(8) 異変
「さすがは貿易の中心地、いろんな人種・種族が集まってるな」
ディアグラムの商業地区の入り口で、昊斗に冬華、そして立体映像とは言え血の通った人間と見紛う姿の玉露と金糸雀の四人はある人物と待ち合わせをしていた。
相手を待っている間、商業地区に出入りする人々を観察していた冬華は、前にフェリシアから聞いた話を思い出した。
「そういえば、グラン・バースに召喚されるのって、人間だけじゃないってフェリちゃんから聞いていたけど、実際に目の当たりにしたら節操ないよね」
『確かに、あそこにいるのは獣人ですね。あっちはエルフでしょうか?・・・はっきり言って、この世界の代理神はどのような意図で異世界から召喚を行っているのか、皆目見当もつきません』
金糸雀が、一帯にいるあらゆる人種、種族を解析、分類して昊斗たちに表示する。
『創造神から力を奪うような輩ですから、理解しようとするのが無理なことよ』
いつもの仕事のテンションで幼馴染を諭す玉露だが、すでに待ち飽きたと顔に書いてあった。
「やぁ!お待たせして、すまないね。なかなか仕事が片付かなかったもので」
世間話(?)をしていた昊斗たちに声を掛ける騎士団の制服を着た男。
王都ディアグラムを守護するアルバート騎士団、その団長であるフォルト・レーヴェが副官のアルフレットと、もう一人男性団員を連れてやってきた。
「いいえ、とんでもない。こちらこそ、お忙しい中すみません」
待ち合わせ相手がやってきて、昊斗たち四人は、頭を下げる。
「陛下直々のご命令だからね、その道のプロを呼んできたよ」
フォルトに促され、男性団員が前へ歩み出る。
「初めまして、アルバート騎士団所属、クロード・グエルと申します」
クロードと名乗った団員は、副官のアルフレットとそう変わらない年齢に見えた。どちらかといえば、騎士や兵士と言うより、事務官などに思えた。
「彼のお父上はこの王都で不動産事業で成功した方なんだ。その筋では有名でね」
「皆様から頂いたご要望に当てはまる物件を複数、父が押さえていますので、自分が責任を持ってご案内いたします」
恭しく頭を下げるクロードに、昊斗たちは「よろしくお願いします」と同じように頭を下げた。
昊斗たちが王都へやってきて一週間が経とうとしていた。
昊斗とフレミーの決闘などゴタゴタがあったが、二日前からようやく城下を出歩いて言いと許可が下りたため、彼らは、行方の知れない代理神たちを探す為、本格的に情報を集めだしていた。
それと平行して行っているのが、自分たちの拠点となる家を探すことだった。
現在昊斗たちは、フェリシアの厚意で、城に滞在しているのだが、密かに大臣や家臣たちから得体の知れない昊斗たちを城から追い出すよう、国王にそれとなく進言し始めていた。
ルーン王国における基点者は、国王であるカレイドだけだが、昊斗たちはカレイドの娘であるフェリシアの下へ召喚された。
家臣たちは、この一点のみを問題視していた。
ルーン王国に限らず、グラン・バースにおいて異世界人は召喚された際、必ず基点者の下へ召喚されることとなっていた。
だが、昊斗たちは基点者では無いフェリシアの下へやってきた。前例の無い事例に、家臣たちはよくなことの前触れではないかと考え、早急に排除するべきと言い出すものも現れた。
とはいえ、彼らに対する恩義(ポンタとその家族を助けた)がある手前、強く言い出すことも出来なかったカレイドは、昊斗たちが家を探しているので、不動産関係に強い者を紹介して欲しいとの申し出に、心の底から感謝した。
「じゃ、我々はこれから用事があるから、詳しいことはクロードに聞いてくれ」
そう言って、フォルトは副官のアルフレットと共に来た道を帰っていった。
「では、最初の物件をご案内します。自分についてきてください」
