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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
終章 グラン・バース終焉 編
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(2) 大神の秘密

お待たせしました!

「すぐ戻る!」


 冬華とうかからの通信内容に固まっていた昊斗そらとだったが、即座に復活するとごく端的に返事を返して通信を切り、ルーン王国へ戻るために装神器ディバイスから転移術式のカードを取り出した。


「お前たち、冬華とうかたちの所に戻るぞ」

「え!?」

「ちょ、ちょっと待てソラト!アリエルはどうするのじゃ?このまま置いて・・・・・・」

 昊斗そらとの言葉にカグやルールーがギョッとして詰め寄ろうとしたが、それを許さないほどの昊斗そらとの鬼気迫る表情に気圧されてしまう。


「心配いりません。万が一の場合を考慮して、クレスト連邦に向かう前にアリエルさんには幾重にも保険を掛けてあります。ほんの少し、離れても問題ありません」

 困惑するルール―達に「アリエルは心配ない」と玉露ぎょくろが説明するが、昊斗そらとの雰囲気が伝播したかのように、言葉に硬さがあった。


 二人の只ならぬ様子にカグは何かあったのことを察し、恐る恐る昊斗そらとに問いかけた。


「ソラトさん、何かあったんですか?」

「・・・冬華とうかが大神を捕まえたらしい」

「はぁ?!」

 思いもよらぬ情報に、カグとルールーは絶句しウィンは声を上げて驚く。


「とにかく、状況を確認するために一旦戻るぞ」


 昊斗そらと自身も、一刻も早く状況を確認したいとはやる気持ちを抑えながらカードを掲げ発動させると、その場にいた六人の姿が、クレスト連邦の路地裏からベルベッドたちを拘束している空間へと瞬時に移動する。




「・・・冬華とうかたちは、小屋か」

 初めてくる空間にカグたちが興味津々に辺りを見渡すが、昊斗そらと玉露ぎょくろ冬華とうかたちの気配がある小屋へと向かって歩き始め、カグたちも慌てて追いかける。


「・・・そういえばカグ。さっき冬華とうかから通信が入る前に何か言いかけていたな?」


 小屋へ向かう最中、冬華とうかからの通信が入る前のことを思い出した昊斗そらとが、カグに何を言うとしていたか問いただすと、とたんにカグ、ルールー、ウィンの表情が険しくなった。


「三人とも、どうされたのです?」

「・・・実は、あたしたちの所にもあらわれたの、アルルカルラのやつが」

「何?本当か?」

 先ほどと同じ轍を踏まないよう、昊斗そらとは極力平静を保ってウィンに問うと、隣にいたカグが首を縦に振った。


「はい。クロノスを正気に戻して元の姿に戻った直後に・・・その際に、クロノスが持っていた父さんの力をアルルカルラに奪われてしまいました」

 アルルカルラの現れてから立ち去るまでの状況を簡潔にまとめてカグが説明すると、玉露ぎょくろが目を細めた。


「大神が創造神の力を?代理神では、創造神の力が使えないことを理解していないのでしょうか?」

「判らん。じゃが、あ奴の言を借りれば、「相応しい人に渡すため」とかほざいておったぞ」

 その時のことを思い出して、ルールーが顔を顰める。


「相応しい人?誰の事でしょうか?」

「・・・本人に聞けばわかるだろう」


 小屋の近くまで来ると扉が開き、中から金糸雀カナリアが顔を出した。


昊斗そらとさん、玉露ぎょくろちゃん!」

金糸雀カナリア冬華とうかたちは中だな?」

「はい、どうぞ」


 金糸雀カナリアに促され昊斗そらとたちが中に入ると、冬華とうか全身黒(・・・)のアルルカルラが机を挟んで無言で向き合って座り、机から少し離れた場所に小屋の主であるはずのベルベッドが、従者であるベンジャミンにしがみついて状況が理解できずに顔をひきつらせていた。


「あ、昊斗そらと君に玉露ぎょくろちゃん。おかえり」


 昊斗そらとたちの姿を確認して、冬華とうかが満開の桜を思わせる笑顔を浮かべ昊斗そらとたちを出迎える。

 

