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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
水の神 降臨 編
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(6) 騎士の意地 傭兵の意地(後編)

 先ほどのまでの歓声が嘘のように、決闘の舞台である騎士団訓練場は静まり返り、剣と剣がぶつかり合う金属音が響く。


「どうした!さっきまでの勢いはどこへやった!!」


 胸から血を流しながら、昊斗そらとは手にした二振りの剣でフレミーを攻め立てていた。


 その出血量から、今すぐにでも治療をしないと手遅れになるのは誰の目にも明らかだった。


 実際、訓練場の入り口には騎士団の治療部隊が待機しているのだが、鬼気迫る雰囲気に割って入れるような状況ではなく、ただ二人の戦いを見守るしかなかった。

 

 昊斗そらとの気迫と、相手に致命傷になりかねない傷を負わせた自責の念でフレミーの剣は鈍っていたが、彼女の精霊たちがフォローしているお陰で、昊斗の剣戟を辛うじて受け止めるような状態だった。


「お願いです!ここでやめないとあなたの命にかかわります!」

 一体何度同じことを昊斗に言い続けただろうか、必死に止めようとするフレミー。


「命のやり取りをしている相手の命を心配するか・・・それでも君は騎士か?!決闘において、どちらかの命の火が消えるまで続けるのは当然だ!」

 だが、昊斗そらとは聞く耳を持たず、さらに鬼気迫る表情へ変わる。フレミーだけでなく、彼女の精霊であるラファルとマリーナも恐怖で顔が青ざめている。


 フレミーと剣を交え、昊斗そらとは一つの確証を得ていた。


 フェリシアからフレミーを紹介され、そして彼女から襲撃を受けた昊斗は、フレミーに対してある違和感を感じていた。


 それは彼女の持つ力量に対して、精神が追いついていないことだ。


 若い戦士や騎士にありがちなことだが、フレミーは特にそれが顕著だと、昊斗そらとは感じた。


 一年前、騎士団に入ってすぐ、王女フェリシアに剣を捧げ彼女の騎士となったフレミーは、”実戦”というものを経験せずにここまで来てしまっていた。理由は様々あるが、彼女の主であるフェリシアがフレミーを現場に立たせるのを拒否していたことが一番の原因と言える。


 とはいえ、ルーン王国騎士団の中でもトップエリートにして最高の実力者が揃うアルバート騎士団の面々との訓練を積んでいるフレミーの実力は相当のものだ。


 かくてフレミーは、高い技量を持ちながら敵となる者に対する心構えを知らない、力と精神のバランスを著しく欠いた騎士になってしまったのだった。


(どうして・・・・こんなつもりじゃなかったのに)