取り出した分厚い資料を片手に、クロードの物件紹介ツアーが始まった。
*********
ぶらぶらと街中を歩くフレミーは、人ごみの中で見慣れた・・・というか見慣れてしまった一団を発見した。
「あれって、ソラト殿と・・・」
と、昊斗の名を口にした瞬間、顔から火が出そうなほど熱くなった。
「!?!?!?!?」
顔を手で抑え、なぜか物陰に隠れてしまうフレミー。
実のところ、昊斗との決闘以降、フレミーは彼をまともに見れなくなっていた。
(うう・・・姫様のせいですよ、あんな事言うから)
面と向かっていえない、主への苦言を心の中で呟くフレミー。
ことの発端は決闘終了直後、気を失ったフレミーを部屋まで昊斗が抱えてきたということを、看病していたフェリシアから聞いたことだ。
話を聞いたフレミーが真っ先に想像したのが昊斗に抱えられた自分の姿だった。
はっきり言って、恥ずかしかった。フェリシアの騎士になると誓ったとき、女である事を捨てる覚悟だったフレミーだが、自分が男性に抱きかかえられて、嬉しかったと思ったことに驚いた。
そして、そのことを毎日フェリシアに言われ続け、昊斗のことを意識せざるを得ない状態に陥っていた。
(と、とりあえず、この場を離れないと)
そんなことを考えていたときだった。
『フレミーさん、このような所でどうされましたか?』
声を掛けられ、フレミーが後ろを振り向くと、そこには玉露が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「わ、わあああああああ!!!」
突然の出来事に、思わず街中で叫ぶフレミー。周りの人々が何事かと一斉に振り向く。
『駄目ですよ、こんなところで悲鳴を上げては、騎士ならば常に冷静でないと』
「あんな不意打ち、誰だって驚きます!」
顔を真っ赤にして玉露に噛み付くフレミーだったが、その姿が視界に入り硬直してしまった。
「あら?フレミーさん、お一人でどうされたんですか?」
「聞き覚えのある声だと思ったが、君だったか」
騒ぎを聞きつけた昊斗たちがフレミーと玉露のもとへやってきたのだ。
昊斗と目が合ったフレミーは、まさしく恋する乙女のように恥ずかしそうにうつむいてしまう。
その姿に、冬華と玉露は、えもいわれぬ黒い感情が噴出した。
「・・・クロードさん、物件巡りはまだありますか?実はどうしても外せない用事が出来てしまいまして」
「え、えぇ・・ありますが、今日中に回るのは無理な数なので、数日に分けようと思っていますが・・・・」
只ならぬ雰囲気に、ビクつきながら答えるクロード。その言葉を聞いて振り返った冬華の笑顔に、彼は美しさよりも恐ろしさを感じた。
「そうですか。では、今日はここで終了ということで、また明日お願いできますか?」
「わ、分かりました。では、また明日。同じ時間同じ場所で待ち合わせということでよろしいですか?」
「構いません。ではまた明日」
「で、では・・・」
命の危険を感じた野生動物のように、逃げ出すクロード。そんな彼を一瞥した冬華が視線を戻すと、未だにフレミーの周りは初々しい甘酸っぱい空気が流れている。
「ねぇ、昊斗君」
「・・・・・・俺は無実のはずだ」
「うん、でも八つ当たりするの」
「ヤル気満々!?」
同じやり取りを何度やったか忘れてしまったが、この展開になると昊斗が逃げるのは叶わなくなるのだった。
「それじゃ、フレミーさんにお話し聞かないとね」
冬華は、ポヤ〜っとしたフレミーの手を握り、アルバート城の方へ歩き出した。
「え?え??」
我に返り、状況の飲み込めないフレミーは、ものすごい力で冬華に連れて行かれ、昊斗はものすごく睨んでくる玉露と頑張ってくださいと言った顔をする金糸雀と共に、その後をついていったのだった。