「あぁ・・・」

 冬華とうかとは対照的に、表情の硬い昊斗そらとが短く返事を返すと、何処か緊張した顔で座るアルルカルラに目をやった。


―・・・なんだ?この違和感・・・・・・―


 クレスト連邦では攻撃してきたにも関わらず、拘束もなしに大人しく座っていることにも違和感を感じるが、もっと別の違和感が昊斗そらとの中には膨らんでいた。

 しかし、その違和感を探ろうにも妨害されるような感覚を受け、昊斗そらとは違和感の正体を本気を出して探ろうとした時、カグが小屋の中に入ってきた。


「アルルカルラ!」

「なっ、やっぱり本物か!」

「ちょっと、見せなさいよ!」

 入ってきたカグがアルルカルラと目が合い声を上げると、後ろにいたルールーたちが慌てて中へと入ってくる。

 その姿を見て、アルルカルラは目を見開いた。


「驚いた…随分姿が変わってるけど、カグツチにルドラ、ウインティよね?それに、クロノスも・・・久しぶりね」

「何が久しぶりじゃ、白々しい!」

「そうよ、さっき会ったばかりでしょうが!あと、クロノスからぬすんだのとあんたが持ってるパパの力、返しなさいよ!!」


 久々の再会を喜ぶアルルカルラとは対照的に、まるでクレスト連邦での出来事をなかったかのように振舞われ、ルールーとウィンは怒りを露わにする。


 怒鳴る二人を見てアルルカルラは驚いた表情をしたが、すぐに目を伏せた。


「そう・・・私は(・・)クロノスからお父様の力を盗んでしまったのね・・・・・・」

「だから!何で他人事みたいな態度を取れ「少し黙ってください」にゃ?!」


 悲しげにつぶやくアルルカルラに、ウィンが詰め寄ろうとすると玉露ぎょくろが首根っこをつかみ、引き戻した。


「無駄ですよ、おそらくですが彼女は本当に(・・・)知らないのでしょう」

「・・・は?」


 玉露ぎょくろの言葉に、アルルカルラを除く全員が首を傾げる。


「クレスト連邦で見た大神も目の前にいる彼女も、金糸雀カナリア以外にはこう見えているのではないですか?」


 そういうと、玉露ぎょくろが空中にホロモニターを投影し、モニターにはマーブル模様の髪色をしたアルルカルラが映し出されていた。


「そうですけど、ギョクロさんやカナリアさんには違うのですか?」 

「えぇ、クレスト連邦に現れた大神はこう。そして、目の前にいる彼女はこう見えています」


 カグの問いかけに玉露ぎょくろが頷くと、マーブル模様の髪色をしたアルルカルラの画像が消え、全身真っ白なアルルカルラと真っ黒なアルルカルラが映し出された。


「ちょっと、なによ・・・これ」

「白と黒のアルルカルラ?」

「アルルカルラが・・・ふたり?」

「そんな馬鹿なことがあるか!アルルカルラ、これはどういうことなのじゃ!?」 

 自分たちの知らないアルルカルラの姿に代理神たちは混乱のあまりに狼狽え、ルールーは問い詰めるがアルルカルラは沈黙を貫く。

 

「大神アルルカルラは自分自身を二つに分けることが出来、クレスト連邦とここ…二か所ほぼ同時に現れることが出来た。そして、ここにいる貴女がクレスト連邦での出来事を知らないのは、お互いに記憶と経験を常時共有していないから……違いますか?」


 沈黙するアルルカルラに業を煮やした玉露ぎょくろが問いかける。


 玉露ぎょくろに問われ、アルルカルラは目を瞑り、観念したように深々と頷いた。


「私は光と闇の属性を司る関係で、存在を二つに分けることが出来るのです。ルドラたちがあったのは闇を司る私で、ここにいる私は光を司っています。そしてご指摘の通り、存在を二つの分けている間、私はもう片方の私が何をしているのかを知らず、再び一つにならなければ分かれている間の記憶と経験は共有されないのです……しかし、さすがはお父様が遣わされた方々、と言うべきでしょうか。認識を歪める私の能力が全く通用しないだけでなく、少ない情報から私の秘密に辿り着くなんて」

