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創造神たちの傭兵  作者: 仁 尚
水の神 降臨 編
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(5) 騎士の意地、傭兵の意地(前編)

 瞬く間に距離を詰めたフレミーに、昊斗そらとは一瞬反応が遅れた。

 フレミーの斬撃で腹部に軽い衝撃を受けたが、昊斗そらとは身体を捻りお互いにすれ違う。


 再び距離の離れた二人は、相手の状況を確認する。


 フレミーは、昊斗そらとの右わき腹辺りを斬ったはずなのに、少し汚れが付いた程度だったことに驚いていた。

 今回の決闘に際し、大けがや死に至るような攻撃を感知した際、自動的に威力が軽減される結界が会場全体に張られているが、服程度なら破損するはずなのだが・・・


「随分・・・頑丈な服ですね」

「特別製でね。君の着けている鎧よりも頑丈だ」


 逆に、昊斗そらとはフレミーの周りに風が逆巻いていることに気が付く。


「なるほど、それがさっきの”速さ”の正体か」


 逆巻く風が一か所に集まり、フレミーの後ろで人型へと変わる。


「私が契約している風の精霊”ラファル”です」

 紹介された精霊は、パッと見フレミーと同じ歳の女の子に見るが、耳の部分は鳥の羽のようになっており、風になびく長い薄い緑色の髪も毛先はやはり羽に似た形をしている。

 そして、ラファルは契約者であるフレミーの左後ろで浮いており、その姿は日本の天女を思わせるものだった。


『出たー!!フレミー嬢の契約精霊、風の精霊ラファル!今日も可愛い笑顔で男性団員はメロメロだー!』

 実況の声に、ラファルが笑顔で手を振り、観客席の一部で野太い声が上がる。実は騎士団団員たちが契約している精霊には一部ファンがついており、ラファルもその一体だったりする。


「さっきの攻撃、ただの斬撃じゃないとは思ったが、風を刃に纏わせていたわけか」

 だが、昊斗そらとは全く気にすることなく、フレミーの攻撃を分析を始めた。

「ええ、この子は攻撃用の精霊術を苦手としていますが、補助補強の精霊術はなかなかですよ」


 再び、瞬間移動のような機動と風を纏った二振りの剣で昊斗そらとを攻め立てるフレミーだが、昊斗そらとも未来予知でもしているかの如く彼女の攻撃を避け続ける。


(速く手数が多い・・・だが、攻撃力は大したことはないな。とりあえず、このまま様子を見るか)

 などと考えていた矢先、今までとは違う衝撃が昊斗そらとを襲う。


「!!?」


 真上から襲ってきたモノから逃れるように地面を転がる昊斗そらと。自身の体を確認すると、全身ずぶ濡れになっていた。

 フレミーの方へ視線を移すと、彼女は得意げに笑みを浮かべていた。


「私の精霊が、ラファルだけ(・・・・・・)と言った覚えはありませんよ」

 フレミーの後ろに控えていたラファルの隣に、水の渦が起こり中から人影があらわれる。 

 ラファル同様、フレミーと変わらない年齢に見える女の子の姿で、深い海のような蒼い髪に水を連想させる衣をまとっている。そして、肌の一部が透き通り水が流れている。


『ナ、何とーー!フレミー嬢が契約するもう一体の精霊、水の精霊マリーナまで現れたー!!野郎ども!!今日この場に立ち会えたのは幸運だぞーーー!!』

 ラファルとマリーナはフレミーの周りをゆっくりと飛び回り、観客である団員たちにアピールする。そして、フレミーを中心にした構図は、まさに宗教画を思わせる神々しさを放っていた。


 先ほど以上の歓声が沸き起こる。観客席にはフレミーや彼女の精霊たちの名が記されたプラカードが見える。


『完全にアウェーですね、マスター』

 創神器ディバイスから玉露ぎょくろが声をかけてくる。

「当然だろ?いつものことだよ」

『しかしこれは・・・・私も対抗した方がいいでしょうか?』

 どうやら、向こうの精霊たちに触発されたのか、玉露ぎょくろが手持ちの衣装を吟味し始める。


「変な対抗心を出すなよ。説明が面倒になる」

『そうですか』

 仕事モードの無感情な声だが、そこはかとなく残念そうな色が見え隠れする玉露ぎょくろ。彼女の性格を考えると、絶対派手にやりたいはずだが、今回は昊斗そらとが許すことはないと永い付き合いから判断した。


「さて、どう攻略すっかな・・・」

 思った以上にフレミーとの戦いが面白くなり、昊斗そらとに笑みが浮かぶ。


*********


「王妃様が言っていたのは、このことだったわけですね」


 貴賓席で観戦していた冬華とうかは、フレミーの精霊を確認し、王妃の言っていたこと隠し玉が何なのか理解した。


「そうです。彼女は”ダブルシンボル”という珍しいタイプの術士なのですよ」


 通常、個人が使える属性は一つとされ、そのことを考慮し精霊と契約する際、基本的に一人一精霊と契約するのが普通である。だが、ごく稀に複数の属性を使いこなす術士がおり、そのため各属性の精霊と契約しなければならない。

 二つの属性をもつ術士をダブルシンボル。

 三つの属性をもつ術士がトリプルシンボル。

 基本属性四つをもつ術士をフルシンボルと呼ばれるが、未だかつて基本属性四つを持った術士は確認されていない。


「元から持つ剣技と、契約した精霊たちとの相乗効果で、フレミーは若手騎士の中での実力はトップクラスだ。さて、そんな相手に彼はどのような戦いを見せてくれるかな?」


 国王カレイドは、未だ見ぬ異世界からきた青年の実力を待ちわびている様子だった。

 