 必死に、昊斗そらとの攻撃を剣で受け続けるフレミーは、ぼんやりとする頭の中でそんなことを考えていた。


 そこに隙が生じるのは当然であり、昊斗そらとはその隙を見逃すことは無かった。


 左手のショートソードを巧みに振るい、フレミーの剣を弾き、彼女の身体を無防備にした。


「しまっ・・・」

 反応が遅れたフレミーの目に飛び込んできたのは、右手に持つバスタードソードを振り上げる昊斗そらとの姿だった。


 そして、昊斗そらとは躊躇いもせず剣を振り下ろした。


 感覚が高ぶっているせいか、振り下ろされる剣がゆっくりと見え、兜をつけていないフレミーは「ああ・・私はここで死ぬんだ」と目をつむった。


「諦めるな!!」


 突然の声に、目を開き振り下ろされる剣を左に身体を開いて回避を試みる。だが、頭への直撃は避けられても、左肩への直撃は免れない、はずだった。


「!」


 しかし、昊斗そらとの剣は突如現れた水の膜に剣線をずらされ、フレミーの鎧の肩表面を削り、地面に叩きつけられる。


 風が起こり、フレミの身体が昊斗そらとから離れる。


 距離が離れたことを確認したかのようにフワリと地面に降り立つフレミーは、自身の後ろを振り返る。

 そこには、必死のあまり目に涙を溜めた二体の精霊が主の顔を見ていた。


「あなたたち・・・・」

 そう、主の危機に彼女たちは自己の判断でフレミーを助けたのだ。


 人の姿で顕現する精霊には、人間と変わらない知性と感情を有している個体が多い。

 喋ることは無くとも、彼女たちの気持ちが伝わってくるフレミーは、嬉しさのあまり涙で視界が滲む。


 そして、昊斗そらとのほうに視線を戻すと、彼は肩で息をし、フレミーを見ていた。


 彼の攻撃を受け入れ目をつむった際、フレミーを叱咤したのは、彼女へ剣を振り落とした昊斗そらと本人だった。


 痛みで浅くなる呼吸を整え、昊斗そらとはゆっくりとフレミーに問いかけた。


「・・・・なぜ、諦めた?」

「それは・・・・」


 だが、その問いにフレミーは答えられなかった。どうしても、死を覚悟したから、と言えなかった。言えば、自分の中の何かが崩れると思えたのだ。


「君が諦めたら、後ろで守られている者はどうしたらいいんだ?」


 その言葉に、フレミーは観客席上方にある貴賓席に座る自分の主である少女を見た。


 その少女は不安な顔をして、こちらを見ていた。

(姫様・・・・)


「戦場において極限状態の中、諦めるというのも仕方の無いことだ。だが、騎士を名乗るものは、たとえ命尽きるその瞬間まで、絶対に諦めてはいけない。特に、個人に剣を捧げ守ると誓った騎士ならばなおさらだ」


 昊斗そらとも、フェリシアがいる貴賓席を見上げる。


「自分の後ろに守るべき者がいる。人はそれだけで強くなれる・・・・君が、異世界人との戦いに負け、それでも諦めることなく修練を続けたのは、その相手に仕返す為だけか?」

 フレミーが息を呑む。


「・・・心配するな。君と言葉を交わし、剣を交え、剣から伝わる君の気持ちを考慮して、俺がたどり着いた答えの一つだ。君の関係者からは何も聞いてはいないよ」


 経験上、君の様な者たちと剣を交えることが多くてね、と笑い掛ける昊斗そらとの顔を見て、フレミーの中で凍り付いていた何かが解けていくのが判った。


(この人は、自分の知る異世界人とは、何もかもが違う)

 フレミーは、そう思えた。


「・・・さて、そろそろ決着をつけようか?俺もあと一撃しか出せそうにないし」


 そういって、昊斗そらとは左手のショートソードを投げ捨て、バスタードソードを両手で構える。


 その姿に、フレミーは一瞬驚いたが、ゆっくりと目をつむり、大きく見開き、父親から継いだ二振りの剣を構える。


「アルバート騎士団・・・いいえ、フェリシア・アルバーナ・ルーン姫殿下のつるぎ、騎士フレミー!行きます!!」

 名乗りを上げるフレミーに、昊斗そらとは面白い!とばかりに声を上げる。


「傭兵、奥苑昊斗おくぞのそらと!来い!!」

 

 互いに獣の咆哮の様な叫び声を上げ、相手へと斬りかかる。


 三つの剣線が交わり、甲高い金属音が辺りに響き渡る。


 静寂の中、フレミーが左手の剣を落とし、剣を持ったままの右手で左手を押さえた。


「これでも、まだ自分を無力だと思うか?」

 振り返った昊斗そらとが握るバスタードソードは根元から砕け散り、柄だけが握られていた。


「いいえ」

 短くそう答え、まるでモノつきが落ちたように、清清しい顔をするフレミー。


「そうか」

 目を瞑り、彼女の言葉にうなずく昊斗そらと


 すると、観客席から小さく拍手が聞こえる。


 貴賓席のフェリシアが、立ち上がり二人の健闘を称えるように賞賛の拍手を送っていた。


 その姿を見た国王のカレイドに王妃のマリア、冬華とうか金糸雀カナリアも続き、それは瞬く間に会場全体の包んでいた。


『皆さん、聞こえていますでしょうか・・・・二人に送られる惜しみない賞賛の拍手が!このような戦いに立ち会えたことを、今日この場にいる全員が誇りに思うでしょう!今一度、素晴らしい戦いを繰り広げた二人に盛大な拍手を!』


 実況のアーシャは、感動のあまり涙声を気にすることなく声を上げ、観客席から一層大きな歓声がおこる。


「・・・・・あの、ありが」


 拍手と歓声に包まれながら、フレミーは昊斗そらとへ声を掛けた。だが、次の瞬間。


「!!」


 昊斗そらとは、肩口から盛大に血を噴出しその場に倒れた。噴き出した血が、彼の周りの地面を濡らし、それは周りに真っ赤な花が咲いたかと錯覚してしまう程だった。


 突然の出来事に周りが騒然とし始め、その声を掻き消すようなフレミーの悲鳴が会場に木霊した。

 


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