 自身最大の秘密をいとも簡単に詳らかにされたアルルカルラは、悔しさを滲ませながらも玉露ぎょくろの実力に脱帽していた。


 そんなアルルカルラの言葉に対し、玉露ぎょくろが極々薄く口角を上げた。


「私と金糸雀カナリアの眼はかなり特殊(・・)ですからね…ですが、誇っていいですよ?一時とは言え、私のマスターの眼を欺いたのですから。ねぇ、マスター?」

「……まぁ、見た瞬間に違和感を感じたが、その違和感が何なのかすぐには分からなかったのは、事実だ」


 アルルカルラに対する違和感をすぐに分からなかったことを玉露ぎょくろに見透かされていた昊斗そらとは、恥ずかしさを隠すように頭を掻いた。

 玉露ぎょくろの証言と昊斗そらとの反応から一矢報いることが出来たことを知ったアルルカルラは、キョトンとした表情から嬉しそうに顔をほころばせる。


「ってあたしたちむしして話進めてんじゃないわよ!」


 和やかな空気の中、アルルカルラの秘密を知ってフリーズしていたウィンが、テーブルを叩いて大声をあげた。


 突然のことに、アルルカルラが目を丸くして驚いていると、ルールーが溜息を洩らした。


「まぁ、ウインティの怒りも分からなくはないが、少し落ち着け。妾も色々と言いたいことが多いが一つ言わせてもらえるなら……お主が普通に妾たちに喋りかけてきたのが驚きじゃ。昔は、全くと言っていいほど喋ったことが無いというのに」

「……あっ!」


 ルールーの指摘に、アルルカルラは怪訝な顔をしていたが、何かに気が付き声を上げて口を押える。


 アルルカルラの行動に昊斗そらとたちの視線が集まり、バツの悪くなった彼女は口に当てた手を放すと、溜息を洩らした。


「……仕方ないでしょ?私には貴方たちを監督する役目があるし、あまり親密になっていざと言う時に役目を果たせなくなると困るから、一定の距離を置いていた方がいいと思って昔はあまりしゃべらなかったの。けど、本当に久しぶりに会って嬉しかったから……」


 アルルカルラの告白を聞いて、代理神たちは何とも言えない表情を浮かべるが、昊斗そらとたちはどこか呆れた様子で見つめ、玉露ぎょくろがため息交じりに口を開いた。

 

「随分と役目に忠実だったようですが、彼らが創造神から力を盗むときに止めるどころか一緒になっていますよね?監督役の使命は何処へ行ったんです?」


 ほんの少しのやり取りだが、昊斗そらとたちはアルルカルラがカグに近い真面目な性格だということは分かったが、カグとは立場の違う彼女が何故加担したのか理由が解らなかった。