 冬華とうかの隣に座るフェリシアは、冬華とうかに指摘されたフレミーと異世界人との間にあった出来事を彼女に話すかどうか迷っていた。


「フェリちゃん、言いたくないなら無理しなくていいよ」

「トーカさん・・・」

 冬華とうかに手を握られ、フェリシアは彼女の手を握り返し、戦いの行く末を見守るため訓練場中央の二人に視線を戻した。


********


 フレミーからの攻撃のバリエーションが増え、昊斗そらとも素手ではあるが、攻撃を繰り出していた。

 フレミーは両手に持つ剣に風と水を纏わせ攻撃力を上げた剣が、昊斗そらとを襲う。

 先ほどから、彼女の攻撃は苛烈さを増し、昊斗そらとの身体にいくつもの傷が刻まれる。


 昊斗そらとは、この決闘に際し自身の持つ力の殆どを封印して臨んだ。

 それは、この戦いが傭兵ではなく、奥苑昊斗おくぞのそらと個人として戦うと決めていたからだ。

 なので、彼に残る力は”人間”の範疇で使えるモノのみ。


 その制限された中からどうやってフレミーを攻略するか、昊斗そらとは楽しくてしかたなかった。

 

 だが、そんな彼が笑っている姿を見て、フレミーは怒りがこみ上げた。その姿が、ある人物と重なってしまったのだ。


「また・・・馬鹿にするの・・・・・」

「何?」


 彼女の攻撃に、少しずつ殺気が混じりだす。

「あなたたち異世界人は・・・・努力もせず突然手に入れた強大な力を、さも当然のように振りかざし、私たちを傷つけ踏みにじる・・・・あなたたちに”無力”な人間の気持ちなんて分かるものか!!」


 その言葉を聞き、昊斗そらとの中で何かが切れた。


 フレミーの剣戟を、金属音と共に昊斗そらとが弾き、フレミーの身体が後ろに下がる。

 何が起きたのか、昊斗そらとを見ると彼の手に、二振りの剣が握られていた。左手にはショートソードを、右手にはバスタードソードを持ち肩に担いでいた。どちらも、別の世界で造られた対属性攻撃用の加護が付加された特別製だ。


「無力だって?・・・・玉露ぎょくろ

『・・・・・はい、マスター』


 何かを玉露に命令した昊斗そらとは、猛然とフレミーへ突撃をかける。その異様な雰囲気に、フレミーはマリーナに命令し、水を回転刃に変え目標に打ち出す精霊術、アクアカッターを放つ。


 牽制として放たれた術を、苦も無く避けると思われた昊斗そらとは、飛来する水の刃を避けることなく真正面からまともに受け、胸から盛大に血が噴き出し、バスタードソードを地に突き刺し支えにする。


「え?」

 何が起きたのか、会場にいた全員が理解できなかった。仲間である、冬華とうか金糸雀カナリア除いて。

 いち早く理解したフレミーは、自身の放った精霊術の威力に恐怖を覚えていた。彼女の放ったアクアカッターは、威力の低い初級精霊術で人を殺せるほどのものではない。それなのに、彼女の放った術は人を殺めるほどの威力があった。

 精霊と契約してから、フレミーは全力で人に対し精霊術を使ったことはなかった。高い攻撃力を自動で調整する結界の中で、ある種の安心から全力を出していた。


 まさか、自分自身がここまでの力を持つとは思ってもいなかったことと、結界が機能していないことにフレミーは、茫然自失となる。

 

「何を呆けているんだ?」

 声をかけられ、我に返ったフレミー目の前に、血まみれの昊斗そらとが立っていた。


「あ・・・あ・・」

 何かを言おうとしているが、フレミーはショックからか声が出なかった。


 そんな彼女に、昊斗そらとは右手のバスタードソードを振り上げる。

「決闘だぞ?血が流れるぐらい覚悟の上だろう?」


 振り下ろされる昊斗そらとの剣を、フレミーは無意識に両手の剣で受け止めた。


「待ってください!すぐに、手当をしないと!」

「言ったはずだ、これは決闘だと!!」

 

 昊斗そらとの怒鳴り声に、フレミーは身をすくめ、自分の考えの甘さを痛感する。


********


「トーカさん!今すぐ二人を止めないと!!」

 時間を置き、状況を理解したフェリシアが声を上げるが、冬華とうかは首を横に振る。


「ダメだよ、決闘で第三者が手を出しちゃ」

「どうしてです!早く手当しないと、ソラトさんが死んでしまいます!」

 だが、フェリシアの言葉に冬華とうかは頑として拒否した。


「ドラグ!どうなっているのだ!あのような怪我をしないように、対応していたはずだぞ!」


 貴賓席の下にある実況席にいるドラグレアに、カレイドが説明を求めた。


「今も、結界は機能している!・・・冬華とうか、お前・・・何か知っているな?」

「・・・現在、彼は自分の周りだけ結界を無効化させています。そして、彼自身も傭兵としての特別な力を封印し、戦って採取したフレミーさんのデータを基に同程度に力を調整しています」 


 玉露ぎょくろから金糸雀カナリアを通じて、昊斗そらとの状況が逐一上がってくる冬華とうかは、昊斗そらとの真意を何となく察していた。


昊斗そらと君、あんまり時間は掛けられないよ)


 昊斗そらとから失われていく血の量を確認しながら、冬華とうかは祈るように天を仰いだ。 

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