文を読み上げる。


 フェリシアの立つ紋章が起動し、淡く光りだした。

 フェリシアは、マーナに言われた通り、跪いて祈りを捧げるように、手を組んでいる。


 紋章の光が強くなり、ゆっくりと上空へ上っていく。昇った光が、一定の高さへ到達すると光が弾け、まばゆい光が全体を包む。それは、異世界人たちが召喚された際とよく似た現象だった。


 光が収まり、目が慣れてきたカレイドたちは、現れた存在に言葉を失った。


 それは、”精霊”では無かったからだ。


 いつまで経っても、声を掛けられないフェリシアはうっすらと目を開ける。すると、呆然とする両親やドラグレア、それにマーナの姿が見え、目を開け振り返った。


「・・・・・・・・・」


 そこにいたのは、”女神”だった。


 人型の精霊などの皮膚表面に見られる属性を表す特徴(水属性なら皮膚が水状になっていたり火属性なら火を纏っていたりする)は認められず、一見すれば人間に見間違えそうだが、格好と彼女から感じる力から水属性の精霊に近い存在だと辛うじて判別できた。


「水の神・・・・ルドラ」


 カレイドが、消えそうな声で何とか呟く。


「この方が・・・水の神」


 改めて、フェリシアは現れた神を見つめる。


 均整の取れた身体に、どんな美女も裸足で逃げ出す程の美貌。そして何より、彼女から放たれるオーラは、まさに神に相応しいものだった。


 祭事巫女のマーナが、間近で見た神の霊気に当てられ、倒れてしまう。

「マーナ様!」

 マリアが、倒れたマーナの元へ駆け寄り頭をぶつけていないかなどを調べる。


 ゆっくりと、水の神ルドラが目を開け、周りを一瞥する。


 そして、視界にフェリシアを捉え、「ほう」と唸りを上げる。


「これが、神か?おいカレイド、何で神が現れるんだ?一体どうなってるんだよ?」

 突然のことに、ドラグレアが声を上げる。


 ルドラの眉が僅かに上下し、ドラグレアに視線が映る。

「・・・・異世界人か?全く、あやつの考えていることはわらわには理解できんな」


 ドラグレアを睨むように、ブツブツと呟くルドラに、睨まれた本人は対応に苦慮していた。


 自分の世界でも、神・・・昊斗そらとたちが言う所の代理神に会ったことの無いドラグレアは、どうするのが最良なのか情報を持ち合わせていなかった。


 そのことが仇となり、彼は後手に回ってしまう。


「この場に異世界人は必要ない。邪魔じゃ、ね」


 そう言って、ルドラはまるで羽虫を追い払うようにドラグレアに向かって手を払う。

 次の瞬間、ドラグレアの身体はまるで弾かれたボールのように、一つしかない扉へ一直線に飛んでいく。


「ドラグ!」

 友人に起こった状況に、カレイドは声を上げることしか出来なかった。同じ友人であり、王妃のマリアは、声さえ上げることが出来なかった。


(くそ、やられた!!)

 どうにか体勢を立て直そうとするドラグレアだったが、あんな簡単な動作で攻撃だったらしく、ものすごい勢いで体中にダメージが蓄積していく為、意識を飛ばさない様にするので精一杯だった。