 玉露ぎょくろの問いに、アルルカルラはまるで叱られる子供の様にスーッと目を泳がせた。


「その……私も、お父様に対して思うところが少しばかりありましたし、それに……」

「それに?」

「……私ひとりだけ除け者にされるのは、嫌だったので…」


 昊斗そらとたち傭兵メンバーは「……まさか、そんな子供みたいな理由だったとは」と、アルルカルラの加担理由を聞いて遠い目になる。


 大神という役目を負っていても、アルルカルラも他の代理神と同じく例に漏れず、残念な神だったことに。


「えっと…とりあえずメンバーも揃ったことだし、さっきの話の続きを聞いてもいいかな?」


 場の空気が変なことになったことを察して、冬華とうかが軌道修正するように仕切り直すと、アルルカルラへと目を向けた。


「さっき私に言った「私を助けてください」って言葉・・・あれ、どういう意味なの?」

「……は?」


 冬華とうかの言葉に、代理神たちが再びフリーズする。


 昊斗そらと玉露ぎょくろも、予想外の展開に怪訝な顔をうかべた。


 問われたアルルカルラは、一呼吸置くと冬華とうかを見据え口を開いた。


「そのままの意味です……もう、私の力ではどうすることも出来なくて……」


 余程せっぱつまっていたのか、アルルカルラは悔しさに顔を歪め涙を浮かべながら言葉を紡いだ。


 アルルカルラの様子を見て、昊斗そらと冬華とうかたちを見る。


 冬華とうかたちも同じことを考えているのか、昊斗そらとの顔を見てゆっくりと頷いた。


 仲間の了解を得た昊斗そらとは、アルルカルラの肩に手を置いた。


「心配するな。俺たちが何とかしてやるから、全部話せ」

「っ!?あぁ……ありがとう、ございます……」 


 詳しい話を聞く前に「何とかする」と即断した昊斗そらとのゆるぎない言葉を聞いて、アルルカルラは安堵したのか子供のように泣き出した。




「…お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした」


 神と言う立場にありながら人目を憚らず泣いてしまったことが恥ずかしかったのか、落ち着きを取り戻したアルルカルラは申し訳なさそうに頭を下げる。


 創造神の下で家族のように暮らした仲間の見たことのない一面を目の当たりにして、ウィンは未だにフリーズしているが、比較的に昊斗そらとたちとの付き合いが長いルールーとカグはすでに冷静さを取り戻しており、これから話すであろうアルルカルラの話を聞き逃すまいとジッと見つめていた―ちなみにクロノスは随分と前から寝息を立てている―


「まぁ、気にするな・・・それより話を「あの、ちょっといいですか?」」

 気を取り直したアルルカルラに昊斗そらとが話を聞こうとした矢先、今度は金糸雀カナリアが割って入った。


 今度は何だ?と視線が集まる中、金糸雀カナリアがスッと目線を動かす。


「アルルカルラさんが落ち着いたところで話を聞くのはいいですが、その話を二人(・・)に聞かせても大丈夫なのでしょうか?」


 金糸雀カナリアの視線の先に、明らかに自分たちが場違いなところに居合わせていることに気が付き、戦々恐々としてるベルベッドとベンジャミンの姿があった。


 先ほどから殆ど空気と化してた二人の存在を思い出し、「あ、そうだった。とりあえず寝ててもらうか?」と昊斗そらとが口にすると、ベルベッドが声にならない悲鳴を上げる。


 だが、昊斗そらとの言葉をアルルカルラが”待った”をかけた。


「いえ、そのまま話を聞かせてあげてくださいませ。これからお話しする内容は、あの子たちにとっても無関係ではありませんし、それに・・・ベルベッドにとっては少なからず”出生”に関わることですので」

「え・・・・・・・?」


 アルルカルラの言葉にベルベッドは理解が追い付かないのか、声を洩らしたまま固まってしまう。


 だが、このあとアルルカルラの口から語られる事実を前に、ベルベッドは更なる混乱へと落ちいることになる・・・。




 そして、時を同じくして異母姉であるエイレーネも同じ事実を知ることとなる。


 妹より残酷な形で・・・・・・




**********



 荘厳な大理石造りの神殿を思わせる巨大な柱が整然と並ぶ空間・・・。


 人の気配が感じられないその空間の白い床に一点の黒いシミが浮かび上がり、それが瞬く間に拡がるとドーム状に膨れ上がる。


 そして、膨れ上がったソレが音もなく破裂すると、中から白いアルルカルラとエイレーネが姿を現した。


「っがは・・・は・・・は・・・」

 

 アルルカルラによって影の中に引きずり込まれ、今居る場所に現れるまでほんの数秒。


 だが、そのほんの数秒がエイレーネにとってはとてつもなく長い時間に感じられ、まるで水の中で溺れ助け出されたかのように、何度もむせた。


 そんなエイレーネを横目に、アルルカルラはスッと目線を上げた。


「連れてきた」


”ご苦労・・・”


 薄暗く何処までも広がる空間に、抑揚の欠けた声が響き渡る。


 その声を聴いた瞬間、エイレーネの全身から冷汗が吹き出しその冷たさゆえか、はたまた幼い頃から抱く恐怖からか身体が震える。



”……エイレーネよ、顔を上げよ”


 再び聞こえた声に、エイレーネは一呼吸おいて顔を上げた。


 顔を上げた先には一段高くなった場所があり、その中心に豪勢な玉座が鎮座している。

 

 そしてその玉座には、男が座していた。


 年の頃は六十そこそこ。一国の王が纏うような煌びやかなローブに身を包んでいるが、その煌びやかさとは対照的に肌は病人のように白く、頬は痩せこけ長く伸びた髪も真っ白に染まっている。