*******
城の正門に到着し、一歩敷地に入ったフレミー以外の四人は強烈な違和感を覚えた。
「これ、どういうことだ?」
「今朝は、こんなこと無かったよね?」
『それは、間違いないですよ。こんな数値観測していませんから』
玉露のデータを見ながら状況把握を行う昊斗たち。
、
『我が主、フレミーさんが!』
金糸雀の声に、三人がフレミーを見ると、先ほどの恋する乙女と同じ人とは思えないほど虚ろな目をして立っていた。
「フレミーさん、ごめんね」
冬華は、彼女の目を右手で隠し自分の中の”力”をフレミーへ一瞬だけ流す。
「!!」
ビクン、と身体が跳ねたフレミーは膝から崩れ、冬華に支えられる。
「・・・私、一体」
「何かの術でやられたみたいだけど、とりあえずは大丈夫だよ」
「術・・・・?」
ふらつきながらも、フレミーは立ち上がり、その表情が見る見るうちに悪くなる。
「姫様!?」
走り出そうとするフレミーを、昊斗が制する。
「どうしたんだ?!フェリシアがどうかしたのか?」
「姫様は今日、城内のある場所で試練の最終段階”精霊契約の儀”に臨まれているんです!もしかしたら、姫様の身に何かあったのかも!!」
昊斗の手を振り払い、フレミーは城内へ走っていった。
『どうされるのです、マスター?』
玉露が昊斗の言葉を待つ。冬華や金糸雀も同様に、昊斗を見つめる。
「決まってるだろ?」
その言葉を合図に、四人はフレミーの後を追って城内へ突入していった。
廊下には、力なく倒れる者やそんな倒れた者を救護する者と、城内は混乱が広がっていた。
「酷い有様だな」
「中に入って分かった。やっぱり、特定の力だけを吸収しているみたいだね」
『反応から、”水の波動”を持つ方が優先して力を取られているようです。このままだと、命の危険が』
金糸雀が、流れを可視化して昊斗と冬華へ送る。
その行き先へ走っていくと、フレミーの声が聞こえてきた。
「フレミーさん!・・・あれって!?」
「ドラグレアさん!」
倒れているドラグレアを介抱するフレミーへ駆け寄る昊斗たち。
「おう・・・お前ら、やっと来たか」
「一体、何があったですか?」
一瞥してドラグレアの状況を確認する昊斗。目立った外傷見当たらないが、かなり衰弱していた。
「・・・まさかこんな状況になるとは思わなかったが、お前たちには願っても無い状況だぞ・・・・神が現れた」
「え?」
声を上げたのは、ドラグレアを介抱していたフレミーだった。
「本当ですか?」
昊斗たちの顔つきが変わる。
「ああ・・・神を見るのは初めてだったが、カレイドの奴が間違いなく、水の神ルドラだと言っていた。オレは、即座に儀式の間からはじき出されてしまった。あんなのと戦うとなったら相応の準備が必要だな・・・」
ドラグレアの情報を聞き、昊斗冬華は立ち上がり、目の前の扉を見つめる。
「フレミーさん、ドラグレアさんのこと頼みます」
冬華の頼みを承服できないフレミーが、顔を上げる。
「ま、待ってください!私も一緒に」
「フレミー!」
昊斗に名前を呼ばれ、ドキッとして言葉が詰まるフレミー。
「悪いがここから先、君は足手まといにしかならない」
決闘の時でさえ、見せなかった昊斗の怖さにフレミーは身をすくめる。
「フェリシアや国王たちことは俺たちに任せておけ」
だが、すぐに優しい言葉がフレミーにかけられ、光に包まれた昊斗たちの服装が戦闘服である制服へと変わる。
「それじゃ、神様に挨拶しに行こうか!」
昊斗と冬華は扉に手をかけ、一気に開いた。
ガラスが割れるような大きな音と共に、開かれた扉からは、清らかな霊気が漏れ出る。
「まったく、相変わらず無茶苦茶だな、お前ら」
まさか、結界を文字通り”力づく”で破壊するとは思わなかったドラグレアが呆れる中、傭兵たちが戦場へと”介入”した。