 扉の外へはじき出されたドラグレアは、独りでに閉まる扉を見つめることしか出来ず、リタイアとなった。


「さて、薄汚い邪魔者(異世界人)は消えたな・・・・娘よ」

「え?・・私ですか?」


 神であるルドラに声を掛けられ、フェリシアは気持ちがついてこないせいで、しどろもどろになる。


「そうじゃ・・・久しく見ぬ穢れを知らぬ清らかな精神を持つ者じゃ。素晴らしい」


 神に褒められ、フェリシアは頬が赤く染まる。


「本当に素晴らしいモノ(・・)じゃ、人の王よ」

 娘を褒められ、カレイドもマリアも「勿体無いお言葉」と頭を下げる。

 だが、次のルドラの言葉にその場にいた全員が耳を疑った。


「妾への捧げモノ(・・・・)としては、良い物を用意した、褒めて遣わすぞ」

「?神よ、今なんと・・・仰いましたか?」

 カレイドの顔が、信じられないものを聞いたと青ざめる。


「?聞こえなかったか?良き供物を用意した、褒めて遣わすと言ったのじゃ」


「お、お待ちください!!私たちの娘が捧げモノ?とんでもございません!娘は本日、精霊との契約に臨んでいたのです、決して・・・」

「我が眷属とはいえ、精霊ごときにくれてやるには惜しい精神じゃ。むしろ、妾に捧げた方が娘も幸せじゃ」


 返ってきた答えに、マリアは力なく床に膝をつく。


「それから、お前たちには・・を受けてもらわなければな」


 ルドラが右手を掲げると、カレイドとマリアの身体から力が抜けていく。


「!?」

 たまらず、膝をつくカレイド。妻の方へ目を向けると、座るのも辛いのか、床に倒れこんでいた。


「お父様!お母様!!」

 叫んだフェリシアの身体が見えない力で拘束される。


「心配するな、お前は特別じゃ。あのような無粋なことはせんよ」


 全く見当違いなことをいうルドラに、フェリシアは精一杯の勇気を振り絞り、神を睨んだ。


「どうして、このようなことを・・・・私たちが何をしたというのですか?!」

「お前たちが勝手に始めた妾に感謝する祭り、そこで捧げられる供物の娘たちは、悪くなかった。殆ど者がよい精神を持っていたからな・・・・しかし最近、供物の質が著しく悪い。動物などを捧げるなど、あまりにも妾に対して不敬であろう。これは、その罰じゃ」


 フェリシアは絶句した。遥か昔から人身供物という慣わしは、このルーン王国でも行われていたのはフェリシアも知っている。

 だが彼女の祖父、先々代の国王ジェラードは、人身供物を国内で禁止とする決まりを設けた。

 彼が若かりし頃に武者修行の旅で見た、神に捧げられる若い娘たちが、あまりに不憫に思え、国王に即位してすぐに国内へ徹底させたのだ。


 それ以来、祭りなどで供物として捧げられるモノは動物や魚介、作物になっていった。

 まさかその決まりが、神の怒りを買うなどこの場に居合わせた全員が想像もしていなかった。


「く・・・・」

さらに身体から力が抜け、カレイドが膝だけでなく手もついた。


「とりあえず、この建物内にいる妾の眷族と契約する人間の命を貰っていこう・・・他の神の眷属に関わる人間に手を出すと色々面倒じゃからの」


 身動きの取れないフェリシアは、見る見るうちに弱っていく両親を、ただ見ることしか出来なかった。


「お父様・・お母様・・・けて、ソラトさん・・・トーカさん、助けて」


 悲しみで揺れる声を振り絞り、フェリシアは昊斗そらとたちの名を呼んだ。彼らならこの状況をどうにかしてくれる、と心から思えた。


「助けてください!ソラトさん、トーカさん!!」


「フェリシア!」

「お待たせ、フェリちゃん!」


 聞こえるはずの無い人たちの声を聞き、フェリシアは扉に視線を移すと、そこには木漏れ日の森で自分やポンタたちを助けてくれた時の姿の二人が扉を開け、堂々と立っていた。


「あれが、この世界の代理神の1柱か・・・意外にまともな姿してるな」

『そうですね、あまりにまとも過ぎて拍子抜けです』


 昊斗そらとの後ろに立つ玉露ぎょくろが、気張っていたわけでもないが、ワザとらしく肩の力を抜く。


 扉を閉め、昊斗そらとたちはルドラから目を離すことなく、倒れているカレイドたちへ近づく。

「き、君たち・・・」

「陛下、しゃべらないで下さい」

 冬華とうかが手にした杖をかざすと、カレイドとマリア、そしてマーナの周囲に薄い膜が張られ、彼らを包み込んだ。


「!・・・」

 カレイドたちは、先ほどまで奪い取られていた力の流出が止まり、さらに暖かな光と共に、身体中に力がわき始めた。


「また異世界人か・・・・・本当に邪魔な奴らじゃ!」

「ソラトさん!」


 自分の聖域と化した儀式の間に侵入してきた昊斗そらとに対し、ルドラはドラグレアに使った”攻撃”を複数回繰り出す。


 しかし、昊斗そらとたちに当たる直前に何かに阻まれ、力は四方へ霧散してしまう。

「・・・・・人間には見合わぬ、硬い防御を持っている・・・何者じゃ?」


 ドラグレアと違い、眉ひとつ動かさない昊斗そらとたちに、ルドラは動きを止める。


「まさか、こんなに早く会えるとは思ってもいなかったぜ、代理神・・・いや、水の神ルドラだっけか?」


 代理神と言う言葉に、ルドラの表情が変わる。


「まさか?!・・・・いや、あの方がこの世界に降りてくることなどあり得ん・・・・一体、何者じゃ!?」


 狼狽する神を、不敵な笑みを浮かべて昊斗そらとたちは睨む。


「俺たちはグラン・バースの創造神に依頼により」

「あなたたち代理神が盗んだ、創造神の力を取り返しにきた」

 昊斗そらとは右拳を、冬華とうかは杖をルドラへ向け、突き出した。

「傭兵だ!!」「傭兵よ!!」

「「水の神よ、おとなしく創造神の力を引き渡せ!」」


 神に宣誓布告する昊斗そらとたちを見てフェリシアは、彼らがまるでおとぎ話に登場する勇者のように見えたのだった。




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