 まるで埋葬された死人のような風体だが、その両目だけは血に染まったように赤く輝き、薄暗い中で浮かび上がっていた。


 この男こそ、昨今グラン・バースで起きた様々な事件の裏で暗躍していると噂されている組織の長にして、エイレーネとベルベッドが「お父様」と呼ぶ存在である。


 エイレーネが顔を上げたことを確認し、”お父様”は表情を変えることなく口を開いた。


「エイレーネよ、なぜワタシの言いつけを破った?」

「・・・一体、何のことでしょうか?」


 問われたエイレーネが白を切ると、お父様の目がほんの少し鋭くなる。


「ワタシが気が付いていないと思っていたのか?ベルベッドが行っていた研究を使って神を操ったな?すべて破棄しろと命じたはずだぞ?」


 お父様の言葉にエイレーネは見抜かれていたことを知って一瞬顔を歪めるが、既に退路は無いと覚悟を決めると、開き直ったように笑みを浮かべた。


「あぁ・・・そのことですか。ご命令通り、ベルベッドの研究はすべて破棄していますよ。クロノスを操った方法は、以前より私自身が進めていた研究の成果です」

「・・・姉妹揃って度し難いとはこのことか。人の身で神を操る術を手に入れ、何を考えている?」 


 問答無用で消すどころか質問を重ねてくるお父様に、”これは・・・”とエイレーネは勝負に出る。


「もちろん、組織のため・・・ひいてはお父様のためです」

「なんだと?」

「昨今、各国に召喚される異世界人の中には、飛びぬけた力を持つ者もいます。引き込むことが出来ればいいのですが、敵にまわると厄介。お父様の願い(・・)を叶え続けるためにも、組織の更なる増強は急務です。今回、いくつもあった増強案で確実と思われた方法を採用したまでです」

 虚実を混ぜながら、エイレーネは自身の正当性を訴える。


 しかし、彼女の期待した言葉が父の口から出ることはなかった。


「・・・誰がそこまでしろと命令した?」

「え・・・?」

「何か勘違いしているようだが、ワタシはこの組織・・・お前やベルベッドに最初から期待などしていない。ワタシの意に反しなければ存続できぬのなら、組織もお前も必要ない。新たに手足となる物を作るだけだ」


 これが自分の父親か・・・とその言葉を聞いて、エイレーネは不快感をあらわにした。

 組織と言うのはそう簡単に出来上がるものではなく、潤沢な資金を使えば組織としての体裁を整えることは出来るが、それだけで超が付く一流の組織が出来るかと言えば、答えは「NO」だ。


 必要なのは「人材」と「時間」・・・今の組織勢力と同じ規模の組織を作ろうとすれば、十年単位の時間が必要となるのは、目に見えている。

 にも拘らず、いとも簡単に組織を切ろうとする父の考えに同意できなかった。


 そして、ここにきてエイレーネの中で以前から燻っていた計画を実行する覚悟が決まった。


「・・・やはり、お父様は組織の長には相応しくないようですね」

「ほう・・・面白いことを言う。ではワタシをどうする?」

「こうするのよ!!」

 

 そういうと、エイレーネは右手をジャケットの内ポケット入れ何かを取り出し、近くにいたアルルカルラに向かって突き立てるが、寸前で彼女の結界に阻まれた。


 理解不能なエイレーネの行動に、お父様もアルルカルラもどこか冷ややかな目で見つめるが、次の瞬間驚愕に変わる。


 エイレーネの攻撃(・・)を防いだ辺りから亀裂が入り、瞬く間にアルルカルラの結界が崩壊した。


「え?!」

 未だ嘗て結界を破られたことのなかったアルルカルラは、よもや人間・・・しかもエイレーネによって破壊されたことに思考が停止する。


 だが、そんな相手の状況など確認する余裕などエイレーネには無く、無我夢中で左手に握っていたモノに霊力を流し、呆然とするアルルカルラの胸へと左手を突き出した。


 淡く光るエイレーネの左手が何の抵抗もなくアルルカルラの胸へと入ると、エイレーネが声を上げた。


「神よ、我が前にひれ伏せ!!」


 エイレーネが左手を引き抜くと、そこから光の糸が溢れアルルカルラの身体を拘束するようにまとわりつき、全身に巻き付くと体内へと吸い込まれるように消えた。


「エイレーネ・・・貴様、何をした?」


 俄かに怒りを滲ませるお父様を見て、エイレーネは笑みを浮かべる。


「そんなこと、お父様なら当に解っているのではないですか?・・・さぁ、アルルカルラ。貴女のご主人様は誰かしら?」

「・・・・・・それは、エイレーネ。貴女よ」


 アルルカルラの言葉に、エイレーネは狂喜乱舞しそうな衝動に駆られながら勝ち誇ったように笑みを深めた。


 エイレーネが使ったのは、彼女が切り札として開発していた魔法道具だった。


 アルルカルラの結界を破壊したのは、かつて昊斗そらとたちと敵対した元勇者ユーリのパーティーメンバーだったハイエルフのパッツィーアが、ファルファッラに使った結界破壊の力を持った”矢”の特別強化版。

 パッツィーアの使った矢はハイエルフ一人を材料に作られていたが、エイレーネの使った矢には特に能力の高い個体が厳選され、それを一本に付き十人の命が使われていた。

 それを五本同時に使用して大神の結界を破壊したのだ。


 そしてもう一つが本命である「誓約書テスタメント」と呼ばれる神を支配し操る術式を刻んだ金属板を何重にも積層したものだ。

 ベルベッド同様、エイレーネも神を使役する方法を模索し研究をしていた。

 研究の精度と規模はエイレーネの方がはるかに上だったが、ベルベッドは火の神カグツチとの接触で神の情報を断片的に手に入れていたためエイレーネを追い抜かすことも出来たのだが、研究がお父様に露呈しその全てを手放さざるを得なかった。

 漁夫の利を得る形でエイレーネはベルベッドの研究を手に入れ自身の研究と統合し、技術を実用段階まで持っていき、クロノスを実験台して道具の性能を確認。

 そこから得られたデータを基にすぐに改良版を作り、出来上がったモノをアルルカルラに使用したのだった。


「ご覧の通りです、お父様。これで、貴方の優位は消えましたね…如何でしょう、命乞いして頂ければ考えなくもないですよ?」

 父の力の象徴であるアルルカルラを手にし、エイレーネは王手とばかりにお父様へと降参を迫る。


「調子に乗るな・・・貴様を殺せば、済む話だ」

 しかし、アルルカルラを失ってもお父様は殺意を漲らせ、娘へ右手を翳し力を収束させる。


 だが、エイレーネも黙ってはいなかった。


「アルルカルラ!あの男を跡形もなく消滅させなさい!!」

「分かった」


 エイレーネの命令にアルルカルラは頷くと、お父様へと視線を向ける。


「?!」


 その瞬間、お父様を漆黒の球体が包み込み、間を置かずに収縮を始めたかと思うと一瞬で米粒より小さくなり、跡形もなく消え去った。


 そして、お父様が居た場所には何も残っておらず、ただアルルカルラの力によって削り取られ丸く抉れた床だけが残っていた。


「・・・ふふふ・・・・・・あはははは!やったわ!ついに、念願がかなった!!」


 高ぶった感情を抑えることが出来なくなり、実の父を殺した直後にも関わらずエイレーネが声を上げて笑う。


「ふふふ・・・これで私は自由になり、どんな願いを叶えること出来る(ちから)を手に入れた。さぁ、これからどうしようかしら?」


 この先に待っている輝かしい栄光を想像し、エイレーネは恍惚とした表情を浮かべていた、その時だった。



”いやぁ〜・・・まさか、そんな手で殺しにくるとは思ってなかったなぁ”



「っ?!」


 突然、場違いと言っていい能天気な声が辺りに木霊し、エイレーネは驚いて辺りを見渡す。


「誰?!姿を現しなさい!!」


”そう慌てるなって・・・お前の後ろだ”


「っ!」


 エイレーネが振り返ると、先ほどまで玉座のあった場所の後方に幾重にも張られていた幕がバサッと音を立てて翻る。


 翻った幕の奥には巨大な結晶が静かにそびえ立っており、結晶の中心は十代の少年と思われる人間が眠るように存在していた。


「・・・何、あれ・・・?」


 目を凝らして結晶を見ていたエイレーネだったが、それが人だと気が付き困惑し声を漏らす。


 その瞬間、結晶の中の少年が目を開き、エイレーネを見つめた。


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